生産現場の「ここが変だよ!」
第7回 「改善後」がベストという現場意識
- 生産・ものづくり・品質
- 生産現場の「ここが変だよ!」
有賀 真也
「今がベスト」と考えてしまう現場は、それ以上成長できない
改善活動も他の企業活動同様、PDCAサイクルの繰り返しから成り立っている。しかし、こと改善活動に関しては、一度よい成果が出ると「この職場のこの作業はこれがベストだ」とつい思いがちである。結果として、改善活動以降ずっと同じ方法でものづくりを行っているといった現場が数多く存在する。
しかし、本当に今の現場、今の作業方法が究極のあるべき姿なのだろうか?答えはNoである。なぜならば、日々管理技術・固有技術の革新が進むなかで、ある一時点の最適化がなされたとしても、半年後、5年後、10年後においても最適であるという保証は何一つないからである。どんな物事でも同じだが、「今が最適」と考えると成長は止まる。その先の発展はない。
なぜ「今が最適」と考えてしまうのか
「今が最適」と考えてしまう理由は単純で、「現状」と工場メンバーが思う「あるべき姿」がイコールであるためである。
以下の図で示す通り、問題(意識)は現在の姿とあるべき姿にギャップがあって初めて生じる。今の状態がベストだ、あるべき姿だと考えている限り、解決すべき問題はいつになっても生まれてこない。
外部刺激を有効活用しながら、改善のPDCAサイクルを回し続ける
では、どのような取り組みを行えば常に問題意識をもって仕事に臨む現場を作り上げることができるのだろうか。もっとも直接的かつ効果的なのは、外部からの刺激を与えることである。
現場に問題意識を持たせるための外部刺激(例)
1.自社内他職場への見学
2.自職場への見学受け入れ
3.他社工場の見学
4.他社からの自職場見学受け入れ ※要機密保持対応
5.インターネット上にある同種職場の作業映像閲覧
6.各種展示会への訪問
7.経営層による職場巡回
8.コンサルタントの利用
9.業界団体会合への参加
10.異業種交流会への参加
これらはいずれもあるべき姿を再設定する意識付けを行う上で、大変有効な取り組みである。また単に外部との交流を図るだけではなく、得られた意見や情報を文書化し、レポートとして整理しておくことで、直接外部刺激に触れられなかったメンバーへも、疑似的ではあるが体験を共有できる。
また、これらの取り組みを継続的に推進する仕組みを構築することができれば、さらに強力な改善意識付けの取り組みとして機能させることが可能となる。特に「7.経営層による職場巡回」はぜひ最優先して取り組みたい。なぜならば、経営層の現場への積極的関与は、改善活動の促進のみならず、現場管理者・作業者のモチベーション向上にも大きく寄与するからである。そうした経営層が関与するタイミングの参考として「3つの行動」は以下のとおりである。
複数部門が連携する形での取り組みは、経営層が現場と連携する好機である。各部門のメンバーは他部門に対して指示することができない。経営層が間に入ることで各部門単位では気が付かない問題点を顕在化させ、さらなる改善活動への端緒をつけることが可能となる。また、3つ目に記載した「褒める」こと、この取り組みもシンプルではあるが、現場メンバーにとって本当に力になる。経営層が現場をきちんと見てくれていること、また現状に対し激励のコメントをくれることそのものが、「このままではいけない、さらによくしなければ」という思いを生み、さらなる問題の設定、改善の取り組みにつながるのである。
合わせて本件に関する参考として、現場管理者・作業者のモチベーションを上げるための取り組みサイクル例を紹介したい。
この図は 「メンバーが自ら目標達成に向かうサイクル」である。経営者から現場管理者へ、あるいは現場管理者から作業者に対しての、①目標の落とし込み、②目標の達成(支援)、そして③目標達成(成功体験)を通じた成長実感の獲得、④次なる目標・問題設定に向けての意欲向上の実現の流れをサイクルとして表したものである。このようなサイクルを回し続けることで、現場は現状を是とすることなく、問題意識を持ち続けることが可能となるのである。
最後に本項の要点を整理する。
改善を計画し、実際にうまくいった場合、つい安心してその職場の改善活動が終わったと思いがちである。しかし改善活動は永遠の取り組みで、終わりはない。一度改善活動が実施されたら、そこを新たな「スタート地点」として、次の「ゴール地点」を定めて新たな改善の取り組みを計画し、進めていく意識を現場に根付かせることが重要である。
その意識付けには自職場外からの刺激を取り入れることが有効であり、中でも経営層の職場巡回は現場管理者・作業者のモチベーションを向上させる点でも大変効果が大きい。また、作業者が次なる問題設定へと歩を進めるためには成功体験の獲得が重要となる。「メンバーが自ら目標達成に向かうサイクル」の紹介を通じ、問題意識を継続的に持ち続ける方法を説明した。
もし本項を読んでいただいた各社内の職場において、現状が最適と考えてしまっている職場が含まれるとお感じになるのであれば、是非本項に記載した取り組みを実践いただきたい。きっと、皆さまの職場もさらなる高みをめざすことができると分かるはずである。
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