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オンリーワンを創造し続ける経営
~生活者視点が「新たな価値」を生む~

アイリスオーヤマ株式会社
代表取締役社長 大山 健太郎氏

企業が成長を続けるには、お客様にとって有用な「新たな価値」をつくり続けていかなければならない。それを、"当たり前"のこととして経営に取り組むことが、持続成長の源泉であろうと私は考えている。  当社は、園芸からペット、そして収納といった分野で、家庭生活をより豊かに快適にするための商品を提案してきた。いずれも、それまでの市場にないモノ、そして家庭生活におけるお客様の不満を解決するような商品である。

 お客様の不満を解消するために

 例えば、25年前、植木鉢といえば盆栽を入れるような素焼きの鉢ばかりだった。家の中に置くには重くて、デザインも適さない。そこから、軽くて洒落たデザインのものをつくろう、というアイデアが出てくる。ペットを動物としてではなくファミリーの一員と捉えれば、従来のペット用品の枠にとらわれないアイデアが山ほど出てくる。さらに、プラスチックの収納ケースは便利なものだったが、いざ中身を探そうとすると骨が折れた。そうした不便さを捉えれば、「中身の見える」ケースがあればいい、というアイデアが浮かんでくる。

 いずれも手がけ始めた当時は、非常に狭いニッチな市場ばかりである。ニッチだからこそ、「オンリーワン」を築くことができるし、業界を創造することもできるのだ。

 お客様の不満にいち早く気づいてオンリーワンを築くには、常に一般生活者の目線でニーズを捕まえていくことだ。プロに聞いても、POSデータに頼っても、顕在化していないお客様の不満を見つけることはむずかしい。プロは過去の経験や制約に縛られるし、POSデータは小売店の効率はあげるが店の便利は顧客の不便であったりする。

 そして、当然、我々自身がプロになってはいけない。これが、実はいちばんむずかしい。いくら「生活者の視点で」と言っても、現場はどうしても"効率論"に縛られ、ときとしてそれが生活者の視点を奪ってしまう。また、"プロ"になると、理屈やデータに基づいて開発のアイデアを得ようとするが、これだけは絶対にやってはならないことだ。


 では、どうすればいいか。それは、生活者の視点に立った「ストーリー」で考えることだ。そうすれば、お客様の"今ある不満"に誰よりも早くたどり着くことができるだろう。

オンリーワンであり続けるために

 現在、我々は年間1000アイテムを超える新商品を送り出し続けている。そのために、毎週一回、丸一日を費やして商品企画会議を開き、そこで開発スタッフから毎回20件以上のアイデアがプレゼンテーションされている。
 
どんなオンリーワンも長く続ければ、必ず競合が現れる。だから、オンリーワンは常につくり続けなければならないのだ。

 快適生活の支援をコンセプトに、アウトドアからインドアに、そして収納から団らんへ-―そうしたストーリーの中で生まれたのが、「家具」の製造・販売という新事業である。実は、日本では小売まで手がける家具メーカーは極めて珍しい。

 家具は一度購入したら5年、10年使い続ける回転の悪い商品である。しかし、例えば、汚れれば洗えるソファーカバー、季節によって着替えることのできるソファーカバーがあれば、「10年に1度のお客様」を、「1年に2度のお客様」にすることが可能になる。こうしたお客様との長いお付き合いは、メーカーだからできることだ。そして小売まで手がけることで、商品のコンセプト、つまり文化をお客様に伝えていくことができる。そこから、ワン・ツゥ・ワン・マーケティングの可能性も見えてくる。

 このように、「新たな価値」は、新しい技術開発がなくても、新しい商品コンセプトと新しい業態の創造等によって提供し続けていくことができる。

 成熟社会の日本では、「新たな価値」を見出すことがむずかしいと言われることもある。しかし、それはモノやサービスを提供する側の言い訳に過ぎない。成熟すればするほど、消費者の不満は増えていく。お客様の視点に立って、お客様までを含めた全体最適を考え、お客様の不満を解決し続ける会社だけが、生き延びていくことができるのではあるまいか。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.13からの転載です。

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