本気のSDGs
第15回 SDGs推進に求められる「パートナーシップと協働」の重要性
- SX/サステブル経営推進
大野 晃平
パートナーシップの重要性 -Trade-offとパートナーシップ-
企業がSDGsを起点として既存事業の改革や新規事業創出を進めていく考え方については、先のコラムで述べた(既存事業の改革については第12回、新規事業創出については第14回を参照いただきたい)。いずれの考え方にも共通しているのが、長期の外部環境変化と変化に伴い想定される社会課題を起点として事業を見直す「Outside-In」の視点である。
しかし、企業が実際にOutside-Inの視点で社会課題解決に向けて事業を見直す、あるいは新事業を創造することは難しいだろう。なぜなら、これまでの事業活動の多くは、顧客ニーズを「Q(品質)・C(コスト)・D(納期)」として捉え、それらを追求することが事業の収益になると考えてきたからだ。
そのために、社会課題を中心に置いた場合、事業活動と社会課題解決の間には二律背反、Trade-offが発生してしまう可能性が高い。従って、Outside-In視点で事業を推進するためには、まず事業と社会の間のTrade-offに着目する必要がある。事業と社会とのTrade-offを解決することが、事業にも社会にもよい、あらたな事業となるわけだが、その解決策は自分たちの事業だけでは推進できないことが大半である場合が多い。
たとえば、農業生産者が食材を栽培・出荷する場合、作り過ぎが発生する。農業生産者が収益を上げようとすると、より多く栽培し、より多く出荷することが必要である。一方で、ただ数多く作るだけでは、作り過ぎになり、ロス率は増加することとなる。この解決は農業生産者だけの活動では難しく、小売等需要側の「いつ、何を、どれだけほしいか」という販売計画を共有することや、作り過ぎという情報を収集し、近隣で販売する仕組み(市場や直売所が既にあるが)が必要となる。
このように、Trade-offの解決のためには、自然と協働、つまりパートナーシップを構築していくことが必要となる。SDGsの17目標の中にも、最後のNo.17に「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられている。SDGsの目標に目を通した皆さまはお気付きかもしれないが、17目標の中には手段にも関わらず目標となっているものがあり、その一つがNo.17である(もう一つはNo.9「産業と技術革新の基盤を作ろう」)。これは17目標それぞれを達成するためには、パートナーシップを組む必要がある、ということを強調しているといえる。
いかにTrade-offを見つけるのか
先述の通り、社会課題解決に向けて事業を見直すためには、まずTrade-offを見つけることが重要である。では、いかにしてTrade-offを見つけるのか。日々の営業活動の中で顧客の困りごとを見つけ、その裏側にある社会の困りごとを探る、あるいは日々、自分たちが生活を送る中で見つかることもあるかもしれない。
実際のところ、方法論は確立されているわけではないが、その考え方としては国連のSDG Compassが活用できる。ご存じの通り、SDG Compassでは企業がSDGsを推進するにあたり、下記5つのステップで考えることを提唱している。
ステップ1.SDGsを理解する
ステップ2.優先課題を決定する
ステップ3.目標を設定する
ステップ4.経営へ統合する
ステップ5.報告とコミュニケーションを行う
そして、このステップ2の中で、「バリューチェーンにおけるSDGsのマッピング」として、事業およびバリューチェーンにおける正と負の影響を明確にすることを推奨しており、この考え方がTrade-offの発見につながるのである。
下表にわれわれがコンサルティング時に活用するフォーマットを紹介する。このプロセスの中で、自らの事業の良さだけでなく、社会課題につながる困りごとを見つけることが重要である。
パートナーシップ構築のポイント
上述のプロセスでTrade-offを見つけた後は、いかにしてパートナーシップを構築し、Trade-offを解決するか、が論点となる。パートナーシップ構築についても、Trade-off同様、確立された方法はまだないものの、ここでも近年、注目されている概念がある。それは「コレクティブインパクト」である。コレクティブインパクトとは、2011年にジョン・カニアとマーク・クラマーが発表した「Collective Impact」という論文で提唱されたアプローチであり、「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」のことを指す。
この定義だけをみると、これまでも途上国の開発支援や災害時の復興支援などさまざまなセクターが協働する場面はあり、目新しいとはいえないだろう。しかし、コレクティブインパクトが有効であるといえるのは、そのアプローチが狙いをもって、つまり、仕組み化された活動として推進される点にある。
2019年に発行された「ハーバード・ビジネス・レビュー」の中で、コレクティブインパクトのアプローチとそれまでの協働との違いは大きく5つであると紹介されている。これらの条件をそろえてパートナーシップを構築することができれば、Trade-offの解決につながっていくだろう。
1.その課題に取り組むために関わりうるあらゆるプレーヤーが参画している
2.成果の測定手法をプレーヤー間で共有している
3.それぞれの活動が互いに補強し合うようになっている
4.プレーヤー同士が恒常的にコミュニケーションしている
5.すべてに目を配る専任のスタッフがいる組織がある
パートナーシップ構築の事例
ここまで、Trade-offを見つける、そしてパートナーシップを構築するためのポイントを述べてきたが、よりイメージを持っていただくために当社が実践した事例を紹介したい。紹介するのは、農業生産法人の付加価値作業比率向上に向けて、地域の福祉関係者とパートナーシップを構築した事例である。
Trade-offの特定
対象となる農業生産法人では、規模拡大を志向しているものの、人員不足のために技術力のある熟練者がさまざまな作業に当たらざるを得ず、面積拡大しても作業が間に合わない、といった事態に陥っていた。この前提として設備化が難しい農業経営の中では、人を増やして対応することが優先されるものの、技術を持つ人材が少ないという課題があった。
しかし、調査を進める中で、熟練者の実施している作業の中には、「技術が必要な作業(付加価値作業)」「初心者でも可能な作業」が混在していることが分かった。また、地域内では「初心者」というくくりでみると、働きたくても働き場所がない、という人たちが多く存在していることが分かり、下図のような関係性を見つけることができた。
パートナーシップの構築
農業経営と地域住民の負を明確にした後は、パートナーシップの主体を選定し、事例では福祉関係者との協働を選択した。そして、下図の体制を構築することで福祉関係者の農業参画を図っていった。体制の構築に加えて、各プレーヤーの役割を明確にするとともに、プレーヤー間の調整やコミュニケーションの場づくり、さらには指標・目標管理まで、PDCAサイクルを構築し運営したことがポイントである。
以上、これまでのコラムで書いたようにOutside-Inの視点での検討それ自体もSDGs推進に向けては必須となるものの、その実践のためには他のプレーヤーも巻き込み、パートナーシップを構築して臨むことも求められる。
そのためには、プレーヤー間での目標の共有が必要であり、それが互いのTrade-offを認識することから始まる、というプロセスを大事にしていただきたい。
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