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企業の成長は従業員一人ひとりの成長の総和
~働き甲斐のある職場風土をいかに築くか~

株式会社ニチレイ
代表取締役社長 村井 利彰氏

ニチレイ社長就任時、私はグループの共通方針の一つとして「社員重視の職場づくり」を掲げた。その原点は、現在も兼任で社長を務めるニチレイロジグループ本社での経験にあった。当時のロジグループは、地域の競合他社との熾烈な競争に打ち勝つために、ニチレイに先駆けて地域分社化を進める中で、想像以上に第一線の現場の従業員の士気が下がっていたのである。「使命は現場の再生にある」と私は確信した。

従業員満足度(ES)調査で、課題が浮き彫りに

物流という仕事は、基本的にサービス業である。もちろん技術も重要ではあるが、お客様への応対、電話の受け答え、現場の5Sの徹底といったサービスの質が顧客満足に大きく影響してくる。仕事や職場に不満を抱えている従業員がお客様を満足させることはできない。ESとCSは連動して回っており、双方が向上すれば業績もおのずと上がっていくというシンプルな発想だ。

ロジグループでは、2005年から派遣社員を含めた全従業員を対象にES調査を実施した。ES調査では、とくに自由記述欄を設けて何でも自由に書いてもらうことにした。そこから「上司への不満」、「言行不一致のマネジメント層への不信」、「体系的な教育の不在」といった課題が浮かび上がってきたのである。上司と部下の間で円滑なコミュニケーションが行われておらず、将来の自分たちの姿も見えていなかったのだ。調査結果に対して即座に手を打っていかなければ、却って信頼を損ねることになる。とくに、「何でも話し合える職場風土づくり」は急務だった。そこで、上司のコミュニケーション能力向上のため、役職者全員を対象に「コーチング研修」を開始した。これまでに計24回、のべ465名の全マネージャーが受講した。また同時に、各職場のリーダー向けに受講終了まで7カ月にわたる「次世代経営幹部養成講座」を開始し、60名が受講した。ここでは経営幹部としてのマインドとスキルを身につけながら、研修の最後に自社の5年後の姿と個人のキャリアビジョンを全役員の前で発表してもらっている。戦略性を養うと同時に、自分は組織でどのような立場にいてどんな組織にしていきたいかを表明することは、ある意味コミットメントでもある。従業員には、経営品質を起点としたマネジメントサイクル、経営のPDCAを回す基本となる「4つの考え方」(お客様本位、独自能力、従業員重視、社会との調和)をことあるごとに伝えていった。個々の夢や想いの追求が会社の独自能力につながる。これを追求していくことが、会社の力となっていくことを、私自身の言葉で従業員一人ひとりに語りかけた。そうした経営方針の説明がなされていない、というのもES調査で出てきた課題であったのだ。

問題の本質を見極める

こうした課題は、ロジグループに限った話ではなかった。2005年の持株会社体制移行に伴い、ニチレイグループの各社でも多かれ少なかれ似かよった問題を抱えていた。そこで翌年からグループ全社で全従業員(派遣社員を含む)を対象にES調査を実施している。この取り組みによって、職場の雰囲気は明らかに変わってきた。基本的なことであるが、挨拶がきちんとできるようになり、職場がずいぶん明るくなった。教育体系も整備されつつあり、従業員の教育に対する関心も以前より高まっている。

ES調査で大事なことは継続して実施することである。「回答してもどうせ何も変わらない」と従業員が諦めないように注意しなければならない。点数の高低に一喜一憂するよりも回答率100%を目指すことだ。そして、従業員の"声"にどれだけ耳を傾け、その中に本質的な課題をどれだけ発見できるか。私に問われているのは、まさにそこであろうと思う。

「企業は人なり」という言葉を引用するまでもなく、企業にとって人の重要性は言をまたない。従業員の成長なくして、企業の成長は望めない。どんな不況下にあっても、人財に対する投資は継続して進めていかなければならない。それが経営者としての責務だと思っている。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.32 からの転載です。

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