ビジネスインサイツ58
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代花 表王 取株 締式 役会 社社 長 執 行 役 員
澤 田
06 BUSINESS ON VALUE
株式会社セイバン
高品質なものづくりで 高付加価値ビジネスを展開
道 隆
〜 挑 戦 の 場 を 与 え て 人 の 持 続 的 成 長 を 導 く 〜
シ ョ ン を 起 こ し 続 け る
本 質 を 捉 え ︑ イ ノ ベ ー
TOP MESSAGE
10 Human&Organization
三菱電機株式会社
「もう一段高いレベルの成長」を 支える人づくり
14 MANAGEMENT BASE
株式会社池田模範堂
「自分事」だと気づいたときに 人と組織は強くなる
18 iik 塾 20 顔
-第2回雪印メグミルク株式会社 スキー部監督 原田 雅彦氏
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TOP Message
毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点についてお話しを伺います。 インタビュアー:JMAC 代表取締役社長 鈴木 亨
〜挑戦の場を与えて人の持続的成長を導く〜
本質を捉え、イノベーションを 起こし続ける
花王株式会社
科学の目で 物事の本質を追求せよ
鈴木:澤田社長のお父様も花王に勤めていらっしゃったと のことですが、就職先に花王を選ばれた理由からお話しい ただけますか。 澤田:私が大阪大学の学生のころ、父が花王に勤務してい た縁で、当時の社長の丸田と大阪支社で出会う機会があ りました。同じ化学を専攻している私に対し、 「物事を現 象だけ表面だけで捉えるのは化学ではない。その裏側にあ る原子分子の世界まで知ることで初めて化学がわかってく る。そうすると化学は、科学(サイエンス)の領域にまで 広がるのだ」と話してくれました。 また、 「多くのことを知り、吸収したいという願望は理 解できるが、学生である今はシンプルに科学の目で物事を 観ること、科学のスタンスで物事を考えるようにすること が大事だ」と諭されました。 「科学の目で物事の本質を追求せよ」――あれ以来、今 でも丸田のこの言葉が脳裏に焼き付いて離れません。感銘 を受けた私は、 「この花王から生み出されてくる商品は普
通ではない」 「花王とはどんな会社なのだろう」と、ぜひ 花王に就職したいと考えたのです。 実際入社してみると、花王は私の期待どおりの会社で した。花王では、製品開発の際には、 「エビデンスを重視」 します。なんとなく良さそうだから、といった雰囲気でも のをつくることはしません。科学的根拠を示すところから スタートするのです。 たとえば、 「洗濯物の生乾きのにおいの解消」というテー マを立てたときは、まず、においの本質研究からスタート します。研究を進めていくと、においの原因は菌が関与し ていること、生乾きのにおいは菌の中でもモラクセラ菌が 関与していること、その菌は洗濯槽の裏側にも潜んでいる ことなどが次々にわかってきます。それを製品開発へと生 かすわけです。 また、 「加齢に伴って歯が黄色くなることの改善」とい うテーマでは、まずは歯の色に関して徹底的に本質を研究 します。 歯はエナメル質が黄色い象牙質を覆っていますが、 そのエナメル質にはすき間があり、それが光を乱反射させ るすりガラスの役割をして白さを保っています。しかし加 齢とともに、そのすりガラスに食べ物や唾液からつくられ る無機物などが詰まってくると、光が乱反射せずに、次第 に象牙質の黄色が目立ってきます。これが加齢による歯の
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設 立 : 1940 年 5 月(創業 1887 年 6 月) 資 本 金 : 854 億円(2015 年 7 月現在) 従業員数 : 6,664 名、連結 32,707 名( 2015 年 7 月現在) 主な事業内容:化粧品、スキンケア・ヘアケア製品、洗剤、 サニタリー製品などの製造・販売
花王株式会社は 1887 年 ( 明治 20 年 ) 創業、誰もが知る 歴史ある大手化学メーカーである。洗剤、トイレタリー用 品、化粧品のほか、さまざまな産業界に向けた工業用製品 などを製造・販売している。2012 年に代表取締役社長執 行役員に就任した澤田道隆氏は、技術者のときから一貫し て「物事の本質を捉える」ことを重視してきた。経営にお いて「物事の本質」とは何か、ものづくりにおける花王ら しさ、今後の展望などをお聞きした。
代表取締役社長執行役員
澤田 道隆
Michitaka Sawada
黄色さの本質です。歯の表面の歯垢だけが主要因ではない わけです。 ですから、研磨ではなく、すき間の無機物を除去できる ような成分が有効であり、その成果をホワイトニングハミ ガキに応用したのです。 このように花王製品は、本質研究に基づいて技術を開発 し、それを製品開発に生かしているのです。販売やマーケ ティングも、この本質をしっかりと理解し、特長ある活動 を行っています。
へつなげていこう」とみんなと話していました。 たとえば、爪に優しいマニキュアをつくろうと、世の中 にない「水性マニキュア」の開発に取り組みました。しか し「水性でありながら水には強い」という相反する 2 つの ニーズを両立させないと、この「水性マニキュア」はでき ません。相反する性能の両立はサイエンス的には難しいの です。 水性を実現する方向 A と水に強いということを実現す る方向 B の両方を見て合わせても答えはなく、A を突き 詰めて B に行こうとしても A の派生になってしまいます。 だから解は A や B の方向にはなく、異なる方向の C や D というまったく別の視点や発想が必要なのです。 しかし普通にしていても、その新しい視点や発想には至 りません。セレンディピティー(思いがけず発見する力) が必要です。毎日ものすごく真剣に考えていると、普段何 気なく見過ごしていることから、アッと気づくことがたく さん出てきます。この幸運がセレンディピティーです。 命題の「水性マニキュア」は、壁紙の塗料の着想からヒ ントを得て実現しました。私たちがやっている研究とは
原点に帰れば やり続けることができる
鈴木:澤田社長は、技術者として長い間素材開発の研究と マネジメントを担われてきました。その中で感じとった花 王らしさ、また実践されてきた花王らしさについてお聞か せください。 澤田 : 私は、 研究開発部門のときには、 「 世界一 世界初
まったく別の領域です。一心不乱に考えて考え抜いていた からこそ、異なる分野の知見によって「これだ!」と気が つくことができたのだと思います。
オンリーワン を目指そう。誰も成し遂げてないことを がんばって実現し、それを認めてもらって、また次の意欲
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残念なことに、この水性マニキュアは市場に浸透させる ことができませんでした。その技術自体はたいへん優れて いましたが、強い知財網を構築しすぎたがゆえにフォロ ワーがつかず、 ビジネスとしてはうまくいきませんでした。 しかし、私たちは、その後も関連研究を続けました。そし て、水性マニキュアに用いた染料の代わりに、水に強い顔 料を融合させ、 にじみにくい世界初の 「顔料系インクジェッ ト用インク」を開発したのです。 技術には失敗はありません。しかし、研究を止めれば、 それ以上技術は伸びません。だから、私たちは研究を止め ることはしません。 たとえば、10 人でやっていた仕事がうまくいかなかっ たら、1 や 0.5 で残します。一応抹消しているようにして も、実はコソッとやっている。 「止めなければ失敗になら ないのだ」と先輩が見えないところでやらせてあげていま す。こういう風土が花王なのです。 時代を先取りしすぎてうまくいかないこともあります。 そのときは生かせなくても後で生きると思われる発想や切 り口、進め方のモデルもあります。これらは同様に、一度 止めてしまうと再度立ち上げるのに 5 年 10 年とかかりま す。どこかで生き返るときがあると、 常に議論しておいて、 完全に切らずに残す必要があると考えています。 少し前の話になりますが、ベビー用おむつメリーズが低 迷している時期がありました。研究も生産も販売も、皆全 員が努力しているのに振るわないのです。それゆえ、残念 ながら、各部門間で不調和音が生じていました。そのと き、私たちは「花王は何のためにメリーズを世に出したの か」をじっくり問い直してみよう、原点に回帰しようと提 案しました。 「赤ちゃんがぐっすり眠るとお母さんもゆっ くり休むことができる」そして「お母さんがゆっくりでき ると赤ちゃんにやさしく接することができる」 、すなわち 「かぶれにくく赤ちゃんの肌に世界一やさしいオムツの提 案」それがメリーズブランドの原点です。このブランドの 原点に立ち戻り、 「通気性」 と 「やわらかさ」 の機能価値を、 手持ち技術を総動員して高めていったのです。そして、メ リーズを使うことで、 「赤ちゃんが笑顔になり、その笑顔 を見て家族も笑顔になる」 という想いを、 ブランドのキャッ チフレーズ「スマイル&スマイル」に込めました。 今振り返れば、競合との熾烈な戦いに気持ちが行きすぎ て、お客様のためにという原点を忘れかけていたように思
います。
本質を追求し 「花王らしさ」を具現化する
鈴木:2012 年に社長という違う立場になられましたが、 経営の場における本質の追求や花王らしさについてお聞か せください。 澤田:最近は形や数字ですべてを語ろうとする傾向があり ますが、本質をしっかり議論せずに形だけ整えようとする と中身が薄くなってしまいます。また、それでは物事の本 質までたどり着かないようにも思います。 たとえば「ガバナンスを整える」 「社外取締役を任用す る」 「女性の比率を増やす」など、形や数字にとらわれず、 どういう目的でやるのかということを掘り下げて議論する ことが大事です。 ガバナンス強化という観点では、取締役会の役割は将来 の会社の方向性をしっかりと議論するのが目的だと考えて います。ですから、豊富な経験と高い見識を当社の経営に 生かしていただくことを期待し、6 名の取締役のうち 3 名 を社外取締役として選任しています。私たちが従来から持 つ、科学の視点やものづくりの視点に加えて、金融の視点 や学術の視点など、社外の多様な角度から花王の方向性を 議論していきます。それは経営という観点での本質の議論 ですので、花王の将来にとってたいへん貴重なわけです。 私は、花王は不器用な会社だと思っています。いっとき のことに惑わされ、本質を横に置いて器用にふるまえば、 一時的には伸びるかもしれませんが、長期的な成長にはつ ながりにくいと考えています。短期的視点で見れば、器用 にふるまって、たとえば現在の 1.3 倍の利益を上げること は比較的容易と思われますが、長期的視点を持って 1.1 倍 の利益をずっと続けていくことのほうが花王にとっては重 要です。もちろん、 単に続けるのではなく、 何かのイノベー ションをプラスして成長し続けることが花王らしいと考え ています。 イノベーションというのは、破壊的な価値提案というイ メージがありますが、 「凡を極めて非凡に至る」という地 道な改善の積み重ねによる大きな価値提案も重要です。不
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澤田 道隆
Michitaka Sawada
1955 年 1981 年 2006 年 2012 年
大阪府生まれ 大阪大学大学院工学研究科修了 花王株式会社入社 研究開発部門副統括 執行役員 代表取締役社長執行役員 現任
器用な花王としては、破壊的価値提案だけでなく、地道な 積み重ねによる価値提案も重視しています。
そして「人には誰でも無限の可能性がある」と心の底か ら信じているか、 どうかです。最大の資産は、 やはり「人」 なのですから、会社の成長は「人」にすべてがかかってい るといっても過言ではありません。その際、人材の育成が 重要となります。人材育成では、 「人を育てる」というよ り「人は育つ」というスタンスが重要であると考えていま す。その人に合った、良い舞台良い場を用意することで す。メンバーは、その舞台の中で、必ず自らの力で育とう と努力します。たとえうまく育たなかったとしても、少し メンテナンスをして違う舞台を用意してあげることも重要 です。粘り強く少しずつレベルアップできるように、場を 変えてあげるのです。このように、簡単に結論を出さずに 人の可能性を信じ続けること、これができてこそ経営者だ と私は考えています。 日本の会社がここまでがんばれたのは、だめでももう一 度やらせてみるといった、失敗を許容する考え方が根底に あったからではないでしょうか。また、日本にはひとりで 成果を上げたとしても最後はみんなでやったよね、と言い 合える共感力の高さ、分かち合いの精神というすばらしい 文化もあります。この日本的な良さを見つめ、資産として 経営に生かしていくことが、大切ではないでしょうか。 私も、このようなことを肝に銘じ、先輩たちが残してく れた有形無形の資産を最大限活用しながら、次の世代のた めの新たな資産を残したいと考えています。そうして、私 たちがさらに 100 年 200 年と成長していく中で、花王ら しく本質にこだわり愚直に本質を突き詰めていきたいと 思っています。
日本らしさを育みながら 挑戦し続ける
鈴木:澤田社長から次世代を担うトップ、経営幹部へ向け たメッセージをお願いします。 澤田:花王らしさのひとつに、 「失敗を恐れず挑戦する」 ことがあります。それが増収増益をもたらすイノベーショ ンの源泉になっています。たとえば、提案が上がってきた 際、私たち役員がその判断に迷うときには、 「GO」を出す ことに決めています。迷うということは可能性があるとい うことですから、その可能性に賭けたいと考えています。 すなわち、 「やらないリスク」より「やるリスク」を取る わけです。メンバーが精一杯の挑戦をして、それでも失敗 することがあれば、われわれが責任をとればよいのです。 そして、そのときたとえ失敗したとしても、また挑戦を続 けることを認めてあげればよいのです。そうすれば、さら にチャレンジをすることへのモチベーションが上がり、可 能性にかける勇気がわいてくるのです。 だからトップは、社員のためにも失敗を恐れないことで す。失敗を恐れてリスク回避ばかりしていては、会社の成 長は望めません。思い切ったリスクテイクをしていく勇気 が必要です。
科
学の目で物事の本質を追求するという思想が花王の風土として息づいている ことを、澤田社長のお話を通して実感しました。また、 「凡を極めて非凡に
至る」という花王の不器用さこそが、物事の本質を追求する花王の行動哲学ではない かと思いました。そして最大の資産は「人」であり、人の可能性を信じ続けて、成果 を皆で分かち合うという、 日本的経営のすばらしさに自信を持たせていただきました。
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〜顧客起点のタイムリーな供給を実現する生産管理の再構築〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
高品質なものづくりで 高付加価値ビジネスを展開
株式会社セイバン
株式会社セイバンは、ランドセル業界の変化を受け、 生 産 体 制 の 行 き 詰 ま り を 感 じ て い た。2013 年 か ら JMAC とともにタイムリーな供給体制の実現と製造現 場の意識改革に向けて動き出した。最初は反発もあっ た現場だが、納得感を重視した施策が徐々に現場の空 気を解きほぐし、能動的な活動につながっていった。 活動を通した現場での気づきや変化、今後の活動につ いてお伺いした。
代表取締役社長
泉 貴章
Takaaki Izumi
ランドセル業界の変化で 直面した現実
株式会社セイバン(以下セイバン)は、創業者である泉 亀吉氏が 1919 年、大阪市で皮革の財布やカバンなどを製 造する会社を起こしたことに始まる。戦後は本社を御津町 (現・たつの市)に移転して、1946 年よりランドセルの製 造販売を開始し、一貫して熟練した職人の手仕事、国内生 産にこだわり、高品質なランドセルをつくり続けてきた。 長年、ランドセル業界で国内トップクラスのシェアを維 持している同社であるが、2003 年に発表した新機能ラン
ドセル「天使のはね」が大ヒットし、その名を一躍全国に 知らしめた。その後も、2010 年に A4 サイズの教材に合 わせたサイズ変更が好評を得るなど、使う子どもの目線に 立ったランドセルづくりに邁進してきた。 そのような中で、 ランドセル業界は大きな変化を迎える。 それまではランドセルといえば男子は黒、女子は赤が定番 だったが、各社がデザインやカラーバリエーションにも力 を入れ始めたのだ。おしゃれで個性的なランドセルは、少 子化の影響もあって祖父母などからの「ハレの贈答品」と しての需要が高い。店頭に並び出すタイミングも 11 月 12 月から前倒しされて 5 月 6 月となり、通年販売が当たり前 になった。
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当時、同社は黒と赤のランドセルを 11 月に間に合うよ うに大量につくりだめするという体制をとっていたが、こ の変化により必要なものを適時に生産・供給することが求 められるようになった。しかし、従来のやり方を変えられ ないまま在庫を抱えることが増え、次第に行き詰まりを感 じ始めていた。
「前職でのものづくりといえばボタン操作や、オペレー ターのひとり作業。しかし、ランドセルづくりの現場では 切る、縫うなどの工程一つひとつに人手が必要なので、と にかく人が大勢いるなということを感じました。また、工 場内には材料などが積み上げられていて、雑然とした印象 が強かったですね」と語る。 そこで、 泉氏は工場内の環境を整備するために 5S (整理 ・ 整頓・清掃・清潔 ・ 躾)活動を始めた。 「5S 活動により少 しずつですが成果が出ていきました。しかし、肝心の多品 種少量生産へ体制を変えていくという部分になると、長年 染みついた生産体制や現場の意識を変えるのは難しく、時 には意見が衝突することもありました。そもそも、古いも のづくりの全体像をつかめていなかったため、何をどうし ていけばよいのかと暗中模索の状態でした」と当時の苦労 をにじませる。 この状況を打破しようと 2013 年、JMAC をパートナー に選び、さらなる体制の改革に乗り出した。
困った! 製造現場との 温度差
2011 年 2 月に 4 代目代表取締役社長に就任した泉貴章 氏は、この状況を「ランドセルは、この数年で品質の高さ や機能性だけでなく、カラーやデザインまで重視されるよ うになりました。 お客様の多様なニーズに応えるためには、 求められるタイミングで商品を提供することが大切です。 在庫を抱えずに過不足なく提供していくためには、計画的 な多品種少量生産の体制にしていく必要がありましたが、 旧態依然の体制を変えられずにいたため、これからの新時 代のランドセルづくりに本当に対応できるのかと非常に強 い危機感を覚えました」と振り返る。 セイバンでは、機械による工程と手仕事による工程を共 存させる生産ラインを確立しているが、 生地の裁断、 縫製、 ステッチ、最後の仕上げにいたるまで、すべての工程に熟 練した職人による手仕事と厳しいチェックが入る。職人の 数は数十人にのぼり、扱うパーツは 200 を超える。 泉氏が同社に入社したのは 2010 年 10 月。この新たな 局面への課題を抱えているときだった。前職では大手企業 で商品開発や工場の品質管理に携わっていた泉氏が同社へ の入社時に感じたのが、ものづくりの現場の違いだった。
手順を見える化して職人技 と新体制の融合を目指す
JMAC を選んだ理由について泉氏は「私にとって日本 能率協会グループは、前職でさまざまなセミナーを受講し たり、当社の人事の教育で日本能率協会マネジメントセン ター(JMAM)にお世話になったりしたこともあり、も ともと馴染みがありました。もちろん、依頼の際には他社 と比較検討しましたが、以前から日本能率協会のレベルの 高さを知っていて信頼を寄せていたこと、工場診断の提案 が的確だったことから JMAC にお願いすることに決めま
ランドセルの製造プロセス※
※株式会社セイバンの公式ホームページの情報をもとに作成
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した」と当時の思いを語る。 JMAC からは、シニア・コンサルタントの毛利大が中 心となり、他のコンサルタント陣も現場に赴き、プロジェ クトがスタートした。 毛利は当時の同社の印象について、 「泉社長のお考えと 現場の意識にかなりのギャップがあると感じました。改革 推進のためには、現場の方たちになぜこのままではいけな いのか、改革が必要なのかを理解していただくところから 始める必要があると思いました」と振り返る。 ランドセルは、多くの職人の技術の結集で、あの温かみ のある風合いを生み出している。一方で、泉社長の目指す SCM(Supply Chain Management:サプライチェーン マネジメント)改革は、今までのセイバンのものづくりを 抜本的に再構築する取組みである。伝統技術と近代的な管 理の融合がプロジェクトのもうひとつのテーマであった。 課題を整理するため、まさにこの両面への取組みが重要と なった。 職人一人ひとりの作業のカン・コツを IE を用いて見え る化して、 働き方や仕事の負荷を把握したうえで、 何が「伝 承すべき技術」で何が「ムダ」なのかを洗い出す。一方で お客様からの注文情報を起点に、滞りなく製品を届けるた めに、どのように社内の情報連携を図っていく必要がある のかを徹底的に議論し、セイバンのものづくりのグランド デザインを描く。これを両輪として業務改善の手順を見え る化し、実践していった。 これについて毛利は「機械ではなく、多くの職人技が支
える職場においては、その一人ひとりに活動の意図を理解 してもらわなければ進まない、そのためには管理する側も 考えを押し付けるだけでなく、その技術を理解し、融合を 図る必要があります。 JMAC コンサルタントが現場に入っ てコミュニケーションをとりながら一緒に動いたことで、 現場の方々の理解が少しずつ進んでいったように思いま す」と語る。 泉氏は、そのときのことを「JMAC さんとは問題意識 が一致していましたし、ここまでできるというゴールを理 想形に近いところで出していただけたので、JMAC のア プローチはとても効果的でした」と振り返る。
現場の納得感が能動的な 活動を引き出す
最初はなかなか進まなかった活動だが、活動の趣旨への 理解が進むにつれ、ディスカッション後には工場のレイア ウトが変更されるなど、能動的な動きが見られるように なってきた。 毛利は「とくに、ベテランの方たちにはものづくりに対 する強い思いがありますので、活動するにあたってはどう してそれをしなければならないのか、という納得感を持っ ていただけるように心がけました。それを肌で感じていた だくために現場に入って一緒に動き、小さな成功体験を積 み重ねていきました」と活動の様子を振り返る。
セイバン流 生産管理プロセス再構築の考え方
© 2013 , JMA Consultants Inc.
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泉氏は「JMAC が入って 5S のマインドや具体的な手法 が伝えられてからは、さらに成果が出ました。ライン構成 やサイクルタイム設定も効果的でした。具体的に何をどう していけばよいのかが明確になり、意識が変わったことで 作業が非常に効率的になりました。SCM についても、な んとなく進めていた部分を体系的に仕切り直して、きちっ とした枠組みを構築していただけたので、うまく進めて行 けそうです」と手応えを語る。SCM により統合的な管理 がうまく機能していけば多品種少量生産をタイムリーに行 うことができる。 毛利は「まず、お客様の納期を起点に、前工程ではそれ までに何を準備しておくべきなのかといった他工程や部門 とのチェーンをしっかり見えるようにしました。さらに、 ものづくりチェーンの源流まで遡り、きちんとした商品を 納品するために企画・開発・設計部門ではこうしていただ きたいと伝えるなど、チェーン全体を意識した支援をさせ ていただきました」と語る。
ことで、改革へのマインドが定着してきました。これから 進めていく大きな改革につながる良い流れができていると 感じます」と語る。 自走で活動を推進している現在も、現場に赴き、活発な 議論を交わしているという泉氏。新しく入った社員を泉社 長が率先して現場に連れて行くことも多い。 毛利は「長期的、安定的な持続的成長を続けていくため には、メンバー全員が当事者意識を持つこと、若手とベテ ランが積極的にコミュニケーションをとること、ベテラン はいいところを残しつつ新しいことを吸収する柔軟性を持 つことの 3 つが大切です。すでにリーディングカンパニー としての確固たる地位を築いておられますが、これからも 新時代のものづくりを自分たちのものとして持続的成長を 実現していけば、 他の追随を許さない存在となるでしょう」 と語る。 今後も高品質なものづくりにこだわり、タイムリーな供 給を目指して、さらに高付加価値なビジネス展開を実現す ために、 「幸いにも当社には『天使のはね』という人気ブ ランドがあり、 その知名度が一番の武器だと思っています。 その強みを生かして、これまで以上に付加価値を高めてい きたいと考えています。同時に、今まで行ってきた有害物 質を含まないエコロジカルランドセルづくりや、小学校で の聞き取り調査をもとにしたランドセルづくりなども地道 に続けていきます」と熱く語る泉氏。 子どもたちへのやさしい眼差しと、ものづくりへの熱い 思いを持つセイバン。同社の挑戦と躍進が楽しみだ。
高付加価値ビジネスで トップランナーであり続ける
このプロジェクトを振り返り泉氏は「当初は古いものづ くりの動きがまったくつかめず、何をどうしていったらよ いのかわかりませんでした。しかし、 JMAC が現場に入っ て一緒に動いてくださり、客観的な判断をしていただけた
担 当 コ ンサルタントからの一言
シ ョ ン を !
顧客視点の SCM 改革のカギは伝統技術との融合
同社を取り巻く環境変化を背景にした、 「伝統技術と効率的マネジメントとの融合による セイバン流ものづくり革新」 。人の技術を大切にし、そのつながりが支えてきたものづく りを基盤とする企業にとって、その方式を新たな形につくり変えることは、決して容易 なことではありません。業界トップランナー自らこうした改革に乗り出し、社内でも多 くの意見をぶつけ合いながら推し進めていく泉社長の活力がこの取組みを支えています。 顧客起点でのサプライチェーン実現のために、標準作業や標準時間に基づくバックワー ドの生産計画と実績管理の実施、 そのための開発、 設計プロセスにおける基準情報の整備、 こうした基本的な取組みを職人技術にいかに適用してくかが今後のポイントです。
コ ミ ュ ニ ケ ー
意 識 を 持 ち ︑
全 員 が 当 事 者
毛 利 大
シ ニ ア ・ コ ン サ ル タ ン ト
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
「もう一段高いレベルの成長」を 支える人づくり
〜顧客視点のものづくりは企業理念の浸透から〜
今後の成長には「人づくり」が 欠かせない
三菱電機株式会社(以下三菱電機)は、誰もが知る日本 を代表する総合電機メーカーで、人工衛星、情報通信、家 庭電器、電子デバイス、重電、産業メカトロニクスと幅広 い分野で事業を展開している。 「もう一段高いレベルの成長」の実現に向けて、同社で は強い事業のさらなる強化、強い事業を核にしたソリュー ション事業の強化に取り組む活動が始まっており、2020 年度までに「連結売上 5 兆円以上、営業利益率 8%以上」 という目標を掲げている。生産の現場でも全プロセスにわ たる JIT(Just In Time)改善活動が定着しており、同社 の成長戦略を下支えしている。 新たなステージに向けて進み出した同社だが、2001 年 度には危機的な状況にあったという。人材開発センター・ ものづくり教室長の織田昌雄氏は、 「株価が大きく値を下 げて、会社の存続が危ぶまれる中、現場はものすごく忙し い状況でした。工場の稼動率を上げるためです。しかし、 お客様がついていない製品をつくっていたのです」 と語る。 設備 ・ 装置を導入して徹夜で稼動率を上げていた現場には、 実際には諸々の問題が多発していたという。そこで 2003 年からは JIT 改善活動を導入して、12 年かけて現場に浸 透させてきた。
「JIT 改善活動は企業活動の全プロセスの問題が見える 化されるので、改善活動として大きな効果がありました。 売上原価率も JIT 改善活動の浸透に合わせてじわりじわ りと下がりました。さらに海外拠点の生産性向上にも成果 を出しています」 (織田氏) 。 生産技術畑にいた織田自身は、現場が次第に変わってい くことを感じつつ原価企画や VE などを担当、さらに将来 の技術戦略を企画する中で、 「やはり、人材開発・人づく りが大切」との認識から、昨年から人事部の人材開発セン ターで全社にまたがる研修の企画・運営を担当している。
「ものづくり」プロセスの視点 で講座を体系化したい
同社の人材開発センターは本部を尼崎市に置き、関西・ 神戸・鎌倉の 3 拠点に研修センターがある。人材育成の基 本施策として「コア人材の選抜育成教育」 「ゼミナールに よる新人・若手・中堅の仕事力アップ」 「全社レベルの技 能教育」を掲げている。織田氏はものづくり教室の長とし て、 主に 「生産」 「技能」 に関わる人材育成を担当している。 同センターには、ものづくり教室のほかにも開発、品質・ 環境、電気、電子、機械、ソフトウェア、ビジネス、営業 の多彩な教室があり、三菱電機 10 事業本部 22 製作所の 人材育成に必要な研修メニューが用意されている。 一言で「ものづくり」といっても、その範囲は広い。現
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三菱電機株式会社
三菱電機株式会社は 2004 年に技術研修、経営・ビジネ ス系研修を統合させ、人事部内に「人材開発センター」 を設置した。経営戦略の下、事業強化を担う人材育成を 加速するためだ。会社の成長シナリオと人材育成をどう リンクさせるか、時代に合う具体的な育成カリキュラム は何かなどの視点で、全社にまたがる研修の企画・運営 を一手に担っている。選抜コア人材の育成、ゼミ形式の 技術講座、技能向上ための競技大会など、同センターの 活動状況や課題、今後の方針などをお伺いした。
人材開発センター ものづくり教室長
織田 昌雄
Masao Oda
職に就いて 2 年になる織田氏はものづくりを 2 つのプロセ スで捉えて、教育体系を整備しようとしていた。 「生産技術を体系的に習得できる JMA(日本能率協会) の公開講座に参加したときの資料をヒントに、自分なりに ものづくりを二大ビジネスプロセスに整理してみたので す。すなわち、企画から開発、設計、製造までのエンジニ アリング・プロセスと、受注から調達、製造、販売・サー ビスまでのサプライチェーン・プロセスです」 (織田氏) 。 このときの研修講師が JMAC シニア・コンサルタント の石田秀夫である。織田氏は「偶然の出会いだった」と語 るが、それをきっかけに石田と会って話す機会が何度かあ り、 「社内の技術講座の整理を JMAC に支援してもらいた い」と思うようになったという。 「以前は、プロセスの流れも、全体もよくわかっていな かったのです。また、時代の要請からもグローバルの視点 も付け加えたかった」 (織田氏)ということから、石田の 支援で今年から「グローバル生産技術」を加えた新しい講 座を開講する。 同社の講座はゼミナール形式で、希望者は上司の許可を 得れば受講できるようになっている。しかし、数が 440 講 座もあり、体系化されているとは言いがたかった。JMAC は同社のエンジニア、生産技術者へのアンケートや、各製 作所の幹部のインタビューをまとめ、問題点を明確して織 田氏と議論を重ねて体系化に着手したのである。 「受講者には、やはり二大プロセスの全体をわかっても
らいたいのです。縦割のせいでしょうか、個別の技術はも のすごく詳しいけど、前後のことはよくわかっていない人 も少なくない。ですから講座を整理することで、受講者が 「全体」を把握できて受けやすいものにしたかったのです。 数が膨大でしたから体系化・整理すべきところは、JMAC に手伝ってもらって、追加すべきこととしてグローバル生 産技術などの新しい講座もできました」と織田氏は語る。 石田は体系化のポイントとして、 「時代に合わせて、た とえば生産技術としての戦略性(知的財産ほか)やアーキ テクチャ論などを取り入れるべきです。また、ものづくり であれば、製品の 生まれ が大事なので、つくりやすい 設計、原価企画、VE(価値工学)などの強化が必要にな ります」と指摘する一方で、 「たしかに 440 講座という数 は多いですが、その数は人づくりに力を入れているバロ
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メータでもあります。そういう会社は長期業績、持続成長 にものすごいポテンシャルを持っている」 と評価している。 「HMC は、かつて社内にあった『工学塾』の流れを汲 むもので、すでに 12 年経ちます。顧客視点のものづくり のために、まだまだやるべきことがあるはずで、このコー スの見直しも検討しています。MBIS そのものの課題抽出 や HMC のカリキュラム評価などで JMAC さんと議論し てみたいですね」と織田氏。 三菱電機が「もう一段高いレベルの成長へ」進むための 変革を貫いているのが「顧客視点のものづくり」だ。それ を牽引するコア人材(選抜)の育成にも力を入れている。 選抜された人は三菱電機イノベーションスクール (MBIS) に「入学」することになる。 織田氏が担当している「ハードウェアものづくりコース (HMC) 」は、ものづくりプロセスの全体最適の視点で改 善・改革を推進できる中核的技術者・リーダーを育成する コースだ。同社 22 製作所と研究所から 1 人が選ばれ、今 現在 23 人が「入学」している。同コースの特徴のひとつ が、社内の部長や副センター長が講師を務めることだ。講 師自らの苦労や体験談などを交えながらの講義内容は、 「ス キルよりもマインド重視のコース。はっきり言って、かな り厳しい内容。とおり一遍の生産技術習得コースと思って 入学すると、とんでもない目にあう(笑) 」という。 事実、5 月から翌年 2 月までの 10 ヵ月でのべ 16 日間の 出席が必須だ。問題解決手法や JIT 改善活動、原価低減、 VE /標準化なども学ぶが、このほかに会場となっている 製作所の製品をどう展開していくか、海外事業をどう展開 するか、出身製作所の事業をどのようにして発展させるか を具体的に提言書にまとめるのが大きな特徴だ。閉講 1 年 後にも成果報告が求められるという、2 年がかりの育成で ある。A3 用紙 1 枚にまとめる提言書には何度も厳しい 「添 削指導」が入る。この間、幹部候補生は他のメンバーと交 流を持ちつつ、だんだんと幹部としての責任を自覚してい く仕組みだ。 三菱電機グループは技能水準の向上、技能伝承、技能者 育成などを目的に毎年秋に「技能競技大会」を開催、2014 年で 37 回の開催を迎えた。このときはグループ全体で 2,417 人が参加し、最終的に全社大会(10 職種)まで勝ち 進んだのは 112 人。各製作所を代表する技能の達人たち が競い合う大会である。 同社の大会への「本気度」はかなりのもの。選手とコー チは 3 ヵ月も仕事から離れて、競技に向けた「訓練」に専 念するのだ。大会の会長には社長が就任し、トップの技能 を守り育てていく意志が表れている。 「老舗の大手企業で もなかなかここまではやれないレベル」 (石田)なのだ。 織田氏自身は設備設計を担当していた新人のころ、組立 の技能者から「こういう設計では組み立てられない」とた びたび指摘されることがあり、エンジニアとしてかなり鍛 えられたという。また、リサイクル事業ではフロン回収率 を業界トップにできたのは技能者の貢献が大きかったと振 り返る。こうした経験は織田氏だけではなく、同社の多く のエンジニアや監督者にもあり、 それが全社的な「技能者」 へのオマージュとなって、 技能大会を支えているのだろう。 トップも現場も「技能」とそれを担う人を真に尊敬してい る表れだ。 また、大会は選手だけでなく、各製作所の現場の育成に も効果をもたらしている。運営委員長として大会の表舞台 も裏舞台も知る織田氏は、 「もっとも仕事のできる技能者 が選手で仕事から離れてしまうので、残された現場はその
三菱電機グループ技能競技大会 写真提供:三菱電機
コア人材の 育成カリキュラムの見直しを
今後のものづくり教育では、 「技術の内容そのものより も、それを 商売 に引き出すための戦略の部分をどうカ リキュラム化するか大事。実施にあたっては、座学タイプ ではなく、実業務できちんと成果を出す形のカリリュラム の方が人は育つ」という視点からの企画・運営がカギにな ると石田は指摘する。
全社をあげて技能を大切にする
『穴埋め』をしなければなりません。そこで仕事の仕組み
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を工夫したり、3 番手 4 番手の人が力をつけ成長するので す」という。 のが「理念教育」だ。 「とくに技能系の新人です。何のた めの技能か? を企業理念にそって理解してもらいたいの です。たとえば、当社の社会貢献という大きな目的があり ます。そのための自身の目的、技能者としての誇りや価値 観はしっかりと持つようにと伝えています」と語る。技能 系は各製作所の採用のため、トップから直接企業理念など の話を聞く機会が少ないので、合同訓練の場などで積極的 に伝えていきたいという。 「顧客視点のものづくりは、まだまだこれから。なぜ顧 客視点か? の答えは、やはり理念にあるわけです。三菱 電機の社員は、社会貢献のために集っていること、そのた めの顧客視点であり、そのための利益確保であるなどを、 きちんとした形で教育する機会がほしいのです」と語る。 一方で現場が直面している課題にも目を向ける。現在、 監督者・班長も多様化しているという。 「10 人の班もあれ ば、80 人の班もありますし、若い班長もいます。80 人が 何を考えているか把握するのがむずかしい」という監督者 の悩みに応えるべく、監督者向け教育を体系化して、かつ グローバルにも適用できるようにしたいという。 グローバルを視野に入れた今後の教育のあり方のポイン トとして、石田も「やはり理念、つまりウェイ・マネジメ ントです。グローバルで業績の良い企業はそこがしっかり しています。そして教育の標準化、抜きん出る人の選抜、 この仕組みをうまく構築することが重要です」とまず理念 の重要性を説く。 「もう一段高いレベルの成長」に邁進する三菱電機。そ の成長を支え続ける中核人材は、 今まさに成長過程にある。 「顧客視点のものづくり」の実現は、決して遠い未来のこ とではない。
個人のスキルアップが周囲も 成長させる
確かにエース級が仕事からから抜けると、残された現場 はつらい。技能大会に限らず、HMC の選抜でも課長前の もっとも実務ができる人材が職場から離れることになる。 「どちらも職場はすごく困るはずです。でも、それをク リアすべく工夫するのは、選抜された人を応援する気持ち が育っているから」と織田氏は見ている。 「HMC では生 徒は何度も『ダメ出し』をくらいます。技能大会も 3 ヵ月 の長丁場です。精神的にも肉体的にも相当のレジリエンス (耐久力)が必要で、そのがんばりが職場で見えているか らこそ、自分たちも何とかしなければと考えるようになる のです」と現場の底力を評価している。 織田氏は個人のスキルアップが周囲に良い影響を与える 実例を目にし、 「単に個人を教えて育てるということだけ でなく、個人の成長プロセスが実は周りも巻き込んで、職 場も成長していくことが人材育成の醍醐味」と、人づくり が職場、会社を成長させる原動力であること実感しつつ、 これからの三菱電機を支える人づくりの「あるべき姿」の 模索に余念がない。
三菱電機の企業理念が あってこその顧客視点
織田氏が今後もっとも関心を持って力を入れていきたい
担 当 コ ンサルタントからの一言
「思い・知恵・ウデ」をレベルアップする
さまざまな製造業を見ていると、良い会社は当然のように<人財>のレ ベルが高いことが共通点です。その人財のレベルとは「思いがある+知 恵がある+ウデがある」の3つ。 「思い」とは会社の価値観の共有や帰 属意識・レジリエンスなどのマインドを高めること、 「知恵」は考え抜 く力、 そして製造業なので設計にしても製造にしても「スキル(=ウデ) 」 が必要です。これらの継続的向上が企業成長を決めると同時に、人財育 成は会社・経営者の重要な投資業務だと確信します。
と 内 容 で す !
争 力 あ る 教 育 体 系
左 右 す る の は ︑ 競
人 財 育 成 の 効 果 を
シ ニ ア ・ コ ン サ ル タ ン ト
石 田 秀 夫
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〜「人の和」を大切に。そして、すべてがうまく回り出した〜
「自分事」 だと気づいたときに 人と組織は強くなる
池田模範堂の歴史は 越中富山の置薬に始まった
株式会社池田模範堂(以下池田模範堂)の歴史は 1909 年(明治 42 年) 、池田嘉市郎氏が越中富山で家庭配置薬販 売を創業したことに始まる。 1914 年(大正 3 年)に称号を「池田模範堂」と決定、 1926 年(大正 15 年)には「ムヒ」の製造を開始した。 1948 年(昭和 23 年)に組織改編し、現社名の株式会社池 田模範堂を設立した。 「池田模範堂」という社名には「社会の模範となる会社 になろう」という思いが込められている。 「ムヒ」という 商品名には「比べるものがないほど優れた効き目」という 意味が込められていて、 「唯一無比」が語源となっている。 2010 年には C I(コーポレート・アイデンティティ)を 一新。次の 100 年を見据えて、 コーポレートロゴを「ムヒ」 から「MUHI」へ、スローガンを「かゆみを科学する」か ら「肌を治すチカラ」へと改めた。製品用途を虫刺され・ かゆみ止め分野から、 肌のトラブル ・ スキンケア全般の「肌 分野」に広げて、まだ誰も目を向けていない肌の悩みを解 決すべく、新分野での積極的な事業展開を図っている。
最新設備、環境ゆえの悩み 横のつながりが希薄に
長年培ってきた技術と伝統を継承しながら、時代のニー ズへのチャレンジを続けてきた同社だが、2002 年の新工 場移転を機に、新たな問題に直面することになった。 新工場に移転しシステム化が進み、メンバー間のコミュ ニケーションが希薄になっていったと語るのは、取締役工 場長・吉田裕一氏だ。吉田氏は「旧工場にはなかったシス テムを使用し始めてからは、社内連絡の多くが電子メール で行われるようになり、情報管理もシステム化されて人の 手がかからなくなりました。フェイストゥフェイスでなく ても仕事ができるようになって、コミュニケーションがど んどん希薄になっていくのを感じていました」と語る。 このときの状況を、製造グループグループ長・巽和弘氏 は「旧工場では、扉を開けると隣の現場があって、物理的 にも心理的にもつながっているという実感がありました。 ちょっとモノを持って行ったり打ち合わせをするにして も、顔を見て現場で話をするという光景が普通にありまし た。しかし、新工場では搬送設備やシステムが整ったこと で、互いに持って行き合っていた資材などは倉庫で集中管
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株式会社池田模範堂
外用剤のトップメーカーである株式会社池田模範堂は、創業 106 年を迎える老舗の医薬品製造販売会社である。 時代のニー ズに挑戦し続ける中、システム化が進むにつれ人的組織が弱く なりつつあることに危機感を感じていた。問題解決のカギはコ ミュニケーションの復活にあると考えた同社は、 「人の和づく り」を中核とした改革に乗り出した。その活動の背景や思い、 メンバーの成長、今後の目指す姿についてお伺いした。
▲取締役工場長 ・ 吉田 裕一氏(中央) 、 製造グルー プグループ長・巽 和弘氏(左) 、包装グループ グループ長・ 嶋田 哲雄氏
理されるようになり、現場もグループ分けが進んでこじん まりとまとまって作業をするようになりました。それぞれ が別々に作業するようになり、以前あった触れ合いがなく なっていきました」と語る。 包装グループグループ長・嶋田哲雄氏は「新工場への移 転当初は、まだ旧工場でのつながりがあったからよかった のですが、だんだんシステムが自動化されるにつれ、それ に慣れてきて皆話さなくなっていきました。製品の自動搬 送もされるようになって、ますます横のつながりがなく なっていきました」と当時を振り返る。
なら今しかないと思いました」と当時の思いを語る。 そこで、まず工場のメンバーの思いを聞くための社内ア ンケートをとることから始めた。折しも、人事評価制度が 変わって能力主義が採用されるようになったこともあり、 「上司が正当な評価をしてくれない」 「連携がうまくいかず、 思うように仕事が進まない」 といった不満が殺到した。 「自 分たちの思いと現場のメンバーの思いとのズレを突きつけ られました」と吉田氏、巽氏、嶋田氏の全員が声を揃え る。これはまさしくコミュニケーションが不足しているか ら起こったのではないか、と強い危機感を感じた。そして JMAC をパートナーに選び、改革へと動き出した。 JMAC を選んだ理由について吉田氏は「JMAC 含め 2 社に提案をしていただきましたが、 『 人 にフォーカスし て活動をしていきましょう』と言ってくれたのが JMAC でした。コミュニケーションの問題を解決したかった私た ちがたどりたいプロセ ス、ゴールを提案して くれたので JMAC に決 めました」と当時の思 いを語る。 改革を支援した JMAC チーフ・コンサ ルタントの今井一義は、
▲ 吉田 裕一 氏
アンケートで不満が噴出! 意識のギャップを埋めるには
2010 年 CI を一新し、会社は経営理念である「変身への 挑戦」をさらに推し進めようとしていた。しかし、吉田氏 は「皆、決められたことはきちんと真面目にこなすが、挑 戦しようという欲があまりない」 と感じていた。そして 「横 のつながりが弱く、 コミュニケーションが希薄なままでは、 同じ目標に向かってがんばる、変身すると言っても単なる お題目になりかねません。工場内の意識や体制を改革する
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「良い製品仕様、良い製造システム、良い設備があっても、 それを機能させて生産するのは 人 です。池田模範堂の 工場の方々は、自社の製品に誇りと愛着を持っているがゆ えに、次のステップを踏み出せず、停滞している状況でし たが、工場で働く人が自分や仲間の成長を感じ、やりがい を持って仕事ができる環境をつくれば、さらなる飛躍が期 待できると確信しました」と語る。
きました」と巽氏は語る。 この変化のキーポイントとなったのが、スタート時に 行った「目標の見える化」である。各自の目標を付せん紙 に書き込み、模造紙に貼っていくことで、お互いの目標を 知ることができた。すると、お互いにどうフォローすれば うまくいくのかを考えて実行するようになり、他メンバー の目標を知り奮起してさらに高い所を目指すメンバーも現 れた。今井は「目指す方向性を共有することは、一緒に仕 事するうえで重要なこと。会社の目標だけでは、なかなか 自分の役割に落とし込み行動することは難しい。自分や仲
「人の和」をつなぎ コミュニケーションを復活
プロジェクト始動にあたっては、リーダー職以上の社員 に再度アンケートを行い、生産体制の実態と課題を把握し た。その後、 ディスカッションを重ねて「変身への挑戦」 をベースに以下の 6 テーマを策定した。 1. 安全推進、 2. 生産性向上、 3. 生産状況の見える化、 4. 他 社との交流、5. 人材育成、6. 人の和――である。 この中で、活動の中核をなしたのが「6. 人の和」だ。目 標値・達成率を見い出しやすいテーマが並ぶ中、目に見え ない 「人の和」 はいささか異質にも感じる。なぜこれをテー マに選び、中核としたのだろうか――その理由について吉 田氏は、 「人の和」はすべてのテーマを有機的につなぐ重 要なテーマであると説明し、 「生産性向上なども非常に重 要なテーマではありますが、結局は人と人とのつながりが ないとうまくいかないと感じていました。そのため、まず はコミュニケーションを活性化して相互理解を深めていく ことが大切だと考えましたので、皆で話し合い、これを中 核にして活動することに決めました」と語る。 活動当初は「現業が忙しいのにさらに業務を増やすの か?」という声もあがった。しかし、活動が進むにつれて メンバー同士の協力関係が生まれ、ひとつの方向に動き始 めた。 「半年が経ったこ ろ、メンバーたちが『こ の活動をしていけば自分 たちの不満も解消され て、いい方向に進むので はないか』という意識を 持ち始めてからは、積極
▲ 嶋田 哲雄 氏
間の目標を共有することで身近な存在になり、精神的距離 感がグッと縮まった。本プロジェクトでは、さらにその目 標の背景(なぜそのような思いに至ったか)をメンバー間 で共有したことで、より親近感が高まった」と見える化の 効用を説く。
自分事として行動できれば 人は育ち、風土が変わる
メンバーの変化について、 「2. 生産性向上」を担当した 巽氏は、皆で協力して何かを成し遂げようとするとき、思 いもよらない相乗効果を得られると実感したという。 「私 たちは、最新設備の能力を 100%引き出し、良品を安定的 に生産していくことを目指しました。そのために重視した のは設備の保全です。自分たちの設備は自分たちで守って いこう、もっと高い所を目指そう、という気概が生まれた のもこのときでした。また、リーダーが自ら積極的に生産 指標や出来高、保全トラブル件数などのデータを活用し、 生産性向上につなげていこうと動き出しました」と語る。 そして「3. 生産状況の見える化」を担当した嶋田氏は、 「見える化」がメンバーの意識と行動を変えていったと語 る。 「活動するにあたり『見える化』がコミュニケーショ ン活性化のきっかけになるようにしました。たとえば、ト ラブル発生時には関係各所に連絡するだけでよいにも関わ らず、横のつながりがないため、どこに連絡したらよいの か理解していない人が多数いました。そこで、トラブル発 生時の連絡網を明示、つまり『見える化』しました。こう した道筋をつけると皆が動きやすくなります。自分たちで 動くようになったことでコミュニケーションが活性化さ
的な取組みに変わってい
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れ、日々発生する課題の解決もスムーズにいくようになり ました」と語る。 「5. 人材育成」を担当した吉田氏は、スキルマップで 5 年後になりたい姿を考えるという手法を取り入れた。その 成果について「スキルマップを使うことで、どの方向にど う成長していくかを考え、自らを高めていくことへの意欲 が芽生えたと感じています。また、さまざまな職場の人と 一緒に課題を出し合うことで連帯感が生まれたことが、プ ロジェクト成功のカギになりました。やはり、こういった 活動では、上層部だけではなく全体で盛り上がれるように することが大切だと感じました」と語る。 さらに、 この活動を通じてリーダーが育ち、 風土が変わっ たと吉田氏は言う。 「人が育ってくれるのは、本当にうれ しいですね。とくにリーダーたちの成長はめざましく、今 も彼らが中心になって組織を引っ張ってくれています。そ して、皆が物事を自分事(じぶんごと)として捉えるよう になって、風土が確実に変わりました。まさに『変身への 挑戦』への手応えを感じます」と喜びを語る。
のストーリーも、ゴー ルまでどうつながって いるのかがわかりやす く、説得力がありまし た。だから皆、迷うこ となく引っ張っていっ てもらったんだと思い ますね。当初はこの活動
▲ 巽 和弘 氏
に抵抗感を持っていたメンバーが、今井さんの言葉を素直 に受け入れて熱心に動き出したのを見たときには、やっぱ り JMAC にお願いして良かったと思いました」と語る。 今井は 「池田模範堂の工場の方々は、 真面目で良いと思っ たことは我先に皆で盛り上がってやる気質があり、すでに 一人ひとりの素材は揃っていました。JMAC は、そこに 少しのスパイスを加え、 味を調えたに過ぎないのです」と、 もともとのポテンシャルの高さを評価した。 現在、15 年ぶりの新工場が建設中である。操業は 2017 年の予定だ。吉田氏は「今後ますます仕事は変わっていき ますし、GMP のレベルアップも求められます。今回の活 動を通じて、環境の変化に対応し続ける自信を持つことが できました」 と今回得た自信と今後への抱負について語る。 「人の和」をベースに、社内全体の相互理解を深めつつ、 会社の風土を変え、さらなる進化を遂げた池田模範堂。今 もなお、 「変身への挑戦」を続ける同社から生み出される 商品が世に出る日が楽しみだ。
土台はできた!いざ第二工場 そして新しい未来へ
JMAC の支援に関して「今井さんはとても精力的で、 道筋をつけてうまく皆をまとめながら引っ張っていってく れました。そして何より、同じ目線で議論を進めてくれた ところが良かったですね」 と全員が声を揃える。巽氏は 「話
担 当 コ ンサルタントからの一言
「人の和」を職場全体に広げていく
「人の和」とは仲間の困りごとを解決することです。そのためには、仲 間の話を聴くこと、仲間を知ることが重要です。池田模範堂さんでは、 皆さんがこのことを理解してからプロジェクトが加速していきました。 たとえば、先輩が後輩に作業を教えるときに、そこにやりがいやスキル を伝承できた喜びを感じるようになりました。一方で、後輩は教わるこ とへの感謝や成長を実感できる喜びなどを味わうのです。こうして「あ りがとうの輪」 が、 職場で部門を超えさらに工場全体へとどんどん広がっ ていったのです。
と 縮 ま り ま す
の 距 離 感 は も っ
有 す れ ば ︑ お 互 い
仲 間 の 目 標 を 共
今 井 一 義
チ ー フ ・ コ ン サ ル タ ン ト
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「活 を 「意」 若手のころから一人ひとりの JMAC では、 かす」ことを大切にしています。 闘する このコーナーでは「iik 塾」と称して、日々奮 若手コンサルタントの「意」をご紹介します。
(い いく)塾 i ik
プロのサービス提供を満足していただくために常に技術研鑽
JMAC には、お客様と真摯に向き合 いながら成果を出す「改革実践力」に魅 力を感じ入社しました。私は、コンサル タントとして 2 つの意識が重要だと考 え、 コンサルティングを実践しています。 1 つめは、加賀屋・小田会長の「サー ビス」の定義を意識することです。小田 会長は、サービスを「プロの技術(サー ビス)を提供して、お客様に満足してい ただき、それによって対価をいただく行 為」と定義しています。 コンサルティングで捉えると、コンサ ルティング技術を提供し、プロジェク ト(経営)成果を上げてクライアントに 満足していただき、対価をいただくとい うことです。そのためには、常に技術研 鑽することが一番に重要だと考えていま す。世の中の管理技術を文献などから学 ぶことはもちろんのこと、これまで支援 してきたクライアントともに開発した技 術をまとまることに取り組んでいます。 2 つめは、先輩コンサルタントの言葉 ですが、 「改善・改革活動はコンサルタ ントにとっては日常だが、個々のクライ アントにとっては非日常である」を意識 することです。 新工場建設や全社ものづくり改革と いった何年に一度のプロジェクト、仕事 のスピード感、客観的に指導させる、な ど様々な非日常があります。最初は戸惑 うお客様も多いですが、一社一社、一人 ひとりに真摯に向き合い、クライアント の悩みや不安を捉えながら支援するよう に心がけています。 クライアントに価値を提供し続けられ るように技術研鑽し、サービスに満足し てもらえるコンサルタントであり続ける よう努めたいと思います。
プロダクションデザイン
大森 靖之
革新センター
新しい視点から生み出すアイデアへの お客様の思いを醸成させていく
私は、新事業・新商品、研究開発テーマの企画に関するコン サルティングを中心に活動しており、大切にしていることが 2 つあります。 クライアントの方が従来考えていなかった視点から、 1 つは、 気づきを促すようなアイデアを提供することです。クライアン ト単独で検討していたのと同じようなアイデアしか生み出せな いようでは、コンサルティングの意味はないためです。
技術戦略センター
小田原 英輝
ないニーズに驚かされ、新たな視点を培う糧となっています。 大切にしていることのもう 1 つは、企画したアイデアに対
するクライアントの思いを醸成することです。そのために、企 画の市場性を裏付ける情報を提供することはもちろんですが、 企画したアイデアを実際の顧客に提案してみてフィードバック を得る機会を設けるなど、思いを醸成するための「仕掛け」を 意識しています。
新しい視点を得るためのひとつの行動として、これまで 30 このときに現地の経済や生活、 を超える国々を旅してきました。 価値観などを身をもって学んできました。携帯電話ひとつを とっても、街灯が少なく停電が多い国では懐中電灯がついてい
当然、私自身の思いを醸成することも大事ですので、企画で 関わる商品については積極的に販売店に行って購入者の状況を も実践しています。
観察したり、自分で購入・使用してみてニーズを体感すること これからもこの 2 つを意識し、新たな価値創出を支援でき るコンサルタントとして成長していきたいと思います。
たり、イスラム圏では礼拝の際にメッカの方向がわかるように コンパスが付いていたりなど、現地でなければなかなか気づか
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編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
「JMAC トップセミナー」は、JMAC と経営トップ層を繋ぐ本誌にご登場いただいた経営トップの方々を講師にお 招きし、実際に改革を断行していく苦難や成功体験をお話いただく経営トップ向けセミナーです。
9 月 18 日 開催
(金) 2015
基調講演:花王株式会社 代表取締役社長執行役員 澤田 道隆 氏
9 月 18 日( 金 ) の「JMAC ト ッ プ セ ミ ナ ー」 は、 本誌の TOP MESSAGE にご登場いただいた、花王 株式会社 代表取締役社長執行役員 澤田 道隆氏を お迎えし、 「本質を捉え、イノベーションを起こし続 ける」と題し、ご講演いただきます。 本誌ではご紹介しきれなかった澤田氏のお話を、直接 お聞きできるチャンスです。ぜひご参加ください。
15:00 〜 18:30
ステーションコンファレンス東京
定 員:50 名(お申し込み順) 対 象:経営トップ層、部門長の方々 参加料:10,800 円(税込) ※参加者交流費を含む
URL http://www.jmac.co.jp/seminar/open
日本能率協会コンサルティング(JMAC)のコンサルタントが、コンサルティング現場 で得た経験や知見、問題解決の視点などを、コラムとして毎月 1 回更新しています。 ぜひご覧ください!
URL
http://www.jmac.co.jp/column
塚松 一也 笠井 洋
ものづくりのブレイクスルーで未来を拓け! 研究開発現場マネジメントの羅針盤 ロジスティクスの新潮流 MOT を核にした事業化展開 顧客中心マーケティングへの原点回帰
石田 秀夫 横山 隆史 守田 義昭 栗山 裕司
小澤 勇夫 細矢 泰弘 江渡 康裕
プロフィット・デザイン 設備を大切にする技術と技能 人事制度改革の論点
しなやかな組織・人・チームづくり 今から「働き方」の話をしよう 今こそ環境経営の推進を
田中 良憲 山田 朗
花王の澤田社長から、日々愚直に考え続けるからこそセレンディピティー(思いがけず発見する力)で「あっ」 と気づきが生まれるということを実際の商品開発の事例を交えながらお話しいただきました。そして、その不断 の取組みが花王の製品の強さなのだと理解しました。 「失敗を恐れず挑戦する姿勢」を今でも経営者として実践 している澤田社長の眼差しから、 仕事を通じて成長してほしいという温かいメッセージが伝わるのを感じました。
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- 雪印メグミルク株式会社 スキー部監督
第 2 回
人間集団である組織を動かし成果を出す。それはスポーツの世界にも通じま す。天候や風向きなど自然の条件で競技するスキーのジャンプ競技。一見す ると派手な印象がありますが、メンタルな強さも求められるデリケートな競 技です。監督は選手の個性を尊重し、「技術と精神の両面の良き相談相 手」。選手はジャンプ台で「最高なパフォーマンス」を発揮するための努力 を求められます。今回の「顔」は選手としてオリンピックに出場し、現在は 雪印メグミルクスキー部監督である原田雅彦さんにフォーカスしました。
(はらだ・まさひこ)
原田 雅彦氏
1968年5月9日北海道生まれ。東海大学付属第四高等学校卒業後、雪印乳業 に入社。小学校3年からスキージャンプを始め、上川中学校時代に全国優勝。 1990年代以降日本を代表するスキージャンプ選手として活躍。1992年アル ベールビル、1994年リレハンメル、1998年長野、2002年ソルトレイクシ ティ、2006年トリノと5回の冬季オリンピックに出場。オリンピック、世界 選手権を通して9個のメダルを獲得。2006年の現役引退後は、雪印メグミル クスキー部コーチの傍ら、解説者としても活躍。2014年春監督に就任。
プレッシャーは自分を高める武器
120 点を取る準備がなければ 結果は出せない
大石:現役時代のご経験から、目標を達成 し結果を出すために何が必要だと思われま すか。 原田:ジャンプはたった2本、そこで結果 を出さなければなりません。最初から 100 点を目指す練習では勝てません、120 点を 取るための準備が必要です。120 点を取る 力がないとオリンピックでメダルを取るこ とはできないんですね。 私の現役時代は今と違い情報がなく、とに かく国内外のライバルの事が気になって仕方 がなかった。今頃ライバルはランニングして いるかもしれない、ヨーロッパの選手は想像 を超えた練習をしているかもしれない。そん な不安を打ち消すために陰で練習をする、徹 底的に考えるということを積み重ねてきまし た。そうやって 120%の準備をするプロセス が自信に繋がっていきました。 また、コンディショニングという当日に 100%の力を持ってくるトレーニングも行 います。 試合当日はさまざまな天候の中で、 信号が青になったらとにかくスタートしな ければなりません。どんな状況でも自分自 身に勝つことが求められます。流れを引き 込む力、プレッシャーを楽しむくらいの気 持ちがなければ、大きな舞台で結果を出す 原田:当時は周りの選手が闘志むき出しの 人たちばかり、そうやって皆が自分を鼓舞 して 尖って いましたね。ひとつの道を 進むとき、 自分をしっかり持っていること、 プレッシャーを利用するくらいの気持ちの 強さがなければ極めることはできません。 私はどんどんマスコミに出ていって自ら プレッシャーをかけました。成績によって は、 様々な反応もありましたが、 オリンピッ クという大きな舞台で存在感を示すために は、それくらいの気持ちがないと勝てない と思います。大きなプレッシャーの中で結 果を出すこと、もし失敗したとしても、そ ことはできないのです。 こには多くの学びがあり大切な自分の財産 になります。 時代の変化もありますが、今はネットで 検索するとライバルの練習内容なども簡単 に知ることができて、安易にその情報を信 じて表面的な思考になり、精神的な甘さに も繋がっていると思います。最近ではプ レッシャーを掛けないような傾向もありま すが、プレッシャーを避けるようならば、 いざという舞台で結果を出すことはできな い。プレッシャーを乗り越えて初めて厳し い接戦を勝ち抜くことができるのです。 今も現役の葛西選手(土屋ホーム)は経 験も豊富で素晴らしいジャンパーですが、 若い選手が 「葛西さんすごいな」 と言います。 その時点で自分自身に負けているのです。 リスペクトする気持ちは必要ですが、自分 の父親世代にいつまでも負けていてはいけ ないという気概を持って向かっていって欲 しいと思います。
プレッシャーで自分を 奮い立たせる!
大石:選手時代どのようにプレッシャーと 向き合われていたのでしょうか。
大石誠 の ここが Point
準
備のプロセスで自分を追い込み競技に臨んでいた選手時代の原田雅彦さん。 いろいろなコメントでメディアを賑わせていましたが、 これも原田流のプレッ
シャーのかけ方であったことがわかりました。オリンピックの大舞台でジャンプ台に 立つと、 あとは自分自身との勝負になります。その瞬間で最高の成績を出すためにも、 不断の準備が必要であることを理解しました。ビジネスの世界でもプレッシャーはあ ります。そのプレッシャーに勝つために、どこまでの準備をしているか。考えさせら れるコメントでした。
Business Insights Vol.58 2015年 8月 発行
編集長:大石 誠 編集:石田 恵 / 柴田 憲文
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