危機のときこそ基本に立ち返る
~言語・文化を超えて"基本"をやり切る~
TOYOTA MOTOR ITALIA S.P.A.
取締役会長 最高責任者 竹元 源信氏
昨年9月のリーマンショックに始まった世界的な経済危機の中で、自動車業界はまさに各社生き残りをかけた大手術の真最中である。多くの経営者が語っているように、この危機をチャンスと捉えて、事業再構築をはかる必要があろう。どのように業界が再編されようとも、今回の危機のあとは、新たなグローバル競争の幕開けになるのではないかと思う。
基本を着実にやり遂げる
日本の自動車業界の海外進出は、おおむね3段階に分けられる。第1段階は日本からの完成車両の輸出、および各国国産化規制に対応したCKD部品の輸出である。1980年代、米国との貿易摩擦をきっかけに本格的な現地生産が始まり、それまで海外で仕事するとは夢にも思っていなかった多くの現場の人たちが海外で働くこととなった。
米国から欧州、中国、東南アジア、ロシア、インド等へ工場進出が一気に拡大し、世界が市場となった。この過程の中で日本企業がこれまで経験したことのない規模で、多くの現地外国人と一緒に仕事をすることとなった。これが第2段階である。
第3段階は、今まさにこれから迎えようとしている新たなグローバル競争の時代である。この段階では市場は世界=グローバルであり、一緒に働く人たちもいろいろな国の人たちである。この中で、おそらく日本人は数の上ではマイノリティであろう。この段階を迎えた日本企業には、どのような戦略が求められるのであろうか。
成功の基本は、どの段階であろうとも同じである。すなわち、お客さまが求める商品・サービスを、いかに安く早くお届けできるかに集約されるのではないか。問題は、この基本をいかに着実にやり遂げるかにあり、多くの企業の苦悩はここにあると思う。
この基本については、日本企業の得意としてきたところでもあり、いまさら特筆する必要もなかろう。ただ、これまでと大きく異なるのは、言語・文化の異なる多くの外国の人たちと、この基本をいかに共有し、実践できるかということが大きな課題となってくることだ。
グローバルに基本を共有することの大切さ
自動車産業は、一般に生産と販売が車の両輪であるといわれる。この軸で海外進出を見てみると、生産は本格的には1980年代より開始し、基本的には日本のしくみをそのまま 海外にもっていき現地の人と一緒に取り組んできている。
一方、販売は現地にまかせてきたと思う。現地の有力な販売店にお願いし成功を収めてきた。今後の大きな課題は 製造、販売が一体となって、お客さまにいかに早く良いサービスを提供するしくみをつくるかだと思う。ここで、またしても言語・文化の異なる現地販売店と、いかに基本を共有し実践できるかが大きな課題となる。
日本企業の海外進出状況を考えると、言語・文化の違いを乗り越えての共有化は喫緊の課題である。言い訳している暇はない。お客さまが求める商品・サービスを安く早くお届けするために、我々日本人が積み上げてきた知恵と工夫に自信を持って、この課題に真正面から向き合い、議論を尽くし共通の目標を見出し、みなで一緒に取り組むしかない。
我々も、これまでの経験の中から、よいと思われる目標管理、稟議制度、販売店での業務改善等を、ここイタリアでぶつけている。多くは日本的経営方式であるが、イタリアという異文化の中でも受け入れられつつあると実感している。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.35 からの転載です。
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