今こそ環境経営の推進を
第10回 ISO14001 2015年改訂はEMS改善のチャンス その2
山田 朗
もしみなさんの会社の現在のEMSが「重い・形骸化している・成果が出ない・経営に役立っていない」などの改善点を抱えているのであれば、この10年ぶりの改訂を改善の機会にしてください。
下図に改善の方向性を示します。縦軸の「ISO規格ベースの仕組みのレベル」の改善は、ISOで求められる仕組みを改善することです。横軸の「環境取組みの幅」は、環境目標や管理項目など、実際の環境活動項目を役立つものに拡大するということです。この2軸を説明します。
ISO規格ベースの仕組みレベルの改善
縦軸の「ISO規格ベースの仕組みレベル」とは現状のEMSが重くお荷物的な存在なのか、シンプルで役立つ仕組みになっているのかを示しています。
2015年改訂は大改訂と言われていますが、従来の仕組みで対応できる部分がほとんどです。したがって、従来のEMSに問題があると2015年版の変更部分を変えただけでは、今後も悪い部分を引きずったままになります。
前回書いたように、各要求事項に対して、みなさんの会社にとっての重要度の強弱を付けてください。弱くてもよい部分については、徹底的に簡素化してみてください。
簡素化として、
- 手順を変える
- 手続き(実施ステップ)を減らす
- 対象範囲を限定的にする
- 報告・承認などをやめる
- 記録や作成資料をやめる(または簡素な様式にする)
などが考えられます。
外部審査で指摘されることをあまり気にする必要はありません。堂々と主張すれば審査員もわかってくれるはずです。
2015年版で新たに加わった要求事項である、「企業の抱える内部/外部の課題」と「利害関係者のニーズおよび期待」を明確にし、それらを踏まえて「リスクおよび機会」として環境の取組みを決める部分では、新たな仕組みが必要です。できるだけ簡単にかつ有益な環境取組みが「リスクおよび機会」として抽出されるように考えることが重要です。環境影響評価のプロセスを見直して、このプロセスだけから「リスクおよび機会」を抽出する仕組みにすることも可能です。
環境取組みの幅の拡大
次に横軸についてです。いわゆる「紙、ゴミ、電気」の取組みはやりつくして、今後何をやったらよいかわからないという声をよく聞きます。しかし一部の環境経営先進企業を除いて、多くの企業ではまだまだ取組み事項はあります。ISO9001に比べてISO14001、つまり環境活動はとくにこの横軸の環境取組みを何にするかが重要と考えています。私は環境経営戦略策定のコンサルティングで、この環境取組みを抽出するために6〜7つの視点を提供していますが、ここではその1つを簡単に紹介します。
改善活動など何らかのアクションを起こそうとしたら、まずは現状把握が第1ステップですよね。つまり、自社をしっかり知ることを環境取組みにすることができます。「自社の何を知ればよいか?」 は、「ステークホルダーが何を知りたいか?」-で考えたらよろしいかと思います。ステークホルダーが知りたいことを、企業が公開すべきとしてまとめたものが、環境省の環境報告書ガイドラインに記載されています。
下図に環境報告書ガイドライン2007の項目を絵にしました。2012年度版が最新版ですが、公開すべき項目が3つの階層によく整理されているので、あえて2007年版を載せています。
図中の【①「事業活動に伴う環境負荷およびその低減に向けた取組の状況」を表す情報・指標(OPI)】は、いわゆるマスバランスと呼ばれるもので、工場へインプットされるエネルギー量、水量、資源量と工場からアウトプットされる温室効果ガス量、大気汚染物質量、化学物質量、排水量、廃棄物量、最終埋立て処分量、そして総製品生産量です。これらの数値は把握できていますか? そして活用できていますか?
たとえば総物質投入量(トン)から総製品生産量(トン)を引いた量がマテリアルロスです。形を変えると総製品投入量を総物質投入量で割ったものが、資源生産性です。これらを指標としたマテリアルロス削減または資源生産性向上の活動も環境取組みになります。
また、これらのインプット、アウトプットの量を総製品生産量で割ることにより、原単位化ができます。製品1トンつくるために投入されるエネルギー、排出される廃棄物量などです。これらの数値を改善することも取組みになります。
このように原単位化することにより、他社との比較も可能になります。これらは工場全体での指標ですが、工程にブレークダウンして展開することもできます。
また、【②「環境マネジメントなどの環境経営に関する状況」を表す情報・指標(MPI)】もよく見てください。これらの項目についての外部に説明できますか? 貴社にとってさらに強化すべき部分はどこでしょうか? これらも環境取組みに展開することができますね。
重要なことは、環境と経営の両方に貢献できるような取組みにすることです。これを意識して環境取組みを決めて、事業計画とリンクした中長期環境経営計画を策定することが、私の言う環境経営戦略になります。この中長期環境計画を現実化する手段がISO14001になります。
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