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生産現場の「ここが変だよ!」

第12回 誰にも使われない故障記録

  • 生産・ものづくり・品質
  • 生産現場の「ここが変だよ!」

鐘ヶ江 克則

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作成した故障記録、使われているか


 保全部門は設備を故障停止させたら怒られる。かといって今日一日設備を停止させなかったからといって、それが当たり前と褒められることはない。サッカーでいうとゴールキーパーのような責任のある大変な仕事だと思う。
 過去の故障記録の内容を分析し、保全の弱点を把握し改善することで、保全管理のレベルアップを目指すことが、不必要な設備停止を防ぐためには必要となる。

 しかしながら現実はどうだろうか。設備トラブルが多発し、保全員は一刻も早い復旧が優先され、それにかかりっきりになっている。その忙しい中に故障内容を記録することになるので、その内容は処置内容のみといった最小限で終わっており、原因究明や分析に必要な情報としては不十分である。

 このような経緯で蓄積された情報のほとんどは結果として利用価値が低い。せっかく残した記録が故障件数の把握以外では使われることなく、たんすの肥やしならぬデータサーバーの肥やしとなって奥底に眠ってしまってはいないだろうか。このようなもったいない実態を筆者はよく目にする。

何のために故障記録を取るのか、何を分析したいのかが不明確

 故障記録が活かされずに肥やしとなってしまう理由の一つとして、「故障記録の目的が曖昧」であることが考えられる。
 記録データをその後どのように使うかをしっかりと考えていないため単なる実施記録にしか使用されていない。そのために層別分析などに必要な項目も不足しており、保全管理の強化のために分析をしたくてもできない、質の低い肥やしの情報が積みあがっていく。

 また、しっかりと記録されていても「言語データの標準化」が不十分で分析に使えないこともある。例えば、大文字・小文字や英名・和名、部品名・商品名等、表現のバラつきや入力する人の経験値によって同一の故障内容でもまったく異なるデータとなる。これらが混在していると当然層別分析・検索が困難となり、これも使われないデータの原因となっている。

故障記録データに基づく情報管理の仕組みづくりのポイント

①故障記録


 故障記録は、故障発生から処置までに事実としてわかったデータを記録する。その目的は故障件数などの管理項目の実績把握。もう一つは故障内容の分析を行って現状の弱点を抽出し、改善テーマに結びつけることにある。

故障記録に基づく情報管理


保全管理の弱点のとらえ方は下記のようなものが考えられる。
・どのライン、設備の故障が多いか
・どの機器・コンポーネントに故障が多いか
・MTTRの長い機器・コンポーネントは何か
・MTBFの短い機器・コンポーネントは何か
・どのような故障モードが多いか
※MTTR:Mean Time To Repairの略、日本語では平均修理時間。
※MTBF: Mean Time Between Failuresの略で平均故障間隔

また、故障記録には上記の様な弱点分析に必要な内容を項目にして記録する。参考までに故障記録に入れるべき項目を以下の図に示す。

故保全記録の入力項目例

②故障分析

 故障分析は故障データを加工層別し、保全管理の弱点を得る作業である。
 ここでは4元マトリクスを使用した故障分析を紹介する。4元マトリクスは設備・機器・部品・故障モードの4つの層別項目を同時に総合的に分析が行えるツールである。ここから発生頻度の高い故障内容を改善テーマ(故障解析)に選定するとよい。

4元マトリクスによる故障分析

③故障解析


 故障解析とは故障原因を究明する解析手法のことである。故障が発生すると何らかの対策を実施しているが、対策の内容が処置的な内容に留まっていて、再発防止まで至っていないケースも多い。これでは、保全体制のレベルアップは望めない。
 以下は原因を究明する解析手法である。

手順1.一次原因の故障モードを特定する
故障が発生したら、まずトラブルシューティングで故障モード発生部位を特定し、処置を行う。
解析テーマは必ず「コンポーネント・部品の故障モード」とすること。

手順2.故障モード発生部位の原則を抽出する
故障モードの発生を防ぐためには、次の条件を順守することが必要となる。この条件を「原則」という。
①機器・部品が機能を発揮するために最低限必要な物理・化学的な条件(必要条件)
②部品の寿命を短くしないための物理・化学的な条件(十分条件)

手順3.故障モード発生のメカニズムを特定する
目的は、点検・交換基準の制・改定を検討するための判断情報として活用する。

手順4.点検・交換基準の改定
故障記録は保全部門のほんの一部のデータだが、そこから保全活動全体のデータ活用の実態を見ることができる。少しでも自社に当てはまると感じたならば、本解説を参考にしてほしい。

参考文献
株式会社日本能率協会コンサルティング: 「故障に学ぶ」設備管理の基礎と実務

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