経営者が考えるグレート・リセット
JMAC40周年記念イベント:エグゼクティブセッション
グレート・リセット時代に求められる経営イノベーション
コロナ禍の中、働き方やビジネスモデルが大きく変わろうとしている。ワークスタイルやビジネスモデルの変革、そしてイノベーションやサステナビリティの推進など、今起こっていること、これから起ころうとしていることを踏まえ、それぞれの企業の取り組みやお考えをお聞きした。
パネリストに株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)代表取締役会長 兼 CEOの鈴木幸一様、株式会社オカムラ 代表取締役 社長執行役員の中村雅行様、YKK株式会社 代表取締役社長 大谷裕明様、そしてコーディネーターに公益財団法人 加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事でJMACエグゼクティブクラブ座長の松田譲様をお迎えした。司会はアナウンサーの中井美穂さん、JMAC代表取締役社長の鈴木も総括として登壇。
「ワークスタイルの変化」「デジタル・IT」「グローバル・人材育成」という3つのテーマで、経営イノベーションについて語っていただいた。
リモートの利便性とリアルな場の必要性
松田 まずは、世界経済フォーラム創設者・会長のクラウス・シュワブ教授の著書からの引用ですが、本セッションの基本的な考え方として「あらゆる業界のすべての企業に、ビジネスや働き方、運営の新しい方法を試すことを強いている。昔のやり方に戻ろうとする企業は失敗することになり、迅速性と想像力を持って順応する企業が最終的にコロナ危機を飛躍のチャンスとすることができるだろう」を共有したいと思います。
日本企業は近年、ビジネス環境の変化、あるいは人の価値観の変化に合わせて、今まで当たり前であった労働環境を大幅に見直す、働き方改革に取り組んでいます。年休取得率の向上、時差通勤、育児休暇制度の整備など。コロナ禍のリモートワークを契機に、働き方改革が一気に加速しました。
しかし、リモートワークの利便性に気づかされるとともに「リモート疲れ」というオンラインコミュニケーションのストレスも起きています。それにより、対面コミュニケーションの重要さに気づかされました。まずは、オカムラの中村さんにお聞きします。これからのオフィスとの位置づけはどう変わるとお考えでしょうか。
中村 今後は、売り上げや利益に直接関係のない仕事はなくなると思います。たとえば余計な資料づくりや統計づくりなどの業務のことです。そのうえで、大切なことは「三人よれば文殊の知恵」です。人が集まり議論をして、新しいものをつくり出す。それがオフィス機能で一番重要なことだと思います。人間の脳にはミラーリングという機能があるそうですが、相手の表情を見ながら議論して、新しい発想をしていく、これがビジネスには重要ではないでしょうか。
以前に、ニューヨークのノーベル賞受賞者を二十数名輩出しているロックフェラー大学へ行く機会がありました。研究室に囲まれた真ん中のエリアにコラボレーションルームという部屋があり、研究者が疲れると、三々五々集まって、コーヒーを飲みにくる。そこで互いの研究の悩みなどを話し、そこで気づきを得るということを伺いました。オフィスというのは、そのような場になっていく必要があると考えています。
松田 ありがとうございます。ではIIJの鈴木さん、リモートワークのメリットとデメリットを、どのようにお考えでしょうか。
鈴木 コロナ禍で、人が接触せずに働くためにはリモートという働き方は欠かせないと思います。一方で、リモートで従来の働き方をすべてカバーできるかというと、そこには「コラボレーション」が不足していると思います。
私がインターネットという技術に関心をもち始めたのは60年代の末、事業を始めたのは、90年代です。ネットの利用で無数のメール経由の知人ができ、仕事も短期間に世界的な広がりを持てるのですが、最後の意思決定では、必ず「相手の顔を見てからにしよう」となる。それだけ直接、人と会うということの情報量は大きい。
リモートでの働き方は、オフィスで働くこととは違った意味で有効なことだと思います。遠隔で十分な仕事もあります。しかし、直接会ってディスカッションする、おかしなことにお互いの顔やからだ全体で笑い合うなど、五感の触れ合いも含めて人と会うことが、最終的な意思決定のカギになると思います。リモートとオフィスでの仕事をどう組み合わせていくかが、今後のワークスタイルのテーマではないでしょうか。
工場や営業現場の働き方はどう変わっていくべきか
松田 YKKの大谷さん、グローバルに展開されている工場の変化についてお聞かせください。
大谷 ファスナーをはじめとする弊社の事業は、日本では15%ほどしか商売をしておりません。残りはすべて海外で行っており、コロナ禍においてほとんどの国がロックダウンに追い込まれました。72カ国地域に109の事業会社が現在ありますが、ほとんどの会社で事業ができなくなりました。
そういった中で、工場はいかにデジタル技術を導入して、人が毎日働かなくても稼働できる環境をつくるかが課題となりました。以前から必要性を十分認識していましたが、今回のことで拍車がかかった、という状況です。
創業者の言葉で、「暗い工場をつくろう」というものがあります。最初は、「暗いというのはどういう意味だろう」と思いましたが、それは究極にFA(ファクトリー・オートメーション)化された工場のことでした。朝、技術者が出社し、ボタンを押すと機械が動き出す。その後、技術者はその場を離れることができ、人がいない工場に照明をつけ続ける必要はなくなる。そのような工場を意味しています。10年前は「それは不可能でしょう」という時代でしたが、この数年におけるデジタルテクノロジーの進化は目覚ましいものがあります。究極にFA化された工場を実現できる世の中になっていると思います。こういうときだからこそ、スピード感を持って、FA化を今やらなければいけない、という思いを世界中の社員と共有しています。この思いの共有こそが、変化に対応できるかどうかのカギになると考えています。
松田 ありがとうございます。中村さんは、営業の働き方についてはどのようにお考えですか?
中村 今、働く場所は大きく分けて3つあります。一つはセンターオフィス、いわゆる今までのオフィスです。もう一つはシェアオフィス。そして自宅です。営業活動は、自宅からお客さまのところへ行き、直帰というスタイルが主流になっていくでしょう。
しかし、営業戦略を立て、攻略するためのアイデアを練るのは数人で考え、それを組み立てていくほうが効率もいいし、よい知恵も集まります。また、異なる職種の人が集まる場、たとえば営業とデザイナーと管理職が一体になって、ある物件の打ち合わせをするなどは、オフィスの中で行ったほうがいい。そこで組み立てたものを、営業は営業、デザイナーはデザイナーで、個々の適した場所で仕事をすればよいわけで、今後はそうなっていくと思います。
松田 ありがとうございます。JMACの鈴木さん、ここまでのお話はいかがでしょうか。
JMAC鈴木 コラボレーションでクリエイティビティを高め、意思決定を効果的に行うためには、五感を使ったリアルな場面が必要になるということだと思います。従来から日本企業の強みはチームワークと言われていますが、今後VRなどデジタル技術が進むとリモートと対面の差がなくなってきて、リアルのほうが望ましいという考え方すら変わってくるのでしょうか。IIJの鈴木さん、いかがでしょうか。
鈴木 問題は、コロナ禍により初めて「在宅勤務という働き方」について、議論されていることです。本質は、コロナがあろうとなかろうと、ネットワークが高速になり、瞬時に情報の処理が可能になった時代に、どういう働き方が適切かを考えるべきで「コロナだから会社に来ないで、それぞれ分散して働いたほうがいい」ということではありません。本当のIT化というのは、すべての情報がネットワーク上にある状態になったことで技術革新はすでに起きています。それに対して、企業は、すでにある革新的技術やその技術に基づいた仕組みをどのように取り入れ、経営に生かしていくかを考えるべきです。とくに、既存の仕組みを変える勇気を日本が持てるかどうかです。
デジタル化の推進には何が必要か
松田 IIJの鈴木さんが指摘されたとおり、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)は世界に比べ、大きく遅れています。たとえば、今回のコロナで、国が行った給付金の手続きや印鑑決裁などでも、改めてそれを実感した人も多いと思います。
スイスのIMD(国際経営開発研究所)が報告している2020年世界デジタル競争力ランキングによると、日本は63カ国中、27位。2019年より4つ順位を落としています。アジア太平洋地域では14カ国中9位。これにはサブ項目があり、企業の俊敏性あるいはビッグデータの活用と分析については63カ国中63位。最下位です。
一方、携帯電話の加入者などいわゆるインフラ整備という点では、世界トップクラスです。それを生かしきれていないところが問題だと言われています。
YKKの大谷さんにお聞きします。サプライチェーン情報のデジタル化や工場のロボット化など、工場のデジタル戦略は、どういうことを期待されていますか。
大谷 YKKは109拠点がありますが、システムをどう統一するかということよりも、それぞれの国のお客さま、従業員の満足度を上げるためのシステムが、それぞれ異なるので、それをどうつなげていくかが重要です。
ここ10年くらいの間に受発注システム、生産管理システムなど、ある一定の統一されたシステムを世界72カ国地域に導入しましたが、やはり時間が経つにつれ、各国のオプション機能がついてしまいました。
一方で、それをモニタリングする機能を日本本社で持っておいて、よい事例があればそれを各事業会社に紹介し、改善展開していければいいと思います。
実は今、私どもが一番大きな課題だと思っているのが、今後のビジネスモデルです。
ファスナー製造は、衣料品メーカー、カバンメーカー、それぞれ異なったシステムの中でのビジネスになります。今後は、今までと違って、データをいただいて需要予測をする、あるいは将来のフォーキャストをいただくようなビジネスモデルではなく、これまでとはまったく異なる発想が求められると考えています。たとえば、早い段階ですべてのプレイヤーが確定情報を共有できたらどうでしょうか。いち早くお客さまが求めているものを把握することで、原材料などを無駄なくタイムリーに準備して、超短納期化の要望に対応できます。そのような新しいビジネスモデルの構築がもっかの課題です。
松田 中村さんは生産現場のIoTやAIなど、どのようにお考えでしょうか。
中村 管理というのは、ある上限と下限があって、その中にばらつきが収まっていればいい。それがぽんと跳ね上がって限界値を超えた瞬間に原因がわかり、手が打てる体制が非常に重要です。
私どもの工場の生産管理部門では、壁一面に現場のいろいろな情報を表示しており、それを見て仕事をしています。一番うしろに全体を見る製造管理部長が座ります。異常値が出たときには、全員がわかって早く手が打てる仕組みとなっています。
今後はさらに、IoTやAIなど、デジタル技術をそうした仕組みと組み合わせて使っていく必要があります。
弊社の場合、一つの工場でも約70万アイテムの標準製品を生産していますが、もはや人手で生産を管理していく時代ではありません。生産管理はDXを使ってあるシステムを組み、異常値が出たときだけ人が管理する、という方向に転換しなければならない。品種が増えると人手がかかるという仕組みではもう対応できないと思います。効率を求めるならば、人間は考える側の仕事に従事しないと、売り上げと利益の数字が上がらないのではないでしょうか。
昔の仕組みを壊し、新しい仕組みに変えていくには、やはりデジタル技術を使って変えていく必要がある。新しいやり方を試し、それを壊し、さらに新しいやり方を試す。これを繰り返すしかありません。そのとき、上に立つ人がリーダーシップを持って、仕事を壊しながら新しいものをつくることに挑戦できるかどうかが、ビジネスの成功のカギだと思います。
松田 ありがとうございます。業務プロセスの改善としてのデジタル化について幅広く議論がなされたと思います。JMACの鈴木さんはどう感じられましたか。
JMAC鈴木 膨大な情報をインターネット技術で集約し、見えるようになってきたことは大きな変化だと思います。しかし逆に言うと、その情報を見たときに、適切な意思決定をし、アクションを起こすためのノウハウを身につけなければなりません。IIJの鈴木さんがおっしゃったように、インターネットという革新的な技術があるので、考え方も含め、仕組みからガラッと変えていくアクションが必要だと思います。
グローバルの視点で人材育成をどう考えるか
松田 さて昨今、コロナ禍によるアパレル業界の衣料品の大量在庫問題が問われています。グローバルに起こりつつあるビジネス環境の変化をにらみ、たとえば過剰な供給とエシカルな消費の増加など、どう捉えるべきか、大谷さんにお聞きしたいと思います。
大谷 世界の衣料品の消費と生産の乖離というのは、コロナ前から大きな社会問題になっています。現状どおりアパレルの生産が推移すると、2030年以降およそ1億トンが廃棄されます。衣料品の廃棄では、燃やせば大気を汚し、土に埋めると土壌を汚す。さまざまな意味で、石油産業に次ぐ環境破壊産業であるとまで言われています。そして、コロナで世界中の人々が在宅勤務になり、新しい服を買わなくても済むことに、多くの人が気づきました。これから想定できる消費者動向は、本当に必要なものを、必要な分だけ、必要なときに買うスタイルになるということです。「適時、適材、適量」のものづくりが、グローバルビジネスのポイントとなり、どこに縫製の需要が移るかを考えながらビジネスを行う必要があります。
安い労働力を使ってものをつくるというビジネスモデルが受け入れられない時代に入りました。今回のコロナ禍を契機に、デジタルテクノロジーによって「少ない労働力を使って、よりよい商品を早く提供できる国はどこか」というような動きになると思います。これは予測ですが、大きく市場が変化したときにこそ、楽観的な予測をたてずに、今どういう準備をするべきかを考え、さまざまな業務改革を行う必要があります。
松田 ありがとうございます。オカムラさんもSDGs、ESGについて関心の高い企業だと伺っています。中村さんはどのようにお考えでしょうか。
中村 私どもの業界でもオフィス家具のリサイクルは課題です。鉄やアルミ、プラスチックの主な原材料は、リサイクル率は高いのですが、問題は売れない製品をつくってしまうこと。それらの廃棄は環境的にもなくさなければなりません。リサイクル率を高めて、売れる製品を製造し、無駄をなくしていく努力も必要です。
これから企業はSDGsやESGがひとつの評価尺度になってきますから、ある程度目標を決めて、環境にやさしいものづくりのための投資を継続的に進めていくべきです。そこが従来とは違う経営の観点だと思います。
松田 ありがとうございます。では、グローバルビジネスと人材育成について、IIJの鈴木さんはどのようにお考えですか。
鈴木 たとえば、GAFAのような企業と日本企業の違いは、マーケットを見るスケールそのものの違いです。日本人はマーケット全体といっても1億人超。この程度の規模で考えがちです。たとえば100円のソフトウェアを世界で10億の人が毎月使ってくれると、どれほどの売り上げになるのか、という発想にはならない。地球上のマーケットを見ながら、人材育成をする、あるいは事業をつくっていくというような大きな視座を、企業は持たなければなりません。はじめから世界市場を見て、どういう人材が必要かを考える必要がある。会社のIT化のために人材を育成するというような狭い視野では、これからのグローバルビジネスは展開できないように思います。
松田 中村さんは人材育成についてはどのようにお考えですか?
中村 当社で行っているのは、プロジェクトを立ち上げ、それに参加してもらう人材育成です。プロジェクトで異なる領域のメンバーと解決策をしっかり議論する。そして、こうやればいいということを身をもって体験することが、人間の成長にとっては重要だと感じます。5年後、10年後に問題が起きたときに「あのときこうして解決した」という体験から、次の障害を乗り切ることができるはずです。考える仕事ができるようになるための知識、経験、そして大切なのはビジネスの感性みたいなものをどう身につけていくかということが、一番重要だと思います。
松田 ありがとうございます。大谷さんはグローバルにふさわしい人材をどうお考えですか?
大谷 たとえばアメリカの事業会社のマネジメントはアメリカ人に、ドイツならドイツ人に任せます。つまり、ナショナルスタッフをいかに海外の会社の社長として教育していくのかが重要で、この数十年、そのように人材育成を行ってきました。
冒頭にも申し上げましたが日本の売り上げの比率が15%程度で、残りは海外です。実は私たちは、グローバルという意識があまりなく、社内ではそれを「グローカル」と呼んでいます。戦略やお客さまのご要望、従業員に対する施策、福利厚生などは、その国によって異なりますから、日本から「グローバル戦略」ということを一切言いません。ただ、経営理念や「YKKがその国で事業を行っている目的は何か」など、しっかりと一本の筋の通った考えを持ってくれるように徹底しています。そのうえで、各事業会社の経営方針で事業を行っていれば、たとえ失敗しても構わない。109社のなかで1社ぐらい失敗しても、YKK全体が困ることはないと伝えています。
松田 JMACの鈴木さん、全体を通じて、いかがでしたか。
JMAC鈴木 IIJの鈴木さんにご指摘いただいたように、世界には75億人いるわけですから、1億の発想ではなく75億の発想が必要だと改めて思いました。
一方、人材育成の面では、オカムラの中村さんがおっしゃったように、プロジェクトの中で人材育成ができるという点は、思い起こす事例が多くあり、納得いたしました。そして大谷さんがおっしゃった「グローカル」。それぞれの拠点の人材に任せていく。ただし経営理念をすべてのベースにしていくという点は、日本企業がグローバルビジネスを推進していく一つのカギになると思います。
逆境こそイノベーショを起こせるチャンス
松田 今回のコロナ禍は、企業が変革していくまたとないチャンスです。まさにグレート・リセットの機会です。社会全体が一旦少し立ち止まり、自身の会社の組織を見直し、本当に価値のあるものは何かということを見つめ直し、持続可能性、サステナビリティ、レジリエンスを考えていくチャンスではないでしょうか。
中井 皆さま、ありがとうございました。では最後に感想をひと言ずつお願いできますでしょうか。
中村 コロナ禍を前向きに捉えるとしたら、今までのやり方を壊すチャンスだという点です。大きい変化があると、必ずその裏では新しい需要が芽生えます。このことを売り上げと利益に結びつけていくことができれば、経営的には成功すると思います。
鈴木 仕組みを変える勇気をみんなが持ち、国が率先してインターネットという技術革新を使い、基本的な仕組みが変わることを望みます。変わることに躊躇していると、将来、日本は産業国家としての規模やスケーラビリティ、文明の高さ、文化的な水準を守れなくなっていく。それぐらい深刻な事態だと思います。国も企業もこの転換期にきっちり対応することが、問われていると思います。
大谷 未来を予測することはできないわけですから、パターンをいくつか想定して事業を行っていくこと。その判断が正しかったかどうかは数年後にわかるでしょう。将来に怯えてじっとしているよりは、果敢にチャレンジしていく。そういった姿勢を今回のコロナは、私たちに喚起してくれました。
JMAC鈴木 今回、印象的だったのは世界規模でものを考えること。そして働き方改革は働く機能の改革だということ。DXが進む=雇用が失われるのではなく、仕事のバリューアップを検討すること。こうした前向きな取り組みが、経営へのインパクトにもなっていくと思います。
今まさに「VUCAの時代」「グレート・リセットの時代」と言われる経営環境の中で、変革に取り組むためのヒントを数多くいただきました。本日はありがとうございました。
登壇者が語る「グレート・リセット時代」への思いと未来へ向けたメッセージ
「Boys, be ambitious」 大志や夢が未来をつくる
株式会社インターネットイニシアティブ 代表取締役会長 兼 CEO
鈴木 幸一 氏
「究極の分散は、究極の集中につながる」。私は以前からインターネットの本質をそう捉えています。今では昔の大型コンピューターと同程度の処理速度をもつスマホを、誰でも日常的に使える社会になりました。世界中に分散したデータにどこからでもアクセスできるようになったのです。一方で監視状態をつくり出すことも容易です。
つまり、通信と情報が同じ技術基盤になったインターネットは、既存のあらゆる仕組みを根本から変えてしまう巨大な技術革新と言えるのです。
インターネット黎明期のころ、スティーブ・ジョブズなど若い事業家たちと交流しましたが、彼らにはインターネットによって世界中の人が情報共有できる社会をつくるという志がありました。あのころ米国政府は、これからは製造業ではなく情報通信技術で世界の覇権を握ると言っていたのです。
この巨大な技術革新で、次に何が起こるのか。たとえば、人工知能(AI)を限られた領域ではなく、産業や社会全体で使うと想像したらどうでしょう。「Boys, be ambitious」 世界の主導権をとり続けようという野心、本田宗一郎、井深大のように世の中を「こうしたい」という思いが、未来をつくる原動力なのです。
能動的な意思が次の時代を切り拓く
株式会社オカムラ 代表取締役 社長執行役員
中村 雅行 氏
かつてオフィスは処理する場所でしたが、今は思考する場になりました。しかし、ただ単にオフィスを変えれば生産性が上がる、新しい発想が起こる、というものではありません。
コロナを経験した今、家庭でのリモートワークとセンターオフィスへ出勤という区分けに応じ、仕事の内容を見極めようという流れになっています。米国には"Loose Furniture"という言葉がありますが、仕事の質に合わせて環境を変えるオフィスも出てきています。
つまり、新しい価値を⽣み出すには、個人が集中できる環境(Focus)と、さまざまな⼈のアイデアや意⾒が交わる場(Collaboration)の二つが必要なのです。
だからと言って、この二つを織り込んだ環境を整えて、デジタル化を進めたとしても、組織の中にイノベーションが起こるとは限りません。知識と経験に加え、たとえば、数字を見ておかしいと言える、感性豊かな自立した人材をどれだけつくれるかがカギなのです。
経営者も同じではないでしょうか。決める、選択する、そして実行する。それらの意思をどれだけ能動的に持てるかです。その意思で、次の時代へのイノベーションの扉を開くことになるのです。
経営理念を基本にサステナブルな社会を実現する
YKK株式会社 代表取締役社長
大谷 裕明 氏
このコロナ禍で、以前からの課題だったアパレルの過剰供給が顕在化し、サプライチェーン全体が淘汰の時代に突⼊しました。これからは、すべての産業が、過剰なものはすべて排除しようという動きになるでしょう。
「ソーシャルグッドな会社であること」が求められる中では、今までのビジネスパターンを捨て、異なる次元の商品・サービスを開発していかねばなりません。私も含め、今回のような全面的な落ち込みや、根底からの変化の兆しには多くの方が戸惑っていることでしょう。「グレート・リセット」という言葉には身が引き締まる思いもありますが、持続的に成長する機会にもなると考えています。
弊社でいえば、正社員の雇⽤を必ず守ることを最優先に、コストダウンや投資抑制で耐え忍ぶ経験は、将来への大きな糧と必ずなるでしょう。また、新しい技術を使って進化を図ることは、これまでにないより良い世界を生み出すことにつながるはずです。
経営理念などの、精神や思想がすべての拠りどころです。「VUCA」の時代であっても、それは常にチャンスなんだと前を向くことができるのです。私たちは「他⼈の利益を図らずして⾃らの繁栄はない」というYKK精神のもとサステナブルな社会を実現したいと常々考えています。
トップマネジメントの覚悟がイノベーションを成し遂げる
公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 名誉理事 農学博士
松田 譲 氏
会社は経営者に大きく依存するとよく言われます。裏を返せば、トップマネジメントの能力を磨きあげればあげるほど、会社は成長する可能性があるのです。
以前、ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智さんに、科学と芸術の違いについて尋ねると「科学は答えがあり終わりがあるが、芸術には答えがない」との言葉をいただきました。
トップリーダーは、「答えのない命題に答えをだす」のが役割だと私はよく言うのですが、芸術と同じように、経営にはこれで良いという正解はありません。時に経営者は、科学的な部分を捨てる覚悟も必要です。
近ごろ、組織の"Dynamic Capability"(急速に変化する環境に対応するための社内外の技能を統合、構築、再構成する能力:D.J.ティース)が着目されていますが、今は次の成長を求めて、これまでのコンフォートゾーンから抜け出す良い機会となっているのではないでしょうか。
トップマネジメント次第で会社が間違った方向に行くか、さらなる発展を遂げるかは、実は紙一重です。自己研鑽を積み、リベラルアーツを身につけ、人間力を高めてグレート・リセット時代の経営イノベーションを成し遂げてほしいと考えています。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』JMAC40周年特別号からの転載です。
※社名、役職名などは発行当時のものです。
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