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ハイアールアジアR&D株式会社

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開き直ったエンジニア達の挑戦! ~外資系企業のスピード感が『一歩』を踏み出させた~

白物家電世界シェアNo.1のハイアール(本社中国)の傘下企業となったハイアールアジアインターナショナル株式会社。三洋電機株式会社で培った高い技術力を持つ同社だが、更に外資系企業ならではのスピードが求められた。真にアジア全体の開発中心拠点となるため、エンジニア達は「一人ひとりが経営者」の気持ちで判断し、行動することで「強い職場づくり」を推進した。その変革の軌跡をお伺いした。

強みは培ってきた技術力

ハイアールアジアインターナショナルは、2007年2月に設立されたハイアール三洋エレクトリック株式会社が三洋電機株式会社(以下三洋)からの事業譲渡と株式取得により2012年1月に設立された企業である。その親会社であるハイアールグループは、1984年中国山東省青島市で冷蔵庫メーカーとして創業以来事業を拡大、現在世界100カ国以上で事業を展開し、営業拠点58,800カ所、売上高3兆651億円、2013年まで5年連続白物家電分野で世界シェアNo.1になるなど、アジアを代表するグローバル家電メーカーへと成長を遂げている。

case38_pict01.jpg同社の位置づけは日本及び東南アジア地区の統括会社で、ハイアールグループにとっても三洋が培ってきた優れた技術力や人材に大いに期待した傘下企業設立であった。

当時を振り返り、取締役副社長で今年7月までチーフR&Dオフィサーの土屋 秀昭氏は「親会社(以下 青島)の国籍が変わったということよりも、成果主義が徹底されていて企業文化がまったく違うと感じました」という。一方で「青島は我々の技術力を高く評価してくれていましたし、日本的な企業文化も理解してくれていました。という。

こうしたなか、特に求められたのがスピード感であった。

待っていたのは中国流のスピード感!

三洋時代のエンジニアリング部門は組織も大きく縦割りでコツコツ自分達で一から開発するというスタイルだった。しかし青島はリバースエンジニアリング、そして、足りない技術は外部の力を借りて達成するという考え方だ。だから早く開発できる。そのスピード感が日本のエンジニア達にも求められた。

また、アジア全体の開発拠点という位置づけであるため、各国の開発も行い、おのずと開発点数も倍増した。さらに青島のエンジニア達からは、日本の高い技術力ゆえ多くの質問が出たが、それに答えていかなければならない。今までは縦割りで自分の守備範囲を守っていればよかったのだが、現地に行けば垣根を越えて指導もする。一人二役、三役が求められたのだった。

このような状況を土屋氏は「三洋時代の分業化の流れの中で、我々が思っている以上に知識、情報の共有がなく、個人の範囲で仕事を進めていたことがわかりました。このままでは青島が求めるスピードについて行けないと痛感しました」と語る。国内から青島への生産移管、青島で打ち合わせた内容を日本に持ち帰って開発するといった体制の変化に加え出張も増えた。「情報をきっちり共有していかないと、業務に漏れや、遅れ、手戻りが発生してしまう。それは防止しなくてはならない」という危機感を持った土屋氏は、全体の進捗の見える化を目的に、実務面に手を付けることを決意した。2012年下期のことである。

その際、土屋氏が選んだパートナーは、2010年から青島で冷蔵庫の技術ロードマップ構築支援をしたJMACだった。土屋氏は、現 代表取締役社長の鈴木(当時RD&E本部長)に「技術課題が生じたときや、これからの開発を考えるときに、メンバーがさっと集まって自由闊達な議論ができる職場にしたい」と自身のイメージを伝えた。

いい意味で「開き直った」エンジニア達

同時期2015年に熊谷(埼玉県)に新拠点を新設する話が出ていた。土屋氏は「せっかく青島が高い投資をしてくれるのですから、これをきっかけに従来の三洋と違うイメージの職場に変わって行きたいと思いました。青島から人が来た時『このメンバーに任せておけば大丈夫だ』と感じてもらえるような、活気あふれる職場を熊谷で作りたいと考えていました」という。

会社を転籍する際、社員には企業の国籍が変わるということへのためらいがなかったわけではない。しかし、三洋時代は赤字部門の白物家電がお荷物的な存在と捉えられていた。今は基本的な労働環境も確保してもらい、プラスしてグローバルでの活躍の場が広がって、自分達のやってきたことが生かされ評価される。徐々に前向きな気持ちに変化していったという。そんな社員にさらに「一歩」踏み出し、自分で変革していこうというマインドを持ってもらいたいという土屋氏の思いもあった。

case38_pict02.jpg当時の社内の雰囲気を、事務局で、コーポレートプランニング本部 人事グループ マネージャー 塚越 豊氏は「エンジニアとしてここでやっていくしかないんだという『いい意味での開き直り』を感じました」という。

JMACからはチーフ・コンサルタントの庄司 実穂が中心となり、2012年12月アジアのエクセレントR&Dを目指して、「強い職場づくり」、そして「新しい価値づくり、新しい事業づくり」への取組みがスタートした。

「開き直った」エンジニア達が変わり始めた!

リーダー達が自分の意思で動き始めた

case38_pict03.jpg取組みは次世代幹部層を集めたリーダー実践研修から始まった。現場に一番近いリーダーの意識が変わることで、自らが考え、自ら行動を起こす組織にしたいという意図だ。その後、研修に参加したリーダー達から共通言語を作るためにも役職層にも研修を受けて欲しいという要望が出る。さらに活動は各チームの課題に即した職場活動に繋がり、雇用形態の垣根なく、センターの全員が参加した改革活動に発展していった。

今回の活動を通した変化について、R&D本部 冷蔵庫第1グループ 主任 大湯 英樹氏は「三洋時代は正社員で構成されていて、阿吽の呼吸で業務が進んでいましたが、社員の構成が変わり、事前に説明しなければ業務が進まず、思わぬミスに繋がることがありました。毎週のミーティングで、問題点の共有や、ミス失敗の防止、プログラム設計の方針など考え方の共有と統一をしています。その結果、日程の重要性や業務をここまでやらなくてはならないと感じ始めてくれています」という。

case38_pict04.jpgR&D本部 冷蔵庫第3グループ 主任 星野 仁氏は「私のチームは要素開発をしていますが、今まで最終目標がやや曖昧なままスタートしていたことが反省点として挙がりました。現在は、個人の開発テーマの目的や中日程計画についてチーム内でプレゼンをしています。メンバーからさまざまな意見が出されるのですが、その結果、人の意見を聞くようになって、本人の気づきや頭の整理に繋がり、開発の目的がはっきりとしてきました。」という。

case38_pict05.jpgまた、R&D本部 冷蔵庫第2グループ 主任 上田 勉氏は「私のチームはコミュニケーション力が弱く、メンバーのモチベーションが低いことが課題でした。フリーアドレス化や、モチベーションクリエーターを置いて職場に足りないものの気づきと宣言を行っています。日常的にメンバー間の会話が増えることで問題点が明確になり、何よりもメンバーに"変わろう"という意識が出てきています」と各リーダーがチームの変化を実感している。

女性のユーザー目線が商品企画を変えていく

case38_pict06.jpgそして今までにない活動に一歩踏み出したチームがある。マーケティング本部 Refrigeratorグループ 主任 平石 智一氏が率いる商品企画プロジェクトだ。「今までは組織間が縦割り構造になっていて横串機能が弱いという課題がありました。また、何よりも女性が使う製品なのに、開発メンバーに女性がいなくて、使う人の希望や不満が十分に吸い上げられていないのではないかという思いがありました」と平石氏。また、JMACの庄司からも「上流段階から関連部署のメンバーと一緒に目標づくりをする場をつくりましょう」という活動提案があり、中国の若い家庭向けの冷蔵庫の商品企画を進めるプロジェクトが動き出した。メンバーの人選は、これまでの社内の常識に囚われず、リーダーの平石氏に一任された。

こうして中国出身の社員を中心に5名の女性が集められた。中国で販売する冷蔵庫の商品企画なので、ユーザー目線を徹底的に意識した結果であった。

プロジェクトでは、ペルソナ分析や中国へのアンケートの実施、生活シーンや生活導線を考えながら自宅でも日々シミュレーションを繰り返した。そして発砲スチロールでモックを作り、使い勝手のチェックを何度も繰り返した。今回の取組みの中で、「女性の視点を取り入れることにより、冷蔵庫という商品単品ではなく、生活シーンやライフスタイルの視点で冷蔵庫のあり方を捉えたことの意義は大きい」と平石氏は語る。プロジェクトメンバーは「商品化に向けたプレッシャーも感じるが、それ以上に楽しくて仕方がない」という。自然にワイガヤができるのもこのチームの特徴だ。

平石氏は「今まで考えつかなかったような良いアイデアがいろいろと出てきました。今回はプロジェクティブな活動ですが、マーケティング本部のミッションとしてみなが当たり前にできるように展開して行きたいと思います」と今後を見据える。

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強い職場を土台にして、新しい価値づくりへ

土屋氏は「今までは背中を見て覚えろという職人気質な面がありましたが、今回の活動でベテラン組も積極的に教えなくてはいけないと動き出し、垣根を越えた技術やノウハウの伝承が出来つつあると思います」と成果を実感している。塚越氏は「出張が非常に多いメンバーですが、活動の立ち上げに関しては、事務局として"副社長からの最優先事項"という指示を出しました」という。徹底した活動の推進が「強い職場づくり」を目指す会社としての強い意志でもあった。

JMACの庄司は特にリーダー達の変化を「もともと"よきものづくり"に対する意識は高い方々でしたが、さらに"よいチーム、強い職場をつくっていこう"という意識が加わったと思います。様々な組織マネジメントの課題に悩みながらも、自分たちで考え、いろいろ動き始めたことは大きな変化だと思います」という。

土屋氏は「JMACは"一緒に強くなりましょう"と我々と目線を合わせ、長期視点で先を見据えながらも一歩ずつ前に進める提案をしてくれました。引き続き、一緒に考えるパートナーとして期待しています」という。

同社一丸となった「アジアのエクセレントR&D」になるという熱い思いが一つになり、挑戦は加速している。

担当コンサルタントからの一言

"全員参加"が育むR&Dの現場力

長きにわたり、TPM やQC サークルなど全員参加の運動展開プログラムは、強い製造現場づくりの一助となってきました。一方、R&D 現場には様々な手法が展開されているものの、選抜型研修やプロジェクト活動などが主であり、職場全体で継続的に取り組め、かつ、クリエイティブな組織にふさわしい改革活動はあまり多くないように思います。
HAI では、自分達が描いた各部門の革新ビジョンと革新シナリオをもとにして、職場全員で重点課題に取り組んでいます。「何を目指すのか」「目下、何に集中すればいいのか」徹底議論と全員参加が納得感や一体感を醸成し、改革スピード、成長スピードが年々加速していくことを狙っています。

庄司 実穂(チーフ・コンサルタント)

※本稿はBusiness Insights Vol.53からの転載です。
社名・役職名などは取材当時のものです。

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