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第19回 急加速する脱炭素への道 (2)~SBTレベルの目標をどのように達成するか~

山田 朗

 前回「脱炭素」を取り上げたばかりですが、この間にも、私の周りでは「脱炭素への道」が急激に加速しました。
「SBT(企業版2℃目標)を立てた方がよいのか?」「スコープ3排出量をグローバル拠点でどのように効果的に算定したらよいか?」「SBTレベルの中長期CO2削減目標を設定したが、グループ全体で効果的・効率的に進めるにはどうしたらよいか?」といったコンサルティング依頼が多数舞い込んでいます。

 今回はそれらの中でも悩みの深い、「SBTレベルの目標をどのように達成するか」について、各企業がどのように対応しているかをお知らせします。

グローバル企業の環境統括部門の悩み

 SBT(Science-based Targets)とは、パリ協定の目標(世界の平均気温の上昇幅を2℃未満に抑える)と同じく企業でCO2削減目標を設定するイニシアチブのことです(環境省は「企業版2℃目標」とわかりやすく呼んでいます)。現在の2℃目標でもかつてないレベルのCO2削減目標に取り組まなければなりませんし、最近SBTの認定機関であるSBTi(Science Based Targets Initiative)が気温上昇幅を2℃から1.5℃に基準を高めるアナウスをしたので、2019年10月以降はさらにハードルが上がります。

 さらにこの目標はグループ会社全体で取り組むことが求められているので、グローバル企業であれば全世界数十拠点にもおよぶ工場を束ね、高次元の目標達成に取り組まなければなりません。これを統括する環境部門の苦悩は大変なものです。

 全拠点のCO2排出量を把握できていれば、グローバル全体の2030年CO2目標排出量はSBTルールに従い容易に設定できます。しかし売上が伸びることを考慮すると、削減量の想定からして容易ではありません。売上とCO2排出量は単純には比例しませんし、固定部分(売上に関連しないCO2排出量)があるからです。ですからこの成り行き排出量BAU(Business as usual:特別の対策を実施しない)の設定ですら頭痛の種になります。全体のBAUが想定できたら、そこからCO2目標排出量を引いてCO2削減目標量がようやく明確になります。

CO2削減方策

 次にそのCO2削減目標量をどのように削減するかという問題です。削減方策は大きく分けて、

  1. 省エネルギー
  2. 低炭素電力への転換
  3. 創エネ(再エネ導入)
  4. 非化石証書・グリーン電力・Jクレジットなどの購入

の4つになります。これらをうまくミックスさせて中長期のCO2削減計画を策定することになります。

 またSBT目標は2030年で設定することが多いですが、実際の計画は中期経営計画とリンクすることが絶対条件なので、中期経営計画の最終年度に目標をブレイクダウンして作ることが重要です。

図 中期経営計画と連動してSBT目標を立てる

やはり「省エネルギー」が基本


 ここからは製造業を対象に書きます。

 CO2削減方策のなかで、何を基本に考えるべきでしょうか。答えは省エネルギーだと私は考えています。昨今、国内企業の生産技術力の低下が叫ばれていますが、今後、企業の競争力の源泉となる重要な指標の一つが生産技術力であり、高次元の省エネ活動に取り組むことは生産技術力の向上に寄与すると確信しているからです。

 私は「生産工程からエネルギーを診る」という省エネのコンサルティングも行っていて、省エネ診断で各工程を見ていくと「なぜこの基準になっているのか?」「そもそもこの工程の目的機能は何か?」「それに必要なエネルギーはいくらか?」といった根本的な質問に、担当者から明確な答えが返ってこない場合が多いのです。そういったとき、エネルギー管理の専門家と生産技術の専門家をメンバーに入れて省エネ活動をすると、生産技術上のさまざまな問題点が浮き彫りになり、改善が進むことが多々あるのです。

 では、そもそもなぜ2℃目標などという高次元の目標を企業はあえて設定するのでしょうか。それは2℃目標にコミットした経営トップは「イノベーションを生み出したい」という強い思いを持っていることが一つの要因ではないかと私は考えています。脱炭素社会に向け、徹底したスマート生産方式を構築しないと生き残れないという危機感と言ってもいいかもしれません。

省エネルギーの各拠点の削減量目標設定 

 以上のことから、いくつかのCO2削減方策のうち、まずは徹底的に省エネルギーを追求することでどこまで行ける(CO2を削減できる)のかを見極めることが、企業にとって大きな課題になります。当然、各拠点で省エネ対策に取り組んでいるものの、その徹底度は各拠点でバラバラです。各拠点一律で削減目標を割り振るのでは、当然不公平感が出ます。環境統括部門にとって重要なのは、各工場が競い合ってCO2削減活動を続ける仕組みをどうつくるかということです。このように健全な競争環境をつくるうえで、各拠点一律の目標設定はありえません。各拠点で省エネ余地がどれだけあるかという算出に基づいて、各拠点の削減目標量を設定することが必要になります。

 環境統括事務局が全拠点に直接出向いて省エネ診断を実施できるに越したことはありませんが、そんな時間も工数もないのが現実でしょう。いかに直接訪問しなくとも各工場の「省エネやり切り度」を定量化し、省エネ余地量を算出するかがポイントになりますね。

 また、そもそも電力が建屋全体でしかわからないという工場も多々あります。機器ごとの年間消費量もわかっていない状況ですから、「省エネやり切り度」「省エネ余地の算定」などと言っても不可能だという声も聞かれますが、ご安心ください。電力メーターを各機器に取り付けなくても、各エネルギー機器の年間消費量を想定する方法があります。

 このように各工場の省エネ余地量を定量化したうえで、工場ごとの削減量の目標を設定するのですが、その際に当然、投資採算性の評価も必要になります。各社投資基準は持っていると思いますが、必要に応じてその基準の見直しも必要になります。そうしてようやく各拠点の削減目標が設定でき、各拠点ではその目標達成のための実施計画を策定することになります。

 トータルで見て、全拠点で省エネルギーによる削減目標が明確になったら、足りない分は上図で示した他の方策を活用し目標達成する計画を策定することになります。


 今、このようなコンサルティング依頼が急増しています。急遽、2019年4月15日に上記の内容を具体的に紹介する無料セミナーを開催することになりました。年度初めで恐縮ですが、ご興味ある方はぜひお気軽にご参加ください。

セミナー詳細はこちら ↓

【JMAC OPEN STUDIO】ESG・SDGs対応/脱炭素に向けた中長期CO2削減目標・実行計画策定
~SBT(企業版2℃目標)レベルのグループ全体の中長期CO2削減活動のすすめ方~

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