「言行一致」でお客様の新たな価値創造・課題解決へ
~目指すは信頼されるエクセレントカンパニー~
富士ゼロックス株式会社
代表取締役社長 山本 忠人 氏
富士ゼロックスは2008年、前年に社長に就任した山本氏のもと、「複写機からの卒業」を宣言し、ソリューションビジネス事業へと大きく舵を切った。"モノ売り"から"コト売り"へ。顧客を取り巻くIT、コミュニケーション環境が変化する中、大胆な事業変革をどのように行ったのか。その具体的な方針やアプローチについて山本社長にお聞きした。
希薄になった「お客様」と「モノづくり」の視点
鈴木:まず初めに、山本社長ご自身が長く技術系部門でご経験されてきたことや、組織をまとめる上でのご苦労などお聞かせください。
山本:2012年度創業50周年を迎えた当社ですが、もともとは販売会社でした。米国ゼロックス社が持つ優れた技術とレンタル方式という新しいビジネスモデルで、日本の成長路線と共に当社も右肩上がりで成長してきました。その間、とにかく目まぐるしかったのが技術革新です。アナログからデジタルへ、デジタル分野もモノクロからカラーへ、そしてネットワーク化へ。さらにWindows 95の登場で誰もがPCを持つ時代が到来します。インターネットが急速に普及し、近年はクラウド、モバイル機器との連携など、新しいICTとの融合で、技術革新が今なお相当なスピードで起き続けています。
私も開発生産部門で最終的に専務として全般を掌握しましたが、入社間もない時分を思い起こすと、会社の規模もそれほど大きくなく、知識レベルも今と比べれば浅いものの、多くのことを広く調べないと開発ができなかった。つまり多能工的な仕事をしていたわけです。サプライヤーや顧客のところに行って、どうやったら構想を実現できるのか、市場を創りだしていけるのかということを一緒に話し合い、上流から下流まで全方位でカバーしていたわけです。
しかし、今は規模が違う。さまざまな機能を多くのメンバーで分担し、細分化しながら開発を進めています。専門領域を担当する優秀な人材はいるんですが、方向性が明確に共有できていなかったり、チーム力も発揮しきれていなかった。
当時はこれから東南アジアという時代。すでに日本は成熟国でしたから、時流はカラーへと移行していたんです。一方、東南アジアを見ると、市場はまだまだモノクロの時代。そういう状況にも関わらず、技術者の多くはモノクロマーケットに興味を持っていなかった。ローエンド、ハイエンド市場いずれの対象商品も偏りなくやっていく必要があったのに、それができていなかった。結局、業務の細分化によって、「お客様」と「モノづくり」の視点が希薄になっていたんです。
「本来のモノづくりの在り方」に立ち返る
鈴木:まず社員の意識改革に取組まれましたが、その過程で、「プレジデント塾」というユニークな活動をされていらっしゃいます。この活動の狙いをお聞かせいただけますか。
山本:当時はカンパニー制を敷いており、私は開発生産カンパニーの社長をしていました。前述したように、今の状況ではダメだという思いがあり、この先、核となる優秀なメンバーを選び出して、徹底的に教育したんです。いわゆるQCDなど、そういうことは一切しませんでした。例えば、わが社が置かれた状況や、どこにどれだけ無駄があるとか、在庫やサプライチェーンの問題、顧客満足度などに重点を置き、「本来のモノづくり」の在り方に立ち返り自ら考える力をつけてもらうのが狙いでした。常に新しいものを追求し、技術競争で忙殺されていた彼らからすると、目から鱗だったと思います。
それを何期か繰り返し、その一期生が部長クラスになろうとしています。現在、開発生産は非常によくなっていますし、競争力を持てる商品ができるようになったと自負しています。
複写機からの卒業!ソリューションの富士ゼロックスへ
鈴木:2008年に「複写機からの卒業」を宣言されました。ソリューションビジネスへと大きく事業転換された背景やその際のご苦労についてお聞かせください。
山本:50年前は複写機そのものにパワーがありました。当時はPCなんてないですから、黒電話と複写機、あっても計算機という時代です。それこそ複写機はビジネスマシーン。会議一つにしても、コピーしてレジュメを配り、書き込みすることで記録もでき、折り畳んで持ち運ぶこともできる。短時間に情報を伝達することが可能になり、コミュニケーションを飛躍的に向上させました。
しかし、今は取り巻く環境が違います。紙を主体としたコミュニケーションは、かつて50年前のお客様が考えるバリューと大きな差があるのです。今までと同じことや、その延長線のことをやっていてはダメだという思いから「複写機からの卒業」を宣言しました。
社内でのコミュニケーションは「紙」だけでなく、例えば会議の場やEメール、今ではさまざまなモバイル機器など多種多様な媒体があります。「紙」という顧客のコミュニケーション環境、価値創造環境の一端だけを担っていても、真の意味で価値創造をするための情報環境構築にはなりません。環境構築をするためには、ネットワークやサーバー、クラウドの立ち上げといったシステムインテグレーション的な役割が求められるようになってきたのです。事業転換により役割がガラッと変わったことで、カストマーサービスのメンバーにも大変な努力と変革を要しました。
もちろん、変革と一言でいっても、モノ売りからコト売りへという事業構造の変革は人材の再教育も、組織の再設計も伴います。長年50年近く慣れ親しんだ事業から、まったく180度違う事業をやっていく訳ですから、それはもう会社の文化まで変えるような大きな変革でした。
「言行一致」がお客様の課題解決につながる
鈴木:製品革新も事業変革も、共通項は「お客様」だと仰いました。そのお客様の課題や悩みを分析してソリューションを提案し、新たな価値提供を図る上での具体的な方針や課題解決のアプローチについてお聞かせください。
山本:弊社では毎年年度初めに経営方針を出しています。2011年は「Go to Customers」と定めました。実は当社は基本的に毎年新たな経営方針を挙げてきましたが、この「Go to Customers」は2009年から3年継続しました。つまり、まだお客様のもとに行っていないと。それは、行くだけではダメだということなのです。
例えばある製造メーカーのお客様にしても、図面のような出力系の仕事がある開発部門だったり、コピーを扱う総務部門だったり、従来はそういった使ってくださっている部門に足しげく通っていたところがあります。しかし、お客様の経営改革やソリューションを目的とした時、企画や情報システム、営業部門なども対象となるわけで、管理部門や関係部門の方だけ訪問しても不十分、これでは新たな気づき、提案に繋がらないのです。それを社員に言い続け、この経営方針を3年継続しました。
また、全社運動で「言行一致」を掲げました。当社はコピーや価値を顧客に提供するメーカーです。例えば自動車や医薬品メーカーにしても、何かしらの価値をつくり顧客に提供しているわけです。だから我々も図面をつくることが最終目標ではないでしょうと。使いやすい複写機を安く作れることが価値創造の一つの最終プロセスであり、やがて物ができれば在庫管理も必要ですし、リードタイムの問題、品質、コスト、原価低減など、どの製造メーカーも同様の悩みや問題を抱えているはずです。つまり提供できるソリューションは、我々の中にもあるということです。
自社の生産サイドで起きている問題を理解し、解決せずに、顧客に対して問題を聞きだし、ソリューションを提供できるでしょうか。自社や自分の業務の中で日常的に課題を発見したり、さまざまな気づきを持ち、改善するという繰り返しの中でこそ、そのような能力は培われると思うんです。
さらにもう一つが、Cレベルコンタクトです。これはいわゆるCEO、CIO、CFOと
いったトップレベルへのアプローチです。基本的にソリューションサービスとなってきますと、「機械を1台買ってください」という次元の話ではなくなります。業務プロセスの変革を伴い、今までの仕事のやり方をガラッとかえてもらうとなると、ボトムアップ営業だけでは難しい面があります。しかも、大きな経営課題を掌握されているのはそういうCレベルの方なんですね。ですから、当社の執行役員には皆、担当するお客様を持たせています。やっと今、その仕掛けも成果を上げるようになってきたところです。
目指すは信頼される「エクセレントカンパニー」
鈴木:「言行一致」は素晴らしい取組みですね。お客様に自社の例をあげて提案する上でも、社内の改革は重要ですが、具体的にはどのような改革に取り組まれているのでしょうか。
山本:2012年度の経営方針は「Challenge for Excellent Company」と定めました。「言行一致」の究極は、エクセレントカンパニーに行きつくと思うんです。社員の士気が低く、会社は赤字で減収減益。そんな会社がいくらかっこいいことを言っても、誰も耳を貸しませんよね。
例えばモノづくり企業だったら、「あなたの会社はさておき、この商品だけはいいね」と言って買ってくれるお客さんもいるかもしれません。ですがひとたび、我々は「課題解決の富士ゼロックス」と謳い、生産性向上や環境構築、コミュニケーション改善を提案するときに、じゃあそう言うあなたの会社はどうなんだ?と問われるのは当然でしょう。部下やチームのモチベーションが低い会社が、顧客満足を実現できるはずがありません。
2012年度は「自ら考え、行動する」人材育成に向け、イノベーションや業務改革に挑戦する行動を積極的に評価する仕組みを導入しました。言うまでもなくES(Employee Satisfaction)は経営の基盤です。従業員が生き生きと働ける企業づくりができて初めて、顧客満足につながると考えています。
「直販体制」の強みを生かし「グローカル」に海外展開
鈴木:今、御社では海外でも現地ニーズに合わせた「グローカル化」に積極的に取組まれ、シェアを伸ばしていらっしゃいます。具体的な内容についてお聞かせください。
山本:当社の特徴は直販体制があるということ。具体的に言いますと、直接保守サービス、直接販売を持つメーカーであることが一つの強みだと考えています。例えば今、経済が右肩上がりで勢いのあるベトナムなどでは、日本企業もさることながら、韓国、台湾、中国等外資系企業の進出が急増しています。
単純なコピーとは違い、ソリューションやアウトソーシングサービスといった、より高い価値を求める顧客のニーズに応えるためには、ベトナムの現行営業だけでは賄えない面もあります。そういうハイブリッドな部分については、日本人営業のグローバル教育も含め、多くの若手を海外に出してソリューション、グローバル営業に取組んでいるところです。
グローバル化と一言にいっても、欧米向け機械の一部の機能を削ぎ落とし安く作っても売れるわけではありません。当社も例えば中国では、現地のお客様の声を徹底して集め、企画開発したデジタル複合機「DocuCentre Sシリーズ」が大変好調で、マーケットシェアを格段に伸ばしています。大切なのはその国の文化や商習慣、地域ニーズにマッチした現地マーケティング、つまり「グローカル」ではないでしょうか。
イノベーションと社員力向上こそマネジメントの鍵
鈴木:最後に、山本社長からこれからの日本の経営者、次世代を担う経営幹部に向けたメッセージをお願いします。
山本:やはり基本はイノベーションです。常日頃から改善を図り自社の変革に取り組んでいないと、たとえ条件的に良い時期があったとしても、取り巻く環境が大きく転換すればいずれダメになってしまうでしょう。私はいつも「課題発見能力を持て」と社員に言っていますが、それは会社という器だけでは何もできないと考えるからです。お客様との接点を持つのは社員であり、社員の集合体が組織であり、会社ですから。要は「人」なんです。
大局観を持って時代の潮流をみながら、社員力を磨き、いかに能力を引き出すか。それが我々マネジメントの重要な役割であると思います。その上に絶え間ない革新、イノベーションを積み重ねてこそ、真のエクセレントカンパニーへ繋がるのだと思います。
【対談を終えて】鈴木 亨のひとこと
顧客にソリューションを提供するためには、自社の課題解決を推進しその能力を高めていくという「言行一致」の考え方、これは山本社長の経営方針実現に向けた強い想いやブレのない一貫性の現れだと思いました。会社の舵取りを担うTOP たるもの向かうべき方向性の提示と、自らそこに至るまでの具体的なアクションを牽引する意思の重要性を改めて認識させていただきました。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.50からの転載です。
※社名、役職名などは発行当時のものです。
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