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「燃料報国」の理念に立ち返る
~"Best at a few"のシナリオをどう描くか~

ヤンマー株式会社
常務取締役中央研究所長 苅田 広氏

1912年(明治45年)の創業以来、ヤンマーは「燃料報国」を理念として掲げてきた。1933年には、小型ディーゼルエンジンの実用化に成功。欧米の自動車メーカーよりも早い、世界初の快挙であった。そこには、農業・漁業に貢献したいという創業者の強い思いがあったのだ。以来、エネルギーの有効活用による産業への貢献はヤンマー技術陣のベースとなってきた。創業から一世紀を経ようとしている今、我々はもう一度、原点に立ち帰る時ではないかと考えている。

強みを生かし、独自性を発揮するために

R&D部門には、短期と長期のターゲット設定が求められる。1999年に始まった排ガス規制への対応は、ここ10年、技術陣の明確なターゲットの一つであった。技術革新によって、窒素酸化物、粒子状廃棄物の排出量は規制開始前の5分の1となり、数年後にはさらに10分の1以下になっていく。5年先の商品は見えている。我々にとっての大きな課題は、2016年で規制の対応がひと段落ついた後、10年先、20年先、さらにその先のターゲットの設定とシナリオづくりだ。

たとえば、ディーゼルエンジンは内燃機関の中で最高の熱効率を持つが、エンジンの改良だけでなく、農業機械、建設機械のトランスミッションから作業部まで、作業機械全体で効率を上げていくことを考えなければならない。長い目で見れば、ディーゼルエンジンがモーターに変わっていくのは間違いない。しかし、モーターで強みを持つ会社は山ほどある。その時に我々が発揮する強みは作業対象の特性をよく知っていることだ。作業対象(たとえば稲)の特性をもっと掘り下げ、完璧に理解して作業機械をつくっていくところに、もうひとつの道がある。そのために取り組んでいるのが土壌や稲のモデル化であり、これが次の開発プラットフォームとなり、新たな価値提供の技術となる。

さらに、ディーゼルエンジンは燃料に対する多様性があり、植物油やその他の新しい燃料に対する適応性も極めてすぐれている。バイオマス燃料などの代替エネルギーの利用技術の確立や、非食用油(ジェトロファ油等)を利用したエンジンの開発、さらには開発途上国の無電化村でジェトロファの栽培から発電までを一貫して行う計画も進行中だ。こうしたエネルギー分野への貢献も、ヤンマー独自のR&Dの方向性の一つとなるだろう。これらは、まさに「燃料報国」のシナリオづくりである。

周りをよく見て、たった一つ圧倒的に勝つ

「一生懸命研究していて、ある日気づいたら日本が戦争に負けていたというようなことがある。周りをよく見ておけ」会社に入って間もないころ、旧海軍出身の偉い大先輩から言われた言葉である。研究開発で大事なことは、思いこまないことだ。一つのことを多面的に見ることができなければ、袋小路に入ってしまう。いろいろな見方をするためには、周囲をよく見て、いろいろな勉強をしておくことが必要だ。そうすると、技術という柱の上にさまざまな広がりができてくる。技術者は誰もが1本の柱を建てたいと考えているが、柱だけでは役に立たない。誰にも負けない柱を1本建てたら、その上に横への広がりをだしていく。求められるのは、そうしたT型の技術者なのだ。さらに2本目の柱ができてπ型になれば、技術者としては盤石である。

売れない時代と言われるが、よい商品とは"Good at everything"(すべてで合格点をとる)と"Best at a few"(1、2の項目で勝っている)であると言う。ほとんどイーブンでよいが、一つか二つは圧倒的に勝っていることが必要なのだ。そのために何をすべきか。それを考えることが技術者としての面白みでもある。たった一つでもいい。世界中が驚くようなことを目指そう―私は最近、そう研究開発陣に発破をかける。それが、企業を盛りたて、社会に貢献し、国を豊かにすることにつながっていくと信じている。

※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.33 からの転載です。

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