第一線の組織マネジメントを考察する
第13回 マネジメントスタイルを考える
- 人事制度・組織活性化
伊藤 冬樹
これまで"先手""自分事""自律自走"と担当層に展開したい行動を紹介してきましたが、今回はこれらの行動を促す職場の管理職の意識・行動(=マネジメントのあり方)について述べたいと思います。
ある職場で実践されている組織マネジメントは、いくつかの観点から特徴づけすることができます。これは、経営層、管理者層が求める担当者の行動が職場・業務の状況に応じて異なっていることによるのもので、これをわれわれはマネジメントスタイルと呼んでいます。
マネジメントスタイルの現状 上意下達型と融和型
これまで多くの職場で採られている組織マネジメントをマネジメントスタイルとして俯瞰的に眺めると、「上意下達型マネジメント」と「融和型マネジメント」の2つのパターンに類型化することができます。それらの特徴を図1に示します。
上意下達型マネジメントは、多くの企業の現場で見られるマネジメントスタイルで、管理職層が第一線でやるべきことを仔細まで決めて、それをトップダウンで現場に展開しようとするスタイルです。ルーティン業務の着実な遂行を主なねらいとし、統率の取れた組織を実現するためのマネジメントスタイルと位置づけられます。
一方で、上意下達型の対極に位置するのが融和型マネジメントです。業務よりも組織と組織の和の維持が最大のミッションとなっているスタイルで、波風を立てずに職場を運営しようとする極端な現場重視(ボトムアップ)のマネジメントスタイルです。このスタイルでは成果(業務)に対する関心も薄れやすく、また組織が閉鎖的になりがちで結果的に現状維持体質に陥りやすい傾向があります。
改革を促す自律自走型マネジメントスタイル
本コラムのテーマであるやりくりのマネジメントをベースとしたマネジメントスタイルを、われわれは自律自走型マネジメントと名づけました。この自律自走型マネジメントスタイルの特徴をまとめたものが図2です。
自律自走型マネジメントスタイルの基本は"任せる"です(ボトムアップ)。管理者から信頼メッセージを送り、自律自走行動を促します。さらに行動の振り返りから気づきを促し、仕事の質と成果のスパイラルアップにつなげます。
ただし、"任せる"といってもまったくの放任ではなく、最小限のマネジメントは行います(トップダウン)。具体的にはマネジメントの"場"を設定し、この場において組織の方向づけや状況に応じた支援・指導のコミュニケーションを行っていきます。たとえば、事業目標を担当層までブレイクダウンしたり、目標達成行動の頭出しのイベントを実施したり、といった行動は管理職側から仕掛けます。また、自走行動が勢い余って暴走してしまったり、本人の関心が薄れて行動が雲散霧消してしまったり、というような人の性弱性(第3回参照)が要因となっている現象に対しても、やはり管理職の出番となります。
ただし、これらの管理職の出番では、担当層への働きかけは一律的、強制的な指示・命令ではなく、相手が受け入れられるような伝え方をしたり、共に考えて結論を導き出すスタイルを取ったりします。また、必要に応じて個別指導を行うなど、きめ細かいコミュニケーションを展開し、本人の自律性を高めるアプローチを取ります。
自律自走型マネジメントは図2に示したように、"維持"よりも"改革"を促しやすいマネジメントスタイルです。これまでは維持型業務が主体であった職場でも最近は改革が重視される傾向があり、そういった意味では自律自走型マネジメントは、多くの職場で検討に値するスタイルであると言えます。
自律自走型マネジメントで人の成長を加速化する
自律自走型行動のためには、担当層は誰かが何かを教えてくれることを待っていてはダメです。自らが考え、悩み、意思決定し、また周囲に働きかけていくことが求められています。この取組みが本人の思考力、コミュニケーション力などのビジネススキルを磨いていきます。
また、改革の場面はこれまで培った知識だけでは対応できず、担当はさまざまな新たな情報を吸収し、悩み、新しい体験をし、新たな知見を得ることができる格好の場となります。改革推進プロセスそのものも重要なノウハウの塊で、若いうちから繰り返し経験することで、そのレベルはどんどん高まっていきます。
最近は人材育成の重要性が再認識されつつあります。とくに思考力・企画力・リーダーシップといった領域は、人工知能でも入りにくい領域と言われているようで、自律自走行動の経験は、これらの能力のレベルアップにつながることが期待されます。
このように自律自走型マネジメントは組織マネジメントの目的のひとつである人材育成を加速化するマネジメントスタイルでもあるのです。
前回の自律自走行動の項でも触れましたが、マネジメントスタイルもやはり状況に応じた使い分けが必要です。職場の特性、状況によっては上意下達型が適している場合もあるし、融和型が適している状態はそう多くないですが、それでも"ゼロ"ではないでしょう。さらに、職場の状況は時系列でどんどん変わっていきますので、ひとつのマネジメントスタイルに固執するのでなく、そのときどきで自職場に最適なマネジメントスタイルを採用することをお薦めします。
次回はこの自律自走型マネジメントを導入・推進・定着化するためには、具体的にどのような捉え方・取組みを実施すべきかを明らかにしていきます。
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