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第3回 エネルギー生産性向上の意義

山田 朗

 第2回では気候変動の実態と高まるリスクについて述べました。今回はエネルギー生産性向上(省エネルギー)の意義やスコープ(対象)について述べたいと思います。

「緩和(削減)」から「適応」への流れの前に!

 前回のコラムで、多くの学者が気温上昇の2℃シナリオの達成は困難であるとあきらめムードになっていることを書きました。温暖化の「緩和(つまり二酸化炭素削減)」が困難であるなら、それに「適応」する策を進めようという動きが活発化しています。適応策とは、「温暖化で海水面が上昇し、台風の巨大化が進むので防波堤の高さを高くする。降水量の大幅増加に耐えられるよう地下に巨大な貯水槽を建築する」などです。

 もちろん、こうした対策は必要ですが、安易に「緩和」から「適応」への流れに乗ることは危険です。言うまでもなく、まずわれわれは温室効果ガスを減らす努力を徹底的にするべきです。そのためには、火力/水力/原子力/再生可能エネルギーなどのエネルギーミックスの転換を図ることや二酸化炭素固定化技術を進めることなどもあります。しかし、みなさんのように一般の企業であれば、やるべきことは(釈迦に説法ですが)、無駄なエネルギー消費を徹底的に削減することですよね。

 私は省エネのコンサルティングもしていますが、多くの企業でまだまだ削減の余地がたくさん残っていると感じています。とくに製造業では、従来から真剣に取り組んできているQCD(品質・コスト・納期)の改善に比べて、エネルギーの改善はまだまだのレベルです。どこでどれだけのエネルギーが使われているかさえ定量的に測定できていないのですから。「測定できないものは改善できない」――改善の原則ですよね。

 省エネの取組みについては、次回以降に述べてみたいと思います。

社会貢献と経営をつなぐエネルギー生産性向上活動

 前述のとおりエネルギー削減は、地球環境保全(気候変動緩和)という社会貢献活動です。同時に高騰しているエネルギーコストの直接的な削減活動、つまり経営改善手法でもあります。さらには、別の動きも活発化しています。

 投資家が企業を評価する際に、業績など財務情報だけでなく温暖化対策など非財務情報の視点も重視するようになっています。その代表的なものが、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)です。これは機関投資家が連携し、企業に対して気候変動への戦略や具体的な温室効果ガスの排出量に関する公表を求めるプロジェクトです。主要国の時価総額の上位企業(日本では上位500社)に対して、毎年アンケートを実施してその結果を未回答企業名も含めて公開しています。

 2000年前半には環境格付けや環境ランキングがブームになり、環境先進企業は上位を目指し、こぞって環境の取組みを強化した時代がありましたが、そのブームは長くは続きませんでした。しかし、今回のCDPはバックが767機関/92兆米ドル(2013年時点)という巨大機関投資家であることが大きな特徴です。日本企業の回答率も高まっています。

 日本ではあまりピンとこないかもしれませんが、世界基準で見た場合、このようにステークホルダーが企業の気候変動への取組みにも目を向けているということを少し認識しておいた方がよいかと思います。

 こう考えると、エネルギー生産性を向上する意義は、経営コスト削減、社会貢献だけでなく、グローバルスタンダードとしての企業価値を向上にもつながる活動です。どのようにステークホルダーとコミュニケーションを取ってゆくかも重要になりますね。

エネルギー生産性活動のスコープ

 さて、このコラムで対象とするエネルギーのスコープ(対象範囲)について述べておきたいと思います。スコープは大別すると次の2つになります(下図)。

col_yamada_03_01.png

①自社で使用するエネルギーを削減する
②製品ライフサイクル全体で消費するエネルギーを削減する

 ②はLCA(ライフサイクルアセスメント)という手法を用いて、原材料の採掘から、生産、輸送、使用、廃棄・リサイクルの全段階におけるエネルギーを算定します。二酸化炭素を指標とする場合が多いですね。LCAで評価すると電気製品や自動車などは8割がたのCO2の排出は使用段階で発生しています。

 このコラムでは両方に触れてゆきますが、まずは①について、それも主に工場のエネルギー削減を対象として数回に分けて述べていきます。ライフサイクルでの検討をするにも各社が徹底して自社内のエネルギー生産性を改善することがベースだと思いますし、とくに工場からの二酸化炭素排出量は依然として日本全体の半分近くを占める状況ですから。

 ということで、もう一度製造業が今まで一生懸命になって進めてきたQCD活動と同レベルのエネルギー生産性向上活動をやってみませんか? というのが私の提案です。まだまだエネルギー削減の余地があることだけでなく、この活動はみなさんのQCDのレベルアップの活動にも大きく貢献しますよ。

 次回からは、現在の製造業におけるエネルギー生産性向上(省エネルギー)の問題点や有効な進め方などを述べていきます。



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