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第一線の組織マネジメントを考察する

第3回 組織マネジメントが求められる背景

  • 人事制度・組織活性化

伊藤 冬樹

 今回は、組織マネジメントとその上位の概念である経営・事業との関係性を明らかにしていきます。

経営からの3つの要請+α

 経営・事業を取り巻く環境の変化に伴い、現場に対する要請も迅速化、高度化、複雑化しています。個別の要請は組織ごとに異なりますが、大きく以下のようにまとめることができます。

■年度業績の達成

 1つ目の要請は年度業績の達成です。これは誰もがすぐに思いつくでしょう。

 売上・利益、商品開発、品質向上、生産性向上、CS向上など、部署によってその内容は変わってきますが、年初に経営からの要請を受けて業績目標が設定されます。また結果オーライでなく、所定の業績を出すための仕事のプロセスをきちんと踏むことへの要請も高まっています。当然ながら現場のメンバーの関心も高く、「今年(の業績目標)を乗り切らないと明日はない」との認識のもと、業績達成に向けた取組みが行われている領域です。

 ここは、組織マネジメントの領域では業務と人の維持の領域に相当します。

■改革施策の推進

 2つ目の要請はさまざまな改革施策の推進です。

 現場の組織で仕事の進め方、場合によっては仕事そのものを見直すという改革ですが、この要請には2つのバックグランドがあります。

 ひとつは前の項で触れた年度業績の達成に端を発する要請です。これまでどおりの仕事の進め方では業績達成が見込めない場合に改革を推進しようというケースです。もうひとつは数年先を見据えての改革で、中期経営計画やロードマップに基づいた事業構造改革、新技術開発、新規顧客開拓、海外進出といった施策が代表的な例です。

 ここは組織マネジメント領域では業務の強化に相当します。さらには、この改革の推進者である部下が改革を率先して進められるように人の強化の領域にも相当します。

■人材育成

 3つ目の要請は人材育成です。

 現在の業務を遂行するための育成指導は言うに及ばず、中長期を見据えたときに事業継続を意識した人材育成も重視されています。この人材育成は人材開発部門だけが担うのではなく、現場でも注力して取り組むべき領域です。

 OJT(On the Job Training)はすでに多くの職場で展開されていますが、新人や若手層だけでなく、中堅、ベテラン、ひいては管理職層も含むすべての層に展開すべき施策だと思います。

 この人材育成の領域は組織マネジメントの象限では人の向上の領域に相当します。

 主な要請項目は以上の3つに集約されます。しかし経営事業からの要請はこれだけには留まりません。

 たとえば、最近では事業のグローバル化対応の要請が高まっています。事業領域・製品のグローバル化はもとより、最近ではオフィスの隣の席は外国人といった状況も珍しくなくなっています。こうした中ではカルチャーギャップも多く、とくに人の維持領域でのマネジメントの采配が求められています。さらには企業倫理、法令遵守、ハラスメント対策、個人情報保護といったコーポレートガバナンスの強化が叫ばれており、これらは業務や人の維持領域のマネジメントでの包括的な対応が求められている要請だと言えます。

笛吹けど踊らずの"現場の慣性力"に負けない組織マネジメントを

 これらの要請に応えるに当たっては、新たな仕組み、システム、制度が経営・本社サイドにより構築され、現場に展開されます。これらの仕組み、システム、制度を運営するのは現場のメンバーですので、施策の展開に当たっては本社部門から対象者に対して説明会が開催されたり、ガイドブック、マニュアルなどがグループウェアに掲載されたり、紙媒体で配布されるなどして提示されます。

 ところが、一度説明されたくらいでは現場はまったく動きません。このあたりのメカニズムについては、現在は東京理科大学大学院イノベーション研究科の伊丹敬之教授が『場のマネジメント』(NTT出版、1998年)の中で説いています。

 図1の「経営施策が現場で実践されるまで」にそのメカニズムをまとめます。

構想から行動化プロセスを経て、行動そして結果までの流れにおいて、現場第一線の人々の解釈や行動の相互作用が働いている

 つまり、現場では経営サイドからの新しい施策の情報が入ると、まずはメンバー間でその情報をどう捉えたか、といった会話が起こり(情報の相互作用)、これは本気だぞと認識され(相互理解)、さらに何らかのきっかけにより、やるしかないと意思決定され(心理的共振)、初めて実際の行動に移るというのがそのメカニズムです。

 このときに施策を仕掛ける側としては、一度説明したのだからわかっているだろう=実践するだろうと考えがちで、その後のフォローも行わずに放任しがちです。ところが、現場には、"現場の慣性力"とでもいうものが存在しており、放っておいたままではその施策はまず実践されません。"現場の慣性力"は人の持つ二面性から説明できます。人は誰もが図2のような二側面を持っていると言われています。

ネガティブな面とポジティブな面があるが、放っておくとネガティブ側が支配的になってしまう。

 担当層の意識のうち、右側のポジティブな側面を顕在化させれば現場での施策は進むのですが、人は放っておくと、今までどおりに定められた業務を定められたやり方で続けよう、大過なく仕事を終えよう、という現状維持の意識に半ば本能的に支配されてしまいがちなのです。

 場のマネジメントを提唱された伊丹先生は著書『経営の力学 〜決断のための実感経営論〜』(東洋経済新報社、2008年)の中で、人の意識を"性善説でもなく性悪説でもない性弱説"と言っておられますが、この実態をうまく表現されていると思います。

 この状況の中で、あえてポジティブな意識を表に出し、相互作用→相互理解→心理的共振の改革実践プロセスを促進するための働きかけが求められているのです。そしてここを担うのが現場の管理者による組織マネジメントなのです。

 以上、組織マネジメントが求められる背景について話してきました。次回は、この組織マネジメントの第一線の現場における実態を明らかにしていきます。

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