第一線の組織マネジメントを考察する
第2回 やりくりのマネジメント ―組織マネジメントのあり方―
- 人事制度・組織活性化
伊藤 冬樹
第1回で伝えた組織マネジメントとは、「第一線の組織の業績達成、人材成長のための、管理者による組織の業務・人・維持・強化の4象限に対するまんべんない働きかけ」ということでした。ところがこの組織マネジメント、「言うは易く、行うは難し」というのが実態です。
マネジメント行動の基本はPDCA
組織マネジメントの主体者は、もちろん組織の長である管理者です(前回の組織マネジメントの図にも"管理者とは、自分の意志を、人を動かして、実現する人"と示しています)。管理者自身が動くのであればある意味簡単なのですが、自分ひとりでできる範囲には限界があります。そこで部下である担当層を中心に働きかけを行い、自分の意志、具体的には自分が描く目指すべき状態を実現させていく、これがマネジメントなのです。そしてその働きかけが、みなさんご存知のP(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Action)となります(図1)。
ここでPDCAについて簡単に復習しておきましょう。
まずはじめはマネジメントの対象に対し、どういう状態を目指し、どのような施策をどのような手順でいつまでに推進するか、といった計画(P)立案です。チェック(C)では、実績と計画との差異をチェックします。そのうえでその差異を低減させるためのアクション(A)を検討、推進します。
PのないCでは判断できませんし、CのないPを立てても意味がありません。手間暇はかかりますがPとC、そしてAを確実に進めていかなければならないのです。さらにこのPDCAですが、組織マネジメントの4象限のすべてのマネジメント対象に対して、それぞれ運用が求められているのです。業務遂行だけでなく、部下育成においてもPDCA、コミュニケーションに対してもPDCAです。
これだけでも多くの手間暇がかかるものなのですが、最近の管理者はマネジメント専任でなく、プレイングマネジャーとして担当の業務も兼務している人が多く、彼ら彼女らからはそれこそカラダがいくつあっても足りない、といったつぶやきが聞こえてきそうです。
そんな面倒くさい組織マネジメントなんてやらない、やりたくない、という方もいるかもしれません。ところが経営、事業運営の側面から見ると、やはり組織マネジメントは必要不可欠なものです。
今回ははじめに、このコラムの中で一番みなさんに伝えたい、この組織マネジメントのあり方にについて述べます。
完璧な理想状態はないと割り切る「やりくりのマネジメント」
結論から言うと、「完璧な組織マネジメントはあり得ない」ということになります。
肩透かしのような文章ですが、筆者の長年の経験から培った知見は、組織マネジメントを語るにはこの前提から入るしかないということです。そのうえで推進する組織マネジメントをわれわれは"やりくりのマネジメント"と呼んでいます。
誰もが願うのは、スカッとした青空のように何の懸念事項もない状態の中で組織マネジメントが進められていることですが、そんな理想状態の現場は見たことがありません。現場では無理難題が押し寄せ、さまざまな矛盾が生じ、多くの問題が発生している中での組織マネジメントが求められているのです。この状況は確かに歓迎される状態ではありませんが、かといって逃れることはできませんし、"やればいいんだろっ!"と開き直ってマネジメントを行っても、嫌々では決して良い知恵は出てきません。
すでに管理職になられている方は、よほどのことがない限りその職を降りるというわけにもいきません。自分の不幸を居酒屋でグチるのは勝手ですが、問題は好転しません。
では、どうすればよいのでしょうか? 対応策として、思い切って物事の受け止め方を180度転換させるのです。組織マネジメントの理想状態はあり得ないと割り切って、無理難題、矛盾、問題だらけの現状を受け入れのです。さらに、自分が管理者であることも受け入れ、こんな状況の中でも何とかマネジメントを進めていこうと前向きに取り組んでいくのです。現状では否定的な面が目立つかもしれませんが、"モノは捉えよう"で別の見方をすれば同じ現状でも肯定的な面も見えてきて、前向きにコトに当たれるようになるものです。
自分が管理者であることを受け入れると物事の見方(見え方)が変わり、不思議なことに知恵も出てきて、100点満点ではないけれど、何とか合格点レベルの組織運営ができるようになります。
このように、不完全な職場の中でも前向きの意識を持ち、不完全であっても何とか"やりくり"しながら、組織目的の達成のために最善策を追求し続けるのが組織マネジメントの真髄なのです。
みなさんの期待した解答だったでしょうか? もっとすっきりした正解がほしいですか? 残念ながら組織マネジメントにはすっきりした正解などないのです。それでも取り組まないといけないのが組織マネジメントなのです。
次回は、経営・事業から見た組織マネジメントへの要請を明らかにしていきます。
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