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夢ある未来を、共に創る 「共創ITカンパニー」への挑戦

SCSK株式会社
代表取締役 執行役員 社⻑
當麻 隆昭 氏

當麻 隆昭 氏プロフィール:1965年生まれ、大阪府出身。近畿大学理工学部卒業。87年4月住商コンピューターサービス(現 SCSK)入社。システムエンジニアとして製造業を中心にシステム開発業務を経て、営業企画などに携わる。2013年執行役員、16年上席執行役員、18年常務執行役員 製造・通信システム事業部門長として製造業向けITサービス事業を牽引、20年より人事・総務グループ、人材開発グループ分掌役員を務め、新人事制度の導入や人材投資の強化を図る。22年執行役員社長最高執行責任者に就任。現在、代表取締役 執行役員 社長、健康経営推進最高責任者。

SCSK株式会社 
設立:1969年10月25日/資本金:21,420百万円/従業員数:16,296人(2024年3月31日現在 連結)/事業内容:コンサルティング、システム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPOなどITサービス全般


社会課題にフルラインアップのITサービスで挑むSCSK。豊かな社会に向け、「夢ある未来」を実現するための新事業と経営指針とは。就任3年目の當麻社長が描くビジョンを伺った。

経営理念が与える大きなインパクトを

小澤 本日はSCSKの當麻社長に、SCSKグループの経営理念と具体的な活動に関してお話を伺います。まずは現状の事業の概要についてお聞かせください。

當麻 SCSKグループは50年以上にわたり、コンサルティングから、システム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)まで、ビジネスに必要なすべてのITサービスをフルラインアップで提供しています。また、ITを軸としたお客様や社会との共創による、さまざまな業種・業界や社会の課題解決に向けた新たな挑戦に取り組んでいます。

小澤 その中でとくに、SCSKグループの強みはどのあたりでしょうか。

當麻 私どもは、これまで8000社以上のお客様の課題を解決してきたという実績がひとつの強みです。また、お客様先に常駐している「分室」と呼ばれる拠点を全国に500以上構えていて、お客様に寄り添ったITサービスを提供し続けています。お客様と長期にわたり培ってきた強い信頼関係を持つ現場、そして開発運用力が他社にはない強みだと思っています。

小澤 8000社とは非常に多い数字ですね。今「現場」というキーワードが出ましたが、當麻社長がお考えになる現場とはどのようなイメージでしょうか。
當麻 そうですね。常にお客様に寄り添いながら、逃げずに、最後までやりきる、お客様とともに課題を共有し、価値を創造し続けていくという現場だと認識しています。

小澤 こうした「現場を大切にする」姿勢と「夢ある未来を、共に創る」という経営理念がグループ全体に非常に大きなインパクトを与えているとお見受けします。この経営理念が生まれた背景にはどのようなものがあったのですか。

當麻 SCSKは、2011年10月に、住商情報システムとCSKの2社が合併して誕生した会社です。23年の10月で12年が経過したのですが、この2社が合併する際、両社の合併委員会の中でつくられた新たな経営理念が「夢ある未来を、共に創る」です。私もこの合併委員会に参画しており、その場で「価値共創」を唱え、現在の経営理念につながっています。IT業界は、ITサービスでお客様を支援する立場であるため、お客様の事業成長を支えるITサービスやシステムを「共に創っていく」という意味を込めて「夢ある未来を、共に創る」としています。

小澤 経営理念を従業員の方々に浸透させていくことは非常に重要ですが、腐心されたことは?

當麻 経営理念の浸透にあたり、前々社長の時代から「各現場の責任者が自ら語りかけていく」ことをずっと続けています。合併以来、社員アンケートで浸透度合いを測っていますが、今は90%を超えています。また、それぞれの現場で試行錯誤しながら、合併以来12年かけて理念の浸透に取り組んでおりますので、経営理念はより広く、深く浸透しているのではないかと感じています。

小澤 グループの中には海外の企業もありますが、グローバルに理念を伝えるにはどうされていますか。

當麻 私が社長になって3年目に入り、ようやくコロナも明けてからは海外投資家向けのIRも含め、国外にも足を運ぶようになっています。その際に必ず海外拠点のナショナルスタッフの前で、われわれの経営理念や中期経営計画を話す機会を設けています。
 日本のSIer*は独特で、欧米にはあまりそのような会社は存在していません。自社に情報システム部隊を構え、自らシステムを構築するというスタイルです。そのため、「夢ある未来を、共に創る」の「共に」に込められた想いに共感してもらうために、まずはSIerが日本の文化の中でどのような立ち位置なのかを説明し、理解・共感を得るようにしています。また、「共に」はお客様だけではなく、社会と「共に」という点も含めて語りかけるようにしています。

小澤 「共に」はこれからの社会のキーワードでもあると思いますが、「共創ITカンパニー」の目指す姿とはどういうものでしょうか。

當麻 当社グループは、経営理念「夢ある未来を、共に創る」のもと、社会課題の解決に貢献することで持続的な成長を目指すサステナビリティ経営を推進しています。この実践にあたり、とくに重要ととらえ、優先的に取り組む課題を2020年に「マテリアリティ」として策定しました。経営理念と2020年に策定した7つのマテリアリティを当社グループの存在意義としたうえで、長期的に目指す姿として、「グランドデザイン2030」を設定し、「共創ITカンパニー」を目指すと宣言しています。

 「共創ITカンパニー」については、当社グループの強みを磨き、強みを軸にお客様やパートナーの方々、社会との共創を実現することで、お客様や社会に対して新しい価値を提供する企業グループ、またお客様や社会と共に成長する企業グループと定義しています。

 これは、当社グループの最大の財産である人的資本力の向上をもって、お客様やパートナー、社会との共創を推進し、各種課題に対し、価値提供し続ける企業グループの姿を表現したものです。グランドデザイン2030では、共創ITカンパニーを実現すべく「〝総合的企業価値〟の飛躍的な向上」と「売上高1兆円への挑戦」という2つの方向性も示しています。ここで言う「総合的企業価値」とは、経済価値に加えて、社会価値、人的資本価値などの非財務要素を包含した企業価値です。

 目指す姿の実現に向けた具体的なステップである2023年にスタートした3カ年の「中期経営計画(FY2023-FY2025)」では、「お客様や社会に対して、新たな価値を提供し続けるため、事業分野、事業モデルを再構築すること」、また、「社員の成長が会社の成長ドライバーと認識し、社員一人ひとりの市場価値を常に最大化すること」の両面について、具体的な戦略・施策に取り組んでいます。

社会の変化を乗り越える3つの事業展開

小澤 IT業界の環境もだいぶ変わってきていると思います。IT業界においては、人手不足や人材開発、アジャイルへの対応、AIの台頭など、さまざまな課題がありますよね。そういう中で、時代の変化を予想して万端整えるのは困難な時代だとは認識していますが、SCSKグループはこの時代の社会変化においてどのような展望をお考えでしょうか。

當麻 まず人材不足に対する課題ですが、自社の技術やノウハウなど蓄積されてきた知財を核に、さまざまな技術やサービスを組み合わせて提案・提供していくこと、つまり「オファリングビジネス」が重要だと思っています。

 かつてのIT業界は、情報システムをオーダーメイドでつくっていました。しかし、50年以上が経ちこの流れが変わってきており「守りのIT投資」に「攻めのIT投資」がどんどん加わり、システム開発もERP化(Enterprise Resources Planning/企業資源計画)が進んでいく中で、現場力が少しずつ弱くなっていると感じています。

 イチからものをつくる時代ではなくマルチクラウド*の時代となり、SCSKの強みでもある「知財」をオファリング型で提供していくというやり方に変わっていくことで、人材不足という課題の解決になると考えます。そして「強い事業は何か」ということを明確にし、有している知財を組み合わせて課題解決をリードしていくことが求められてくる。いわゆるオファリング的思考が求められてくるでしょう。

小澤 確かにマルチクラウドの時代のあり方ですね。今「強み」というお話がありましたが、當麻社長はSCSKの強みを今後どう牽引されていこうと考えているのでしょうか。

當麻 ビジネスに必要なITサービスからBPOに至るまで、フルラインアップでサービスを提供できることが私どもの強みではありますが、私が社長就任時にもっとも着手したかったのは「SCSKグループらしいビジネス、強みは何か」ということをしっかり世の中に発信していくことでした。それが私の使命だと考え、中期経営計画では事業ポートフォリオを明確にし、より強みを打ち出すことに力を入れています。

 一つ目は、事業シフトの断行です。成長力ある事業領域や高付加価値分野、高生産性モデルへの3つのシフトを進めています。そのひとつである、高生産性モデルへのシフトですが、IT人材不足の中、AIを活用して自動化していくことで、プロジェクトをいくつもマルチで進めることができ、品質の良いサービスを先進技術でつくっていく。これもSCSKグループがやり遂げていくべきものだと考えています。

 二つ目は、自社知財や各事業の業務に精通する人材といった強みを最大限に活用し、成長市場において、場をリードする事業を推進することです。

 三つ目は、社会との共創による「次世代デジタル事業」の創出です。当社グループにおけるコア事業の知見を活かし、従来とは非連続な「次世代デジタル事業」、社会への新たな価値創出をリードしていきたいと考えています。たとえば、地方創生・地域課題対応領域や、GX(グリーントランスフォーメーション)領域、セキュリティ領域、また、ウェルスマネジメント領域やヘルスケア領域など、もっと豊かな社会をつくっていくために、当社ならではの価値を提供していきます。これらの取り組みにより、私どもは「2030年 共創ITカンパニー」を目指しています。

小澤 豊かな社会に向け、さまざまな社会課題を解決しつつ、最先端のIT技術を入れながら新ビジネスを展開していくということですね。

人的資本経営で目指すWell-beingな社会

小澤 先ほど「総合的企業価値」のひとつに「人的資本価値」がありました。人的資本経営については、SCSKグループはかなり早い段階から健康経営に力を入れてさまざまな諸制度を制定、運用し、それを定着させてきた長い歴史があると見ております。今後のWell-Beingな未来に向けてはどのようにお考えですか。

當麻 これまで、われわれSIerはお客様の情報システムを陰で支える縁の下の力持ち的な存在でした。一般コンシューマー向けの製品をつくっているメーカーと違って、社員一人ひとりが世の中にどう貢献しているか、という実感を持ちにくい業界・業種だったと思います。ゆえに、アンケートを採ると、働きやすい会社ではあっても働きがいの数値が低く出ていました。そのため、私は「働きがい」をどう上げていくのか、それを常に意識しながら経営してきたつもりです。 
 そのような中でサステナビリティやSDGsなど、社会課題が大きなテーマになり、SIerないしはIT企業としてどう関わっていくか。たとえば、SCSKグループが提供するサービスが世の中の課題解決にどうつながっているのかということを、社員一人ひとりが感じて仕事をすることがとても大事だと思っています。
 社内にもサステナビリティ推進委員会があり、SCSKグループが目指すべきサステナビリティ経営のあり方について検討しています。このサステナビリティ推進委員会は二部構成となっており、第二部会では委員会に任命された社員が、組織へどのように浸透させていくのか、文化の醸成をどう推進していくのかなどの施策を考えています。

小澤 やはり働きがいは自分の存在意義や会社の存在意義、事業の存在意義をしっかり理解し、社会と向き合っていくということですね。

當麻 そのとおりです。働きやすい会社や健康経営という意味では、SCSKはその部分は評価されてきました。
 そこに加え、働きがいを上げていくことがWell-Beingにつながっていくと私は信じていますので、まずは働きがいの数値が高い、いきいきとした人材がいる会社を目指します。その先にWell-Beingが存在すると思っています。

早い段階から健康経営に力を入れ、さまざまな諸制度を制定、運用している。働きがいを上げていくことがWell-Beingにつながっていく

小澤 従業員のWell-Beingにつながっていくような、より価値の高いサービスの対象としている事業、領域はありますか。

當麻 こちらは、先ほど当社の強みを今後どのように牽引していくのか、の三つ目と重複するものですが、SCSKグループのマテリアリティを起点とした領域において、社会との共創による「次世代デジタル事業」の創出に向け、いくつかの事業を進めています。

 まずはセキュリティの領域です。昨年度、専門会社である「SCSKセキュリティ株式会社」を設立しました。お客様の事業環境・IT環境の急速な変化に対して、SI事業で培ったコンサルティング・基盤構築・運用サービスと、最新技術を活用した高品質なプロダクトを組み合せることで、顧客企業のサイバーセキュリティリスクを低減するとともに、セキュリティ領域における投資対効果を最大化させ、安心・安全な社会の実現に貢献いたします。

 また、昨年準備会社を設立し、今年1月から〝金融犯罪を未然に防止し、信頼できる金融サービス〟を実現するためのマネーロンダリング対策ソリューションを提供する会社「SCSK RegTech Edge株式会社」が事業を開始いたしました。国内民間企業で初めて為替取引分析業の認可を取得し、金融庁からも補助金をいただいています。

 そしてGX領域ですね。ビルのネットゼロ化を目指した見える化ソリューションや、再生エネルギーの属性証明書の取り引きとトラッキング(証明書の登録や移転、償却など)のサービスをWebで提供しているプラットフォーム「EneTrack」など、まだビジネスとしては小規模ですが、意味のある事業にしていきたいと思っています。

 それから地方創生・地域課題への対応に関しては、ニアショア拠点やBPOセンターなど多くの地方拠点を有していることから、このリソースを活用したサービスを提供することで、地域社会の発展に貢献していきます。また、ヘルスケア領域も、未病・予防という面において、ITソリューションで貢献していきます。ウェルスマネジメント領域では豊かなセカンドライフをデジタル技術で支えていく。

 そういう意味では、社会課題を解決する事業領域が増えてくると社員一人ひとりのモチベーション、社会に対して貢献しているという実感が湧いてくるのではないでしょうか。そのために社会的に価値のある領域をたくさんつくり、伸ばしていきたいと考えています。

社会課題の解決に期待されるIT業界

小澤 個別企業のためのERPや基幹システムの構築ももちろんあるのでしょうけれども、これからの事業の成長軸は個別性よりもプラットフォームに近いところをどのようにつくっていくのかが、社会的な課題を解決していく鍵になるということですね。これからはITの世界が何かを変えていく原動力になるのだと思います。

當麻 そのとおりです。

小澤 社長に就任され、中期経営計画の達成に向けてこれから大きく動き出していく中、さらにこうしたことを提供していきたいという思いはありますか。

當麻 社長になって丸2年たちましたが、SCSKグループやIT業界に対する期待をひしひしと重く感じています。これまでの「陰でシステムを支える」という役割からステージアップし、「お客様と共創する世界や、業種・業界をかけ合わせるところで機能していく」という世界をしっかりつくりたいと思っています。そしてお客様との共創、社会との共創をもっと深めていきたい。お客様の事業そのものの成長を真に支えられる共創ITパートナーになるべく、もっと努力を続けていきたいと強く思っておりますのでぜひご期待ください。

小澤 本日のお話から「共創」の幅の広さ、深さ、これがきわめて重要だと再認識することができました。一人ひとりの意識が変わらないと共創が進まない。さまざまな社員の方々のモチベーションや意識、それを社会という接点でつなげながら変えていこうとしているのがおそらくSCSKグループ、そして當麻社長の共創なのだろうと思って聞かせていただきました。本日は、ありがとうございました。

當麻 ありがとうございました。

JMAC代表取締役社長・小澤勇夫と


※本稿はJMAC発行の『Business Insights』77号からの転載です。

※本稿は2024年4月1日(月)に実施した対談の内容を構成したものです。

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