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第一線の組織マネジメントを考察する

第11回 自分事で捉えること

  • 人事制度・組織活性化

伊藤 冬樹

 前回は"先手を打つ"というキーワードを紹介しました。やりくりのマネジメントで担当層に実践していただきたい今回のキーワードは、"自分事"です。

 "自分事"とは仕事に対する基本スタンスを表した言葉で、"他人事"に対する言葉として使っています。字句からイメージは伝わると思いますが、広辞苑には(いまだに)記載されていません(半ば私たちの造語です)。

 この"自分事"に込めた想いをお伝えします。このワードもやはり管理職のみなさんにも実践していただきたい内容です。

仕事の目的に納得する

 これは別の文脈で伝えられていることも多いので、話を聞けば「あぁ......」とうなずく方も少なくないと思いますが、重要な事柄なのでここでも触れておきます。

 最近の仕事は"言われたことをやる"だけでは不十分になってきているようです。判断がまったくいらない仕事であれば、言われたことだけを行えば用は足りますが、最近は途中で何らかの判断が求められる仕事が多くなっています。

 こういう仕事にもかかわらず、当初指示されたとおりのやり方で終えてしまうと、後で指示者からダメ出しをくらい、やり直しという状況に陥ってしまいます。「言われたとおりやったのに、何で怒られないといけないのか!」と理不尽を感じることがしばしばです。

 経緯を配慮すると理不尽な気持ちもわからなくもありませんが、そこは仕事の世界です。何とかやりくりして仕事を完遂するしかないのです。

 なぜこのような状況に陥るのかの原因を探ってみましょう。仕事の指示の場面では、指示する側はある前提条件を暗黙の内に想定して指示する内容を決める、というのが一般的です。ところが仕事を始めると状況が変わって、この前提条件がズレることもよく起こるのです。すると指示内容のまま進めても良い結果は得られません。そこで実施者本人がこのズレを察知して、仕事の進め方を修正することが求められているのです。

 そのときのズレを感じるセンサーの役割を果たしているのが"仕事の目的"なのです。目的を理解、納得したうえで仕事を進めていると、前提条件のズレが発生したときに、このまま仕事を進めていってもどうも目的は達成できそうにないということがわかってきます。そうすれば、誰から言われなくとも自分の判断で仕事の進め方を変更し、目的達成につなげることができるのです。

 つまり、仕事を受ける際には仕事内容だけでなくその目的をはっきりと確認し、理解、納得することが重要なのです。同時に指示する側も指示の際に、だた"やれ!"でなく仕事の目的を明確に伝えることが求められていますので注意してください。

仕事に意義を見出す(自分のための仕事として意味づけする)

 仕事に前向きに取り組むことの原点は、その仕事を行う意義に本心から納得することにあります。そのひとつの形は前項で述べた"仕事の目的に納得する"ということです。ところが、仕事の世界では、すべての仕事の目的に納得できるということはあり得ません。仕事そのものに乗り気にならない場合もあります。また、忙しい、難しい、面倒くさい、他人にいやな顔をされる、なぜ自分がやらなければならないのか、なぜ今やらなければならないのか、といった理由で本人が乗り気になれない場合も決して少なくないのです。

 とはいえ、当然ながら好き嫌いで仕事が選べるものではありません。上司が出す指示に対して受ける側はやりたくないと思ってもなかなか「イヤ」とは言えません。立場上(しがらみ上でも)受け入れなければならないというのが大方です。しかし、本人がこのまま納得せずに、モヤモヤ・イヤイヤの気持ちを引きずったままで仕事をしても、雑な仕事になりミスが多くなりがちです。企画型の仕事ではアイデアも湧かず、良いアウトプットは得られません。

 本人が仕事を"自分事"で捉えて始めて質の良い仕事につながり、思考の好循環がスタートするのです。このような状況でも何とか本人がその気にならなければなりません。それではどうすれば"その気"になるのでしょうか。このような場合は周りからの働きかけが必要となります。ところその働きかけが「四の五の言わずにやれ!」では面従腹背に終始し、良い結果は期待できません。

 そこで、ここからがやりくりのマネジメントの出番となります。仕事に対する見方を変えて、会社のための仕事ではなく、自分のための仕事として意味づけできるような働きかけを行うのです。その意味合いはきわめて個人的なもので結構です。たとえば、この仕事を行えば、自分の評価が上がり給料が良くなる、この仕事は自分の能力が高まる良いチャンスだ、この仕事は社内のネットワークが広がる良い機会だ、といった意味づけです。個人としての目的を見つけ出し、仕事の意義に納得できれば、"自分事"で仕事を進めることができるようになります。自分のために業務を進め、良い結果が得られれば、その結果が組織のためにもなるという寸法です(図1)。

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 部下に対して自身が担当する仕事を自分事化させたいときに使うツールとして、「エモーションチャート」を紹介します(図2)。

 エモーションチャートでは本人にとっての仕事の意味合いを発想させる3つの問いかけを行います。問いかけは仕事を行う背景(過去)、仕事の場面で得られるメリット(現在)、仕事の結果得られる便益(未来)と時系列でモレなく聞いていきます。

 この問いかけに対する回答を複数発想し、その中から自分が納得できる回答を探し出すことでその意義を明確化するというツールです。問いかけは上司が仕事を指示(依頼)するときに行うのがお薦めですが、本人が自問自答しても結構です。

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 同じ仕事でも、"自分事化"のちょっとした働きかけがある/なしで、そのパフォーマンスは大きく異なってきます。この手間を惜しまずに部下に担当業務の"自分事化"を促してください。

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