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第一線の組織マネジメントを考察する

第1回 当たり前のようで実は奥が深い第一線の組織マネジメント

  • 人事制度・組織活性化

伊藤 冬樹

 マネジメントという言葉は数多くの対象、場面で使われていますが、対象、場面によってそのあり方は大きく異なります。本コラムでは、第一線の組織マネジメントをテーマに取り上げます。第一線の組織とは、会社・団体・法人など組織によって名称はさまざまですが、多くの組織にある"課"をイメージしてもらえるとよいかと思います。その組織の中でこれから話すマネジメントをひととおり行う最小の単位と定義できます。つまり組織における諸活動の根源となるものであり、ここをうまくマネジメントできるかどうかで組織のパフォーマンスは大きく差がついてしまいます。本コラムは、現在この組織の長についている管理者(管理職)の方々に向けた内容にしていきたいと思いますが、これから管理者を目指すみなさん、また、第一線組織の管理者をさらに管理する立場にある方にとっても参考にしていただける内容になると思います。「何を今さら当たり前のことを...」と感じる方も多いかと思いますが、その実態を見るとさまざまな問題を抱えているのが第一線の組織マネジメントです。これからこの第一線の組織マネジメントのあり方について、みなさんと一緒に少しだけ深く考えていきたいと思います。
 ※本コラムでは第一線の組織マネジメントを「組織マネジメント」と短縮して呼びます。また組織の長を「管理者」もしくは「管理職」と呼びます。世の中では管理職には組織の長だけでなく専門職が含まれる場合がありますが、本コラムでは個別に注釈をしている場合を除いて管理職を組織の長の意味合いで使っていきます。

組織マネジメントとは

 はじめに「組織マネジメント」という言葉のイメージ合わせをしておきたいと思います。本コラムでは「第一線の組織の目的を達成するための、組織の長である管理職による組織に対する働きかけ」のことを組織マネジメントとします。これだけではわかりにくいので、いくつかの要素に分けて解説してみます。はじめに"組織の目的"から説明します。
 組織の目的としては、上位の目的達成のために、
1)その組織に課せられたミッション(業績)の達成
2)組織メンバーの成長(人材育成)
の2つがあげられます。
 "ミッションの達成"とは、たとえば年度目標の達成がそれに当たります。いわば"今日の成果"と捉えられます。もうひとつの"組織メンバーの成長"は、組織の明日を担う人材の獲得を意味していて、"明日の成果"と捉えられるものです。
 組織の継続的な運営のためには、これらの今日の成果と明日の成果の両方が求められます。したがって、この2つを組織マネジメントの目的として置いています。

組織マネジメントの4象限

 次に"組織に対する働きかけ"の解説を加えます。ここでは理解しやすくするために、組織の構成要素を明らかにしておきます。図1は組織の構成要素を模式図に表したものです。

col_ito_01_01.png

 つまり組織とは、組織目的を達成するための「業務」と「人」のマトリクスで成り立っていると捉えています。通常はある業務に担当者がついて仕事が進んでいくので、人と業務を同一視しがちですが、組織マネジメントを考えるときには両者を区分して考えます。
 "組織に対する働きかけ"は、この組織の構造を受けて「業務」と「人」に区分され、さらにそれぞれは「維持」と「強化」の2つに区分されて合わせて4つの象限に分けています。この全体像を表したものが図2です。

col_ito_01_02.png

 以降、4つの象限に対して簡単に解決を加えます。

業務遂行の領域

 はじめに1つ目の象限として「業務」の「維持」を説明します。その組織のミッション達成のために課せられた業務を遂行する領域です。業務には繰り返し業務、非繰り返し業務がありますが、それぞれ定められた業務を定められたやり方で遂行することが求められています。そのための上司の働きかけも多く、組織マネジメントというと誰もが思い浮かべる領域です。

人の活用の領域

 2つ目はこの業務の維持を行うための"人"に対するマネジメントの領域です。一人ひとりの行動が成果につながるように動機づけし、組織メンバーのチーム化、メンバー間での信頼関係の構築などで必要なコミュニケーションを促していきます。ただし、周囲の状況が変わってくると、遂行する業務が時代遅れとなり、それまで定められたやり方では通用しなくなってしまいます。そのときに求められるのが次の業務強化の領域です。

業務強化の領域

 業務強化の領域は、定められた業務のやり方、もしくは業務そのものの見直しです。業務の見直しはその範囲とレベルによって改善、革新などさまざまな呼び方があります。業務の維持と強化の線引きは定まったものがなく、組織によっては業務改善はすでに当たり前化していて、業務維持の一環と捉えられているところもあります。

人の強化の領域

 4つ目は人の強化の領域で、職場のメンバーのスキルや仕事に対する意識の向上を行います。人の強化のねらいとしては、業務変化への対応と本人のキャリアアップの2つです。具体的には人材育成や組織活性化といわれている働きかけとなります。
 第一線組織での人材育成はいわゆるOJTで、本社部門と連携を取りながら進めていきます。さらに活性化も人の強化の領域に位置づけていますが、これは人が事を成していくためにはスキル・知識の向上だけでなく、何としてでもやりきろうという強い意志が必要で、そのための働きかけが活性化です。
 人に対するマネジメントの「維持」と「強化」の区分は、業務ほど明確に区分されているわけではありませんが、それぞれの内容から領域のイメージをつかんでいただけると思います。

 以上、4つの象限を解説しました。組織マネジメントでは、現場の長(課長・部長)が「業務・人」×「維持・強化」の4象限に対して、まんべんなく働きかけることが求められています。ところが、この組織マネジメントは一筋縄ではいきません。

 次回以降、多くの組織が直面している組織マネジメントの実態、そして組織マネジメントのあるべき姿について、順次紹介していきます。

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