第一線の組織マネジメントを考察する
第9回 分かち合い
- 人事制度・組織活性化
伊藤 冬樹
管理職と部下との関わりの2つ目のキーワードは"分かち合い"です。職場で発生する問題に対する対処の考え方です。一言で言えば、発生した問題を個人の責に落し込むのでなく職場の問題と捉え、問題を関連者で分かち合い、最適な役割分担のもとで解決しようというものです。ここは管理職の心の広さが試される領域です。
原因探しが犯人探しになっていないか
問題が発生すると、状況の確認とともに「なぜ発生したのか?」とまず原因を追究しますが、現場ではいつの間にか筋がズレた検討になってしまう場合が少なくありません。つまり、原因を追究しているうちに「誰のせいだ?」という意識が高まり、いつの間にか原因探しが犯人探しになってしまうのです。
これは、問題は悪である、起こってはならない、消し去るべきものだ、と捉えてしまう意識が深層にあることから起こるようです。問題を避けたい、問題から逃げたいという思いが、問題解決を他人に押し付けたくなってしまうのです。
そもそも職場の問題とは、その問題を直接引き起こした人は必ずいるけれど、客観的に見ると関与者は多数に及び、いわゆる犯人を特定できないのが一般的です。上司である管理職にも何らかの責任はあるのが大方です。
ところが職場の問題の犯人探しは、往々にして組織の中で力の弱いところに解決役が押し付けられてしまう傾向があります。その結果、組織にはさまざまな歪みが発生しています(図1)。
まず図の【①専制君主状態】とは問題の対応が担当層へ押し付けられ、管理職層は何もしない状態です。この状況では担当層には不満が溜まり、またイヤイヤの対応では良い解決にはつながりません。さらにこの状態が常態化してしまうと、担当層は問題を上にあげようとしなくなり、職場の問題が潜在化してしまいます。問題が発覚したときにはもう手がつけられない状況に陥っているということも起こりかねません。
【②抱え込み管理職状態】は、担当層が手いっぱいの状態であったり、管理職と担当層のコミュニケーション状態が悪かったり、何らかの理由で問題解決を担当層に展開できず、管理職が自分で解決しなければならなくなってしまう状態です。こうなると承認行為など管理職が本来行うべき仕事ができなくなり、職場全体の業務が滞ってしまいます。
【③無法地帯】は、問題を知りつつも誰かが手をつけると思い、誰も手を打たずに全員が傍観者になっている状態です。こんなことはありえないと思われるかもしれませんが、事なかれ主義が蔓延している会社ではこういった状況によく遭遇します。
問題を分かち合うとは
ここでモノは捉えようです(第5回のコラムをご一読ください)。
職場とはそもそも無理難題が突きつけられている場であり(限度はありますが)、職場に問題は起こるもの、それに付き合うものという「割り切り」が必要なのです。そうすると次は問題にどう付き合うかの段階になります。
もちろん、問題は解決されることが理想です。しかし、抜本的、完璧かつスマートな解決策を追求しようしても、なかなかたどり着けません。そもそも完璧な解決策など存在しない場合も数多く存在します。また、業務遂行上早急な対応が求められる問題も数多く、こうした問題に対しては悠長に時間をかけて抜本的解決策などとは言ってはいられません。
こういった問題に対しては、その影響を最小化し、どうすれば早期に正常な状態に復帰できるかを考えることが肝要です。そのためには、百点満点でなくとも泥臭くとも多少の無理やりはあろうとも、何とかしのげる策を打ち、関連者と調整をつけて事態を打開していくことがポイントとなります。
早期に打開するには、問題の深層原因の追究とか、誰が責任を取るべきかなどといった議論はさておいて、問題に対して職場の関連者(部長、課長、担当者など)それぞれができることを分担して取り組むというのが基本です。当事者である担当層だけが動いても限りがあります。職位が上に行くほどその権限は大きくなりますから、打てる手の幅も広くなります。組織ぐるみで総力を発揮して問題解決を行っていくのです。
たとえば、仕事の期限遅れという問題が生じているとします。担当層は残業をして、何とか遅れを挽回しようとします。担当よりも顔の効く課長は後工程へ日程調整に走ります(つまり謝りに行くわけです)。組織の編成権を持つ部長は他の課から応援を呼びます。このように部署全体で役割分担して手を打ち、問題解決(沈静化)に走るのです。それぞれの立場での行動そのものは異なりますが、それぞれが問題解決のために一肌脱ぐのです。この状況を問題の"分かち合い"と呼んでいます。
図2は分かち合いの状態を表しています。この状態が体質化すると、一人が抱えている問題でも組織で解決していこうという意識が高まり、担当層からも積極的に問題があがってくるようになります。これが早期解決につながるのです。
落ち着いてから振り返り、再発防止を
これまで現場の臨戦態勢の中での問題のやりくりについて触れてきました。もちろん、問題は発生しないに越したことはないので、発生してしまった問題の振り返り、再発防止策の検討の実施は必須です。
仕事には遂行責任が付いて回ります。起こってしまった問題に対する責任状況を明確にしなければなりません。ここを曖昧にしたままでは無法地帯に陥ってしまう恐れがあります。この意味でも問題の振り返りは必須と言えます。
しかし、ほとぼりが冷めていないタイミングで検討を始めると臨場感がありすぎて、どうしても感情的になりがちで、検討が犯人探しと一方的な非難に終始してしまう恐れがあります。したがって、振り返りは状況が落ち着いたところで改めて行うべきです。あまり間が空き過ぎてもいけませんが、少し時間を置いたほうが的確に原因分析が行え、個人に帰せられる責任も公正なものとなり、冷静に受け入れやすくなります。また、検討結果の再発防止策も有効なものになります。
いかがでしょうか。人は意識・感情の生き物です。感情が良い方向に働くことも多いのですが、一方で感情がモノを見えなくすることもあります。問題発生に伴う混乱は、雨降って地が固まるきっかけだ、チームのまとまりを高めるチャンスだと捉えて、広い心と分かち合いの意識を持って問題解決に当たってください。
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