バリアバリューの精神で世界に誇れる日本をつくる
株式会社ミライロ
代表取締役社長 垣内 俊哉 氏
ユニバーサルデザインの真髄とは何か
ミライロの企業理念と社会に対するメッセージ
一人ひとりが持つトラウマやコンプレックス、障害(バリア)は克服すべきものでもなければ取り除くべきものでもない。バリアをなくすのではなく、バリアを強みに変えることで、社会を変革したいという願いが企業理念に込められている。ミッションでは、人それぞれが自分自身の価値を最大化できる新しい社会のデザインを、ビジョンでは、人々の想いと社会の共感を原動力とし、事業を展開していくことを伝えている。
人生の幅は自分で変えられる
「歩けないことに胸を張れ。」その言葉が原点となった
私は生まれつき骨が弱く折れやすい病気のため、骨折は20回以上、手術は十数回受けてきました。
子どものころから普通だったらいいのにと願い続け、「あるきたい いつかみんなと はしりたい」そんな詩をつくったこともありました。高校を中退して手術とリハビリに取り組みましたが、自分の足で歩くという願いはついに叶いませんでした。
17歳のとき自殺を三度図ろうとしましたが、それすらできませんでした。絶望の毎日をベッドで過ごすなかで、今度は神経の病を発症しました。声を出すことも、車椅子に乗ることもできない―。
そのときはじめて気づきました。車椅子に乗れるのはありがたいことなのだと。
リハビリの結果、声は回復し車椅子にも再び乗れるようになりました。
人はいつかは話せなくなり、寝たきりになるという現実を突きつけられた経験でした。
であれば、限られた時間の中で、できること、やるべきことを探そうと思いました。人生の長さは変えられなくても、幅は変えられる。幅にこだわって生きようと決めました。
大学生のとき転機が訪れました。アルバイトをしたくてもなかなか採用されなかった私を、唯一採ってくれたウエブ制作会社での話です。
制作を担当するのかと思っていたら、命じられたのは営業でした。もちろんほかの人より訪問できる会社は少なかったけれど、数カ月後にはトップの成績を残すまでになりました。理由はたった一つ。「また車椅子の営業がきているぞ」と、多くの人に覚えてもらえたからです。
「歩けないことに胸を張れ。お客さんに覚えてもらえることはお前の強みだ」。社長からこう言われた日のことは忘れません。また、その社長は「障害者だから仕方ない」という態度は取らず、私が数分遅刻したときに、本気で叱ってくれた初めての人でもありました。
障害があるから、歩けないからこそできることがある。新たな光、生きる道を見つけた私は、自分が気づいたことを日本中、世界中に広げていくために起業しました。そして、起業して今年でちょうど10年になります。
障害はないほうがいい。でも、視点を変えれば障害は「価値」や「強み」になる。バリアはバリューに変えられることを、確信しています。
『バリアバリュー障害を価値に変える』(新潮社)
ミライロの企業理念がタイトルとなった垣内社長の自伝。障害者として格闘してきた日々と、ユニバーサルデザイン市場をみすえたミライロの戦略を知ることができる。
「社会貢献」にもっとビジネスの視点を
ハードは変えられなくてもハートはすぐに変えられる
ところで、世界でバリアフリーが進んでいるのはどこの国だと思いますか。欧米? 北欧? いえ、日本です。とくに都市圏は交通機関のバリアフリー化が進んでいますから、これほど外出しやすい国はありません。でも、外出したくなるかは別です。
なぜかといえば、障害者への対応は、無関心か過剰かの、二極化しているからです。施設や設備といったハードを変えることは、そう簡単ではありません。でも、意識やハートは変えることはできます。困っている人に自然と手を差し伸べることができたらかっこいいと思いませんか。
ミライロでは、高齢者や障害者への適切なサポートやコミュニケーション方法を学ぶユニバーサルマナー検定を実施しており、受講者は7万人を超えました。
ここで適切な対応とはどういうものか、一例を紹介しましょう。私が飲食店に入ると、椅子をどけられて「こちらにどうぞ」と案内されることがほとんどです。でも、長時間車椅子に座り続けていると、ほかの椅子に移りたいことがあります。
良かれと思ってやっていることが、障害者のニーズとのすれ違いを生んでいることもあるのです。障害者といっても、一人ひとりのニーズは違います。椅子をどけるより先に、「車椅子に乗ったまま食事をされますか? それとも椅子に移って食事をされますか」と聞いてほしい。必要なのは、選択肢なのです。
ミライロでは、社会の障害(バリア)を意識、環境、情報の3つの側面からとらえ、それぞれを解消するソリューションを提供しています。
社会的弱者から顧客へ
日本は急速に交通機関のバリアフリー化が進んでいます。オリンピック・パラリンピックの開催がはずみをつけたことは間違いありません。
教育機関のバリアフリー化も進んでいます。私が大学生だったころ、障害者の進学者はおよそ4900人でしたが、今は3万3000人。働く障害者も増えています。外出できる、学べる、働ける―。社会的弱者ではなく、おカネを稼ぎおカネを使う障害者が増えているのです。
ミライロは、2016年に建物のバリアフリー情報を集めるための「Bmaps(ビーマップ)」というアプリを開発しました。建物の入り口に段差が何段あるか、電源はあるのかなど、移動に不安を感じている人々が求めるバリアフリー情報をアプリユーザーが共有できるものです。
これからは飲食店、美容院、ドラッグストア、レジャー施設などに高齢者や障害者が買い物に来やすい環境の整備が求められています。
たとえば、日本に飲食店はたくさんありますが、車椅子でも入店できるお店は、その内の約5%しかありません。しかし、先んじて取り組んでいる5%の店をみると、売り上げを伸ばしています。なぜなら、障害者や高齢者だけでなく、その家族・友人なども利用するからです。
ある関西のチェーン店では、店舗のバリアフリー化とスタッフのユニバーサルマナー研修を徹底した結果、健常者のリピート率3割に対して、高齢者は4割、車椅子ユーザーは6割になったそうです。障害者が顧客だと気づいた企業は、大きなビジネスチャンスをつかんでいます。
多様性への配慮が大きなビジネスのチャンスになる
企業や自治体のバリアフリーへの取り組みは、肢体不自由者を対象にしたものが多いのが現状です。しかし、ユニバーサルデザインを求めているのは肢体不自由者だけではありません。私たちの社会には、LGBTの方、外国籍の方、左利きの方もいます。
また誰しも高齢になると、見えづらく、聞こえづらく、歩きづらくなります。いわば、障害者の問題を集約した状態にあるのが高齢者だといえます。
障害者対策は、障害者雇用の観点からも急務です。有名大学に通う障害者の学生に、働きたい会社はどこかと聞くと、障害者対応に定評ある数社の名前しか挙がりません。優秀な人材の採用のためにも、障害者対策を通じたブランディングが必要なのではないでしょうか。
日本は江戸時代に障害者の将軍がいましたし、マッサージ師や音曲の分野で多くの障害者が活躍してきました。
日本は障害者を受け入れる素地が元来ある社会です。障害者や高齢者の課題をポジティブにとらえ、ビジネスチャンスとして新たな製品やサービスのイノベーションを生み出すこと。私はそれを願っています。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』Vol.71からの転載です。
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