「顧客志向」から「仲間力」へ。 人材重視型経営で見据える未来
TIS株式会社
代表取締役社長
岡本 安史 氏
岡本 安史 氏プロフィール:1962年大阪府生まれ。85年株式会社東洋情報システム(現 TIS株式会社)入社。2011年から執行役員 企画本部企画部長、13年常務執行役員 ITソリューションサービス本部長、16年専務執行役員産業事業本部長、18年取締役 専務執行役員 サービス事業統括本部長などの要職を経て、21年4月から現職。
TIS株式会社
創業:1971年(昭和46年)4月28日(株式会社東洋情報システム)/資本金:100億円/従業員数:単体5,469人 連結21,709人(2022年3月31日現在)/事業内容:総合ITサービス企業として、金融包摂、スマートシティ、エネルギー、ヘルスケアの分野で最適なITサービスを提供。社会課題の解決に取り組む。
総合ITサービスのリーディングカンパニーであるTIS。2018年に制定した基本理念「OUR PHILOSOPHY」をベースに組織改革が加速している。人材育成を経営戦略に組み込んだねらいをお聞きした。
経営にもっとも重要なのは「人材」
小澤 本日は「人に重点をおいた経営」で、多くの経営者の注目を集めているTIS株式会社代表取締役社長、岡本安史さまにお話を伺います。TISインテックグループは、その価値観を明文化した「OUR PHILOSOPHY」(以下OP)という基本理念が知られています。このOPについてお聞かせください。
岡本 はい、よろしくお願いします。OPの中で、もっとも重要なのが「ミッション」です。これは「デジタル技術を駆使したムーバーとして、未来の景色に鮮やかな彩りをつける」と掲げています。ムーバーとは自ら動く人という意味です。私どものビジネスはシステムインテグレーター(SIer:エスアイヤー)から始まっています。受託開発ですからどうしても受け身になってしまう。しかし、目指すのは「能動的に考えて動くこと」です。自分たちが考えて動き、生み出してきたものを未来に並べていこうではないか。これが基本理念の軸になっています。
そうすると、もっとも重要なのは「人材」です。人がいなければ何もできません。そのため、人をどう育てていくかを重視しているのです。社内では「フロントラインの強化」とも呼び、社員、そのご家族、パートナー企業のみなさま、投資家のみなさますべてに対し、能動的に動くことが私どものビジネスの大前提となっています。
「OUR PHILOSOPHY」はTISインテックグループの価値観であり、基本理念。TISインテックグループのすべての営みは、このOUR PHILOSOPHYを軸に行われている。この理念を全社員に浸透させたことが大きな転機となり、持続可能な社会への貢献と、持続的な企業価値向上が実現しつつある。
小澤 岡本社長の中で「人材が重要だ」と気づかれたきっかけはあったのでしょうか。
岡本 まさに、その「瞬間」がありました。私はもともと技術者として入社しましたが、13年くらいたったころ、本社の経営企画部に異動になりました。それ以降グループ企業の企画部長などをしていたのですが、2011年にグループ企業からTISに戻り、そこでERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)の本部長に。600人ほどのチームを率いることになりましたが、そのときは「自分で差配できる」と思っていたのです。今思えば、傲慢ですね。その後、産業系部門の本部長になると一気に2000人の長に。事業は5つも6つもあり、「これでは自分の力だけでは差配できない。人を育て、課題を共有して議論しなければ組織は動かない」と実感した瞬間だったんです。
小澤 当時2000人近くの部下がいらっしゃって、現在は本体だけで約5500人、グループで2万 2000人いらっしゃいます。加えて三社合併もあったと思いますが、OPはどのように浸透させていかれたのでしょうか。
岡本 もちろん額に入れて飾るだけではダメです(笑)。血肉にするには業務の中で、自然にOPを意識できること、話し合えるようになること。私どもは「ラウンドアップ」という手法を取り入れています。いくつかのレイヤー別に分け、それぞれにテーマを設定してOPについて「ビジネスの中でどう活かすことができるか」という議論を周期的に継続して行います。もう4年目になりますが、研修以外の場でもOPについて話す習慣づけができたようです。
文化の異なる海外のグループ企業では確かに難しいものがありますが、同様にラウンドアップを行い、少しずつ浸透しているところです。OPはまだ完成形ではなく、会長と私と役員がパイロットメンバーとなり、できる限り研修に出席し、意義・意図を伝えるようにしています。
小澤 やはり経営層が自らその場に出ていくことが、非常にシンプルで、意外と近道なのではと思いますね。
岡本 企業体の意思決定を最終的にする私たちが真剣に話をすることで「この会社はこうしようとしてるんだ」ということをしっかり社員に理解してもらえます。そしてその意見に共感し、「一緒につくり上げていこう」と思える人たちと仕事をしていくという考え方ですね。もちろん、さまざまな意見を聞き、それが私たち(経営層)の意見と逆だとしても、ビジネスとして正しいと判断した場合はそちらの方向性を取る場合もあります。社員に意見を出してもらうことも重要なのです。
人材・組織活性のための具体的な施策
小澤 組織を重視した経営は、今はどの企業でも進めているところだと思います。具体的にはどのようなことを実践されているのでしょうか。
岡本 まずは上司と部下、あるいは先輩、後輩間での1on1ミーティングですね。導入されている企業も多いと思います。それから「テックインベストメント」。テクノロジー、エデュケーション、カルチャーに対する投資をやめない、という誓いです。たとえば教育面では教育費をKPI化。そしてHRBP(ヒューマン・リソーシズ・ビジネス・パートナー)を採用し、人事部主導とは異なりビジネスラインでの人材育成も行っています。
小澤 DXや多様性が求められる今は、リスキリング(ビジネスモデルの変化に必要なスキルを獲得すること)も必要になります。企業の中では人事部門の重要性が高まりつつ、ラインの自主性との整合性が重要な時代になってきていますね。
岡本 ビジネスラインも多岐にわたっていますからどのような人材が必要か、どのような人材への投資が必要か、それらはつかみきれないため、人事から各ビジネスラインにエージェントを送っています。そこで上がった課題を人事につないでいくというやり方です。縦型、横型という割り方もありますが、組織の形にこだわらず、各ラインでうまくいく方法を採用してもらっています。
それからJMACさんにも長年お世話になっている技術KI※ですね。「互いの仕事の中身や思考が見える」という仕事のやり方です。たとえばその中のYWT(やったこと・わかったこと・次にやること)を続けてきたことで、お互いに意見を言える風土ができてきました。
しかし、昨今のリモートワークにより、コミュニケーションの形も変わってきました。私は、人間はきちんと言葉や文字にして、相手に見える形、聞こえる形にしないと絶対に通じないという考えです。ですから部下が失敗したときに「こういうことを期待している」「ここが間違っている」「ここはどう思っているのか?」と対話をしてほしい。上司は「そんなこと言うな」ではなく「意見は言ってください」という懐を持っていてほしいと思っています。技術KIをうまく使いこなすことが必要で、リモートでもリアルでも心を開いて話をすること。嫌なことも言うこと。リモートはより伝わりにくくなるので、そこは課題と言えます。
自由に働ける環境づくりも、組織を重視した経営の取り組みのひとつ。
次の社会課題を解決するための投資が必要
小澤 現在、中期経営計画21~23年度で実行していらっしゃいますが、今後目指すもの、成長に向けた考えなどをお聞かせいただけますか。
岡本 TISインテックグループでは「ITで、社会の願い叶えよう。」というCMを展開しており、そのメッセージが私どものベースになっています。やはり社会にお役に立てる企業にならなくてはいけない。それは日本だけでなく、グローバルにも展開していきます。現在、東南アジアの社会課題解決に向けて動いていますが、その先には世界のあらゆる地域で高い収益性を確保できるグローバル企業を見据えています。次の社会課題解決に投資するために、収益を上げなければなりません。もちろん株主さまへの還元や社員への報酬にも回っていきます。そのためにはやはり高い技術、サービスを提供する必要があり、人材の育成が不可欠というわけです。
もちろん人間は多様ですから、仕事のスピード感も多様です。それぞれのスピード感で構わないので、「進化する、改革する、変革する」という意識だけは忘れずに前に進んでいこうというメッセージを伝えています。もうひとつ大事なことは「仲間力」を養うことです。お客さまからご用命をいただくのではなく、お客さまの″仲間〟としてつながっていける人間力を築き、仲間力のある組織にしていかなければなりません。
良き人の生き方こそTISインテックグループの生き方
周囲から愛され、評価され、必要とされる「良き人」の生き方には共通するエッセンスがある、とTISは定義する。オネストで、オープンで、シンプルであること。良き人の生き方に学び、良き法人としての、生き方の追求を目指す。
小澤 個々人が「何を達成するのか」をしっかり考え、仲間力を養っているからこそ組織力が高まり、ITインテグレーターのリーディングカンパニーでいらっしゃるわけですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
TIS・豊洲オフィスで。
※本稿はJMAC発行の『Business Insights』74号からの転載です。
※社名、役職名などは発行当時のものです。
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