本気のSDGs
第10回 SDGsのビジョンはこう策定する
- SX/サステブル経営推進
塩原 佳之
塩原 佳之(コンサルタント)
JMAC流「SDGsビジョン策定」
これまでJMACが考えるサステナビリティ経営、企業がSDGsに取り組む意義について取り上げてきた。これらを一読していただければ、なぜSDGsへの取り組みが今アツいのか、そして自社がなぜSDGsに取り組むべきなのか、理解いただけると思う。一方で、SDGsへの取り組みを始めたいがどのように推進していけばいいかわからない、という悩みもあるだろう。一般的な進め方としては「SDG Compass」があるが、今回はJMACが考える「SDGsビジョン策定」の進め方を紹介する。
JMAC流の「SDGsビジョン策定」では、基本的に以下の4項目を検討し、取り組んでいく。
①SDGsと事業の関連性把握
⇒自社の製品・サービスが貢献するSDGsの目標およびターゲットを明確にする
②SDGsの将来動向の予測調査
⇒バリューチェーンごとに外部環境の変化を捉え、社会の未来像を検討する
③マテリアリティの特定
⇒自社が取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を帰納的に抽出・特定する
④SDGs活動テーマの設定
⇒マテリアリティごとの目標および推進部門を設定し、具体的な活動プランを策定する
これらの検討項目において、②③はJMAC流SDGsへの取り組みを策定する中でも重要なステップである。なぜなら、このステップが自社の方向性を決めることになるからだ。したがって、①④については説明を割愛し、②③を重点的に解説する。
将来動向の予測/マテリアリティの特定の検討方法とポイント
前項の②③それぞれの具体的な検討方法と検討時のポイントを解説する。
②SDGsの将来動向の予測調査
ここでは自社を取り巻くバリューチェーン全体から社会の未来像を検討する。企画・設計、調達、製造、販売、使用、廃棄それぞれのバリューチェーンにおける現在の産業構造が、外部環境の影響を受けながら今後どのように変化していくかを分析する。ここでのポイントは、SDGs達成の目標年である2030年をイメージしながら「具体的な」未来像を描くことだ。未来像を明確に描くことで、自社が将来的に創出したい社会価値も具体性を持ったものにできるだろう。また、このステップは潜在化している未来の困りごとの予測でもあるため、不平・不満・不便といった「不」の側面から考えることも効果的である(第7回を参考)。
とはいえ、2030年には6G回線が実用化されると言われている。5G回線でさえ最近できたばかりなのに2030年なんて想像できない、と悲観的になるかもしれない。だが今は将来に関するさまざまな情報が国や企業によって公開されている。たとえば、総務省の「未来をつかむTECH戦略」では、テクノロジーがどのようにわれわれの社会に入り込むか、未来像がイメージ図付きで公開されていてわかりやすい。このような資料をフル活用しながら未来像を検討するよい。
③マテリアリティの特定
SDGsに取り組むにあたっては、自社の重要課題=マテリアリティを特定する。ここで特定したマテリアリティに対して自社の経営リソースを投入することになるので、非常に重要なステップである。マテリアリティの特定にあたって、まず実施すべきことは、今後の具体的な取り組み施策(アクティビティと呼ぶ)の検討である。
②で分析した将来社会の未来像をもとに、今後自社は何ができるのか、どのような社会的価値を創出していきたいか、などをブレインストーミング的に挙げていく。この際、自社の強みや弱みの観点からも検討すると、より有効な施策が考えられるだろう。
このようにして検討したアクティビティを体系的にまとめ上げ、活動の方向性(活動テーマと呼ぶ)をつくる。そして、活動テーマをさらに取りまとめて、マテリアリティ候補とする。このように帰納的にマテリアリティ候補を抽出していく。これについては下に例を掲載するので、そちらも参考にしてほしい。
以上のようにして抽出したマテリアリティ候補を次に絞り込む。絞り込みは事業面と社会面の2軸で評価する。ただし、このときに"自社の意志"の観点からもマテリアリティ候補を評価するのがJMAC流である。事業性と社会性の評価だけにとどまると、他社と似たようなマテリアリティとなってしまう。自社が大切にしたいこと、取り組みたいことといった意志を組み込むことで、自社「らしさ」が出る。この「らしさ」がファンづくりにつながるので、自社のミッション・ビジョンに一度立ち返り、自社にとっての真の重要課題を特定してほしい。
推進上の大切なこと:社員全員のベクトルを合わせる
JMAC流のSDGs取り組み策定方法について、おおむね理解いただけたかと思う。最後に、本気でSDGsに取り組む際に大切なことをお伝えしたい。それは、社員全員のベクトルを合わせることである。成功する組織には共通の要因があり、その一つは組織メンバーが理念・ビジョンに共感し、同じゴールに向かって進むことである。とくにSDGsへの取り組みは全社的かつ長期的な活動であるため、ベクトル合わせは重要だ。そのため、第9回のコラムでも取り上げたように、検討会では老若男女含めて多様性のあるグループ編成にすべきである。メンバーがベテラン層や男性陣に偏ってしまってはいけない。多様なメンバーが意見を交換し合うことでお互いを理解することができ、納得感が生まれる。
ベクトル合わせには時間がかかるかもしれないが、せっかくSDGsに取り組むのであれば、社員全員が同じゴールに向かってイキイキと働いている会社を目指すべきだ。結果的に、そのような会社は応援される企業として今後も長期的に存続していくはずだ。
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