ユーザーイン経営でイノベーションを実現する
アイリスオーヤマ株式会社
代表取締役会長 大山 健太郎 氏
消費者も気づかない、潜在ニーズをどう見つけるのか
世の中にないもので求められているもの
ユーザーインとは、お客さまの声に耳を傾けて商品開発することではありません。消費者も気づいていないニーズを見つけ、こちらが需要を創造していくのがユーザーインの考え方です。そのためには消費者にリサーチをするのではなく、まず社員が消費者となって考える。自ら生活の中で商品を使い倒し、そこで見つけた課題をヒントに、自社の強みをプラスして最速で商品化する。それが私たちのビジネスなのです。
アイリスオーヤマの原点は父が立ち上げたプラスチック加工会社です。19歳のときに父が亡くなり、私は若くして会社を継ぐことになりました。当時は下請けとして取引先からのオーダー商品をつくっていました。しかし、次第に自分の商品を自分で値付けして売りたいと思うようになりました。そして最初のオリジナル商品となったのはプラスチックのブロー成型技術を活かした漁業用のプラスチックのブイ。竹の筏やガラスの浮きしかない時代、漁業の方たちの「割れる、重い」という悩みに目をつけ、新しく市場を生み出した最初の経験です。
その後、農業にも目を向けます。田植え機が発明され、機械植えに必要な育苗箱を開発します。通気性のないプラスチックでも強い苗が育つように研究開発し、商品化しました。
商品の背景には「こんなものがあったら便利だな」というニーズが必ずあります。それを見つけ出すのはお客さまではなく開発者自身の生活の中から、たとえば当社の大ヒット商品に透明の衣装ケースがあります。あれは私が釣りに行く朝、セーターが見つけられなかったという出来事から生まれました。私自身がユーザーの立場で見つけた課題から商品化した中身が見える衣装ケースは、工場をいくつつくっても間に合わないほどの需要を生み出しました。
この企業理念を掲げている理由
1973年のオイルショック直後、プラスチックなど石油製品の需要が高まり工場をフル稼働させて商品を量産しました。消費者の物不足への不安が高まり消費者が1つでよいところを、3つも4つも買うという行動を起こしたからです。ところが、そのリバウンドで、あっという間に山のような余剰在庫に。10年間で築き上げてきた会社の資産はたった2年で底をつき、倒産寸前まで追い込まれました。このときの私は、プロダクトアウトの塊だったのです。その結果、家族同然で頑張ってきた従業員をリストラせざるを得なくなりました。
33歳だった私は二度とこのようなつらい経験をしたくないという思いから企業理念を掲げたのです。いかなる時代環境においても、その変化に左右されることなく着実に利益を上げ、会社を存続させていこうという決意です。
社員は全員、生活者の代弁者であれ!
あなたの奥さんはそれを買いますか?
毎週月曜日の新商品開発会議は社長をはじめ、営業、品質管理、あらゆる部署の担当がプレゼンをジャッジします。「本当にその商品を、あなたの奥さんは買いますか?」この問いがユーザーインの視点であり、社員は生活者の代弁者でなければならないのです。開発担当は競合商品含め、自ら使い倒してヒントを得る。単なるマーケットインの開発ではありません。
また価格設定についても、ユーザーインの視点を忘れません。トップシェアのLEDは発売当初、他社が5000円だったものを「主婦が買える2000円」で設定。開発には苦労しましたが生活者の支持を得ることができました。
どこでつくっても同じコストの生産を目指す
20年前から人件費の高騰を見据え、ロボットを導入してきました。工場で必要な機能は、基本的に「見る目」と「動かす手」です。ロボットの画像解析は人間の能力をはるかに超え、24時間365日働いてくれます。これは、利益を確保するための先行投資でもあります。「いかなる時代環境においても利益を出す」というのが当社の理念です。人件費の変動で利益が減ることはあってはならないわけです。おかげさまで人件費の削減を追いかけて工場を移転する必要はなくなりました。
たやすく廃番にしない 商品点数23,000
23,000点、私たちが持つ商品アイテム数です。新商品は毎年1000点を超え、売り上げの6割強が3年以内に開発された商品。ロングセラー商品に頼るのではなく、移り変わる生活者ニーズを追求し続けた結果です。スクラップアンドビルドという言葉がありますが、私たちは次の代替商品がない限り、スクラップしません。売り場がある限り、月に1個しか売れない商品でも廃番にしません。買ってくれるお客さまがいる限り、供給者としての責任がある。だからこのような商品数になっています。「アイリスさんの商品は安いね」と言われますが、私たちはきちんと儲けています。お客さまにとっていいものを安く提供するのが社会的責任。その仕組みができると、市場が変わってくるのです。
メーカーベンダーだから52万パレットを一元管理
商品を市場に出すには2つの壁があります。代理店の壁と問屋の壁。これを乗り越えないと店頭に商品が並びません。その流通コストは消費者の価格に転化されてしまいます。しかし当社はこうした卸売業を経由せずに、ダイレクトにチェーンストアを通じて販売する「メーカーベンダー」として事業を展開しています。いったい2万3000種類の商品の管理はどうするのかとよく聞かれますが、アイリスオーヤマは52万パレットの在庫量を一元管理する自動倉庫を持ってこれに臨んでいます。ほとんどの場合は2万~5万パレットくらいの自動倉庫、あるいはそれを共有した工場を持っているという規模ですから、私たちは規模世界一の自動倉庫を持っていることになります。
アイリスオーヤマ流の復興支援事業
私たちは東日本大震災の復興支援で、東北のお米の取り扱いを始めました。東北は当社の地元。精米事業もユーザーイン発想に基づき、「簡単、便利、おいしい」で商品開発を行っています。お米は40℃を超えるとうまみ成分が損われるので、"低温製法"という最新鋭の精米技術を完成させました。お米のおいしさを最大限に引き出すため、どんなお米でも当社で精米するとより甘みが出ておいしくなります。さらにこれを従来のお米の流通の常識を超えて使いやすい2合、3合パックにすることで、大手コンビニ全社で取り扱ってもらえるようになりました。メーカーベンダーだからできる発想なのです。
ユーザーインからの新しい市場づくり
私たちは「ペットは家族」と位置づけ、室内で飼うためのさまざまな用品を開発してきました。かつて犬は、庭の犬小屋につながれていました。ペットを家族と見る、新しい価値観により日本のペットブームを生まれたといっても過言ではありません。
そしてもうひとつ。「飾る園芸」という新たな価値を生み出したこと。「庭を飾りたい」というユーザーインの発想で、プランターやラティス、スタンドをつくり、ガーデニングブームが起こりました。かつて育苗箱をヒットさせた園芸用品のノウハウが強みとなっています。ユーザーイン経営とは商品を通して生活に新しい価値を生み出すために、イノベーションをし続ける志であるといえます。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.70からの転載です。
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