第一線の組織マネジメントを考察する
第7回 思考を“OR”から“AND”へ転換する
- 人事制度・組織活性化
伊藤 冬樹
"モノは捉えよう"の実践キーワードの2つ目は、「"OR"から"AND"へ」です。"WIN・WIN"の考え方や弁証法の中の"正・反・合"の考え方を参考にしているもので、モノの見方、考え方を"OR"基調から"AND"基調へ変えていこうというものです。この考え方を業務内でどのように活用するかについて、問題解決の場面との業務推進の場面という2つの代表的場面の中で紹介します。
問題解決の「"OR"から"AND"へ」は選択ではなく合一を目指す
白黒つけたがるデジタル思考の限界
職場で発生している問題の中には、「あちらを立てればこちらが立たず」といった対立状態のものが数多くあります。
これらの問題を解決しようとするときに、"OR"思考で検討している場面を多く見かけます。つまり問題解決とは対立案のどちらを採用するかを決めること、言い換えればどちらが勝ち(正解)で、どちらが負け(不正解)かの結論を出すという考え方です。
最近はこの"OR"思考で物事に当たる人が多くなった気がします。この背景には何でも物事を白黒ではっきり区分したがる、言わばデジタル思考の蔓延があるようです。さらには「正解追求思考」とでも言うのでしょうか、問題には必ずどこかに正解があって、問題を解くことは正解を探し出すことである、という考え方も合わさっているようです。つまり、与えられた選択肢の中に正解があると考え、どちらが正解かを考える(当てる)という考え方です。
デジタル化が進んだ世の中ですが、組織は生身の人で営まれています。そこには理屈だけでなく人の感情やさまざまなしがらみが存在します。第2回のコラムで話したように、現場とは矛盾が前提の場です。すべてが勝ち負けで判断できるものではありませんし、単純に論理だけで考えただけでは"解なし"の状況に陥ってしまう問題も多々あります。デジタル思考や正解追求思考そのものを全否定するつもりはありませんが、この思考だけで職場の問題課題を解こうとするといささか無理があるようです。
問題解決とは"AND"思考で、もがき苦しむこと
ここから発想を転換して"AND"思考に入っていきたいと思います。
"AND"思考では、この職場の対立問題を解決する理想形は、片方だけの案を取るのでなく、言わば両方の良いとこ取りをすることである、とします。そこで問題解決に当たっては、"対立(OR)"でなく"合一(AND)"の考え方を基調として解を追求してくのが"AND"思考なのです(図1)。
それではどうしたらこんな都合の良い解をつくり出せるのでしょうか。残念ながら"AND"思考には、こうすれば誰もが必ず解にたどり着くといった王道も手順もありません。もがきながら可能な限り両者が満足する新たな解を探っていくしかないのです。われわれも日ごろ仕事の中でもがき苦しんでいます。ここではみなさんがもがく際のヒントとして、われわれが日ごろのもがきの中で見出した"AND"思考のトリガーを図2に紹介します。
繰り返しますが、これらをトリガーとした検討をしても問題解決は保障される訳ではありません。それでも"AND"思考を追求することでステレオタイプ的なものの見方から脱却でき、思考の柔軟性も強まり、問題解決につながる発想が得られるようになります。
デジタル思考に慣れた人からすると、0でも1でもない中で仕事を進めるという、何とも歯切れの悪い気持ちになると思いますが、これが職場の問題解決の実態なのです。
業務推進の「"OR"から"AND"へ」は一石二鳥がねらえる
もうひとつの「"OR"から"AND"へ」は業務推進の「"OR"から"AND"へ」です。
第3回のコラムで経営から現場への要請が増大していることを話しました。これらの要請に対しては現場側から"OR"で返すことは許されず、"AND"しか道はありません。「それならば......」と言ってやぶからぼうに力づくで業務を進めても、しょせんやり切れる内容ではありません。一体どうしたらよいのでしょうか。
そこで、良い意味で要領良く仕事をしようというのが業務推進の「"OR"から"AND"へ」です。具体的にはひとつの業務に対し複数の意味(目的)を持たせ、ひとつの業務の遂行により複数の目的を達成するということです。一石二鳥と言えば「あぁ!」と頷く方も多いと思いますが、この一石二鳥を意図的に進めようということです。
イメージアップのために、私たちが人事制度改革の場面でよく推奨している"AND"業務の例をいくつか紹介します。
会社も個人もハッピーになる
はじめは目標管理制度です。多くの企業で導入されている制度ですが、現場の人々はこれを評価制度と捉えている人が多いようです。評価のためだけの目標管理と考えると、余計な面倒くさい仕組みと見なされてしまいます。職場内の関心事はどうしても職場の業績(ミッション)達成になりがちで、"OR"思考ではそれ以外の業務は必要性であることはわかっていても優先度は低くなってしまうのです。
ところが目標管理とは、そもそもはP・ドラッカーが唱えたマネジメント(業績管理)の仕組みなのです。詳細の説明は省きますが、この目標管理制度を本来の業績管理の仕組みとして活用し、その結果を評価にも活用するというふうに捉えなおそうというのが"AND"思考です。目標管理も業績達成のための仕組みだと捉えると、担当者の本気度もずいぶん変わってきます。本気で取り組むので達成度も高くなることが期待されます。そしてこの成果を評価に反映させれば、部門の業績と個人の評価の相関が高くなり、会社も個人もハッピーという状態の実現につながります(図3)。
"AND"思考でOJTが蘇る
OJTも捉え方によってかなり変わってきます。
OJT=人材育成と誤解され、日ごろの業務とまったく関係のないOJTテーマが設定されて、結局手付かずに終わってしまう例が多く見られます。担当している業務周辺でのOJTテーマであれば、業務遂行のついでに取り組むことができます。さらには、業務遂行の中にチャレンジ要素としてOJTテーマを取り込めば、やらざるを得ない状況になります。
このように「"OR"から"AND"へ」と発想転換することで、同じ時間を過ごしていても得られるものが2倍、3倍にもなり、密度の濃い会社生活を送れるようになるのです。
「"OR"から"AND"へ」の発想で仕事の意味合いが深くなる例は人事以外の場面でもたくさんあります。やり切れないと言うみなさんの悩みをぜひとも"AND"思考で切り返し、たくさんの成果を同時に獲得してくことを期待しています。
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