本気のSDGs
第2回 企業変革の必要性とSDGsの活用
- SX/サステブル経営推進
山田 朗
山田 朗(シニア・コンサルタント)
前回で触れた「なぜ企業は変革しなくては生き残れないのか」「なぜそのためにSDGsを活用するのか」を再度共有しておきたい。それらの問いに一言で答えるとすると、前者には「VUCA時代にあっては、何もせずに待っていることは衰退を意味するから」、後者には「本気のSDGs活動では、必然的に変革の道筋ができるから」となる。
SDGsの目的は世界の変革
SDGsは「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」に記載されている。この文書の正式なタイトルは「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」である。つまり、われわれの世界を変革することが目的なのだ。
そして変革すべき対象をゴールとともに示したものがSDGsである。環境/社会/経済の領域にざっくり分類すると下図のようになる。
社会領域では、1.貧困、2.飢餓、3.保健、4.教育、5.ジェンダー、11.持続可能な都市、16.平和、環境領域では、6.水・衛生、7.エネルギー、12.持続可能な生産と消費、13.気候変動、14.海洋資源、15.陸上資源、経済領域では、8.経済成長と雇用、9.インフラ・産業化・イノベーション、10.不平等がある。なお、17.パートナーシップは分野を示すのではなく、1〜16の分野の実施手段となっている。
SDGsは、これら16分野を変革しなければならないと訴えている。変革の主体は、政府、自治体、研究機関、民間企業、NGO/NPO、消費者などである。民間企業の立場で考えると、自社の製品、サービス、技術、ネットワーク、サプライチェーンなどを活用して、これら16分野のいずれかの変革に貢献することが求められているわけだ。
企業自身の変革の必要性
では、なぜ企業自らを変革しなくてはならないのか。
最近VUCA(ブーカ)という言葉をよく耳にする。VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を取った言葉で、過去の延長線で将来を語れない、異次元のスピードで激変する時代を表現した言葉だ。
確かに世を見渡せば、企業の将来業績に大きなインパクトを与えうるマクロトレンドが多数存在し、うごめいている。たとえば、地球環境面では気候変動、資源枯渇、生態系の損失などで、社会・経済面では途上国の人口増加、先進国の少子高齢化、戦争・内戦・政治不安定、自国第一主義・保護主義、米中経済摩擦、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、リモートワーク・働き方改革、非財務情報の開示要求などである。
具体例として気候変動を取り上げよう。産業革命以前の気温に対して、すでに1℃以上上昇している現在、世界中で異常気象が頻発しているのはご存じのことと思う。このまま特段の対策をとらないと2030年にも1.5℃、今世紀末には5℃近い気温上昇になる可能性がある。平熱が36.5℃の人が37.5℃になっても何とか働けるが、38℃になったら寝込む。まして41.5℃になったら生死をさまよう状態だ。
地球を人間にたとえるには少々無理があるが、地球も一つの生命体と考えればあながちおかしくもない。パリ協定で決められたとおり気温上昇を2℃未満に抑えられたとしても、その影響は計り知れないと専門家は警鐘を鳴らしている。農作物や海洋資源の減収、品質低下、超巨大台風などの頻発による洪水、土砂崩れ、都市の機能低下など大規模災害の発生、熱中症など高温化で働く人々の作業環境悪化、生物多様性の減少などはほんの一例である。
また世界人口は2030年には15%ほど増え85億人に達し、有限な鉱物資源や食糧の奪い合いが始まる。それにより飢餓や貧困の拡大は避けられない。当然エネルギーの消費量や廃棄物量は増加する。一方、日本など先進国は人口が減少し、高齢化が加速する。労働者不足や高齢化負担増加、国内需要の減退などがこの先にはある。
さらに情報革命のまっただ中において、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の波はあらゆる産業を大きく変えようとしている。アマゾンやアリババに代表されるネット販売が世界中の小売業のみならず消費財メーカーをものみ込もうとしている。また、AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、ブロックチェーン技術などにより、労働集約型の産業はデジタル集約型へ姿を変えていく。現場力の優位性で競争力を保ってきた自動車や電機産業も、現場人の改善力や匠の世界からデジタル技術を駆使した自動化・標準化の世界へ競争の主戦場がシフトしつつある。トヨタ自動車の豊田章男社長が「今やトヨタのライバルはグーグル」と発言するなど、業種のくくりがなくなり異業種格闘技が展開されている。
こうしたマクロトレンドの動向はわずか10年先の事業に多大な影響を及ぼす。同時に逆方向の規制や税制措置なども取られ、これらも企業業績に影響を及ぼすことを忘れてはならない。たとえば、気候変動緩和のための炭素税の導入によるコストアップなどである。
一方投資家は、こうしたマクロトレンドに対して企業価値向上にどのように取り組んでいるかという視点で企業を評価しようとしている。急激に増加しているESG投資とはこのような非財務情報を重視した投資のことである。
このようなVUCA時代にあっては、何もせずに待っていることは衰退を意味する。何が起きようと「想定外」などという言い訳はできない。革新なくしては生き残れないのである。
SDGsを企業変革に活かす
では、なぜSDGsを変革の道具として使うのか。
何もない中でいきなり変革を考えましょうと言っても先に進まないだろう。SDGsをうまく使えば、こうした環境・社会・経済のマクロトレンドを包含した変革の道筋をつくることができるのだ。SDGsに本気で取り組もうとしたら、必然的にトップを巻き込んだ全社プロジェクトとなる。その中で社会価値と経済価値を両立する変革のフレームワークができるのである。
SDGsの重要なコンセプトの一つである「アウトサイド・イン」という考え方は、前述のようなマクロトレンドから将来のニーズや制約を明確化し、そこから思考するアプローチだ。まさに変革の道具としてうってつけである。
また、変革の道筋をつくるためには以下の問いに答えなければならい。
- なぜ今変革が必要なのか
- どこに向かって変革するのか
- どのような変革プロセスを取るのか
- それに向けての課題は何か
これらはSDGs推進活動のマテリアリティ(重要課題)を特定するプロセスの中で必ず考慮すべき内容である。SDGsを本気でかつ正しく活用することで必然的に変革の道筋ができるはずである。
世はまさにSDGs一色である。経営トップはSDGsを活用して新たな価値創造に向けた変革を推進し、その取り組みを社内外に開示し、ステークホルダーから信頼され応援されるサステナビリティ経営を実践していただきたい。
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