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社員と顧客の満足を100%満たしたい
~お客様の感性に応える、新モノづくり経営~

株式会社島津製作所
代表取締役社長 服部 重彦氏

"科学技術で社会に貢献する"それが、わが社の社是である。これを実現しようとするとき、常に問われるのが、"研究"と"利益"、さらに"事業"と"貢献"のバランスである。そういう意味では、経営とはゼロ・イチで答えを得ることのむずかしい実にアナログ的なものだ。会社の価値ということを考えれば、利益は当然重要だが、会社の中で社員がどれだけ豊かに生きていけるかが同じほど大事なことだと私は考えている。会社は社会の公器であると同時に、グループ8000人の生活の場でもある。その8000人の社員が満足できなくて、どうして社会のお役に立てることができるだろうか。逆に言えば、すべての社員が仕事にやりがいと満足を感じる会社になればこれほど強い会社はない。だから私は、100%の社員が「この会社にいてよかった」と満足を感じる会社でありたいと常に思っている。

社員のやりがいと顧客の満足

社員は何にやりがいを感じるのだろうか。わが社でアンケートをとってみると、7割の社員が「働きがいを感じる」と言っている。理由は次の二つに集約できる。一つは、「仕事への関わり方の深さ」である。開発でも営業でも、一つの商品に携わる人数は限られるから、一人ひとりに寄せられる期待感、課せられる責任が重くなる。多くの社員がそこにやりがいを見出している。二つ目は、「好きなことを自由にやらせてもらえる」ことである。実際、私自身がそうなのだが、好きなことに自由に深く関わることができればこれほど楽しいことはない。

しかし、これは同時にマネジメントが弱い、という課題も示している。当社の初代島津源蔵が京都木屋町で、教育用理化学器械製造の業を起こしてから130年、受け継がれてきた開発者魂、ベンチャースピリッツは大事にしていかなければならものである。加えて、これから21世紀を生きていくためには、個を十分に生かしながら、組織として機能していくマネジメントがますます重要になってくると思う。

今の日本の技術者の新しいモノを生み出す力、オリジナリティの高さは世界でも誇るべき水準にあると思う。技術の評価というものは、芸術と同じで、少し遅れてやってくることが多い。たとえ今は目に見えた評価が下されなくても、続けていれば世界のトップになれる。それを実証したのが、2002年の田中耕一のノーベル化学賞受賞である。彼の受賞は、日本産業界に大きな自信と刺激を与えてくれたと思う。

ただし残念なことに、凄いと思うような研究を行っていても、伸びない会社というのは実際にある。研究開発に注力していると、とかくモノづくりを忘れがちになる。モノづくりを忘れるということは、顧客を忘れるということだ。それでは、会社として伸びていくことはむずかしい。大きな技術力をお客様の満足に結びつけるのが、組織としての力であり、マネジメントの役割であろうと思う。

本物のモノづくり経営へ向けて

わが社は「見えないものを見えるように」「測れないものを測れるように」というソリューションオリエンテッドの企業を目指してきた。しかし、お客様の満足には限りがない。価格、品質、納期などあらゆる満足に応えていくことで、研究型のモノづくりから本物のモノづくりへと脱皮できると考えている。そのためには、目の届く"手元に工場"を置いて、端から端まですべてを自分たちで"擦り合わせ"できるようにすることだ。研究開発の拠点がある京都での工場の立ち上げには、そうした狙いがある。目標は多品種少量生産のジャストインタイム化である。"On Customer"の工場である。

市場はリアルタイムで世界中に広がっている。社員一人ひとりが世界中の注文をいただいたお客様の顔を思い浮かべなら仕事をしていく。それが、グローバルを意識する第一歩だ。さらに地域完結型の技術開発を進めることで、国や地域によって異なるお客様の感性に対応していく必要があるだろう。グローバルを求めると、最後はローカルに行き着くということである。

常に世界の最先端技術を取り入れながら世界のトップブランドを目指し、顧客と相対した擦り合わせ型のモノづくりをグローバルな視野で続けていく。――130年の伝統的なベンチャースピリッツを大切に受け継ぎながら、成長していきたい。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.15からの転載です。

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