ビジネスインサイツ69
- ページ: 1
- Vol.
69
フ ァスナーの 世界市場に挑む YKKの技術と精神
TOP MESSAGE
Consulting Case 1
グローブライド株式会社
みんなに“見える化” チーム設計への大改革
ロス低減の 改善モデルをつくる
白鶴酒造株式会社
Consulting Case 2
YKK株式会社 代表取締役社長 大谷裕明
イノベーティブなコンサルティングに 進化する理由
株式会社日本能率協会コンサルティング
Interview
- ▲TOP
- ページ: 2
- 創業以来の経営理念をグローバルに向ける
ファスナーの 世界市場に挑む YKKの技術と精神
日本を代表する経営トップの方をお招きし︑ 経営のヒントや改革︑ 革 新 の 視 点 を 話 して い た だ く J M A Cト ッ プ セ ミ ナ ー ︒ 今回は︑ YK K 株 式 会 社 ︒ 経営改革やトップマネジメントの視点などを話していただいた︒
TOP MESSAGE
黒部事業 所
YKK
Vol.69
2
- ▲TOP
- ページ: 3
- ファスニング事業︑AP︵アーキテ クチュラルプロダクツ=建材 ︶事業と︑ 両者を支える工機技術本部を抱え︑世 界 カ国/地域︵2018年3月末現 在 ︶に 展 開 す る グ ロ ー バ ル 企 業 の
黒部から世界のマーケッ トリーダーへ
1959 年 11月27日生まれ、兵庫県出身。1982 年甲南 大学経済学部卒業、吉田工業 (現 YKK) 入社。ʼ84 年から 2014 年まで香港、 中国に海外勤務。ʼ14 年、 月よ 副社長ファ スニング事業本部長を経て 2017 年4 り現職。 [出身地自慢] 兵庫県、灘の生一本に代表される名酒 の産地。 [ス トレス解消法] ウォーキング (休日は2万歩歩く) 。 [座右の銘]得意淡然 失意泰然 うまくいったとき は感謝の心を、うまくいかなかったときはどっしり と 構える。
YKKグループ︒北陸新幹線開業を機
に︑研究・開発部門や製造拠点がある 富山県黒部市に本社機能の一部を移転 し︑ ﹁ 技術の総本山 ﹂ としての位置づけ を強化している︒富山県は︑創業者・ 吉田忠雄の出身地でもあり︑YKKグ ループは地域のまちづくりにも貢献し ている︒ 今回は︑JMACトップセミナーの 基調講演をベースに︑ファスニング事 業におけるビジネスの視点を紹介する︒ YKKが製造するファスナーは国内 では高いシェアをもつ︒しかし︑目を 向 け る の は 世 界 市 場︒ な ぜ な ら︑
(おおたに ひろあき)
大谷裕明
代表取締役社長
YKKグループの最終ゴールは収益の
最大化ではなく︑全ステークホルダー への貢献度の最大化だからだ︒同社の ファスニング事業では︑世界 カ国/ 地域でグループ約4万5千人のうち約 2万6千人の社員が働く︒売上は﹁ 顧 客からの支持 ﹂ を︑利益は ﹁ 事業の持続 性 ﹂を表すバロメーター︑株式は経営 への参加証というのがYKKのスタン スだ︒アパレル市場︑縫製市場が劇的 に変化し続けている今︑ファスナーの
ファスニング事業 (ファスナーの製造、 販売) 、 AP事 業 (住宅用窓 ・ サッシ ・ ドアからエクステリアなどの 製造、 販売/ビル用各種パーツやシステム開発、 製 造、 施工など) 、 工機技術本部 (ファスニング事業向 けファスナー専用機械の開発 ・ 設計、 AP事業向け生 産ライン、 生産システムなどの開発 ・ 設計など)
73
・YKKグループ] [ YKK株式会社
(国内17,826名/海外27,792名) 45,618名
(昭和9年) 1月1日 1934年
119億9,240万5百円
※2018年3月31日現在
73
従業員数
事業内容
︵ベース ・ オブ ・ ﹁スタンダード﹂﹁BOP
資本金 設立
ピラミッド︶ ﹂セグメントに挑戦する秘 策とは何か︒
YKK
3
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 4
- TOP MESSAGE
100億本突破
全世界で生産しています︒ 年度は
ようやく︑念願の販売本数100億
創業当時のファスナー製造は手作業 でした︒YKKでは1950年ごろか ら機械化を始めると︑その後︑機械の 自社開発にも取り組み1980年ごろ
す︒日本の技術力 を投入した機械を 各国の工場に装備 することで世界同一品質で製造し︑お 客さまに商品を提供できるようになり ま す︒ ﹁ よ り 良 い も の を︑ よ り 安 く︑ より速く ﹂これがファスニング事業の スローガンですが︑実現のために工機 技術本部が不可欠なのです︒
本に届きました︒第1次の中期経営
計画を始めた 年度の販売本数は約
アパレル業界の 劇的変化
には自社開発の機械をすべての工程に 導入︒最新の機械設計を自社内︵ 工機 技術本部 ︶でできることが︑中国やア ジアのファスナー供給会社と競争して ファストファッションの台頭により アパレル市場は大きく変わりました︒ ファッションの短サイクル化が進み︑ 多品種・短納期対応が求められていま す︒顧客をピラミッド型に分類すると︑ 頂点がバリューコンシャスゾーン︒高 級ブランドや︑機能重視のスポーツア パレルなどのお客さまです︒次がスタ ンダードゾーン︒もっとも顧客層の多 い量販店︑ファストファッションやE C︒そしてBOPが近年ターゲットに しているインドなど新興国の内需市場︒ これは新たなターゲットで︑材料や製 法から見直してこれまでとまったく違 う商品を開発して販売を開始しました︒ この巨大なアパレル市場のど真ん中︑ スタンダードとBOPという︑最大ボ リュームゾーンに︑私たちは ﹁より良い ものを︑より安く︑より速く ﹂の考え 方で挑戦していきます︒ ファスナーには価格はもちろん少量・ いく上での最大の強みになっていま
75
億本︒しかし︑そこから販売数量
が伸び悩みました︒そこで﹁もう一
度︑ボリュームゾーンであるスタン
01
13
ダードに挑戦しよう ﹂と 〜 年度
の第4次中計で100億本の販売目
標を定めたのです︒ ﹁より多くのお
客さまによい品質のYKKのファス
ナーを使っていただき社会に貢献し
たい ﹂という創業思想に戻ろうとい
「 最大需要市場」 を
スタンダードと呼ぶ
うことです︒
社内では︑造語ですが﹁ 二兎を追
わねば一兎も得ず ﹂ と言っています︒
最大の需要ゾーン。 ここを標準=スタンダードとし これまで 「 価格重視市場 」 と位置づけていた
通常のマーケティングセオリーには
最新技 術、 企業精神を根幹に、 挑 戦する
反するかもしれませんが︑どのマー
ケットゾーンも獲得せよ︑という意
味です︒今中期最終の 年度に掲げ
る目標は128億本︒ 高い目標でも︑
実現を見据えています︒
20
16
18
事業の心臓部が 工機技術本部の理由
わが社では1年間に300万㎞以
上︑地球約 周分のファスナーを︑
80
Vol.69
4
- ▲TOP
- ページ: 5
- 全社員が経営者
YKK は上場していません︒非
上場企業であるがゆえの甘さがあっ
てはいけないと︑財務資料や有価証
券報告書は期日前にはしっかり揃え
て公表します︒たとえ見る人は少な
くても︑上場企業なみの情報開示と
内部統制はしっかり行っています︒
株主至上主義という経営スタイルも
巨大な市場のど真ん中に 「 より良いものを、 より安く、 より速く」 で挑みます
ありますが︑わが社は社員が株主︒
創業者の言葉に﹁ 森林経営 ﹂ という
ものがあります︒年月を経てベテラ
ンとなった太い木や︑ 若くて細い木︒
森林経営とは︑それぞれの個性によ
り能力を活かし︑一緒に前進してい
くというもの︒全員が経営者という
考え方です︒地域に根づき︑ステー
クホルダーを大切にするのも︑その
創業から変わらぬYKKの精神
﹁ 善の巡環 ﹂は︑創業者・吉田忠雄が 唱えた企業精神です︒一般的には﹁ 循 環 ﹂ですが︑あえて﹁ 巡 ﹂を使ってい るのは︑他人の利益を図らずして︑自 らの繁栄はない︑というところから来 ています︒これは吉田自身が書いた毛 筆ですが︑ ﹁ 環 ﹂は無限マークを意識 して書いたのではないでしょうか︒こ の精神は︑世界中の文化や言語の異な るYKKグループ社員にも浸透してい
YKK
一環です︒
ます︒日本国内はもとより全世界の社 員に浸透させていくのも︑本社機能の 大きな役割のひとつです︒ もうひとつ︑YKKでは経営理念と し て﹁ 更 な る CORPORATE VALUE を求めて ﹂を掲げており︑その中心に ﹁ 公正 ﹂という言葉を置いています︒ グローバルな事業展開には判断がつき ものですが︑その判断基準は︑ ﹁ 公正 ﹂ だとしているのです︒
富山県黒部市のパッシブタウン。 持続可能な社会づく りに貢献
5
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 6
- TOP MESSAGE
South America
南米
世界の巨大市場に 6 極経営体制で挑む
現在 73カ国/地 域 ※で事業 展開している。 YKK グループは、 地 域ごとの特 色を活かしながら、 各社が主体となって グローバル事業経営を行っているねらいとは
日本のコントロールは 必要最低限でよい
North and Central America
北中米
上の図は︑YKK が世界を6極
に分けて地域経営を行っていること
を表す地図です︒
わが社の中期経営ビジョンに
※2018年3月末現在
﹁ Te c h n o lo g y O r i e n te d Va l u e
Creation ︵ 技術に裏づけられた価値
創造 ︶ ﹂というものがあります︒よ
り良いものを︑ より安く︑ より速く︑
顧客にファスナーを提供するための
根幹は技術力︒黒部の工機技術本部
でつくられる機械を各国に配備し︑
各事業会社で均一で高品質なファス
ナーを製造する体制が整っていま
す︒
日本以外の5極には﹁ 地域統括会
日本
社 ﹂を置いています︒目的は3つ︒
Japan
1つ目は各地域での資本管理︑2つ
目は資産の有効な運用︒それぞれの
Vol.69
6
- ▲TOP
- ページ: 7
- 地域で得た利益は︑日本に送金する
ロイヤリティ以外︑すべて現地で再
投資しています︒3つ目はガバナン
ス︒世界中に散らばる事業会社を本
社のみでガバナンスを効かせるとい
うのは難しいため︑各地域統括会社
が責任をもって行っています︒
中国
China
アジア
YKK が初めて海外に拠点を持
ったのは︑1959年のニュージー
Asia
ランド︒1965年の役員会で︑海
外事業に関して︑以下のような姿勢
で臨むことを決定しました︒
ひとつは現地の産業開発に貢献
し︑経済発展に寄与すること︒次に
﹁ 土地っ子になれ ﹂ということ︒こ
れは︑ そのような覚悟で行きなさい︑
外の現地会社との相互間の関係は平
等︑責任は対等であること︒日本本
社のコントロールは必要最小限でよ
いという考えです︒遠く日本から数
字だけを見ていても︑海外事業会社
が抱えている本当の問題は︑現地に
赴かないとわかりませんから︒
私を含めた執行役員は︑日本にい
るのは1年の3分の2から半分くら
Europe, the Middle East and Africa
い︒残りの時間は︑問題が起きてい
るどこかの国の会社へ行き︑ともに
問題を解決することが仕事だと思っ
ています︒あるいは解決するすべを
生み出すために︑問題点を工機技術
本部に持ち帰り︑次の機械設計にす
ぐに着手する︒そういうサイクルを
回すための役割として︑本社の役員
YKK
がいるのです︒
7
Business Insights Vol.69 本稿は2019年3月12日に開催したJMACトップセミナーの基調講演をもとに作成したものです。
という意味です︒そして︑本社と海
EMEA
- ▲TOP
- ページ: 8
- コンサルティング 事例 1
グローブライド株式会社
Consulting Case 1
GLOBE RIDE
みんなに“見える化” チーム設 計 への大改 革
企画部門、 技術部門、 設計部門など全員を巻き込んで 「 世界 No.1ブランド」 という目標に手が届く! 設計者一人ひとりが個人商店のような働き方は終わりにし、
グローブライド株 式 会 社
「地球を舞台にスポーツの新しい地平を切り開いていく」 。 社名に込めた決意だ。
2009年、ダイワ精工は社名を変え「グローブライド」が誕生。フィッシング、
ゴルフ、テニス、サイクル部門からなる総合スポーツメーカーである。今回の 主役はフィッシング事業部。国内市場が縮小しつつあるなか、拡大戦略という 目標を掲げ、設計チームにメスを入れた。なぜ設計部門の改革が必要だったの か。 ( 写真右:取締役 フィッシング生産本部 ロッド製造部長 鈴江浩康さん 写真左 : フィッシング生産本部 ロッド製造部 ロッド設計管理課長 大田勲さん)
ライバルを出し抜いて、アオリイカをエギングで仕留めるための 高バランスロッ ド エメラルダスMX
Vol.69
8
- ▲TOP
- ページ: 9
- げざるを得ないので
500点もの新製品を出し続けるために
30 アイテム
︒ 長 鈴江浩 康さん ︶ ではどこにメスを入 れればいいのか︒鈴 江さんは︑設計チー ムの改革を決めたと いう︒ ﹁ 革新的なアイデア が求められ︑世界最
設 計 者 全 員の 積 極 的な 参 画
に、膨大なタスクが課されている
KEY WORD 2
市 場は 減 少 ︑ 売 上は 拡 大 課さ れ た ミッション
釣りの国内市場は年々︑加速度的 に減少傾向だ︒なのに製品数が増加 しているのはなぜか︒それは︑個々 のニーズが多様化し︑顧客の求める 設計が多岐にわたっているからだ︒ グローブライドのフィッシング事 業部は︑世界的シェアのトップを走 っている︒しかし︑それは本当の意 味でのナンバーワンではないという︒ ﹁ 海外には︑ローカルの小さなメー カーが山ほどあります︒安価なもの から︑地域性に特化したものまで︒ 釣りは文化でもありますから︑伝統 の道具というものも︑まだ存在して います︒私たちはそれらの市場を獲
す﹂ ︵ロッド製造部
1人の設計者が同時に動かしているア
イテムは数十アイテムに上る。世界最
高水準の技術と品質を形にするため
全 員で 連 携
国内の釣り人口が減少する一方、 ユーザーの嗜好が多岐にわたる釣り市場。
高水準の技術と品質を形にするミッ
そこで︑JMACタイのコンサルタン
ションを抱えている設計者たちです
トが製造部門の改善に入り︑見事に
世に出し続けなければならない。 効率化のために着手すべきこととは
が︑現状は我流のやり方で業務を進 1人約
生産性を上げたという実績があった︒
そのリクエストにこたえるためには、 商品を改良し、 新しいものを
めているため効率が悪い︒何より︑
グローブライドはこれまで外部リソ
30
アイテムを並行して動か
ースを使わない方針だったが︑タイ
課題
し︑日々の業務に疲弊している彼ら
の実績があり︑ロッド設計課にコン
に︑素晴らしいアイデアを求められ るを得ませんでした ﹂ 得したい︒本当の意味でのトップを 取るために︑新製品のアイテム増は 避けられません︒とはいえ︑リソー スは限られていますから︑効率を上
ていることがわかる。ここにグローブ 国内の釣り人口の数字。市場が縮小し
サルタントが入ることとなった︒
るのか︒設計部門に生産性を求めざ
設 計 業 務 全 体 の見える化
そこで︑JMACにコンサルティン
設 計インフラの 整 備
設 計 者 全 員の頭の中 を マニュアル化 す る
グを依頼することになるのだが︑鈴
江さんとJMACの出会いは7年前
担当コンサルタントの渡部訓久は
に遡る︒当時︑タイの工場立て直し
﹁ 設計業務全体の見える化 ﹂ ﹁ 全員
の 命 を 受 け︑
で連携 ﹂ ﹁ 設計インフラの整備 ﹂ ﹁設
赴任した鈴江
計者全員の積極的な参画 ﹂という4
2000 万人
700 万人
ライドは拡大戦略を打ち立てる
さん︒現地で
KEY WORD 1
つの課題を掲げ︑改革をスタート︒
﹁ 某二輪メー
まずはアンケートを実施︒ すると︑
カーの工場を
﹁ 担当のアイテム以外の仕事︵ 改革
立て直したコ
業務 ︶ をしたら︑損したような気分
ンサルティン
になる ﹂ ﹁ 過去に何度もやりました ﹂
約
task 30
グファームが
﹁そんなこと手伝っていたら納期が
ある ﹂と噂を
間に合わない﹂ という回答があった︒
聞 き つ け た︒
想定内の回答ではあったが︑管理者
9
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 10
- クラスが﹁ 本気でやろう!﹂という ロッド設計課には設計者が十数人 いるが︑スキルや経験値が異なるた め︑これまで各人のやり方で個人商 ﹁ 生産性を上げるには︑たとえば誰 がつくっても最低でも 点くらいは できてほしいし︑全員同じ基礎から つくるべき︒ただし︑ベテランもい れば新人もいる︒さらに︑釣り竿の 設計は︑メカ設計ではなく剛性設計 なのでゼロからというのはあまりな く︑ちょっと穂先を硬くしたり︑曲 がりを調整したり︑強度を2割上げ る⁝⁝というような作業が多い︒で すから感覚的な仕事といえばそうか
先行開発・改善活動など
意識に変わったという︒ 次に着手したのは︑500点以上 策を行うか︑壮大なマトリックス図 を作成︒業務を自動化できること︑ ツール化できることをそれぞれ見極 めた︒その結果︑これまで気づかな かった重複ロスや︑やり直しなどの 無駄が減り︑第 ステップを完了︒ 今回︑もっとも重要かつ効果を上 ﹁見える化﹂ げたのが第 ステップの
Consult ing Case 1 / GLOBER IDE
による設計の質向上だ︒
もしれません ﹂ ︵ 鈴江さん ︶ ︒とは いえ︑500点もの新製品を手掛け る物量はかなりのものだ︒我流の進 め方ではロスもそれなりに生じてし まう︒そのため設計者全員の頭の中 にあるものを︑ すべて出してもらい︑ 整理した︒失敗事例や︑うまくいっ たノウハウ︑やらなくていい作業な ど︑設計実務を進めるための情報を 各人から集めて整え︑精度の高いマ ニュアルを完成させた︒
明日の 仕事
る時間︒ ﹁ 今日の仕事 ﹂は新製品の
商品点数が2,000点を超えるフィッシング事業部
の新商品アイテムすべてにどの改善 店のごとく設計業務を進めていた︒
2
1
85
れたり︑製造までたどり着いても強
業務効率化を図り、 新商品企画 ・ 開発に パワーシフトする
設計︑まさにミッションだ︒そして
度が弱かったということもある︒そ
﹁ 明日の仕事 ﹂はさらに創造的な時
うなると︑発売が遅れるなど︑重要
間︒先行開発や改善活動にかける時
な損失にもつながりかねない︒それ
間である︒ ﹁ 昨日の仕事 ﹂は本来な
を取り戻すのは︑設計者個人の範疇
改善イメージ図
新製品設計など
ら終わっているもの︒それに再度時 物でもない︒ 本来なら︑設計を本 格的にスタートする前 のインプット情報︵マ
を超える︒今回の取り組みで︑ロス
今日の 仕事
間を取られるのはストレス以外の何
の大幅減につながった︒
自分の設計が妥当かどうか、チェック
の項目数。たとえば、当初は21項目し
不具合対策・設計変更など
昨日の 仕事
改 善 前 後で パワーシフトに変 化
上の図は︑業務効率化前と後を比 較したものだ︒ ﹁ 昨日の仕事 ﹂ とは︑ やり直し作業︑設計変更などにかか
ニュアル︶ の精度を上 げないと︑着手すべき で は な い︒な ぜ な ら︑ 足もとが危ういところ からスタートすると︑ やり直しのロスが生ま
か見ていなかったが、実は30項目必要
30
だった、ということも起きていた
KEY WORD 3
21
Vol.69
10
- ▲TOP
- ページ: 11
- 設計のミスやボツになったアイデア、
れており︑それ︵ 改善 ︶ どころでは
に蓄積されるべきナレッジ。その設計 ルの精度がどんどん上がっていく。赤 過程を見える化することで、マニュア
試行錯誤を 標準化
字の入った設計図は大切な財産
KEY WORD 4
個 人 技で乗 り 切 ら ない 周 囲 を 巻き 込んで
ロッド設計管理課長の大田勲さん は元設計者であり︑現在は改善プロ ジェクトを取りまとめる責任者だ︒ ﹁ JMACさんのアンケートの後︑ 私たちは個別に面談を行いました︒ 新しいものをつくりたい︑という意 識はみんな高いんです︒しかし︑そ の時間がないというのが現状︒会社 の売上拡大の目標もさることなが ら︑業務の効率化は必然だと感じま
1㎜のゆがみも許さない検品作業 こそ一流品の証
不採用になったものこそ、設計チーム
ないという雰囲気 ﹂という設問があ
る︒開始前は %がYESと答えて
いたが︑1年後の回答は5%にまで
減少︒社員の意識が大きく変わった
結果である︒
改 善 を やりきって 次 な るステージへ
コンサルティングの導入は︑社員 した ﹂ ︵ 大田さん ︶ コンサルタントの渡部は︑属人化 している非効率を変えるべく﹁チー ム設計 ﹂ にこだわった︒ ﹁ 企画︑技術︑デザイン︑設計部門 など︑それぞれのチーム間で風通し を良くし︑コミュニケーションがと れるように﹃チーム設計 ﹄という考 え方に変えてもらいました︒まわり の人同士で助け合える構図です︒連 ミスがあっても早く発見されます︒
個人技で乗り切らない︒誰がやって
のモチベーションにつながっている︒
も成果が出るようなお膳立てはどう
時間がたって︑元に戻っては意味が
すればいいのか︒その対策の1つに
ない︒ 改善施策が習慣化するために︑
﹃ 大部屋ミーティング﹄を導入しま
定期的にコンサルタントと行うミー
した︒みんなで成果をお披露目しあ
ティングは欠かせないという︒
ったり︑報告したり︒あるいは自慢
﹁ 本来なら︑自分たちがつくった製
しあったり︒これは個人商店から脱
品を持って大海原に釣りに出かけた
却する大きな施策になっています︒ ピードが上がりました ﹂ ︵ 渡部 ︶
いじゃないですか︒ そうなるために︑
その結果︑良い刺激を受け︑質とス
JMACさんにはこの取り組みを︑
最後まで一緒にやりきってほしいで
携をとりながら業務を進めるため︑ 改善活動を始める前にとったアン
すね ﹂と︑鈴江さんは最終ゴールの
ケートの中に︑ ﹁ 日常業務に忙殺さ
イメージを描いている︒
業務効率化成果を何に使うか? 将来のありたい姿を策定し、設計 者全員で共感を得ながら活動を進 めることが重要です。
て、オープンリソースにします。
個人技で乗り切らない。誰がやっ ても成果が出るようなお膳立ては どうすればいいのか。即効性はあ りませんがボディブローのように 効いてきます。
企画、技術、設計各部門の連携を 図るため、それぞれの改善活動業 務内容を報告しあえるような場を 月1で実施します。
設計実務を進めるためのインフラ
整備。設計に必要な情報やノウハ ウ、失敗事例などの情報を整理し
渡部訓久
[ 改革スタッフの組み方 ]
50
階層別にミッションを掲げ、 各人が遂行すべきことを 明確にします。
リーダークラス: 活動展開実施、進捗管理、 成果責任
EYE
[ 3つのポイント ]
部課長クラス: 活動企画立案、後方支援
改革シナリオの作成
大部屋ミーティング
設計の足もと固め
シニア ・ コンサルタント
実務者クラス: 改善施策実践、成果出し
コンサル タント
JMAC
1
2
3
11
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 12
- コンサルティング 事例 2
白鶴酒造株式会社
Consulting Case 2
H A KU TSURU
ロス半減の 改善モデルを つくる
紙パックの日本酒を包んでいるフィルム。 そこには、 小さな穴も許されない、 最高品質ゆえの厳しい基準があった。 パックラインの改善プロジェクトにフォーカスする
白鶴 酒 造 株 式 会 社
日本酒の国内生産量、トップを走る白鶴酒造。神戸市東灘区に建つ灘魚崎工場 は、白鶴商品のほぼすべての充塡から発送までを行う最重要製造拠点だ。 (コンパクト) 2004年よりC -TPMを導入し、工場としての基本条件整備を行い ながら生産性の効率アップ、品質向上と、段階的に課題に取り組んできた。次 なるステージは、白鶴ブランドの価値向上。不良ゼロを目指し、課題を「 見え る化 」 して原因を究明。その対策とは。 (写真左より灘魚崎工場 課長代理 柴田 航さん、工場長 松宮雅一さん、副工場長 影浦𠀋秀さん)
Vol.69
12
- ▲TOP
- ページ: 13
- 白鶴酒造の創業
は︑徳川八代将軍吉 宗の時代︑寛保3年 ︵1743︶ ︒ 兵庫県︑ 灘の御影村で酒造り を始めたのは︑酒造 りに適した米︑最適 の水に恵まれた土 地︑寒造りに適した 気候という条件が整
灘魚崎工場の変化はどう起きたか
フ ィルムロス
18 33 22
造株式会社が誕生した︒
対 策の見える化
﹁こんなに厳しいのは︑白鶴さんぐ らいです ﹂ これは︑灘魚崎工場を担当するあ る資材納入業者の言葉だ︒日本酒の 瓶のラベルや紙パックの︑印刷のわ ずかなゆがみも許されない︒ 工場長の松宮雅一さんは﹁ 正直︑ 私でもこのくらいはいいのでは︑と 思うことがあります︒白鶴の品質基 準レベルはとても高く︑よい評価を いただけるぶん︑生産現場に求めら れるものも相当に高い︒実際︑私た ちがOKだと思う完成品を品質保証 部に持っていくと︑不良品だと突き 返されることがあります ﹂ と話す︒ この﹁ 不良品 ﹂が︑今の灘魚崎工 場のテーマだ︒いかに不良品をなく していくか︑なぜ﹁ 絶対に ﹂不良品 を出してはいけないのか︒
目標数字だけでなく個々の意識も変わっていくために、 3つの課題に取り組んだ
年間生産数 5000 万本。 これだけの生産量を104 人で担っている。 最大 28 万本。
っていたからだ︒ 明治 年 ︵1885︶
の品質保証や廃棄ロスの問題だけで
に﹁ 白鶴 ﹂の商標が登録され︑明治
はない︒出荷される商品の最終段階
年︵1900︶のパリ万博には︑
で不良が見つかると︑再検品作業と
敷地面積 18,761平方メートル。 1日の生産能力は1.8ℓ換算で
原 因の見える化
瓶詰の白鶴が出品された︒その後︑
いう膨大な仕事が降りかかる︒年間
私立灘中学の設立︑白鶴美術館の設
5000万本を生産するこの工場
課題
立など︑教育や文化にも注力しなが
で︑再検品作業は果てしない︒
ら︑昭和 年︵1947︶に白鶴酒
創業から276年もの歴史をもつ
﹁土足﹂ 生 産 ラインに TPM導 入のきっかけ
老舗のブランドを守っていくのは︑生
のほとんどは︑この灘魚崎工場から
TPMを導入したのは2004年︒
問 題の見える化
出荷されている︒もし不良品が混在
日本酒業界の取扱高の単位は「 石 」=
それまでは生産ラインのすぐ横ま
180.39ℓ。現在、日本国内生産量トッ プを占める白鶴は52,360㎘=290,260 石 (29万石) を取り扱っている
し て い た ら︑
で︑土足で入って作業をしていたと
52,360,000
米 を つ く り︑
KEY WORD 1
いう︒
万石
精米︑ 仕込み︑
リットル
﹁ TPMを導入してから︑生産フロ
貯蔵と何か月
アを土足禁止にしました︒内履きで
29
もかけてよう
の作業に切り替えると︑異物混入数
やく商品とな
が劇的に減ったんです︒掃除の負荷
った大切なお
も減ることに気づきました︒ それが︑
-
産ラインの責務である︒白鶴の商品
灘魚崎工場竣工前の旧工場がC
き止め、機械の改善が実現した
KEY WORD 2
白 鶴 ブ ランド を 守 る 酒 造 り 最 終 工 程の重 責
のが、パックラインのフィルムロス半
今回、改善プロジェクトで取り組んだ
減活動。シュリンカー不良の原因を突
酒を処分する
本格導入のきっかけです ﹂と話すの
ことになる︒
は︑副工場長の影浦𠀋秀さん︒
お客さまへ
2012年7月より操業がスター
13
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 14
- 検査・包装フロアは床が 緑色の準清潔作業区域。
止める権限
もオペレーターがラインを止めること
「一 「 を許可している。 (旦) (まる) 」止 」
灘魚崎工場では上長の許可を得なくて
い切って止めることは、不良をなくす
で「 正(しい) 」の字になるように、思
そして︑洗い出した個所すべての
管理基準︑点検調整方法を全員で共
KEY WORD 3
有する﹁ 対策の見える化 ﹂を実施︒
若手オペレーターも︑シュリンカー
ための最善策だという
の管理︑点検︑調整がベテランと同
じレベルでできるようになった︒
で放置して これまで﹁ 仕方ない ﹂
いたことが︑この﹁ 見える化 ﹂ を行
ったことで︑溶断刃の業者と話し合
いをすることができ︑温度ムラの出 トした現在の灘魚崎工場は︑ ﹁ 一般 作業区域 ﹂ ﹁ 準清潔作業区域 ﹂ ﹁清
C o n s u l t i n g C a s e 2 / HAKUTSURU
の割合でできてしまうフィルムロス という︒
ない機械に改善することがかなっ
は﹁ 仕方のないこと ﹂ と諦めていた
た︒これはパックラインチームにと
潔作業区域 ﹂とに分け︑床の色を変 えてひと目でわかるように区分して いる︒かつての ﹁ 土足で作業 ﹂ など想 像もできない︑ホコリひとつ入れな いレベルの徹底した清潔管理が行わ れている︒そのおかげで︑2018 年の1年間で内容物に関してのトラ ブルは5000万本中︑ゼロ︒残さ れた課題は︑包装だ︒
って︑大きな前進だ︒
今回︑ JMACの担当大塚寛弘は︑
﹁ 私たちだけでは︑このようにステ
このシュリンクチームの取り組みを ンサルティング提案を行った︒
ップを踏んで︑1つずつ潰しながら
同工場の改善モデルとするべく︑コ
原因を特定するのは難しかったと思
います︒今年1月にようやく機械を
まず︑なぜ穴が開くのか︑フィル
改善したので︑これからかなりいい
ムの溶断面を拡大して見る﹁ 問題の
改善報告ができるはずです ﹂と話す
見える化 ﹂だ︒貼り付け方が悪いの
のは︑TPMの取り組み全般を担当
か︑ あるいはシワができているのか︒
する柴田航さん︒オペレーターの意
実際に見てみると︑ ﹁ 溶断刃の温度
識もスキルも上がってきたと実感し
フ ィルム包 装にでき る 小さ な 穴の原 因は 何か
﹁この小さな穴が不良品です ﹂と紙 パックを見せてくれたのが︑パック ライングループ・シュリンク改善の チームリーダー︑宮川奈那さん︒検 査機にも引っ掛からないのだとい う︒しかし︑品質保証部で﹁ 良品基 準を満たさない﹂ と判定される以上︑ 出荷はできない︒これまで︑一定数
ムラ﹂ が原因なのがわかった︒ 次に不良に関連する 個所をすべて洗い出 し︑穴につながる原因 になっているかどうか を一つずつ調べる﹁ 原 因の見える化 ﹂を行っ た︒マトリックスの図 をつくり︑原因をマッ チングしていってもら った︒
ているそうだ︒
ら知恵も出す工場へ 」 。生産事故を減
らす、利益を上げるなど、個々の知恵
工場のスローガンは「 汗を出す工場か
知恵も出す工場
が集まれば、策は必ず出てくる
KEY WORD 4
Vol.69
14
- ▲TOP
- ページ: 15
- シュリンクロスをはじめ、工場内の改
だったところ、1年でこの金額を達成
善活動によりコストカットできた金
額。初年度目標が3年間で5000万円
万円
かったんです︒ ﹃うわー︑これ全部 やるんかい ﹄と︑やる気が失せるわ けです︒なんでこんなことしなくち ゃいけないんだと︒しかし︑社員一 人ひとりに理解してもらい︑達成感 を味わいながらコツコツと改善を進 め︑ここまでたどり着きました︒そ のころを振り返ると﹃やってよかっ たな ﹄と︑みんな感じてくれている と思います ﹂ ︵ 影浦さん ︶
鑑み︑自主性を重んじてボトムアッ
ンク改善のように︑品質を重視する
した。この活動の大きな結果だ
プ的に改善活動をしていた時期があ
という活動の効果は出ています︒そ
KEY WORD 5
3200
った︒しかしそれではスピードが遅
れがこの工場の最大のミッションで
すぎたため︑トップダウン方式に舵
すから ﹂ ︵ 松宮さん ︶
を切った︒世の中のスピードについ
TPMを導入して 年︒生産効率
ていくためだ︒しかし︑ひとつだけ
の追求から︑品質重視へと目標を変
現場に権限を持たせたことがある︒
えながら︑白鶴ブランドを全力で守
り続ける灘魚崎工場︒
工 場の生 命 線 生 産 ラインを 止めていい
﹁ 私たちにとってTPMはあくまで
もツールで︑TPM活動自体が目的
ツッコミ どこ ろ しかない 自 分の仕 事とTPMの差
従来のやり方を変え︑新しいこと を取り入れるのには︑反対勢力が強 いケースも多い︒しかし︑生産性や 業務効率を上げるには︑何かを変え ていくことは避けられない︒灘魚崎 工場竣工前の旧工場も︑ ﹁ TPM導 入の最初は戦争のようだった ﹂と松 宮工場長は言う︒ ﹁ 現状の業務をTPMに照らし合わ せてみると︑ツッコミどころしかな
かつては社員のモチベーションを
ではありません︒会社の方針が決ま
今までは︑ラインを効率的に回し
り︑ブレイクダウンされて工場にお
て生産数量をたくさんつくり︑ロス
りてきて︑やるべきことをTPMを
をなくすことに注力していたが︑品
改善チームのリーダー、宮川奈那さん
使って解決していく︒私たちが思い
質アップに比重をシフトするため
つかないような方法や︑見落として
に︑オペレーターに上長の許可を得
いることをTPMの手法で発見でき
ずにラインを止めていい︑という権
たり︑ミスなく︑ムラなく展開でき
限を付与した︒ ﹁おかしいな︑いつ
るというのが導入する意義だと思っ
もと違うと感じたらオペレーターは
ています ﹂ ︵ 柴田さん ︶
ラインを止めていい︒当然︑生産効
松宮工場長は︑次なる指標づくり
率は落ちます︒停止時間は増え︑時
を始めた︒それが現実的か否か︑コ
間でいうと4%ほど︑回数は %増
27
ンサルタントの知見を得ながら︑改
えました︒ですが︑先ほどのシュリ
革を進めていく︒
発生メカニズムの整理と根本原因分 析、対策検討、根本対策の具体化
15
管理項目を数値化( 可能な限り)
し、再現性を高めます。若手オペ レーターも同じ判断ができるよう
に管理基準をつくってもらいます。
[ 策定から浸透促進まで ]
残課題整理、次テーマ候補の選定
すぐできる対策の実施、効果確認
大塚寛弘
問題発生の場所や位置、大きさな どを確認。なぜシュリンクの穴が 開くのか、拡大して断面を見るな ど、具体的にアクションします。
生産現場の品質改善がコンサルのポ
発生メカニズム(成立ち) の原因 を考えます。温度なのか、素材な のか。穴につながる原因をマトリ ックスの図を作成します。
イント。鶴が亀のよう (鶴千亀万) に
標準書アップデート、 チェックリスト作成、水平展開
EYE
[ 3つのポイント ]
コンサル タント
ワースト現象の原因分析
対象選定、ヒアリング
効果確認と歯止め、 根本対策の継続検討
JMAC
チーフ ・ コンサルタント
1つひとつ課題解決!
対策の見える化 問題の見える化 原因の見える化
1
2
3
15
Business Insights Vol.69
- ▲TOP
- ページ: 16
- イ ノベーティ ブなコンサルティ ングに 進化する理由
長年日本の成長を支援してきたという誇りと実績、 JMACが変わる。
・ 鈴木亨が語る。 る進化のステージを迎えたJMACを代表取締役社長
るコンサルティ ングファームへと進化する。 新しい時代を迎え、 さらな
クライアントとの強い絆を土台に、 未知の経営課題にも果敢に挑戦す
代表取締役社長
鈴木 亨
JMAC40 周年に向けての革新
ものづくりで蓄 積した 独 自のメソッド
まず私たちのルーツからお話しし ます︒母体である日本能率協会は︑ 戦時下の1942年に国家的要請か ら創設されました︒戦後の復興期に は工場管理の改善が急務となり︑作 業能率・品質管理・日程管理などの 工場管理を体系化した﹁ 生産技術 ﹂ を提唱してきました︒復興から成長 へ と 日 本 経 済 が 発 展 を 遂 げ る 中︑ 1980年に日本能率協会は主力の
コンサルティング部門を分社化し︑ 設立から 年︑ ″クライアントの成
日 本 能 率 協 会コンサルティング
長を通じて日本の発展に貢献する 〟
︵ J M A C ︶ が 誕 生 し ま し た︒
とい う 使 命 感 に 変 わ り は あ り ま せ
40
2020年で 周年︵ 創業 年 ︶を 迎えます︒
78
ん︒長年現場で磨きをかけてきたコ
ンサルティング・メソッドは9領域
21
世紀になり︑開発・生産・物流・
100種を数え︑若手のコンサルタ
販売にわたる機能別コンサルティン
ントにも受け継がれています︒これ
グの専門性を基軸に︑戦略・人事・
らのJ MAC独自のメソッドは︑デ
組織・ITなど経営全般にわたるコ
ジタル化の時代になり﹁ 現場のリア
ンサルティング・サービスを充実さ
リティ﹂ を捉えるノウハウとして一層
Interview
せました︒現在では世界各国の産業
重要性が増しています︒クライアン
構造とニーズに沿ったサービスを
60
トに徹底して寄り添う伴走型のスタ
以上の国・地域に展開しています︒
イルも設立以来︑不変のものです︒
40
1955 年 9月 6日生まれ。1979 年千葉大 学工学部卒業、ʼ81年同大学大学院工 学研究科修了。ʼ86 年に日本能率協会 コンサルティング入社、技術戦略立案 など R&D領域を中心に支援。2013 年 3月から現職。 [出身地] 埼玉県川口市 [ス トレス解消法] 週 1回のテニス やらずに後悔するより、 [座右の銘] やって後悔したほうがいい
(すずき ・ とおる)
Vol.69
16
- ▲TOP
- ページ: 17
- これからのJ MACと オープンイノベーショ ン
いわゆるオペレーション・エクセレ ンスの実現を支援していますが︑構 築したプロセスを機能させるには︑ データがもっとも重要な資源となっ てきました︒また︑製品そのものに ついても ﹁ 走るコンピュータ﹂ となっ た自動運転車や自在に制御できる 住宅などは︑データの取り扱い方が サービスの切り札です︒ ビジネスの覇権はサプライチェー ン ・ オーナーからプラットフォーム ・ オーナーへ︑さらにはデータ・オー ナーへ移りつつあります︒製造業は それらのオーナーとどうつき合う か︑また自身がデータ・エクセレン ス企業に脱皮できるかが焦点です︒ 長年支援してきた私たちだけにでき J MAC のクライアントの7割 は製造業ですが︑ものづくりの現場 ︵ 情報通信技術 ︶ ・ I ︵モ はICT oT ノのインターネット︶ ・AI︵ 人工 知能 ︶といったテクノロジーで大き く変わろうとしています︒ たとえば︑ GAFA ︵グーグル︑ アップル︑ フェ イスブック︑アマゾン︶は独自のプ ラットフォームを構築し︑地域や組 織を超えてデータ収集しています︒ このデータを使ってプラットフォー ム上のあらゆるプレイヤーを﹁アセ スメント﹂ し ﹁モニタリング﹂ し︑そ して﹁シェア﹂していくでしょう︒ されるかもしれません︒
J MACは︑磨きぬかれた現場︑
ることが多々あります︒しかし一方
さらにI oTツールを改善の道具
で︑J MAC単独で支援できるほど
として使いこなす感性を磨くため︑
甘くはない︒そこで︑これまで培っ
ソニー新規事業創出プログラムから
てきたノウハウに志を同じくする外
″MESH 〟 生まれたI oTブロック
部の方々の力を加え︑新しい提供価
とタブレットを使った ﹁I oT つ道
値を生み出すことを進めています︒
具®体感セミナー﹂もスタートしま
たとえば︑従来の新規事業コンサ
した︒I oT活用が鍵となるスマー
ルティング・プログラムに投資のノ
トファクトリーの具体化については︑
ウハウを組み合わせることにしまし
ITベンチャーや通信キャリアとの
た︒米国バテル記念研究所の系譜を
協業を強化していきます︒
もつ360i p ジャパンとタッグを
クライアントの事業環境が大きく
組み︑先端技術の商業化支援やスタ
変わっていくなか︑J MAC も変
ートアップ企業への投資から︑日本
わらなければなりません︒オープン
型イノベーションモデルの構築を目
イノベーションを自らが成し遂げ︑
指しています︒また︑J MAC欧州
これまでと異なる視点や技術を付加
︵カー 法人で開発した ﹁ Kart Factory
する必要があります︒これから迎え
トファクトリー︶ ﹂ ︑ものづくり体感 業に提供しています︒
る新しい時代︑皆さまとともに︑よ
近い将来︑製造業の工程が ﹁シェア﹂ こうした変化において︑製造業を
シミュレーションを逆輸入し日本企
り良い日本の未来を創造していきた
いと考えています︒
PROJECT 1
360ip ジャパンは 2012 年に設立。先端技術の 商業化を目的にしたファンドを運営している。 「ACAT JMAC は 360ip ジ ャ パ ンと 共 同 で ( Accelerator for Commercialization of 」 を運営。産業・機 Advanced Technology) 能への知見、技術用途の提案など、JMAC な らではのコンサルティ ングの視点で新規事業・ イ ノ ベーション創出を手助けする。
PROJECT 3
ものづく り リアルシミ ュレーショ ン
改善を変える 「IoT7つ道具® 体感セミナー」
ペダルカートの組立・分解に改善を適用して 生産性向上を競うタイムバトル。失敗に学び、 チームに学ぶ。管理技術の重要性やものづく りの全体像を把握できる研修プログラム。改 善技術伝承、議論文化の醸成、ものづく り人 材不足など、さまざまなねらいで組立系製造 業だけでなく、ケミカル・鉄道事業者も導入。 製造業の将来を担う人材を育成すべく、慶應 義塾大学理工学部と共同研究も進めている。 日本企業の強みは、現場の創意工夫があるこ と。IoT ツールを使いこなし、デジタル化に 取り組むことで改善の可能性は無限に広がっ ていく。セミナーでは、ソニーの IoT ブロック 改善アイデアを具体化する。 MESH を使い、 難しいプログラミングや電子工作の知識は不 要。 「あったらいいな」 と思う IoT の仕組みを タブレットで具体化し体感する。
資金に加え知識を投資する アクセラレーター
Kart Factory
7
Interview
PROJECT 2
17
Business Insights Vol.69
Toru Suzuki
- ▲TOP
- ページ: 18
- 2019年5月24日開催
「 R&Dイノベーションフォーラム」
開発 ・ 技術マネジメント革新大会が
に変わります
「 イノベーション」 ・ 技術マネジメント革新大会は というキーワードに名称を変え、 23年目を迎える今年の開発
新たな価値創造の場となります。 アイデアの着想や革新の壁を乗り越えるノウハウをお届けします。
「 R &D」 「 生産性 」 今年のテーマは ×
研究開発の生産性をどのように考えるべき でしょうか。昨今、 「 生産性 」 という言葉が経 営のさまざまな場面で語られることが多くあ ります。 「R&D」 × 「 生産性 」 も古くて新しい テーマで、これまでも何度も議論されてきま
R&Dコンサルティング
事業本部 技術戦略センター センター長 シニア・コンサルタント
で成果を上げていきます。また、その成果の すべてが目に見えるものでもありません。 最近、有形資産より無形資産の価値が高く なったという話もありますが、研究開発はま さにそう。見えない価値をどう測るのか、答 えはなかなか出ません。そこを改めて、正面 から考えたいと思います。答えが出るかわか りませんが、 皆さまに 「 気づき 」 の場を提供し、 われわれもプレッシャーを受けながら新たな 視点で取り組んでいきます。
した。しかし、研究開発の生産性向上の本質 に迫る答えはいまだに出ていないと思います。 生産性=開発期間短縮という単純な構図には なりません。たくさんの失敗の上に成り立つ 研究開発は、不確実な要素が多々存在する中
近藤 晋
23年継続する参加者200名を超える国内最大級のイベント
本イベントは、JMACの研究開発・開発設 計部門向けのコンサルティング事例を共有す る場として、1997年にスタートしました。 研究開発に焦点を絞ったイベントで、毎年 出席される方は「 改革をしよう 」 という意識 をお持ちの方、あるいは「 改革にすでに取り 組んでいる 」という方がほとんどですが、や はり改革は壁にぶちあたります。それをどの ように乗り越えるのかを、具体的な事例や講 師陣、参加者間の交流を通じてヒントを得ら れる方が多いようです。私たちはこのイベン トを通じて、改革への新たなエネルギーを持 ち帰っていただくことを期待しております。
R&Dコンサルティング
事業本部 イノベーティングセンター センター長 シニア・コンサルタント
200 〜 300人も集客するものは国内最大級だ
と思います。 参加される業界は自動車、 電機、 機械、 部品、 素材など多岐にわたり、日本を代表する企業 の第一線の方にご参加いただいております。
鬼束 智昭
セッションの選び方のポイント
午前は基調講演、午後はA・B・C各セッ ションというプログラムです。今年の基調講 演はスリーエム ジャパン執行役員の大久保 孝俊氏にご登壇いただきます。経営層に近い ところからR&Dイノベーションを行う企業
R&Dコンサルティング
事業本部 総合プロデューサー シニア・コンサルタント
午後のAセッションは戦略的な事例を聞き たい方が対象です。味の素さま、矢崎総業さ まの事例を紹介します。Bセッションは事例 紹介とグループディスカッションで、具体的 に技術業務の効率化を考えます。Cセッショ ンはコミュニケーションやコラボレーション で、人材の知恵をどう組み合わせるか、人と
経営とはどう取り組んでいくか、3Mで行っ ている「 脳科学×マネジメント」というコン セプトで捉えなおすひらめきのからくりな ど、これからのR&Dマネジメントを示唆す る内容を話していただきます。
渡部 訓久
ITの両面をどう次につなげていくかを日本女
子大学さま、コニカミノルタさま、三菱商事 ライフサイエンスさまに話していただきます。
Vol.69
18
- ▲TOP
- ページ: 19
- 第23回 R&Dイノベーションフォーラム プログラム
参加料:35,100円 ( 消費税込 ) 会場:東京コンファレンスセンター・品川
(金)9:45~19:00 (受付9:15 〜) 2019年5月24日
定員:300 名 (お申し込み順 ) 主催:日本能率協会コンサルティング (JMAC)
基調講演
R&Dイノベーションという
Aセッション
─ Advance ─
B セッション
─ Basic ─
─ Communication ─
Cセッション
観点からこれからの企業経営 を考える視点を提供する 時 間
戦略的、未来志向のコンサル 果を事業成果に変えていくか
ティング事例。研究・開発成
業務改革、日々の仕事の効率
化を行った事例紹介および参 加者同士のディスカッション プログラム オープニング (JMAC)
人とITの組み合わせ、効率的 活力を高めるヒント
な人材の組み合わせ、組織の
09:45 〜 10:00 10:00 〜 12:30
[ 基調講演 ] ニューロマネジメントから導くイノベーションに挑戦させる人づくりと組織づくりの変革 スリーエム ジャパン 執行役員 大久保 孝俊氏 昼 食
[ A セッション ]
研究・開発成果を事業成果に変える
[ B セッション ]
技術部門の業務効率化
[ C セッション ]
異質な知の統合で革新の壁を乗り越える
【 企業講演 】 『 研究・開発成果の事業化を加速する 〜社内技術の見える化と 技術カタログづくり〜』 (JMAC) 『 味の素グループにおけるオープン イノベーション活動〜クライアント・ イノベーション・センターの設立〜』 ( 味の素 ) 『 技術を核に新たなビジネスを 創出するMOT の実践展開 』 (JMAC)
【 企業講演 】 『 小規模多テーマ開発における 設計業務改革 』 (グローブライド) 【グループディスカッション】 〈ねらい 〉 ・事例発表の理解を深める ・各企業での取り組み/困りごとの交流
【 企業講演 】 『スピードUP 時代のイノベーション 生産性向上〜革新のドラマを生み出す 異質な知〜』 (JMAC) 『 計算科学における情報技術活用の 実際と人材育成における課題 〜R&D の生産性を革新するデジタル 技術の最先端〜』 ( 日本女子大学 ) 『データ駆動型材料開発の 社内普及に向けた取り組み 〜サイエンスにおける データと人の目 の融合を目指して〜』 (コニカミノルタ) 『 小規模チームで多様な仕事に 立ち向かう! 〜ある新任課長の 組織変革チャレンジ〜 』 ( 三菱商事ライフサイエンス) 【 相互交流セッション】
13:30 〜 17:00
〈ディスカッションテーマ〉 ・新事業/新商品企画へのリソースシフト ・開発効率化施策 ・ビジネスリーダー/プロジェクトリーダー育成 ・技術者育成 『 事業成果創出に向けた 矢崎流MOT による人材育成』 ( 矢崎総業) ・組織変革への対応 ・技術伝承、技術基盤強化 など
17:15 〜 19:00
参加者交流会
JMAC トップセミナーのご案内
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
「JMACトップセミナー」 は、日本を代表する経営トップの方をお招きし、 経営者として改革を断行された視点・考え方などをお話しいただく経営トップ向けセミナーです。
日 時 (火 ) 2019 年 6月4日 会 場
15:00 〜 18:30
( 東京都千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー 6F)
定 員 対 象 参加料
ステーションコンファレンス東京 (お申し込み順 ) 50 名 経営トップ層、部門長の方々
基調講演
アイリスグループ会長 アイリスオーヤマ株式会社 代表取締役会長
「 ユーザーイン経営 」
● ●
大山健太郎氏
プロダクトアウトやマーケットインではなく、 ユーザーインの商品開発 「 快適生活 」 から 「ジャパンソリューション」 へ ● 企業理念の共有と実践
( 消費税込 ) ※参加者交流費を含む 10,800円
URL
www.jmac.co.jp/seminar/
19
Business Insights Vol.69
本誌68号 (2019年1月) に、以下の誤りがありました。訂正してお詫びいたします。 p.17の本文2段目4行目 誤:中津川、正:中津市
- ▲TOP
- ページ: 20
- Business Insights Vol.69
2019年4月発行
発行人:鈴木亨 編集人:田中強志 編集:柴田憲文 豊島涼子 ディレクション:中山真理子 (Project8) 編集・ライティング:島田ゆかり 中原美絵子 デザイン:井上宏樹 村松哉 (DynamiteBrothersSyndicate) 撮影:山田英博 整理:本橋健 木村舞子 (Natty Works) 校閲:寺薗かおる 表紙イラスト:平田利之 株式会社日本能率協会コンサルティング 〒105−0011 東京都港区芝公園3−1−22 日本能率協会ビル7F
© 2019 JMA Consultants Inc.
www.jmac.co.jp
本誌の送付先情報の変更、 ご意見・ご感想は、 こちらで受け付けています
https://dlabo.jmac.co.jp/bi
本誌の無断転載・複写を禁じます
- ▲TOP