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「やりたい」想いを、生み・育てる。
~経営には守り抜かなければならないものがある~

株式会社タカキュー
代表取締役社長 臼井 一秀氏

1947年の創業以来、タカキューは紳士服小売業界のなかにあって、つねに時代の先駆けであった。1986年には株式の上場も果たし、会社の業績はピークを迎えていた。しかし、業績が伸び業態も多様化していく中で、当時の我々は、「顧客」という一番大事なものを見失いつつあった。会社としてのコンセプトを維持できず、万人に向けた商品を展開する「なんでも屋」になってしまっていたのである。 変化への素早い対応は当然必要だが、それはあくまでも顧客という「ターゲット」を見定めた、顧客にそった変化でなければならなかったのだ。それに気づいたとき、経営は大きな危機に直面していた。

話を聴き、我慢する

この危機を克服し経営再建に向けて、最大の力となったのが、現場の「やりたい」という意欲の強さであった。2000年からの経営再建計画実行の中では、希望退職者を募り人員削減を進めてきたが、ありがたいことに「こんな商品がつくりたい」「こんなことがやりたい」という強烈な意欲をもった社員が、現場にはたくさん残っていたのである。

昨年、スタートした紳士靴専門店も、現場の「やりたい」という声を吸い上げ、「ファッションをコーディネートで売る」という会社のコンセプトにそって立ち上げたものだ。

いまの当社の合言葉は、「言い出しっぺになれ」である。新しい成長の「芽」を摘むことなく育てていくには、社員たちがつねに前向きに考え、発言しやすい環境を整えることが大事だと思うからだ。

私がやってきたこと、やっていることを振り返ってみれば、「人の話を聴くこと」と「我慢する」ことの二つだけである。話を聴くことで「芽」を伸ばし、我慢することで企業としての「コンセプト(軸)」を保つ。だから「言いだしっぺ」を奨励し、たとえ客数が減ってもじっと我慢する。

会社は絶対に潰してはならないし、社員のやる気を失わせてはならない。この二つは、経営者として絶対に守り抜かなければならないことだ。それには、社員が喜んで働けるような仕事を生み出すことである。人は誰でも成長したいという欲求をもっている。それを手助けし、社員の喜びを広げていけば、会社は社員と共に伸びていく。

「やりたい」とみんなが思う

昨年、12期ぶりの黒字に転換し、今後新規出店や新ブランドの展開など攻勢を続けていくが、「ここで浮かれてはならない」と自戒を込めて社内で訴えている。組織は活性化するのは大変だが、惰性にはあっという間に陥ってしまう。だから、会社の軸を維持し成長を続けていくには、つねに同じことを別の言葉で言い続けなければならないのだ。

私は社員が安心できる職場を確保し、一生楽しく仕事ができる会社にしていくことが経営の大きな役割であろうと考えている。そうした会社を実現できる人材を育てていくことが、私に課せられた重い役割だ。

結局、仕事でも経営でも、いちばん大事なことは「やりたい」という意思だと思う。「やりたい」と思わなければ何も成しえないし、皆が「やりたい」と思えば、それは必ず実現できる。皆の「やりたい」を生み・育てることで、社員の安心とやる気が確保できる会社を共に実現していく。そのとき、企業の持続成長という大きな目標をも達成できるのではあるまいか。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.6からの転載です。

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