今こそ環境経営の推進を
第1回 高まる環境リスクと低下する環境危機意識(その1)
山田 朗
企業の存在意義とは何でしょうか? もしその答えの1つに「社会に貢献する」ことが含まれているならば、少なくとも将来世代が大きな被害を被る可能性のある現在の持続不可能な社会を見直す努力が必要なことは言うまでもありません。
地球環境問題はいろいろありますが、もっとも対策が困難で影響が大きいのが気候変動(地球温暖化)です。温暖化は恐ろしい勢いで進んでいる一方で、環境危機意識はここ数年低下していると感じられます。みなさんの会社ではいかがでしょうか?
本コラムの第1回では、過去を振り返り環境活動の動きと併せて環境危機意識の変化を捉えてみたいと思います。
1990年代 環境意識の急進期〜環境革命の幕開け
環境問題といえば公害問題だった時代を経て、地球環境問題がクローズアップされだしたのは1980年代後半からです。さまざまな地球環境に関する調査結果により、地球は瀕死の状況にあることがデータとともにわかってきたからです。
92年にリオで開催された地球サミットでは、20世紀のわれわれ人類の爆発的な化石燃料の使用と、「大量生産⇒大量消費⇒大量廃棄」という社会システムが地球に大きな影響を与え続けてきたことによる地球規模の環境問題が指摘され、人類共有の脅威であるとの認識が進みました。環境革命の幕が切って落とされた非常に意義のある会議でした。ここで採択された「リオ宣言」に基づき、93年には日本の環境法の最上位に位置づけられる「環境基本法」およびその行動計画である「環境基本計画」が策定されました。
96年にはISO14001環境マネジメントシステムが制定され、その後は多くの企業が自ら環境マネジメントの仕組みを構築し、環境負荷低減活動に取り組み始めました。
ISO14001は社員の環境意識の高揚と企業自らの継続的な環境活動の推進に大きく貢献しました。JMACが環境のコンサルティングを始めたのもこれがスタートでした。
翌97年、京都で開催されたCOP3(気候変動枠組み条約第3回締約国会議)では、先進国に温室効果ガスの削減を義務付ける京都議定書(90年度比で2010年前後に全世界で△5.2%削減、日本△6%削減)が採択され、先進国は法的拘束力をもって温暖化対策を推進していくことになりました。
JMAでは毎年産業界へ経営革新活動を行なっていますが、98年度は「新たな企業の成長・発展をめざす環境経営 ―エコロジーとエコノミーの統合に向けて―」という経営革新提言を行いました。
2000年前後、循環型社会形成推進基本法と容器包装リサイクル法、食品リサイクル法、家電リサイクル法などさまざまな個別のリサイクル法が制定されました。循環型社会へ向けての法整備が進み、企業もリサイクル率の向上などを環境目標に掲げて活動を始めたのもこのころです。
このように90年代から2000年の初頭では、法整備やISO14001の普及で企業はこぞって環境活動を促進し、環境報告書などでアピールしていくことで企業のみならず市民の意識も変わってきました。JMAが毎年行っている「当面する企業課題に関する調査」の2001年報告書では、将来の経営上の重点課題において、「環境・資源問題」に関する課題が3位に入って驚かされました。これは財務体質に関する課題(4位)やビジョン・事業戦略に関する課題(5位)よりも上位です。われわれが「環境経営の挑戦 Eco-Ecoマネジメントのすすめ方」を出版したのもそのころでした。
2000年代 環境意識の高度停滞
このように2000年の前半に向けて環境危機意識は大きく向上したと言えます。その後はとくに大きな動きはなく、企業はISO14001に基づき粛々と環境活動を推進してきました。
その後CSRの掛け声とともに「環境」のみならず「組織統治」「人権」「労働慣行」など幅広い企業の社会的責任に視点が移り、それに伴い環境面の意識や活動は相対的に薄れてしまったように見えます。
京都議定書の温室効果ガス排出量のカウント期間である2008年の直前からリーマンショックが起こり、世界的に経済が停滞したため二酸化炭素の排出量は大きく低減したものの、多くの企業は環境どころではない状況に陥りました。
2009年鳩山元首相が国連で温室効果ガスを2020年に90年比25%削減する目標を表明したことは大きなインパクトがありました。これにより多くの環境先進企業では、国の目標に準拠して自社の中長期目標を検討するようになり、環境への関心が経営課題として再び盛り返した感があります。私もこの時期はいくつもの企業で中長期の環境経営戦略の立案のお手伝いをさせていただきました。
2010年代 環境意識の衰退
盛り返しに大きくストップをかけたのが、2011年の東日本大震災でした。社会・経済に大打撃を与えただけでなく、これ以降は政府の温室効果ガス(二酸化炭素)削減の議論は一切聞こえなくなりました。温室効果ガス削減の議論は原発の議論と密接な関係があるため、これに言及をすることができなくなったのです。電力危機回避のための節電運動は大きく推進しましたが、二酸化炭素排出量は増加するなか企業の地球環境への危機意識は低下していると感じています。このことについて私は強い危機感を持っています。
次回は、高まる環境リスクについて共有したいと思います。以降、環境経営コンサルティングからフィードバックした環境経営に関する情報なども紹介していきます。
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