生産現場の「ここが変だよ!」
第8回 「モノ目」と「カネ目」がつながらない改善活動
- 生産・ものづくり・品質
- 生産現場の「ここが変だよ!」
有賀 真也
「カネ目」で成果を語れない製造現場
まずは製造現場の改善活動報告会でよくみられる光景を紹介したい。各職場の代表が気合を入れて壇上に登場し、各々が取り組んできた素晴らしい改善例を報告する。一通りの報告を受けた経営者からひと言、「なるほど、非常によい取り組みをしているようで何より。ところで、その改善成果はお金に換算すると一体いくらのコストダウンになったんだい?」。報告者は即答できず、押し黙ってしまう。
このような状況が生じてしまう理由はただ一つ、「モノ目」と「カネ目」のつながりをつける取り組みができていないためである。どれだけよい改善活動を行っていたとしても、最終的にその取り組みが経営成果、すなわち「カネ目」に寄与していなければ、経営者からの本当の意味での評価を得ることはできない。
よく生産性向上活動の成果として「労働生産性〇%向上」などが報告されるが、その内容は主に工数や数量、すなわち「モノ目」が中心で、往々にして製造原価(経営成果)への効果が不明瞭なことが多い。
たとえば「サイクルタイムを短縮して労働生産性を向上させる」という改善活動に取り組む場合、その改善活動で確かに生産活動に必要な工数(=モノ目)は低減するものの、他に何も取り組まなければ生産しない時間が増えるだけで労務費は当然そのまま、経営者が求めている経営成果(=カネ目)にはつながらない。「ロットサイズアップによる日当り付加価値額向上」や、「勤務時間短縮による支払労務費減」など、生産性向上活動により生まれる余剰工数の有効な使い方も計画・実践して初めて、本当の意味での生産性向上が実現するのである。
トップダウンとボトムアップの融合を通じ、経営成果に資する改善活動を実現しよう
経営者が本当に喜んでくれる改善活動を実践するためのポイントは「トップダウンとボトムアップの融合」にある。
トップダウン(目標)とは、経営層が管理対象としている「カネ目」の目標、ボトムアップ(目標)とは現場管理者・作業者層が管理対象としている「モノ目」の(達成することが現実的といえる)目標を示している。両者は意識的につなごうとしなければつながらない性質の違いを有しており、融合を実現するためには経営者側と工場管理者側、双方が「カネ目」と「モノ目」をつなげるための力を身につける必要がある。
とはいえ、その取り組みは決して簡単なものではない。幾つかの「障壁」が存在する。
・第一の障壁 財務会計から管理会計に展開できない
・第二の障壁 管理会計(カネ目)と企業活動(モノ目)を結びつけることができない
・第三の障壁 企業活動を改革するための技術力が社内に不足している
第一の障壁は、財務会計から管理会計に展開できない問題で、これは主に中小企業でよくみられる障壁である。企業は外部報告として財務会計の情報、主に損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)を利用するが、よりよい内部管理を行うために主に損益計算書の内容を用いて、管理会計と呼ばれる手法でカネ目の管理を行う。本項では詳細は割愛するが、各費目は主に変動費と固定費という2つの区分けで分類され、事業や製品のまとまりで集計されることが多い。この技術を身につけていないと、後述するカネ目とモノ目の結びつけが困難となるため、主に経営層ならびにスタッフ層が身につけるべき重要なポイントである。
第二の障壁が、本項の主題である管理会計(カネ目)と企業活動(モノ目)の結びつけができない問題である。この結びつけができてはじめて、トップダウンとボトムアップの融合が可能となる。両者を結びつける具体的な例を以下の図に示す。先述の通り、起点は「カネ目」である。この例では「社員の労務費」をターゲットとし(1~2次展開)、更に職場別に分解(3次展開)しているが、まずはそこまでの層別を管理会計上行えていることが、本取り組みの必要条件となる。 次に、カネ目である労務費をモノ目である生産性向上に変換している(4次展開)。
この「原価低減目標を実現するためには、どれだけの労働生産性向上を行う必要があるのか」を定量値に算出する力を身につけることが、現場管理者が身につけるべき最重要の能力である。この変換が上手くできるようになれば、あとは各現場がこれまでも行ってきたモノ目の目標管理を、粛々と行っていけばよい。
第三の障壁は企業活動を改革するための技術力不足である。これは端的にいえば改革・改善を進めるために必要な管理技術・固有技術を熟知し、かつ使いこなせる人材の不足を意味する。固有技術については業種業態ごとに大きく異なるためここでは割愛するが、管理技術に関していえばその骨格はIE技術にある。「測定なくして管理なし」の言葉通り、改善の目的・目標に最も適した指標を設定し、当該指標の測定手法を確立し、運用の中で適切なマネジメントを通じ日々レベルアップを図っていく地道な取組みが、本障壁の打破につながる。
以上、経営成果に資する改善活動を実現するためのポイントを解説してきた。これからの現場管理者は、従来得意としてきたモノ目の管理だけではなく、各種活動をカネ目に換算する力を身につける必要がある。とはいえ、これまで粛々と現場改善を行い、モノ目の成果を創出し続けた現場管理者にとっては決して不可能な取り組みではない。
是非本項で示した考え方・取り組みを現場改善活動に反映し、現場だけでなく経営層も喜んでくれる成果を創出頂きたい。
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