ビジネスインサイツ61
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夢の実現には 「 ブレない経営 」 が 必要だ
〜新時代のトータル・ヘルスケアソリューションを創薬で支える〜
田辺三菱製薬株式会社 代表取締役会長
土屋 裕弘
JX 金属株式会社 「先行提案力」を強化して 顧客のニーズと心をつかむ 三井住友ファイナンス&リース株式会社 「ありたい姿」を常に意識しながら 「効率的な働き方」を追求していく アネスト岩田株式会社 ヨコハマから世界へ 「ものづくりの DNA」を伝承する
iik 塾 開発・技術マネジメント革新大会
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毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点についてお話しを伺います。 インタビュアー:JMAC
代表取締役社長 鈴木 亨
夢の実現には 「ブレない経営」が必要だ
田辺三菱製薬株式会社
〜新時代のトータル・ヘルスケアソリューションを創薬で支える〜
入社当時の夢は研究所長 しかし意外な道へ進むことに
鈴木:土屋会長は大学時代ずっと薬学を勉強されていて、 博士号まで取られました。薬学の道に進まれた理由や田辺 製薬に入社した当時の想いをお聞かせください。 土屋:私は男ばかりの 6 人兄弟の 5 男で、私を含めて 5 人が理科系・技術系の道に進みました。上の二人は化学系 で、こうした環境で育ったせいでしょうか、モノづくりに 興味があったこととそれを病気の治療に役立てたいとの想 いから薬学の道、とくに有機合成の世界に進みました。 私が在籍していた大学の研究室は「何でも好きなことを 研究しなさい」という風土であり、自分で研究テーマを探 しては、いろんな研究をしましたね。そういった自由闊達 な雰囲気の中で研究をした経験が、自由闊達な会社にしよ うという原動力になっています。 博士課程を終えて田辺製薬に入社し、研究所に配属され たときの夢は、患者さんを助けられる革新的な新薬の創製 を直接指揮できる、研究所長になることでした。しかし研 究所にいたのは最初の 10 年、その後は研究企画部、経営 企画部と企画畑を歩むことになりました。当時は研究所か ら経営企画部への異動の前例はなく、最初は戸惑いました が、結果的にはとても良い転機になったと思っています。
研究所の外でさまざまな経験を積み、物事を多面的に見る ことができるようになりましたし、研究企画部では共同研 究、経営企画部では M&A など、多様な実務経験を積む ことができたのは大きな収穫でした。
研究はリレー競技のバトンタッチ 薬を育て、人を育てる
鈴木:1995 年に経営企画部に異動された後、2003 年 に研究本部に戻られました。経営企画部を経験して研究所 の所長になられたとき、研究所のマネジメントに対する見 方がどう変わられたのか、また、マネジメントの具体的な 内容についてもお聞かせください。 土屋:まず、企業規模に合った研究開発をするために、自 社単独でどこまですべきか、外部の力をいかに活用するか に着目するようになりました。実際に産官学や国内外を問 わず、いくつかの共同研究・開発も行いましたが、外部連 携の重要性を肌で感じました。医薬品は情報、技術、知 識、知恵の集積体ですから、医薬品産業は情報産業とも言 えます。その情報収集のためにも外部とのネットワークや コミュニケーションは非常に重要です。 私たちは、薬を世の中に出した後も薬を使った患者さん の症例などの情報を集めて分析し、その結果について医療
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設立:1933 年 12 月( 「たなべや薬」の創業は 1678 年) 合併期日:2007 年 10 月 1 日 資本金:500 億円 従業員数:4,819 名(2015 年 9 月 30 日現在) 主な事業内容:医薬品事業(医療用医薬品を中心とする医薬品 の製造・販売)
田辺三菱製薬株式会社は 2007 年 10 月、 田辺製薬と三菱ウェ ルファーマの合併により誕生したが、その創業は 338 年前に さかのぼり、日本最古の製薬企業である。同社の「レミケード」 は難病といわれる疾病を中心にクローン病や関節リウマチなど の効能を取得し、日本における生物学的製剤の未来を切り拓い たといわれている。2009 年 6 月、代表取締役社長に就任した 土屋裕弘氏は「夢のある新薬を創製し、夢のある企業を実現し よう」と呼びかけ続けた。今回、土屋氏に当時の想いや経営者 にとって必要な視点、そして今後の展望についてお聞きした。
土屋 裕弘
関係者に薬の適正使用情報として提供しています。 同時に、 医療関係者から医療現場のニーズを的確に把握することを 通じて、適応症の追加、用法用量の変更などを行っていま す。こうして薬の価値を高めていくことを「育薬」と呼び ますが、その一例が当社の生物学的製剤「レミケード」で す。最初の適応症はクローン病でした。育薬の結果、関節 リウマチなどの効能を取得し、その後も随時適応を拡大し ながら発売以来 10 年以上にわたり多くの患者さんの治療 に貢献しています。 研究員のマネジメントでは、所員が自由闊達な雰囲気の 中で研究ができるように心がけました。研究員は当時約 400 名在籍していましたが、一律に管理監督することはせ ず、研究テーマを決めるまでは自由に議論をして、ある程 度テーマが決まってきたらみんなで一緒にやろう、と言っ ていました。ただ、製薬企業の研究開発の結果は上市でき るかできないか、0 か 100 の世界で、不安やストレスを 抱える担当者も多いのではないかと感じていました。その 際、相談できる相手がいることがとても大切なため、私は 常に「ひとりで悩むな、 ひとりで闘うな、 相談相手を持て」 と言っていました。このときに始めたのが、新入社員の 3 〜 4 年先輩を相談相手とする制度です。今で言うメンター ですね。現在もこの制度は続いていますが、当時から新入 社員には「いずれは自分が良き相談相手になりなさい」と 言ってきました。 土屋 : 私は社長になってから常に「夢のある新薬を創製し、 夢のある企業を実現しよう」と言い続けてきました。当社 は、1988 年に創設された日本薬学会創薬科学賞において 自社創製した狭心症・高血圧症治療剤ヘルベッサーが第 1 回の受賞をして以来、脳梗塞治療剤ラジカット、多発性硬 化症治療剤イムセラ、2 型糖尿病治療剤カナグルと、計 4 回受賞するなど、患者さんが待ち望む画期的な新薬を創製 し続けております。新薬には患者さんだけでなくご家族、 医療関係者、研究者など、すべての人の夢が全部詰まって います。そのような新薬を創製して「夢を実現しよう」と 研究開発は、陸上競技のリレーのバトンタッチのような もので、過去の膨大な研究結果が現在に活かされ、現在の 研究が将来の科学に貢献していきます。人の育成も同じで す。創薬や育薬のように、人の育成もまた継続的に行って いくことが大切なのです。
代表取締役会長
3 つのアクションで 「夢のある企業を実現しよう」
鈴木:2007 年に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併し た後、 2009 年に社長になられました。そのときの想いや、 その想いを実現するためのマネジメントの秘訣などをお聞 かせください。
Michihiro Tsuchiya
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いう想いがここには込められています。 同時に、社員のみなさんには自分の仕事に誇りと喜びを 感じてほしいと思っていますので「自分の今まで得た経験 で薬をつくって、その薬がこんなにも世の中の役に立って いる、これは幸せなことであり、大きな喜びなんだよ」と 伝えてきました。社員のみなさんが退職するときに「いい 会社人生だった、すばらしい会社に勤めた」と思えるよう な会社にすることを心がけてきました。 また、夢は見ているだけではなく、つかみとる努力をし なければなりません。夢の実現のためには自由に意見を言 えることが大事で、そのための具体的な 3 つのアクショ ンを言い続けてきました。 1 つ目は「自ら考えて行動せよ」――これは何か課題が あってなかなか達成できないときには、できない理由では なく、どうやったらできるのかを自分で考えなさい、とい う意味です。2 つ目は 「ひとりで悩むな、 ひとりで闘うな」 、 3 つ目は「学問・異動・協業のススメ」です。 「学問のス スメ」は社会勉強しなさい、 「異動のススメ」は人事異動 で仕事の幅と人脈を広げなさい、そして変化に強くなりな さい、 「協業のススメ」は社内外と積極的に協業しなさい、 そのためには強みを持ちなさい、という意味で、どれも私 の経験から生まれています。 私たちは「すべては患者さんのために」という共通の想 いを持って、新薬の開発を続けています。しかし、研究開 発をして世の中に新薬が出るまでに 15 年以上はかかりま すので、これから先のメディカルニーズはどうなるのか、 世の中はどう変わり、科学技術はどの程度進歩しているの か、その潮流を捉えながら研究を進めていく必要がありま す。そのときに役立つのが、この 3 つのアクションです。
に対する新薬については、どのようにアプローチしていく かが課題となっています。新薬の創製については、研究の 種は外から持ってきて、自分たちは開発研究に特化してい くことも可能ですし、反対に自分たちが見つけた新薬の種 を他社と共同開発するなど、今後はこのようなオープン シェアードビジネスが確実に増加します。 海外展開を進めていくうえで、自社単独で研究開発を進 めていくことが必ずしも望ましい姿とは限りません。新薬 の価値を最大化するためには、どこまで自社でやって、ど こから先を他社に任せるのかを考えることが重要です。 こうした流れの中では、今後は外部との連携やコミュニ ケーションがますます重要になります。競合他社ともお互 いの持っている経営資源を有効活用し合ったりすることも 必要になってくるでしょう。 また、今までの薬はそのほとんどが病気を治すためのも のでしたが、これからは健康の維持、未病状態(症状がな い病気予備軍)の改善、病気の予防、病気の予後までのす べてを含めて、健康寿命を延ばすトータル・ヘルスケアが 求められてきます。たとえば、健康なときにはスポーツク ラブ、 予後には専門施設の管理などが必要とされますから、 薬だけでなく、異業種との協業やコラボレーションも必要 になってきます。ですから、新たな時代のトータル・ヘル スケアを実現するためには、製薬業界も他の業界も今まで の業界の範疇から一歩二歩踏み出すことが大切で、それに より新しい枠組みによる新しいビジネスや事業、産業が生 まれてくるはずだと思っています。 そういう意味でも、 トー タル・ヘルスケアは今後伸びていく分野ですし、製薬企業 が貢献できる領域も広がっていくと期待しています。
国際創薬企業としての使命 人の一生を創薬で支える
鈴木:新薬の開発は 10 年、15 年先のニーズを考えなが ら進めることが必要だというお話がありました。国際創薬 企業としてグローバルに展開する際の取組み、展望につい てお聞かせください。
「くすりの町」大阪道修町から 世界に情報を発信する
鈴木:田辺三菱製薬は今年で創業 338 年を迎える、たい へん歴史のある会社です。 東京に本社を置く会社が多い中、 大阪・道修町に本社を置き、なおかつこの地に史料館を建 てたことへの想いをお聞かせください。 土屋:道修町は日本の医薬品産業発祥の地で、田辺製薬は
土屋:すでに世の中に出ている薬によって、一部の疾患の 治療満足度が上がってきているのですが、治療法が確立し ていない病気、いわゆるアンメット・メディカル・ニーズ
日本最古の製薬企業としてこの地で創業しました。ここか ら世界に向けて薬を創製してきた 338 年の歴史は重いと 考え、この地に本社を置いています。
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土屋 裕弘
Michihiro Tsuchiya
1947 年 1976 年 2001 年 2006 年 2007 年 2009 年 2014 年
長野県松本市生まれ 京都大学大学院 薬学研究科 博士課程 修了 田辺製薬株式会社入社 応用生化学研究所配属 同社・取締役 経営企画部長 同社・代表取締役 専務執行役員 研究本部長 田辺三菱製薬株式会社・取締役 副社長執行役員 同社・代表取締役社長 社長執行役員 同社・代表取締役会長 現任
その歴史を伝える史料館をここに併設したのも、この町 が「くすりの町」だということをもっとみなさんに知って いただきたいという思いからでした。 道修町には今もなお製薬企業が多く、医薬品出荷額でも 関西は全国の 3 割を占め日本一ですが、このことは世間に はあまり知られていません。製薬企業はビジネスの相手が 限定的で、消費者との接点が直接的でないため、関心の対 象になりにくいのでしょう。 また、世界の医薬品売上高上位 100 製品に占める国別 シェアにおいても、日本は米国に次いでスイスと共に世界 第 2 位を誇ります。医薬品産業はこれからも日本の重要 な産業であり続けると思いますので、私たち製薬企業は もっと情報発信を通して開かれた産業として、存在感を示 すべきだと思っています。関西、とくにこの道修町発の新 薬を世界に向けて発信していきたいと思っています。
▶歴史を次世代に伝える田辺三菱製薬史料館◀
2015 年 5 月 に 本 社 ビ ル の 2 階に開館。明治期の くすりの町・道修町の再 現、1678 年 の 創 業 か ら の同社の収蔵品とあゆみ、 そして国際創薬企業に向 かう未来の姿を紹介。
なお、館内の収蔵品は史料 館のホームページにも紹介 されている。来館予約は同 ホームページから。 www.mtpc-shiryokan.jp
思っていることを言える自由闊達なものであることが大事 です。 私はよく「逆命利君」 (中国・漢代の説話集にある一説 「命に逆らいて君を利する、之を忠と謂う」 )がとても大事 だと言っています。これは、上司の言ったことでも会社の ためにならないと思えば違うと言いなさい、それがまた会 社を変えることになるのだから、ということです。私自身 も入社以来「こうあるべきだ」と思うことは言ってきまし たし、今でも心がけていることです。また経営を担ってか らは、反対の立場で、部下の言う「耳の痛い」話も真摯に 受け止めるように心がけています。 確固とした企業風土をつくるためには、 一貫性のある 「ブ レない経営」が必要です。次世代のリーダーには、自分自 身が企業風土そのものだということを自覚し、自由闊達に 「ものを言える風土」をつくってもらいたいですね。
自由闊達に 「ものを言える風土」 こそが人と会社を元気にする
鈴木:最後に、土屋会長から次世代を担うトップ、経営幹 部の方へ向けたメッセージをお願いします。 土屋:経営にとって企業風土は非常に大事です。企業風土 というと、どこか他人事と捉えがちですが、自分自身が企 業風土のひとつだという自覚を持つべきです。企業風土を こうしたいと言う前に、まず自分自身が変わる努力をしな ければなりません。そして、その企業風土は、お互いに
見を言えること等々、学生時代からの経験が研究所、会社のマネジメントに活きてい ること、そして TOP としてブレない経営をすることに対する熱い想いを伺うことが できました。 創薬、 海外展開、 これからも田辺三菱製薬の躍進に期待したいと思います。
土
屋会長とのインタビューでは「自由」という言葉を多くの場面でお使いにな ることが印象的でした。自由闊達な雰囲気、夢を実現するためには自由に意
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〜顧客目線の技術開発を! 殻を破った技術者たちの挑戦〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
「先行提案力」を強化して 顧客のニーズと心をつかむ
JX 金属株式会社
JX 金属は、銅を中心とする非鉄金属に関する鉱物資源の探査・採掘・ 製錬から電子材料製品の生産・販売・開発、リサイクルまでを手が けており、その製品の多くが国内トップ、世界でもトップクラスの 生産量を誇る。グローバルな企業間競争がますます激しくなる中、 他社との差別化を図るためには技術者の「先行提案力」の強化が重 要であると考えた同社は 2011 年、技術者のマインド変革という大 きなチャレンジに踏み出した。この活動で技術者たちはどう変わっ ていったのか、その軌跡と今後の展望などをお聞きした。
執行役員 技術本部副本部長
Norio Yuki
結城 典夫
若き技術者たちよ、今こそ 「山師的な発想」を取り戻せ!
JX 金属の歴史は、1905 年(明治 38 年)に日立鉱山の 開発に着手したことに始まり、以降 100 年余りの間、さ まざまな事業の変化に対応しながらグローバルな取り組み をしてきた。現在は、銅を中心とする非鉄金属の製造・販 売などを手がけ、上流の「資源開発」 、中流の「金属製錬」 および下流の「電材加工」 「環境リサイクル」までの一貫 した事業を展開している。スマートフォンなどのプリント 基板に使用されている同社の “ 圧延銅箔 ” は、世界シェア 70% を誇る。
近年、企業間競争がますます激しくなる中で、他社との 差別化が重要であると考えていた同社は、製品開発にもっ と顧客の声を反映させる必要があると考えていた。 「一昔前までは、 技術者がお客様の所へ行くときには “ ご 用聞き ” として営業や問屋に同行をしていて、それで成り 立っていました。しかし、グローバル化が進み、お客様の 要請が多様化してきている今、これまでのやり方のままで は競争力が確保できないため技術者にはもっとお客様とコ ミュニケーションをとってほしい、と考えるようになりま した」と話すのは、本活動の担い手である結城典夫氏(当 時の技術開発センター電材加工グループ長、現在は執行役 員・技術本部副本部長)だ。 しかし、日立技術開発センターは顧客が多く集まる東京
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とは少し距離があり、お客様に自ら会いに行くという意識 を維持しにくい環境にある。結城氏は「技術者はみな真面 目で、目標に向かっていく馬力も非常にあります。ただ、 最近は昔からあった『山師的な発想』が少し弱くなってき ていると感じています。ひとりでじっくり考えようとする 傾向が強いので、発想が内にこもらないよう、もっと外向 きになってほしいとも考えていました」と語る。 この「山師的な発想」は 1914 年(大正 3 年) 、日立鉱 山の山肌に這わせていた煙突を天高く立ち上げ、煙害の激 減に成功したことに象徴される。当時の常識を覆したこの 大胆な発想は風土として受け継がれ、今もなお「大煙突を つくった発想に学べ」 と語られている。こうして 2011 年、 JX 金属は JMAC をパートナーに技術者のマインド変革に 乗り出した。
体験してみる、そのために必要なスキルを勉強して身に付 ける、というところに意義があると考えましたし、体験す ることで刺激を受けてほしいという期待もありました」
「仮想カタログ」で苦戦! 現実の厳しさを思い知る
こうして 2012 年 8 月からおよそ 4 ヵ月間の実践型研 修がスタートした。そのときのことを今もよく覚えている と話すのは、田中幸一郎氏(技術開発センター・電材加工 グループ 技師)だ。 「あのときは、ちょうど自分で開発し た電磁波シールド材のバージョンアップ製品が完成して、 これからお客様の所に提案に行こうという一番楽しい時期 でした。このタイミングで『先行提案型研修』を受講でき ると知って、研修から 1 つでも多くいいところを学びとっ て活かしていくぞ、と意気込んでいました」と、高いモチ ベーションで研修に臨んだと語る。 実際に研修を受けてみると、まさに新しい体験の連続 だったという田中氏は 「研修では“顧客目線に立つ”といっ た自分でも大切だ、当たり前のことだと思っていたことに ついて、具体例をあげた講義やグループディスカッション でどんどん掘り下げていきました。その中で『知っている こと』と『できること』がこんなにも違うものか、と思い 知ったのです」と当時を振り返る。 田中氏がそのことについて身を持って実感したのが「仮 想カタログ」を作成したときだった。 「開発している商品 の特長なんてわかってる、簡単に表現できると最初は思っ ていましたが、 実際に仮想カタログをつくり、 グループディ スカッションで『何をアピールしたいの?』 『これを使う メリットは何?』と聞かれても、ちゃんと答えられない。 そういう体験をして、ああ、これでは顧客に製品の良さが 伝わらないんだなと実感しました」 (田中氏) 結城氏は「仮想カタログ作成などの体験を通して、みな の意識は確実に変わりました。受講者がそのとき一番重要 だと考えていたテーマで行ったことも真剣勝負となり、よ かったですね。私が仮想のお客様役になって提案のロール
※仮想カタログ
商品開発の企画意図とその実現内容を先行してレビューし、商品開発 の成功率を高めることをねらいとして、JMAC が開発した手法。 「売れ る商品か」 「売りやすい商品か」 「儲かる商品か」などを開発に着手する 前に営業、技術、製造が協働して吟味するためのマネジメントツールで、 商品カタログの特性を活かしつつ開発内容をビジュアルかつコンパクト に表現する。現在では企画構想段階、技術開発段階にも適用されている。
「ご用聞き」から 「先行提案型」への脱却
まずは、技術者たちの「外向きマインド」を醸成すると ともに技術者たちの問題意識を喚起するため JMAC とと もに半日のセミナーを企画・開催した。本セミナーの講義 と「仮想カタログ※」の作成を通じて受講生たちは「顧客 目線」への理解を深めた。 このセミナーを受けて、結城氏は「顧客目線の不足」と 「コミュニケーションのあり方」の 2 つに課題を感じたと いう。 「普段から『お客様は大事だよ』と伝えているつも りでしたが、想定していたよりも『顧客目線』が不足して いるのが実情でした。やはり頭ではわかっていても経験が なく、実感が伴っていなかったのだと思います。また、彼 らはそれまで研究テーマの違う社内の技術者とはあまり話 したことがなかったのですが、実際に集まって議論してみ ると、自分がこれまで気がつかなかったことに気づくこと ができて、技術者同士のコミュニケーションの重要性を再 認識したようです」 (結城氏) この課題を解決すべく、JX 金属は本格的な「先行提案 力強化活動」を行うことに決めた。結城氏は当時の思いを こう振り返る。 「外に目を向けて、お客様の『ご用聞き』をするだけで はなく『こちらから先に提案』していこうではないかと。 いつもお客様へ先行提案を持っていってビジネスができる わけではないが、そういうアプローチがあると知り実際に
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プレイングを行いましたし、本人から営業部門への仮想提 案を行ったこともありました」と評価している。
研修中にアポイントが取れず、研修の半年後にやっと実際 に提案することができたが、 「今思えば、研修後に提案に 行けてよかった」と振り返る。 「自分はお客様の声を聞き ながら苦労して開発してきたという自負があったので、今 のままでも十分だろう、という気持ちも半分ありました。 しかし、実際にお客様を訪問したときには、研修で学んだ ことがとても役立ちました。たとえば、 『具体的に提案す ると具体的な反応が返ってくる』ということです。たとえ 的外れな提案であったとしても、それが具体的なものなら ば、お客様は『違う、そこじゃなくてここに困っているん だよ』と具体的に返してくれるので、今ではお客様の本当 のニーズを知るために、積極的に何でも聞いてみようとい う気になりましたね」と笑顔を見せる。 そして、おもむろに自ら作成した二種類の仮想カタログ を広げて「実は、研修でつくった仮想カタログと、半年後 にもう一度考えてつくった実際の提案用カタログの構成や 訴求ポイントがほぼ同じだったのです。行き着くところは ここだったんだなと。研修期間中に仮想カタログづくりに 本気で取り組んで、研修のチームメンバーと何度もバー ジョンアップを繰り返して完成度の高いものができていた んだなぁ、と改めて感じました」と、実践型研修の効果に ついて実感を込めて語る。
「顧客目線」が 技術者を変えた!
グループディスカッションは研修が進むにつれ活発に なっていったが、当初はぎこちなさもあったという。田中 氏は「それまでは、他の技術者の開発品については、たと え同じ部門の人でも、どこか遠慮があり、率直に意見を言 いにくい雰囲気がありました。しかし、研修は顧客への提 案仮説をみんなで練り上げるためのディスカッションとい う雰囲気の場であったので、お互いに遠慮なく意見交換で きるようになっていきました」と、気兼ねなく議論できる 場をつくることの重要性を指摘し「その後も、研修を受け た人たちは積極的に意見を言うようになりましたし、同じ チームだった仲間とは今でも、自分たちで日常の議論の場 を盛り上げていこうと話をしています」と、リーダーシッ プの大切さも感じるようになったと話す。 田中氏は現在、研修前に完成していた次世代向けのバー ジョンアップ製品を顧客に提案し、サンプル評価の段階に 進んでいる。最重要ターゲット顧客に対しては、あいにく
▶▶▶ 活動で得た「顧客目線」を開発業務に役立てる! ◀◀◀
活動に参画したメンバーの方々から当時の感想や今後の抱負などをお聞した。 ▶澁谷義孝氏(技術開発センター・電材加工グループ 主任開発員) ニーズに応える先行提案をするためには、会話の中で「お客様が今、何を必要としているのか」を把握できる力が 必要だと実感しました。周りの人と議論して協力する姿勢が身に付き、目標だった「社内全体に加えて顧客も巻き込 む開発」を実現できたことも大きな収穫でした。 ▶今村裕典氏(同 主任開発員) 顧客目線・相手目線の大切さや、ディスカッションで視野や仕事の幅が広がることに気づいてからは、業務の進め 方が大きく変わりました。 「仮想カタログ的発想」で相手のメリットをわかりやすく説明できるようになり、他部署の 人とも連携をしやすくなったと感じています。 ▶吉澤彰氏(同 技師) 顧客目線の大切さを学んでからは、お客様の要望にどう応えるべき かを考えるようになりました。お客様のニーズにマッチする製品を提 供するため、高品質化とコストのバランスを図りながら、技術力を駆 使して最高品質のものを開発できるよう努力を続けています。 ▶中願寺美里氏(同 技師) 仮想カタログの作成を通して、顧客目線で考えることの難しさを改 めて感じました。研修中に習慣化した YWT (やったこと、 わかったこと、 次にやること)をこれからも日々積み重ね、お客様の求めているもの は何かをよく考えて、開発につなげていきたいと思います。
後列左から今村氏、澁谷氏、吉澤氏 前列左から田中氏、中願寺氏
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結城氏は「研修後、田中君は現行品に満足している顧客 に対しても『こうするともっといいことがある』と先行提 案をして、実際に成果を出し始めています。このように、 田中君に限らず参加した技術者一人ひとりが一つひとつ実 績を積んでいくことができればといいなと思います」と、 その成長ぶりをうれしそうに語った。
や JMAC に任せきりにせず、一緒に活動するという意識 を持ち続けたことも、成功の要因だったと付け加えた。
技術者の育成に 会社の夢と未来をのせて
今後の抱負について、田中氏は「あれからお客様に提案 する機会が増えてコネクション(人脈)が広がり、信頼関 係も構築されてきました。これからも、研修で得たスキル を発揮してお客様の困りごとを聞き、その声を開発につな げていきたいと思います」と、意欲的に語る。 結城氏は「今後、 中長期の研究を実施するためには、 テー マ設定力や企画力といった個人の能力に関する全体的な底 上げと、 将来の組織運営を担うキーパーソンの選抜と育成、 この両方を考えていかなければなりません。また、新任管 理職の育成も差し迫った重要課題です。一般的な管理スキ ルのほかに研究・開発特有のマネジメント教育を新たに行 う必要があります。今後もひとりよがりにならないため、 そして広い視野を持つためにも、有効なプログラムを積極 的に利用していきたいと考えているので、JMAC の幅広 い支援を期待しています。会社としても新体制のもとで技 術者の育成をさらに強化していこうと動き出しています。 これからがまさに正念場です」と今後の課題と抱負を熱く 語った。 「顧客目線」を持つことで大きな変革への第一歩を踏み出 した JX 金属の技術者たち。 「山師的な発想」を取り戻しつ つある今、画期的な製品を世に出し続けていくに違いない。
活動成功のカギは「決意」 「動機づけ」 「エンカレッジ」
こうして、開発現場の最前線にいる技術者たちは変革の 一歩を踏み出した。結城氏は研修を通じた実践活動の成果 について「彼らが顧客目線や外向き指向の不足を実感でき たこと、クリエイティブな議論をする風土やそのためのコ ミュニケーション能力を持つことが大切で、それが自分た ちの重要な課題だと認識できたことは大きな成果でした。 また、グループディスカッションでリーダーシップが育ま れたことや、ヒアリングやプレゼンのスキルが向上したこ とも忘れてはならない成果です」と語る。 結城氏は、 このような活動を組織的に推進するためには、 マネジメント層の「決意」 「動機づけ」 「エンカレッジ(行 動変容を促す) 」が大切であると説明する。 「まず、上に立 つ人間が『この活動をする』と決意すること、そして実際 に活動を始めたら、初めにきちんと動機づけをすることが 重要です。 われわれの場合は、 研修の始めにさまざまなメッ セージを介してこの活動の大切さを伝えました。 また日々、 中だるみしないようにエンカレッジも重要でした」と語 り、最後に本社のポジティブなバックアップがあったこと 担 当 コ ンサルタントからの一言
「 突 き 抜 け た!」 と思えるところ までしぶとく議 論を重ねること 庄司 実穂
シニア・コンサルタント
自分たちらしく、外向きな R&D 組織をつくろう
仮想カタログは、企画構想段階のツールとして広く活用されていますが、カ タログづくりそのものだけではなく、 「顧客にダイレクトに仮説を提案する」 「そ 行動変容につなげる意味が大きいです。新商品企画のみならず、技術開発目 与するもの」 「研究組織らしいクリエイティブなマネジメントツール」として の能力開発・風土改革の追求につながると思います。
こから得られた情報に対して組織の知を結集させる」といった技術者集団の 標の先鋭化、次のネタ発掘など、 「より上流段階から R&D の生産性向上に寄 位置づけてほしいですね。自社らしい価値発掘プロセスづくりや、R&D 組織
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
「ありたい姿」を常に意識しながら 「効率的な働き方」を追求していく
〜業界 No.1 の働き方へのチャレンジ〜
業界 No.1 企業になるために 「働き方」も No.1 にしたい
三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)は、 2007 年 10 月に商社系の住商リースと銀行系の三井住友 銀リースが合併して誕生した大手総合リース会社である。 合併から 5 年が経過した 2013 年度から、 「融合から強み を活かした新たな成長ステージへ」をテーマに中期経営計 画がスタートした。経営方針である『グローバルベースで モノに関する金融ソリューションを提供し、圧倒的な存在 感を有する業界 No.1 企業として、最高の評価を受けるこ と』を実現するため、経営目標として、 1. 顧客基盤、事業領域の強化・拡大による国内安定収益の獲得 2. グローバル金融体制の確立による海外成長機会の実現 3. 効率的な業務運営による経営資源の確保と有効活用 を掲げている。 「3 番目の経営目標を達成するため、 業務戦略である『安 定的・効率的な経営インフラの整備』を推進しています。 今回の移転は、オフィス環境を抜本的に変えられるチャン スであることから、移転を契機に業務改善や働き方見直し を実践し、 業務のスピードアップなどサービスの質を高め、 お客様満足度の向上を図りました。 また従業員に対しては、 “ 向上心を持てる職場 ”“ 仕事に対しての充実感を持てる ような職場 ” を提供し、“ 働き方でも業界 No.1” を目指
しています」 (植田氏) こうして単なる「引越し」ではなく、 「働き方を見直す」 という大きな使命を帯びたプロジェクトとして本社移転プ ロジェクトチーム(以下、移転 PT)が始動したのは、移 転の 2 年前、2013 年 10 月である。 「何をどこまでの目 標設定と具体的なアクションプランを期限内に実行するに は、われわれだけでは限界があるのではないか」と感じて いた植田氏は、 「自分たちの狭い世界だけで物事を考えが ちなので、違う観点からのアドバイスがほしかった」との 理由から外部の支援を決めた。 「コンサルティング会社には、当社の業務スタイルの正 確な把握、課題の的確な抽出、課題解決に向けた施策の提 言、プロジェクト管理、ファシリテーションなどを期待し ていた」と語る植田氏が JMAC を選んだ理由は、 「業務改 善が得意分野で、しかも押しつけではなく、当社に密着し たさまざまな助言や情報を提供してもらえるから」だ。
「ありたい姿」を描いて 何をやるべきかを明確にする
移転 PT の事務局である柳沢氏と仲田氏は、 「アンケー トなどを通じて社員の意見を汲みあげた結果をみると、社 員の不満や当社の課題は、 さまざまな情報の受発信、 会議、 仕事の進め方、IT 化など多岐にわたっていました。しか も移転 PT メンバー 11 名は全員が所属部署との兼務者で、
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三井住友ファイナンス & リース株式会社
グローバルベースでモノに関するさまざまな金融ソリュー ションを提供することで総合リース会社として業界のリー ディングカンパニーを目指す三井住友ファイナンス&リー 移転集約を契機に、“ 働き方でも No.1” への取組みをスター ス。2015 年 8 月、従来 3 拠点に分散していた東京本社の ト。本稿では同社取締役専務執行役員・植田祐一郎氏、本社
本社移転プロジェクトチームリーダー) 、仲田和弘氏(企画部副部長)に
移転プロジェクトの実務を担当した柳沢昌宏氏(総務部参事役・ 活動の振返り、 成果事例や今後の進め方についてお聞きした。
植田 祐一郎
取締役専務執行役員
Yuichiro Ueda
すべてを期限内に対応することは、逆にすべて中途半端に 終わる懸念がありました」と語る。 担当した JMAC チーフ・コンサルタントの田中良憲が 最初に取り組んだのは、 「やるべきこと」の切り分けだっ た。 「このままでは、 結局このテーマは移転 PT がやるのか、 所管部がやるのか、いつまでに何をやるんだという話にな り、まとめきれない心配があった」ため、 「まずは、東京 本社が移転したときの理想の働き方・ワークスタイルとは どんなものかを話し合ってもらい、移転 PT として目指す べき理想像の合意形成をすることにしたのです」と田中は 振り返る。理想像をつくるために、田中は本社移転を経験 した他社見学会を複数回開催したり、ワークライフ・バラ ンスに取り組んでいる著名企業による講演会の開催などで 刺激を与え、 新たな 「意見出し」 を仕掛けていったのである。 こうして移転 PT では、まず目指すべき働き方を『限ら れた業務時間内で業務を効率化し、かつ顧客サービスを高 め、余暇の時間を有効に活用している状態(人) 』である とした。具体的には、“ リース会社 No.1 の働き方 ” とし て 『自ら機動的かつ効率的に動く “ 自律している社員 ” が、 有機的に連携し、仕事の価値(成果 ・ 効率)を高めている』 ことを掲げた。 「その理想を実現するために、やるべきテーマは何か、 そのテーマを実践していくには何が必要かを整理し、さら に移転 PT がやること、各所管部でやるべきことを切り分 けたのです」 (田中)
「あれもこれもやらなければ」という状態だったが、 「JMAC からは、テーマの絞り方へのアプローチ、絞り込 んだ各テーマの課題とありたい姿の設定、ありたい姿に向 かって東京本社移転までに実践する施策やタスクを時系列 に整理することなどをご支援いただき、各テーマについて 統一感ある進捗管理ができるようになりました。頭の中で 考えてはいましたが、文字や表にして目に見える形になっ たのは、個人的にはすごく新鮮でした」 (柳沢氏) 「テーマを絞ったとはいえ、やらないということではな いのです。チームは人事、システム、事務企画、営業統括 などからも参画しているので、移転 PT として対応できな いことは、各所管部の業務計画に落とし込んで、推進して いただくことになりました」 (仲田氏)
業務スタイルの根っこにある ベーシックな部分を重視
こうして移転 PT の取組みテーマは、 『効率的な働き方 の追求』を目指して、 1)仕事ナレッジ・情報の積極共有(ありたい姿: 『必要 なときに自ら情報を効率的に収集、活用できている』 ) 2)会議のあり方・やり方の見直し(ありたい姿: 『目的 に応じた効率的な会議が開催・運営されている』 ) 3)組織と個人のタイムマネジメント(ありたい姿: 『組織全 体での業務工数の低減によって残業時間が削減されている』 )
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の 3 つに大きく絞り込ま れたのである。 柳沢氏と仲田氏は、 「絞 り込んだテーマは、効果 の範囲が全社にわたり、 かつ課題認識されていた ものの、従来の考え方で
柳沢昌宏氏(総務部参事役・本社 移転プロジェクトチームリーダー)
「2015 年 7 〜 10 月に、 “ 働き方見直し研修会 ” と題して、国内外の全部 長や管理や営業支援系の 副部長クラスに集まって もらい、全社共通の会議 ルールを発表するととも に、JMAC にお願いして “ 会議の進め方研修 ” を
仲田和弘氏(企画部副部長)
は所管部が不明確で取り 残されていたものという
イメージですね」と語る。さらに、 「当社でも、もちろん 社員の業務改善への意識は高く、部署単位での業務改善へ の取組みは従来から実践しています。しかしながら、 『情 報がどこにあるかわからない、発信がバラバラ』 『会議が 長い、開催者によって運営がバラバラ』 『業務量にバラツ キがある』 など、 よりベーシックな働き方の基盤となる “ 全 社共通のルールや仕事の進め方 ” の整備とそれらを実現す るオフィス環境の整備に取り組みました」と振り返る。
開催しました。研修終了後、9 つのルールに当てはめて、 自部署の現状と今後の目標を “ チャレンジシート ” として 提出していただきました」 (仲田氏) その後、移転を経た 11 月には中間フォローを実施。具 体的には、 「同じシートに実践してよかったこと、まだ苦 戦していることなどを記入いただき、定着度合いを計測 しました。また、苦戦している部署には JMAC にも参加 していただき個別相談会を開催し、定着に向けたアフター フォローを行いました」 (同氏) 。そして移転後半年を経過 した 2016 年 2 月には「同シートに最終結果を記入いた だき、現時点で “ ありたい姿 ” が実現しているか否かの確 認をしました」 (同氏)と定着度合いを引き続き計測して いる。このシートを軸に、定着に向けたアフターフォロー 活動をするという仕掛けである。 「 『ルールを決めたので、これでやってください』と言わ れ、やるもやらないも本人次第になるケースがよくありま すが、そうならないように、移転 PT では定着に向けたさ まざな “ 仕掛け ” をやっていただいています」 (田中) 現在 “ チャレンジシート ” で確認した 9 つのルールの 定着度合いは、当初 3 割の実施レベルが半年で 6 割まで 向上した。その結果、各部署での要改善対象の会議は軒並 み 10%の時間効率化を果たした。また、2016 年 2 月に 実施した全社員アンケートでは、たとえば「会議時間の長 さ」について「目的に応じた長さになっている」と回答し た社員は以前は 5 割台だったが、今は 6 割を超え、部署 によっては 24 ポイントも改善している。全社定着に向け しっかりと成果が表れているようだ。
9 つの会議ルールを徹底する チャレンジシートの活用
2015 年 9 月、 東京本社移転そのものは無事終了したが、 テーマ自体は普遍性があり、終わりのないテーマとも言え る。現状について仲田氏は「移転後まだ半年しか経ってな いので、どれだけ成果が出ているとはすぐには言えません が…」と前置きしたうえで、 「目に見えて変わったなと感 じているのは『会議のあり方・やり方』ですね」と語る。 「会議については、当社ではその目的によって大きく 3 つ(意思決定会議・情報共有会議・アイデア出し会議)に 分類していますが、準備〜終了までの会議運営を標準化す るために、全社共通の 9 つのルールを設定しました(次 頁囲み) 。このうち白ヌキの部分は全会議必須項目として います。 また、 本社に限らず国内全拠点の会議室には、 時計 ・ タイマー・プロジェクターなどを整備しました」 (植田氏) とかく会議となれば、部署ごとに根付いたやり方や属人 的なノウハウ・経験のような暗黙のルールで運営されがち だ。全国どこのオフィスでも標準化された共通ルールで会 議を運営することは、SMFL が目指す「働き方」を根付か せる土壌づくりだと言えよう。 ルールを設定したら、次は「定着」である。SMFL では そのための「仕掛け」をどのようにしているのだろうか?
「働き方」を追求し続け、 さらに次のチャレンジへ
移転 PT のテーマは “ 働き方の見直し ” という各人の業
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務目標とは異質なものになっている。その ため、全社員に常に関心を持たせ、持続さ せることがより重要となる。それが次の活 動への継続性を生むことになるからだ。 そこで移転 PT では、全社員に向けて「働 き方見直しニュース」を発信している。こ れは経営トップが “ 働き方見直し ” や “ ワー クライフ・バランス ” への自らの考えや実 践を伝える場として、また業務効率改善に 向けた新ファシリティの紹介、各部による 取組み好事例の発信の場としている。 このアイデアを提案した田中は、 「本件に限ったことで はないのですが、活動テーマを継続させるには、もともと 何のためにやっているかをしっかり認識して PDCA サイ クルを踏まえながら、最終的には現場に落とし込むことが 重要です。それに加えて経営トップからの強力な発信も必 要なのです」と継続性の秘訣について語る。 「社員からは『経営の考えを直接聞く機会が少ないので、 とても参考になります』という声はけっこういただいてい ます」 (仲田氏) また、前述の社員アンケートによれば、9 割以上の社員 が「見た」と回答し、うち約 7 割以上の社員が「有益だっ た」と回答しており、“ 働き方見直し ” への関心や意識も 定着しつつあるようだ。 SMFL の現中期経営計画の終了とともに移転 PT は 2016 年 3 月で解散することになるが、植田氏は「“ 働き 方見直し活動 ” を一過性のキャンペーンにすることなく、 次年度以降どうつなげ、どう継続していくかをじっくり
会議 終了後 会議中
9 つの会議ルールはどう定着したか
SMFL の会議ルール(白ヌキは必須項目)
会議 開始前 1 2 3 4 5 6 7 8 9 会議招集システムの活用 資料の事前配布 役割の設定 5 分前集合 タイムキーピング 議論の見える化 会議後のアクションなどの決定 5 分前終了 残った課題などの共有
SMFL では会議運営に関わる 全員が、左記ルールの実施状 況を「チャレンジシート」に
記入して提出することになっ ている。ルール発表時 (2015 年 7 月)の定着度合いは 3 割程度だったが、フォロー活 で 6 割まで向上した。
動の結果、2016 年 2 月時点
と検討したい」という。その背景には、“ 働き方見直し活 動 ” は、SMFL のワークライフ・バランスやダイバーシ ティへの対応にもつながっている。現中期経営計画におい て、2012 年に買収した世界トップクラスの規模を誇る航 空機リース事業の基盤確立や、従来の東南アジア、中国で の営業展開に加えて、 2014 年にはニューヨーク支店開設、 2015 年には欧州進出など、これまで以上に業務がグロー バルに拡大しているのだ。 「ワークライフ・バランスやダイバーシティに加えて、 フレックス制度や在宅勤務などの柔軟な働き方、そして介 護の問題などは、今後は会社として大きなテーマになるは ずです。まずは 1 年かけて、じっくりと議論し、次期中 期経営計画につなげていきたいのです」と植田氏は意気込 みを見せる。 圧倒的な存在感で業界 No.1 企業を目指す SMFL にとっ て、 新しい働き方へのチャレンジはこれからも続いていく。
もの!
自ら創造する
答えはなし
働き方に ベストな
担 当 コ ンサルタントからの一言
『ありたい働き方』実現の鍵は「未来志向」と「対話力」
「働き方改革」は制度・ルール、ICT 活用、オフィスファシリティなど、さまざ まな切り口があります。大切なのはそれらを活用し「将来自分たちはどんな “ ワ クワクする ” 働き方をしたいか?」を未来志向で想像し、社員間の対話によって 自ら完成形をつくり上げることです。働き方とは 1 年 2 年の課題ではなく、長 きにわたって多数の社員の行動を決めてしまう企業の “ 型 ” だからです。明確な ゴール・指針の積極的な発信をエンジンにして、社員が働き方の課題と “ 型 ” の
チーフ・コンサルタント
田中 良憲
活用を自分事として考えるように仕向ければ、自ずと時間意識の向上・仕事の
取組み方・成果物志向といった行動の変化・数値の成果はついてくるはずです。
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経営基盤の強化に向けたさまざまな取組みについて、 JMAC が支援した事例をご紹介します。
〜頭と体をフルに使う「カートファクトリー」で失敗しながら学ぶ〜
ヨコハマから世界へ 「ものづくりの DNA」 を伝承する
「ものづくりの DNA」を 次世代につなげ!
アネスト岩田は、1926 年(大正 15 年)に中古旋盤 2 台を据え付けただけの小さな町工場として創業した。 以来、 国産初のスプレーガンや世界初のオイルフリースクロール コンプレッサなど、国内初、世界初となる製品を数多く開 発し、今では海外売上比率が 5 割というグローバル企業 となった。革新的技術で最高の品質・技術・サービスを提 供し続けてきたこの「ものづくり力」は、DNA として今 もなお脈々と引き継がれている。とくにコア技術・コア部 品に関しては自社で生産技術を構築し、スプレーガンのノ ズルなどは外注せずに内製化し、 独自の技術を磨いている。 さらに生産管理の仕組みを構築し「当日受注・当日出荷」 体制をつくるなど、福島工場と秋田工場をマザー工場とし た、ものづくりへのこだわりは尽きない。一方、新システ ムの開発にチャレンジする精神も旺盛で、組立の自動化な どにも積極的に取り組んでいる。 「メーカーゆえのものづくりに関する職人気質は非常に 強い」と話すのは自身も技術者出身であるという壷田貴弘 氏(代表取締役 社長執行役員)だ。壷田氏はかつて塗装 設備の技術者で、 「先輩技術者の、 その “ 職人気質 ” によっ て育てられた」という。 「設計図を描くときには、 『軸の一 つひとつまで、加工するときのことをよく考えろ』といっ た、大切なことをすべて教わってきました」と当時を振り 返り、 「メーカーにとって重要な生産部門の中で、先輩が 教えながら技術者を育ててきたこと、技術と製品を大事に 育ててきたこと、それこそがアネスト岩田の『ものづくり の DNA』だと思うのです」と話す。 しかし今、 「その DNA をいかに伝承していくかに苦労 している」とも話す壷田氏。 「これまではある意味、職人 気質に頼っていたところがあり、職人気質の技術者たちが マニュアルにはない、ノウハウや哲学をいかに伝えていく かが課題」であり、また、グローバル化を進展させる中で 「メンタリティの違う海外法人のメンバーに DNA をいか に伝え、理解してもらうかも課題」であるとし、国内外双 方に “ アネスト岩田のものづくりの DNA” をいかに伝承 していくかが今、大きな課題となっていると語る。
「ものづくり教育」の 復活にかける熱い想い
同社はもともと、2 年ほど前から「グローバル人材マネ ジメントの構築」プロジェクトを JMAC 支援のもと推進 中だったが、その中で人材育成については、やはり次のス テージに進まなければいけないと感じていたという。 昔は IE(= Industrial Engineering)や VE(= Value Engineering)について、社内でお互いの顔と顔を突き合 わせて、侃々諤々と議論する機会がたくさんあったが、そ ういった場面が次第に少なくなってきたと話すのは、岩田
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アネスト岩田株式会社
創業 90 年の歴史を持つアネスト岩田に脈々と受け継がれてきた「も のづくりの DNA」は、技術者が後輩にたたき込んだ職人気質により形 づくられてきた。それが薄れかけていることに危機感を抱いた同社は、 JMAC の改善体感トレーニングセンター「カートファクトリー」と出 会ったことをきっかけに、ものづくりの教育を復活させるべく立ち上 がった。今回、 「アネスト岩田のものづくりの DNA」とは何か、 そして、 その伝承をかけた活動の軌跡と今後の展望をお聞きした。 代表取締役 社長執行役員
壷田 貴弘 Takahiro Tsubota
詳細を聞いた同社は、 「これは日本だけではなく、海外 を含めたアネスト岩田のグループ会社全体にまで使えるだ ろう」ということで、 「横浜の日本本社がアネスト岩田の グローバルラーニングセンターとなる」ことを念頭に、ま ずは 2015 年 2 月から本社敷地内に設置することにした。 この話を聞いたとき、 「最初はカートファクトリーのイ メージがまったくつかめなかった」と話すのは、桑田透氏 (液圧機器開発グループ マネージャー)と佐藤徹氏(圧縮 機事業部 圧縮機開発・技術部グローバル開発グループ マネージャー)だ。しかし慶應義塾大学の矢上キャンパス に見学に行ってみると、 すぐにイメージがつかめたという。 桑田氏は「 『仕事上の失敗はなかなか許されないが、こ こではわれわれも失敗してもいいのだ』という感覚を持ち ました」と語り、佐藤氏は「実際に見てみると、やろうと していることがとてもよく理解できた。いろいろな要素が 入っている総合的な教育なのだと感じました」 と振り返る。
仁氏(管理部人事グループ マネージャー)だ。 「私が入社した 15 年前は IE や VE の教育も盛んで、泊 り込んでじっくり議論していましたが、事業や拠点が拡大 する中で、そういった、ものづくりについて語り合う機会 がどんどん減ってきていました。今は各職場での職制によ る OJT 教育が主流となっていますが、教える側がプレイ ングマネージャー的になってきているため、そこまで手が 回らないのが現状です。 このような中で、 『メーカーとして、 ぜひものづくりの教育を復活させたい』と思い、JMAC の “ カートファクトリー ” の導入を決めました」 (岩田氏)
失敗しながら学べる! “ カートファクトリー ” って何だ?
カートファクトリー(Kart Factory)は、頭と体を使 う体感トレーニングセンターだ。実際の生産現場を再現し た空間で、ペダルカートをつくりながら、ものづくりにつ いて総合的に学ぶ。チームで生産性向上にトライし何をど うすれば改善できるのかを体験するプログラムで、JMAC ではそれを “ リアル・シミュレーション ” と呼んでいる。 カートファクトリーは JMAC 海外法人で 2006 年に開 発され、多くの海外メーカーで導入されている。これを日 本版にアレンジし、2014 年 4 月に逆輸入した。同年共同 研究として、慶應義塾大学理工学部ではカートファクト リーを使った IE 実験の授業もスタートしている。
左から岩田仁氏、佐藤徹氏、桑田透氏
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できますし、目標時間内での生産台数を競うタイム競争も
簡単なようで難しい! トライ&エラーで意識改革
こうして導入したカートファクトリーだったが、実際に 研修に参加したときには「思いどおりにいかないことが多 かった」という佐藤氏。 「1 日目はまずチンプンカンプン。 『何をやれば?』 『どうやればよいのか?』 と混沌とする。 『こ うしなさい、ということがほとんどない』というところが カギなのだと、後からわかった」という。カートファクト リーの特徴は、まさに教える側が先回りしてのガイドはし ないところにある。自由度が高く、自分たちで考え、自分 たちで解決していくためのトレーニングツールなのだ。 また、佐藤氏は「チームでどういうディスカッションを 重ねていけば目標にたどり着くのかを、ここで何度も経験 する」そして、 「自分たちがどうしても抜けきれない枠を 超えて発想が転じたところが面白かった。設計とか購買と か部門の枠に留まっていたら多分ああいう発想には至らな かっただろう」と話す。さらに佐藤氏は、 「 『生産ラインっ てどういうもの?』という初歩的なところから、VA/VE などの生産改善の手法についても学ぶことができるほか、 たとえば、ねじの長さ一つの設計が組立後工程にいかに影 響してくるかなど体験を通しての気づきの要素も多く含ま れていますよね」と続ける。ここでは、自分で考えたアイ デアをすぐに試すことができ、結果もすぐにフィードバッ クされるので、自分のアイデアがどんな影響を及ぼしたの かが体感でき、 ものづくりに必要な気づきを得られるのだ。 もうひとつの特徴が「楽しみながら」できるところにあ ると桑田氏は言う。 「実際にカートをいじりながら議論が
楽しかったですね。私は、治具づくりなど、機材準備から サポートしてきたので、 それ自体も楽しめました」と話す。 実際にカートにも乗ってみたという社長の壷田氏は「こ の研修は簡単なようで、 すごく難しいですよね。 カートファ クトリーは、いろんなやり方や課題を原点から捉え直し、 これまでと違う角度や視点で見ることが求められます。さ まざまな要素が入っているからこそ、総合的な教育の場と して、メーカーにとって非常に有効だと思います。楽しみ ながらできるところもいいですし、自分たちの力不足を思 い知らされて針路をとることもできるので、われわれの意 識改革に大きく役立つと思います」と評価する。
次は現場での実践にトライ! 「DNA の伝承」を加速せよ
昨年春から機材の準備が始まり、コアメンバーによる慶 應義塾大学でのカートファクトリー体験コースの受講を経 て、ベーシック・コースの社内実施がスタートした。現在 は社内講師の育成へ着手、そしてデザイン・コースの実施 準備が進んでいる。2016 年度の計画では次のステップと して、①受講者階層の拡大、②現場実践への橋渡し、③グ ローバル展開への足がかりづくり――と展開する予定だ。 岩田氏は「カートファクトリーで実感したこと、新たに 気づいたことを、徐々に現場で試してほしいと思っていま す。福島と秋田工場の受講者数が増えて、現場実践が進ん できたら、次は海外メンバーと接する経験をしてもらう ため、2016 年度中に数名の海外研修生を受け入れたいと
JMAC のオリジナル体感プログラム「Kart Factory」とは
「Kart Factory」は、ものづくりのさまざまな要素を体 感できる JMAC 独自のプログラムだ。ベーシック・コー スでは改善の基本はもちろん、経営的な観点からも、もの づくりの全体像を学ぶことができる。デザイン・コースで は、マーケットニーズを設計に落とし込んで差別化につな げる経験もできる。JMAC 海外法人では、道場 Dōjō と名 づけ、ラーニングス タイル別に 5 つの カテゴリーで「Kart Factory」を展開し ている。今後日本で は、各社の要望を聞 きながら順次導入し ▲重量は 33kg、全長は 1.3m ていく予定だ。
◀ラインをどこま で効率化できるか トライ&エラー。失 敗から学ぶがモッ トーだ
▶仲間との白熱した議論 でチームワークとリー ダーシップを醸成
詳細はこちらでも⇒ http://www.jmac.co.jp/movie/
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思っています。そして、営業や管理部門の人たちにもどん どんカートファクトリーに参加してもらって、メーカーと して、ものづくりについて活発に議論する風土を浸透させ ていきたいですね」と展望を語る。 桑田氏は「メンバーからアイデアを出し合い、治具など をもっとブラッシュアップして、進化させることが楽しみ です」 と語り、 佐藤氏は 「今はまだ、 このカートファクトリー を使った教育が浸透し始めたところですが、これからもっ と広がっていくでしょう」とアネスト岩田の未来に想いを 馳せた。岩田氏は「カートファクトリーで、 『ワンアネス ト岩田』の一体感を実現していきたいと考えています。こ れからも、やればやるほど色々なアイデアが出てきて、非 常におもしろい研修にできそうです」と期待を込める。
▲ 取 材 当 日、 人 事 グ ル ー プ の 松 尾 美 紗 子 さ ん( 後 列 左) 、鈴木里美さん(中央)も応援に駆けつけてくれまし た。全社員一丸となってアネスト岩田の「ものづくりの DNA」を次世代へ、世界へと伝承していきます
日本大震災では BCP(生産現場の危機管理)について多 くの教訓を得たと言い、 「生産拠点の拡大については BCP を踏まえながら慎重に、しかし積極的に実施したい」と今 後の指針を語る。 さらに JMAC について壷田氏は、 「JMAC には、海外 法人も含めて、 ここのところずっとお世話になっています。 会社によっては目的ごとにコンサルティング会社を替える ところもありますが、 私たちはどちらかというと、 より知っ ていただいた方が、さらにさまざまなご提案をいただける と思っています。JMAC は経験豊富ですから、これから も積極的な関与と提案をお願いしたいですね。自分たちだ けでは気づかないことや、なかなか難しい局面もあるので 知恵をお借りできればと思います」と期待を寄せている。 創業以来 90 年受け継いできた「ものづくりの DNA」 を次世代、そして世界へと伝承するため、大きな第一歩を 踏み出したアネスト岩田。 「エクセレントメーカー」を目 指し、カートファクトリーでの切磋琢磨の日々は続く。
100 周年に向けて原点に戻る 「メーカー」としての誇り
アネスト岩田は、2016 年度に創業 90 周年を迎えるに あたり、 「100 周年に向けて、もう一度メーカーとしての 原点に戻る」ことを第一に掲げている。 これまでは、その収益力の高さから「エクセレントカン パニー」を目指していたが、 「われわれが、次に目指すべ きなのは『エクセレントメーカー』になることです」と壷 田氏は語る。 「きちっとしたものを効率的につくるために はどうしたらいいかということに、お金と知恵を使うべき である」とし、そのためには「今後、技術者や生産現場、 生産機械の効率化にも、さらなる投資をしていきたい」と 話す。また、日本にはまだオイルフリーコンプレッサのコ ア生産が残っており、中心は福島工場であるため、先の東 担 当 コ ンサルタントからの一言
生まれます
ことで共通言語が
試行錯誤を重ねる
同じ釜の飯を食べ
世界の仲間と “ ツーカー ” になるために
アネスト岩田様ではグローバルベースで、①人材育成、②人事制度、③グルー プ拠点管理の仕組みをつくることに挑戦されています。この 3 つそれぞれを個
田丸 信幸
シニア・コンサルタント
別に改革するケースが一般的ですが、 3 つ同時に連携させて再構築することで、 グローバルでの人材流動を促進されようとしています。その中で Kart Factory 化背景の異なるさまざまな国のメンバーと一緒に Kart Factory という場を共 有し、改善の基本メソッドを体感するとともに、言葉や価値観の壁を越えて “Anest Iwata Way” を全世界に浸透していくことが期待されています。 はグローバル人材育成のための一つのツールとして位置づけられています。文
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「活かす」 を 「意」 若手のころから一人ひとりの JMAC では、 ことを大切にしています。 闘する若手 このコーナーでは「iik 塾」と称して、日々奮 コンサルタントの「意」をご紹介します。
i ik塾
い い く
私は 2008 年に JMAC に入社以降一
手法を押し付けず、お客様と一緒に問題解決に取り組む
貫して開発設計部門向けのコンサルティ ング、とくに開発設計部門の現場力強化 くいため、問題・解決案が漠然としたも のになり改善がうまく進まないことが多 と 「解決手法を押し付けないこと」 です。 開発設計部門は仕事の進め方が見えに 客様の問題の裏には必ず解決できない理 由があり、一般論では解決できないこと がほとんどです。お客様は長く現状が続
いることは「具体的な言葉を使うこと」
お客様の問題解決をすることがコンサ ルタントの業務ですが、私が大切にして
に取り組んできました。
開発マネジメント
後藤 芳範
革新センター
また、問題解決にあたり解決手法を押 し付けないことも気をつけています。お
です。課題設定さえできれば解決策は自 ずと見えてきます。
つけなければならなかったのか」を事実 をベースにして課題設定することが重要
は具体的な改善にはつながりません「 。本 来どの工程までにどんな種類の問題を見
ディングができていないので、デジタル フェーズにおいて問題を見つけよう」で
くあります。たとえば、 「フロントロー
に、開発現場の先端事例の研究などにも 取り組みたいと思います。
るスタイルから、部門全体を見渡したう えで何が問題かということを言えるよう
今後は現場の問題を 1 つずつ解決す
ポートしています。
か」を伝え、一緒に問題解決に取り組む ことでお客様があきらめないようにサ
くあまり起きている問題を当たり前と 思っていることが多くありますが、コン サルタントとして、 「本来どうあるべき
クライアントに期待以上の成果をもたらす サプライチェーン革新センター 「お土産」を置いて帰ること
私は JMAC で唯一の生産・物流現場の女性コンサルタン トです。経営者はコストダウンなど短期的な成果獲得のため うにしています。
沼田 千佳子
に、私たちにコンサルティングを依頼されます。投資に見合 う成果を出すことは当然ですが、期待以上の効果をもたらす
もう 1 つは「技術を使う人」です。私たちはコンサルティ ングを始める際に、会社から将来を期待された方を含めたプ
「お土産」を置いて帰るようにしています。 よう、 お土産の 1 つは「使える技術」です。コンサルタントは
ロジェクト体制を整えます。プロジェクトメンバーと一緒に 現場へ出て現状の把握、分析の実施、改善案の検討など、訪
画期的なアイデアを持っていると思う方もいるかもしれませ んが、私たちはコンサルティングの幅広い “ 技術 ” を持ち、
問の際は一緒に考える時間を取るよう調整していただき、終 わりには次回までの宿題を残して帰ります。普段の業務とは
それをお客様の特性に沿う形で提供しています。技術とは、 ある目的のために汎用的に誰でも使える手段・方法のことで す。プロジェクトが終わったときに、お客様へはアウトプッ トだけではなく、そこに至るまでの具体的な各分析資料・ フォーマットや改善の視点をわかりやすい形で置いていくよ
異なる、密度の濃い時間は必ずその方の自信につながり、コ ンサルタントが離れた後も問題意識を持って自分から会社を
良くしようと動き出すようになります。 数年後に訪問して「沼田さんに教えてもらった方法を僕な
りの考え方で工夫して改善を進めました」と成果を報告して もらうことが一番の喜びです。
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編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
「JMAC トップセミナー」は、JMAC と経営トップ層をつなぐ本誌にご登場いただいた経営トップの方々を講師に お招きし、実際に改革を断行していく苦難や成功体験をお話いただく経営トップ向けセミナーです。
基調講演:田辺三菱製薬株式会社 代表取締役会長 土屋 裕弘 氏
6 月 10 日(金)の「JMAC トップセミナー」では、本 誌の TOP MESSAGE にご登場いただいた、田辺三菱製薬 株式会社 代表取締役会長 土屋裕弘 氏をお迎えし、 「夢 の実現には『ブレない経営』が必要だ」 (仮題) と題し、ご 講演いただきます。 本誌では紹介しきれなかった土屋氏のお話を、直接お聞 きできるチャンスです。ぜひご参加ください。
6 月 10 日 開催
(金) 2016
15:00 〜 18:30
定 員:50 名(お申込み順)
ステーションコンファレンス東京 5F
( 東京都千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー )
対 象:経営トップ層、部門長の方々 参加料:10,800 円(消費税込)
※参加者交流費を含む
URL
http://www.jmac.co.jp/seminar/open
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の羅針盤として、ぜひご活用ください。
特
徴
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豊富な知識と経験を持つコンサルタント(講師)が、課題 解決に直結するテーマをわかりやすく講義します。
主な内容(研修カテゴリー)は、経営戦略・ 事業戦略/マーケティング・CS・営業/研究・ 開発/生産・サプライチェーン/オペレーション・情報システ ム/組織・人材/ TPM / IE /ビジネススキル研修/階層別教育/業界別 /その他研修。仕様:A4 判、90 頁 【お問い合わせ先】 株式会社日本能率協会コンサルティング 企画営業本部 Tel.03-5219-8058 Fax.03-5219-8069
特
徴
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分野別・階層別の人材育成に効果がある JMAC ならでは の研修プログラムを豊富に用意しています。 URL
http://www.jmac.co.jp/training
TV 番組で日本のものづくり技術や技能の「凄さ」を観るにつけ、 「ものづくり大国・ニッポン」はまだまだ健 在ですなぁと安堵する一方で、自社の「凄さ」を次世代にどう継承していくか、グローバルにどう展開していく かに日夜奮闘している経営者、技術者もゴマンといることも容易に想像がつく。アネスト岩田さんの記事でも取 り上げた JMAC の「Kart Factory」がこれからの新しい「凄さ」の創出に貢献できれば何よりである。
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- 第20回
開発 ・ 技術 マネジメン ト 革新大会
[木] 6月 9日
時 間 9:45〜18:00 (受付9:15〜)
開催日
2016年
・ 品川 会 場 東京コンファレンスセンター
主 催 株式会社日本能率協会コンサルティング
RD&Eイノベーショ RD&Eイノベーショ ンマネジメン ンマネジメン ト最前線 ト最前線
変化する事業環境の下、 研究 ・ 開発に携わられている皆様におかれましては、 日ごろから様々な課題解決に取り組まれていることと存じます。 毎年 6 月に開催しております開発 ・ 技術マネジメント革新大会ですが、 おかげさまで開発 ・ 技術マネジメント革新大会は第 20 回を迎えました。 これもひとえに皆様の温かいご支援の賜物と心より感謝申し上げます。 今年も「イノベーションマネジメント最前線」を基本テーマとし、 グローバル市場で日本企業が勝ち残るための R&D マネジメントのあり方、 製品・技術革新、開発基盤強化、組織・人材革新、フューチャーマネジメント等の事例をもとに、ご参加の皆様と RD&E マネジメントのあり 方について、相互に交流していきたいと考えております。 当日は、R&D マネジメント革新に取り組まれている志ある皆様同士の意見交換の場、課題解決の場にしたいと思っております。RD&E マ ネジメント革新の志をお持ちの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
プログラム
9:45 ▶ 10:00 10:00 ▶ 11:30 開催にあたり 時代に適合する -東レグループの経営と研究・技術開発- 東レ株式会社 基調講演 時流に迎合せず、 A–1 世界No.1技術と超差別化商品による新たな価値創出への取り組み ダイキン工業株式会社 プレミアム品質を実現するための品質教育体系再構築事例 ヤンマー株式会社 “自ら事業の途をつける研究所”への変革 積水化学工業株式会社 未来を自らつくる 「フューチャーマネジメント」 Future Management and Innovation Consulting(FMIC) IoTに向け、 変わる当社のビジネスモデル ~センサネットワークモジュール開発事例と現在の取り組み~ アルプス電気株式会社 ASEAN開発拠点の自立化に向けた動向と課題 JMAC Thailand 技術経営を支える人材開発 ~価値ある薬を届け続けるために~ アステラス製薬株式会社 未来志向に基づいた事業スタイル変革の実践 富士通クオリティ・ラボ株式会社 B–1 C–1 D–1 A–2
[午 後 1 部 ]
12:45 ▶ 14:30
[午 後 2 部 ]
14:50 ▶ 16:35
B–2 C–2 D–2
16:45 ▶ 18:00
参加者交流会
(お申込み順) 定 員 300名
(資料 ・ 昼食 ・ 交流会 ・ 消費税込み) 参加料 32,400円
お申込み JMACホームページから⇒http://www.jmac.co.jp/seminar/open/
Business Insights Vol.61 2016 年 4 月 発行 編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文
TEL:0120-058-055 URL:http://www.jmac.co.jp/
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