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お客様志向の経営とは何か?
~顧客の価値の輪を広げ、つなぐ~

株式会社オーエムシーカード
代表取締役社長 舟橋 裕道氏

 現在、クレジットカード業界は、業態の垣根を超えた再編や異業種の参入など大競争の時代を迎えている。こうした環境の中にあって、お客様に価値あるサービスを提供し、お客様の信頼と満足を確保することはますます大きな経営課題となっている。  今年、当社は日本能率協会コンサルティングのCS審査基準認定の第一号企業の認定、さらに消費者志向優良企業に対する経産大臣表彰の総合表彰を受賞するという二重の栄誉を授かった。その取り組みを振り返ってみたい。

事故から学んだ「顧客と向き合う」ことの大切さ

 我々が本格的にCSに取組み始めたきっかけは、請求書の誤明細の発送という事故にあった。2001年7月のことである。原因は印刷会社の人為的ミスだった。このとき、私が最も危機的に感じたのは、「ミスの原因は印刷会社にあり自分たちも被害者だ」という被害者意識が社員の中にあったことだ。被害者意識をもってお客様に接したのでは、お客様の信頼を回復することはむずかしい。

「我々が前面に立って、お客様一人ひとりのお宅に足を運び、お詫びに回ろう」――我々はそう決断した。印刷会社のお詫びは一切出さず、社員約600名が、7000軒のお客様のお宅を全軒訪問したのである。猛暑の真夏の土日、帰社してきた社員のスーツは汗で塩が吹いていた。

 しかし、帰ってきた社員たちの顔は、満足感で満ちていた。お客様からはお叱りもいただいたが、多くの暖かいねぎらいのことばをいただいたのである。過酷な二日間ではあったが、この一件で社員全員がお客様と向き合うことの重要性について真剣に考え、何かが変わり始めた。


 CSへの取組みの方向性も、ポジティブ思考へと回路が変わったように思う。それまでクレーム対応の色合いが濃かった消費者対応部門の部門の名称を、「顧客満足推進部」と変更し、重要な問題はすぐにトップにあがってくるような体制を整えた。フロントラインで集められた「お客様の声」は、クレームだけでなくお褒めのことばも吸い上げて、即座にフィードバックして共有化できるようにした。

従業員満足なくして顧客満足なし

 お客様と直接接するフロントラインには、「ふれあいカウンター」を設置した。募集だけの機能をもった「募集カウンター」から、「情報の受発信基地」という機能にレベルアップを図ろうということだ。

 カウンターにいるスタッフのほとんどはパートタイマーであるが、お客様にとってはOMCの顔である。受発信ができるだけの知識とスキルを持たなければCSのレベルは上がらない。フロントラインのスキルアップのために、全国から選りすぐられたスタッフを集めて、「5分間エンターテインメント」という大会を実施している。5分間という限られた時間の中で、いかに無駄なく、興味をそらさず的確な説明ができるかを競うのである。大会の模様は、ビデオに収められ、模範的な接客例として教育の材料となる。

 さらに、サービスや接客マナーなど130項目の審査基準を設けて、プロとしての接客ができているかどうかを五段階で評価して、半期ごとに表彰し「ふれあいカウンター」として認定するシステムは、スタッフの大きな動機づけとなっている。

 お客様に満足していただこうとすれば、まずはサービスを提供するスタッフが満足していなければならない。"ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)はない"というのが私の実感である。従業員の満足とお客様の満足がつながったとき、より大きな価値と満足をお客様に提供できる。

 そうした「価値の輪」を、会社とお客様、そして提携先へと広げ、三者がwin-win-winの関係を築き、より強力な「カスタマーバリューチェーン(CVC)」でつながっていく――それが、我が社の経営の大きな柱となっているのである。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.11からの転載です。

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