今こそ環境経営の推進を
第2回 高まる環境リスクと低下する環境意識(その2)
山田 朗
第1回では表題のうち低下する環境意識を筆者の感覚でまとめてみました。今回は改めて気候変動の実態と高まる環境リスクについて、みなさんと共有したいと思います。
気候変動監視レポートから読み取れること
まず、みなさんも実感していると思われる異常気象についてです。気象庁が2014年6月に出した「気候変動監視レポート2013」には、国内外の異常気象が明確に示されています。たとえば、1901〜2013年の113年間で気温上昇、大雨の増加が統計的にも有意であることがわかります(下表)。
また、同レポートのコラムには、興味深いことが書かれています。
「世界平均気温は約100年で0.69℃上昇している(日本は1.14℃)が、最近の15年間の二酸化炭素濃度は高まっているのに気温上昇は停滞(ハイエイタスと呼ぶ)している。この原因の1つには、気候システムに蓄積されている熱が、海洋の深層に再配分されているためである。温室効果ガス濃度の増加によってこれまで地球の気候システムに蓄積されてきた熱量の90%以上は海水の温度上昇に使われており、大気の気温上昇に使われた熱量はわずか2%である。これは海洋内部の変動に伴う熱の吸収量のわずかなゆらぎの影響が、大気の側には大きなゆらぎとして現れる可能性があることを示唆している」ということです。
これはしばらくおとなしくしていた気温が近い将来急激に上昇する可能性を示唆しています。とても心配ですね。先月(5月)の異常高温が、ハイエイタスの終幕の表れでないことを祈るしかありません。
温度上昇を2℃以内に(IPPCC第5次レポートより)
気候変動について、もっとも権威のあるIPPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次レポート(2014年12月)についてもポイントのみ共有してみたいと思います。
第一作業部会では、「温暖化の科学的根拠」を調査してまとめています。「温暖化については疑う余地がない。人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い(可能性95%以上)」と結論づけています。
第二作業部会では、「温暖化の影響・適応・脆弱性」について調査しまとめています。ここでは、下表に示すとおり8つの分野で将来リスクが高まると結論づけています。
現実的にこうした危害を大きく被るのは、われわれの子供または孫の世代であることをよく認識する必要がありますね。
第三作業部会では、「気候変動の緩和」を調査しまとめています。ここでは、世界の温室効果ガス排出量(人為起源)は、京都議定書などの国際的な取組みの甲斐なく1990年の39Gtから2010年には49Gt(Gt:10億トン)に大幅に増加していることを示しています。約0.7℃の温度上昇でこれだけ世界中で異常気象が発生していることを鑑み、改めて気温上昇を2℃以内に食い止めるべきとの提言をしています。そのためには二酸化炭素濃度を450ppmに抑える必要があることを示しています。
しかし産業革命以前は270ppmで安定していた二酸化炭素濃度は、最近400ppmを超えてしまったと報道されていましたね。すでに2℃シナリオの達成は困難との見解を示す有識者も多く、「緩和(削減)」政策から温暖化のリスクに「適応」する準備を進めることの重要性が叫ばれるようになっています。
今後ますます期待される企業のリーダーシップ
世界的な動きとしてはCOP(気候変動枠組条約締約国会議)が毎年開催され、気候変動についてさまざまな検討を進めています。今年12月に開催が予定されているCOP21では、京都議定書に参加しなかったアメリカや、中国など発展途上国と分類され義務を負っていなかった国々を含めて、各国の2021年以降の二酸化炭素削減の取組みを発表することになっています。
現段階ではEUは1990年比2030年に40%削減、米国は2005年比2025年に26〜28%削減(90年比14〜16%削減)、日本は2013年比2030年に26%削減(90年比18%削減)などの目標が示されています。
日本を含めた先進国は、2℃シナリオを鑑み2050年に90年比80%削減(世界全体で50%削減)をコミットしていますが、そのためにはこれらの各国の目標で十分でしょうか?
日本の場合、上記の目標が達成できたとしても90年から2030年の40年間で18%の削減です。2030年からの20年間で、さらに62%削減が必要になるのです!
いずれにせよ気候変動については、安易に「適応策」の議論に移る前に、今一度「緩和(削減)」を徹底的に検討する必要があると考えます。国に期待できない状況のなか、企業がリーダーシップを取って二酸化炭素の排出抑制、省エネルギー(エネルギー生産性最大化)を極限まで進める努力を続けることがますます重要になっています。単に電力・燃料費高騰とういう目先の対応だけでなく。
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