生産現場の「ここが変だよ!」
第3回 「根本原因」まで探れない現場監督者
- 生産・ものづくり・品質
- 生産現場の「ここが変だよ!」
白濱 匡晋
根本原因に目を向けず、不具合の連鎖に忙殺される現場監督者
どの業界でも同じことが言えるが、少子高齢化が進み、生産現場の若年層が少なくなってきている。多くの生産現場で人手不足のため、現場管理すべき監督者がプレイングマネージャー化し、自ら工程に入り日々の計画を達成させている状態が見受けられる。自らが作業を行うことと併せ、不具合に自ら対処することで、生産を成立させているため、表面上は問題が無いように感じられる。
しかしながら、監督者は自身が管理監督すべき現場で発生した生産の遅れや不良、設備トラブルなどの問題に対し、発生した現象やその後の対処に追われている。お客様からのクレームや工程内不良で同じような不具合が繰り返し発生し、歯止めがきかない。さらに、不具合に対して応急処置しかとらず、また現場に対してはこれ以上出すな!と声がけのみになっている。
本来は不具合の根本原因に対する対策、再発防止の仕組み、構造的な問題に手を打つべきであり、それこそが本来監督者が実践すべきことである。
現場監督者は問題の「司法解剖」をしているにすぎない
なぜ、そのような状態になっているのか。現場監督者がやっていることは、まさに「司法解剖」に例えることができる。何かしらの犯罪を匂わせる事件・事故で人が亡くなった場合、刑事訴訟法に基づいて司法解剖が行われる。司法解剖では、創傷の有無やその凶器の種類とその使用方法、死因、死因と創傷との因果関係、死後の経過時間などを検査するが、それは死に至った直接的な原因を突き止めることにある。
その後犯罪と分かった場合、警察や検察官によって犯人に対し、犯罪を起こした動機を探る。そしてその動機を起こさせる社会の仕組みや取り巻く環境などの背景を踏まえ、根本原因を探っていく。監督者はまさに、ここでいう司法解剖の部分しかやっておらず、その裏に潜む根本原因を見ていないのである。
なぜ見ていないのか。監督者もその日その日の現場作業に追われ、目の前で発生している事象に集中してしまっていることもあるが、監督している現場の仕組みが正しいと盲目的に思い込んでいて、その仕組みをより良くすることを考えていないことも原因と考えられる。また、現場で作業や対処をしている方が、改善するよりも楽で楽しいと思っている監督者もいる。 厳しい言い方をすれば、監督者は発生した問題の根本的な原因を考えることを放棄している、と言っても過言ではない。
死因(直接原因)の先の犯行動機(根本原因)を探り、対応策を考える
監督者は自身の担当現場の経営者という意識を持つことが必要である。前の例に当てはめれば、監督者は司法解剖医だけでなく、警察・検察官から行政までの役割を担うことが求められる。
監督者の現場における役割としては、
①次の監督者を育てる人材育成
②現場に対する作業指導
③現場の改善・継続
④ルールを順守させる職場づくり
⑤尊敬される人間モデル
が考えられるが、この中で不具合がなかなか減らない現場に対しては「③現場の改善・継続」に力を注ぐべきであると考える。現場で発生した不具合に対し、応急処置的に直接的な原因に手を打つだけでなく、その事象が発生した仕組みや文化に対して再発防止策を検討・実施していかなければならない。
根本原因を探る手法としては「なぜなぜ分析」※1や設備系だと「PM分析」※2が一般的に使われているが、昨今、人が要因となるヒューマンエラーに対し、医療業界や電力業界で「RCA(Root Cause Analysis)」が使われている。RCAの実施ステップは、その問題(インシデントやアクシデント)が発生した経緯を時系列で整理し、不具合とヒューマンエラーを見極めた上で、ヒューマンエラーに対し要因解析(なぜなぜ分析など)を行い対策立案・実施へと繋げていく手法である。
※2 不具合現象を原理原則で物理的に分析し、発生メカニズムを明らかにする手法。
ポイントとしては、最初のステップで時系列分析を行った際、ヒューマンエラーは1つだけではないことに着目することである。たとえば、自動車の接触事故を起こした時に信号の見過ごしだけでなく、見過ごす背景となった事象にも着目して原因追及を行う。
分析対象を設定し、その原因を探り、そう至った構造的な問題(仕組みの問題)に対し、対策を打つことが重要である。 また仕組みや文化の改革は、場合によっては監督者一人では限界がある場合も考えられるため、会社として経営層からのバックアップも含めた、全社一丸となった現場改善・改革を推進していくことが求められる。
それには現場監督者に対して、人・モノ・金に関する権限委譲をある程度行うことで、よりスピード感ある改革実行と共に、再発防止の改善サイクルの仕組化・定着を図ることが必要である。
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