ビジネスインサイツ64
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パッションをアクションに変える!
2度のV字回復を支えた 改革への挑戦
JMACトップセミナー 「TOTOの変革と挑戦」より
TOTO株式会社 代表取締役 会長 兼 取締役会議長
張本 邦 雄
日本軽金属株式会社 「創って作って売る」で 新時代のビジネスをつくり出す 飯野海運株式会社 “ 人 ” が変われば “ 組織 ” が変わる 人材マネジメント改革で組織力強化を目指す 東洋理工株式会社 会社の「背骨」= TPM を 継続し、次世代につなぐ
JMAC EYES Special Information
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毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点についてお話しを伺います。
JMAC トップセミナー 誌上講演
パッションをア クションに変える ! 2 度の V 字回復を支えた改革への挑戦
〜 JMAC トップセミナー「TOTO の変革と挑戦」より〜
TOTO 株式会社
バブル崩壊で赤字転落 「営業魂」で改革を仕掛ける !
私は東京の生まれで、親父は従業員 5 人の鉄工所を営 んでいました。職人だった親父は「お前には跡を継がせた くない。学問を身につけてサラリーマンになれ」と非常に 教育熱心で、小学生の私に家庭教師を 2 人もつけてくれ ました。零細企業のため景気に左右されやすく、大学生の ときには鉄工所が倒産しかけたこともあったので、 「財務 基盤がしっかりしたものづくりの会社に入りたい」と考え て選んだのが TOTO でした。 1973 年の入社以来ずっと営業畑を歩み、2009 年に 15 代目の社長に就任しましたが、本社(北九州市小倉北区) での勤務経験がない社長は歴代初めてで、営業しか知らな い社長も初めてでした。これが 1 つの大きなキーポイン トで、今日は国内を中心とした営業スタイルの変革につい てお話ししたいと思います。 私が営業企画部の部長だった 1998 年、TOTO は赤字 に転落しました。バブル経済の崩壊で新築住宅件数が激減 したのが原因です。新築が本当に盛り返すのかわからず、 目の前でとんでもないことが起こって営業利益率がどん どん落ちていった時代でしたから、 「このままではまずい。 何かしなくてはいけない」と感じていました。状況が大き
く変わった以上、それまでの販売スタイルを転換すべき だと考えた私は、 「流通改革」 「販売革新」 「リモデル戦略」 という 3 つの軸で改革を進めていきました。
「流通改革」 で特約店の自立を促し、 新たな関係性を築く
「流通改革」では、流通網を整備するために特約店制度 を抜本的に見直しました。新築住宅件数が右肩上がりだっ たバブル崩壊前は、多くの特約店からなる「網の目のよう な販売網」が TOTO の大きな強みで、特約店の経営も安 定していました。 しかし、バブル崩壊後は全体のパイが小さくなったこと から競争が激化し、 特約店の経営は厳しくなる一方でした。 これを打開すべく行ったのが、商材の総合化です。それま では、トイレや水栓金具を専門に取り扱う特約店、お風呂 を専門に取り扱う特約店などというように、商品ごとの特 約店制度を敷いていましたが、 「トイレだけではなく、洗 面化粧台もお風呂も、 他社製品もどんどん売ってください」 と取り扱ってもらう商材の幅を広げたのです。 これに伴い従来の「商品別特約店制度」を廃止して、 「総 合特約店制度」に改定しました。手形取引をすべて原則現 金取引に変更したことに加え、リベートや保証料の問題も
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設立:1917 年(大正 6 年)5 月 15 日 資本金:355 億 7,900 万円(2017 年 3 月現在) 従業員数:連結 30,334 名 単独 7,539 名(2017 年 3 月末現在) 衛生陶器、システムトイレ、腰掛便器用シート(ウォシュ 主な営業品目 : レット)、水まわりアクセサリー、浴槽、ユニットバス ルーム、セラミック、環境建材など
トイレや洗面器などの衛生陶器で国内トップシェアを誇り、2016 年度は過去最高 益を更新した TOTO であるが、近年は 2 度の赤字転落を経験している (1998 年 度経常赤字、2008 年度は純利益が赤字) 。そのいずれをも大胆な改革で V 字回 復に導いたのが、代表取締役会長の張本邦雄氏だ。しかし張本氏は言う。 「私は かなりの慎重派で、気合で動いたことは一度もない。私にとって定量化とロジック は、避けて通れない意思決定のプロセスだ」 。圧倒的な定量化と緻密なロジック に裏打ちされた改革は、科学的でありながら人の心に働きかけ、行動を変えてい く。 「改革や革新は、最後は周りの人がどれだけ納得感を持つかが重要である」と する張本氏に、事例を交えながら改革への想いとその軌跡をお話しいただいた。
代表取締役 会長 兼 取締役会議長
張本 邦雄 氏
Kunio Harimoto
ありましたので、特約店が受ける影響を試算しながら、1 年かけて一つひとつの特約店に説明を尽くしていきまし た。実は、これが実現できたのには、ある大きなきっかけ がありました。大手特約店の倒産です。それまでは経営危 機に陥った特約店があると TOTO が人や資金を投入して 救済していましたが、当時はもうそんな時代ではなくなっ ていたのです。 ロイヤリティが高く販売力もある特約店で、 経営者の顔も目に浮かびましたが、改革のために涙を呑ん で静観の姿勢を貫きました。 これを目の当たりにした他の特約店は強い自立心を持つ ようになり、動きがガラッと変わりました。従来の直接取 引先は設備系の専業特約店が大半でしたが、それからはあ らゆる流通の方と TOTO の意思を明確にして付き合う姿 勢に変えていき、現在では驚くほど多様な流通の方と仕事 をするようになってきています。
いましたが、パイが減ったのですからそれではやっていけ ません。そこで、 営業力を強化するために行ったのが、 「販 売革新」 という活動です。 「接点営業 ・ ソリューション営業 ・ 組織営業」の 3 本柱で販売の体制を変えていきました。 「接点営業」とは、お客様により近いところで営業をす るという意味です。たとえば、特約店ではなく水道工事店 に行って来月の工事状況を聞き、 特約店にフィードバック ・ 共有化します。また、 「ソリューション営業」は「来月は どこの工事がとれそうですか。その物件をとるための課題 は何ですか? 一緒に解決しましょう」と積極的に提案し ようということです。 ここで一番大事なのは、セールスが「本来の営業とは何 か」を理解しているかどうかです。営業の本来の仕事は、 商品の説明をすることでも、在庫の問い合わせを受けるこ とでもありません。価値提案です。そこで、本来業務以外 の問い合わせをすべて受ける「営業センター」を全支社に 設置し、 「組織営業」の体制を構築しました。 すると、セールスは積極的に接点営業に行き、価値提案 をするようになっていったのです。営業センターが機能し だしたことで、彼らは自分がすべき仕事を自然と理解して いったのです。よく企業革新はトップダウンでやれという 話を聞きますが、なかなか変わらないものです。結局は個 人の価値観がどう変わるかですから、そういう環境を用意
「本来の営業」とは何か 「営業センター」が改革のキーだった
こうして流通網の整備は少しずつ進んできたのですが、 もう一方で大切なのは、TOTO セールスの動き方です。 従来は、特約店に行って在庫を確認し、注文書を受け取っ てくる「流通営業・御用聞き営業・属人営業」でも回って
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してあげて、自然と変わるのを待つこともときには必要だ と考えています。 「営業センター」は、セールスだけでなく特約店の意識 改革も進めました。センターには特約店からの電話やメー ル、FAX などあらゆる情報が集まるため、そのデータを もとに電話量や質問内容などを分析し、フィードバックし ています。それは特約店そのものを強くし、顧客満足の向 上にもつながっていきました。まさにねらいどおりの展開 で、現在はさらなる効率化を目指し、営業センターを「受 注」 「見積もり」 「問い合わせ」の機能ごとに集約し、運営 しています。
のときの戦略のポイントは、 「リモデル実績の定量化」と 「ショールームのプロフィットセンター化」です。 まず、 「リモデルがどこでどれだけ売れているのか」を 把握するため、販売実績のコード化を進めました。2 年位 経って把握の精度が上がってきた段階で、セールスの成果 指標を全部変えていくというプロセスを踏んでいます。 コストセンターであるショールームの成果指標はさまざ まなメーカーが一番困っているところだと思いますが、わ れわれはショールームの来館者数や見積もり内容、見積も り金額や受注金額などをすべてデータ化しています。これ によりショールームをプロフィットセンター化できます し、ショールームの目標を明確に定量化できるのです。さ らに営業セールスがショールームの重要性を理解できるよ うにもなるため、このような紐づけはとても大事です。 また、リモデルでショールームを活用する最大のメリッ トは、商品単価の高さにあります。新築では予算の関係で 後回しにされがちな水回りですが、リフォームとなると真 剣に考えて、ほしいものをお買い求めいただけるので単価 が高くなるのです。そのため、リフォームの営業利益は新 築より高く、リフォームのウェートを増やせば増やすほど 売上の伸び以上に利益率が上がっていくという構図があり ます。これをわかっているかどうかも非常に重要です。 こうして流通改革と販売革新、リモデル戦略を進めてき ましたが、これらは決して最初からセットで行ったわけで はありません。一つひとつ目の前の課題を解決していった ら、最終的にリモデル戦略に結びついたというのが実態で す。ただ、改革の一番大きなきっかけはやはりマーケット の激変です。私が社長になった 2009 年はリーマンショッ クの直後でしたので、次はそのお話をしたいと思います。
「定量化」と 「ショールーム」で リモデル戦略を加速する
私が当時の社長から 「リモデルをやれ」 と言われたのは、 流通改革と販売革新を推し進めている最中でした。TOTO は 1990 年代前半からリモデルにシフトしていましたが、 私はそれに関心がなく、本当はやりたくなかったのです。 しかし社長命令ですから、 「やる前に 3 ヵ月数字を集めさ せてください」と言って、若い社員を 4、5 人集めて統計 局に毎日のように通い、あらゆるデータを収集・分析しま した。その結果、リモデル市場の成長性を確信した私は、 2003 年にコンタクト営業推進室長に就任しました。そ 講演後の質疑応答・意見交換より
Q : 営業センターに集まるデータを効果的に活用する仕掛けは? 張本 : 大きな 4支社に営業センター企画の課をつく り、 デー タをいかに有用なものに変えていくかというミッションを
与えました。また、全国の営業センターの成果指標をつ
くり、コンテストで表彰して競争意識が芽生えるようにし
ています。 「リードする仕組み」 と 「評価される場の設定」 、 この 2 つをセットで行いました。 Q: 「ソリューション営業」を促進するための施策は?
腹落ちした真のグループ経営で 企業価値の最大化を目指す
2009 年、バブル崩壊時以来 10 年ぶりの赤字転落が、 私の社長就任のスタートでした。このときに考えたのが、 「全社最適」と「全社一丸」の 2 つです。 「全社最適」を具現化するために策定したのが、長期経 営計画「TOTO V プラン 2017」です。事業戦略に全社 最適活動を組み込み、改革の柱としました。商品別だっ た事業を「国内住設事業」 「海外事業」 「新領域事業」の 3 事業に再編し、これを縦軸に、5 つのタスクを横軸にして
張本:私が塾長になって 「ソリューション塾」を立ち上げ、 ソリューション営業できる人間を 100 人つくりました。全 研修テーマを持ち場で実践して 1 ヵ月後に報告・議論す る、ということを繰り返すのです。研修には私も全部出 たのです。これから君たちが動いていくことが会社を変え 国 100 ヵ所の営業部門から係長クラスを1 人ずつ選出し、
席し、夜は酒を酌み交わしながら 「君たちは選ばれて来 ていく大きなキーになる。だから真剣に取り組んでもら が具体的に何をするのかという解になったと思います。
いたい」と言い続けました。こうした一連の研修や議論
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張本 邦雄
Kunio Harimoto
1973 年 2003 年 2005 年 2006 年 2009 年 2010 年 2014 年
東陶機器株式会社(現 TOTO 株式会社)入社 取締役 執行役員 販売推進グループ長 取締役 常務執行役員 販売推進グループ長 マーケティング&コミュニケーショングループ担当 取締役 専務執行役員 マーケティンググループ 販売推進グループ担当 代表取締役 社長執行役員 代表取締役 社長執行役員システム商品グループ 新領域事業グループ担当 兼 V プラン新領域事業担当 代表取締役 会長 兼 取締役会議長
全社横断的な全社最適活動を推進しています。5 つのタス ク「マーケティング革新」 「サプライチェーン革新」 「もの づくり革新」 「マネジメントリソース革新」 「経営情報イノ ベーション」のヘッドには副社長 2 名、専務 2 名、常務 を据え、 「横が最適解を出すのだから、縦よりも横の方が 偉い」と宣言しました。横軸の組織をつくると縦横どちら が偉いかという議論になるので、あえて会議体のままにし ています。この活動の目的は業績の改善ではありますが、 何より重要なのは、横軸に入って活動した部長クラスの人 たちが 「全社最適とは何か」 を学ぶことだと考えています。 彼らは今ちょうど部門長クラスになりましたが、全社最適 の視点で議論ができるようになっています。人づくりとは そういうことだと思いますし、これがこれから先 5 年 10 年の TOTO を支える大きな基盤になったのではないかと 考えています。 もうひとつの「全社一丸」では、真のグループ経営を目 指しました。その実現のためには、グループ会社を本当に 大切に思う心を持ち、同時にきちんと制度整備もしていく ことが求められると考えています。社内では「子会社」と は呼ばず、 「グループ会社」という呼び方をします。また、 グループ会社を含めた業績連動型賞与の導入や、TOTO グループ会社のユニオン設立、契約社員の組合員化は制度 整備の一例ですが、皆の意識改革は着実に進みました。 グループ全体で行う人材教育も非常に重要で、リーダー 候補を育成する「経営塾」は、コースによっては参加者の 半分がグループ会社の社員です。グループ会社の社員をき
ちんと教育して経営にコミットしてもらえるようにするこ とはとても大切ですし、ここのメンバーは何年かに一度 会っていると思いますが、もうすっかり「同期」になって いるわけです。グループ会社とか TOTO 本体とか関係な い。こういうことが実は “ 腹落ち ” した真のグループ経営 だと思っています。
「日本を世界のショールームに」 日本のトイレ文化・技術を世界に発信
私は 2013 年 3 月期で社長を終え、2014 年度に会長に 就任しました。現在は、社長の喜多村が「TOTO V プラ ン 2017」に基づき、 「真のグルーバル企業」を目指して さらなるグローバル化を進めています。 今、TOTO が注力しているのは「日本を世界のショー ルームに」 という活動です。 海外から日本に来た方々にウォ シュレットを使っていただいて、母国に帰ってぜひウォ シュレットを広げてほしいというものです。 われわれは、その地域その国でトップブランドになるこ とが真のグローバル化だと考えています。今、全世界でナ ンバーワンのところも、セカンドのところも、まだまだ無 名のところもありますが、誰もが TOTO を知っている、 そして使ってみたいと思っていただけるようなブランドを 目指し、さらなるグローバル化を進めてまいります。
本稿は 2017 年 7 月 25 日に開催した JMAC トップセミナーの基調講 演をもとに作成したものです。
講演を聴いて
ためには強い牽引力は言うまでもなく、ロジカルに周囲を説得かつ納得させて進めて いくことの重要性を改めて認識させられました。逆の見方をすると単に緻密なだけで は持ち得ない「人を牽引する魅力」があるお人柄でした。
張
本会長は一見豪放磊落な方なのかという印象を持ちましたが、非常に緻密で 定量的に物事を進められる方であることがわかりました。改革を推し進める
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〜「本当にほしいもの」を提供し、お客様に感動を。 「チーム日軽金」16 年の軌跡〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
「創って作って売る」で 新時代のビジネスをつく り出す
日本軽金属株式会社
日本軽金属グループは、停滞してきたアルミニウム製錬・加工 事業に代わる新事業を探索するため、 「創って作って売る」とい う開発・製造・営業が一体化した活動を 2001 年に開始した。 以来、数々の新商品・新ビジネスモデルを創出してきたが、そ の道のりは決して平坦なものではなかった。 「開発のための “ 種 ” が見つからない」 「プロジェクトメンバーの反発」 「周囲の反対
の声」など、さまざまな壁にぶつかりながら、1 つずつ打開し、 粘り強く活動を続けてきた。今回、 「お客様が本当にほしいもの」 を一心に探索・実現してきた「チーム日軽金」の、16 年にわた る活動の軌跡と今後の展望を伺った。
執行役員 商品化事業化戦略プロジェクト室長
Hitoshi Yamaguchi
山口 仁 氏
横串体制でグループの総力を結集! 「チーム日軽金」の挑戦
日本軽金属(以下、日軽金)は、アルミニウム製錬会社 として 1939 年 (昭和 14 年) に創業し、 現在は日軽金グルー プとしてアルミニウムの原料から加工製品に至るまで、幅 広い製品を扱うアルミニウム総合メーカーとして事業を展 開している。 開発・製造・営業を一体化した「創って作って売る」の 実践——日軽金グループがこの方針を打ち出して「商品 化事業化戦略プロジェクト」を始動したのは、2001 年の ことだ。 「それまではアルミニウムを製錬して、加工して売ると
いう『プロダクトアウト』のビジネスモデルを築いてきま したが、 近年は『マーケットイン』の発想で、 お客様のニー ズに応える新商品・新ビジネスモデルの創出に注力してき ました」と語るのは、山口仁氏(執行役員 商品化事業化 戦略プロジェクト室長)だ。 山口氏は、当初はチームリーダーとして、2009 年から は室長としてプロジェクトを牽引し、成功に導いた立役者 である。このプロジェクトの特徴は、日軽金グループの異 なる事業ユニットを横断的につなぎ、横串体制で総力を結 集するところにある。 たとえば、アルミニウムの素材や部品といった事業ユ ニットの縦軸に、自動車分野の横串を刺して一体となって 活動する。グループ全体の縦横で事業開発を行うマトリク
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ス経営をここまで実践している企業は他に類を見ない。 「私たちが目指す『マーケットイン』を真に実行するた めには、お客様の『これがほしい』というものを、グルー プが持つ多様な事業体と生産手段・技術を組み合わせ、す ぐに提供できる体制を築き上げる必要があります。そのた めには、組織間の壁を取り払ってグループ全体で『創って 作って売る』 ための小さなチームをたくさんつくりました。 そしてリーダーが経営者のようにチーム運営し、プロジェ クト型で物事を進めていこうというところから始まりまし た」 (山口氏) しかし、実際に活動を始めてみると、 「本を読んで研究 しても、何を開発したらよいのか、どこからその種を探し てきたらいいのかわからず、 なかなかうまく進まなかった」 と山口氏は当時を振り返る。 そのような中で、 JMAC の “ 種 の探し方 ” に関する研修に人事部長が参加し、これをきっ かけにコーポレートで活動を応援していこうと JMAC に 支援を依頼した。 こうして 2004 年、日軽金グループは JMAC をパート ナーとして、 「創って作って売る」を加速させるべく新た な挑戦へと踏み出した。
●プロジェクトのステップ ステップ①「テーマ探索プログラム」 提案・企画手法を習得する (2 〜 3 年後の魅力ある事業開発実現の ためのテーマ選定)
探る
ステップ②「事業化実践プログラム」 具体的なビジネス展開手法を習得する (課題の抽出・戦略の策定・コストの考 え方・販売チャネルの構想・知財戦略・ 海外ネットワークの活用など)
創って 作って 売る
くの新商品・新事業を創出してきた。たとえば、 「使用済 み核燃料収納容器用板材『MAXUS』 (マクサス) 」は、ア ルミの粉末に中性子を吸収する炭化ホウ素の粉末を混合し て焼成した、世界で唯一の板材である。従来の工法と比べ 極めて高い耐久性を有するものであり、原子力分野におけ る画期的な技術といえる。 「これは部門間の壁があったらできなかったと思います。 横串スタイルで『粉末の会社』 『板をつくる会社』 『型をつ くる会社』の人たちの力を結集したからこそ実現できまし た」と山口氏は振り返る。
「探って」 「創って作って売る」 メンバーの汗と涙が成果に
活動をスタートするにあたり、 まずは「種を探し」 「創っ て作って売る」を実現していくためのプログラムを導入し た。プログラムは 2 ステップで構成されている(右図) 。 毎年、5、6 チームずつが数ヵ月かけてチームで検討し、 最後は役員会(グループ各社の社長や役員)で企画発表会 を実施する。 「メンバーは 30 代後半の若手が中心で、会社や経歴は みなバラバラです。日常業務と兼務しているため、最初は 『負担が大きすぎる』とすいぶん反発がありました」 そのため、少しずつ人事制度やチームの編成方法を改善 し、今の形に行きついたという。 「チームメンバーは若手が中心ですから、相談役として チームに 1 人ずつ部長クラスのコーチをつけたり、知的 財産の問題に対処できるよう特許部の担当をつけたりして います。今は『みんなで一緒にやっていこう』という感じ で、1 つのチームとしてまとまってきています」 こうした横串体制でのチーム活動を通し、これまで数多
お客様が「本当にほしいもの」は何か “ つぶやき ” から潜在ニーズを探る
2011 年からは、チームでのテーマ探索・事業化推進に 加え、日軽金グループの従業員が全員で参加する「情報探 索活動」 (テーマ探索)もスタートした。 この活動の目的は、自動車と電機といった「分野と分野 の “ 隙間 ” にあるニーズ」をとことん探索し、新商品・新 ビジネスにつなげていくところにある。そのヒントとな る情報をグループ全員で探そうというものだ。 「お客様の 『もっとこういう風にすればいいんだけどなぁ』 『これをア ルミ素材に変えられればなぁ』といった、ふとしたときに 出る“つぶやき”に耳を傾け、 『お客様が本当にほしいもの』 は何かを考え、提案していきたいという発想から始めまし た」 (山口氏) “ つぶやき ” は、社内のイントラネットでグループの誰 もがダイレクトに投稿できるようになっている。初年度
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し、新商品・新ビジネスを創出してきた日軽金グループで あるが、それはトライ&エラーの歴史でもあったと山口氏 は振り返る。 「今でこそこうして成果をお話しできていま すが、当初は周りから『会社も価値観もみんな違うわけだ から、うまくいかないのでは?』 『マトリクス組織で、誰 がどうやってチームメンバーの評価をするの?』などと言 われました」と明かし、マトリクス組織ならではの課題が あったことを明かした。 そして、成功のキーポイントは「情報の共有化」にあっ たのではないかと山口氏は分析する。
▲模造紙に貼られた膨大な数の “ つぶやき短冊 ”。お客様のつぶや きを集めて検討し、チームづくりに活かしている。同社のスピー ド感はここから生まれる。 (写真提供:日本軽金属)
「マトリクス組織は元来、情報の共有が難しいと言われ ています。しかし、会社や経歴、価値観が違う人たちが力 を合わせるためには、情報を共有化して『なぜこうするの か』 ということをみんなで腹落ちしていることが重要です。 また、その情報共有の場で、社長や役員、そしてメンバー の上司などが現場の様子を直接知って評価できるような施 策が必要だと考え、 現在は「共創フォーラム」と「三現会」 という報告会を定期的に実施しています」と説明する。 「共創フォーラム」は年 4 回、東京 ・ 大阪 ・ 名古屋 ・ 新潟 ・ 研究所・製造所をテレビ会議でつないで行われる。山口氏 は「このフォーラムで他チームの人たちとつながり、全体 の中で自分たちが何を開発してしようとしているのかを理 解し、ヒントや気づきを得てほしい」と語る。 「三現会」は「現地・現物・現実を重視する会」として 年 4 回行われ、プロジェクトメンバーが活動状況や困り 事もすべて包み隠さず報告する。 「ここで重視しているのは、活動を押し上げる “ ブース ト機能 ” です。提案の審議はせず、どうすればうまくいく のかを一緒に考えます。ただ、開発は残念ながら結果が出 ないことの方が多いため、結果だけを見て評価するのでは なく、メンバーの熱意や努力、日常業務と兼務してチーム 活動に参加してくれた点を高く評価するように心がけてい ます。この方法を取り入れてからは、 『たいへんだけどプ ロジェクトに参加してよかった』という声をよく聞くよう になりました」 (山口氏)
の投稿数は 400 件だったが、徐々に増えて 2016 年度は 2,600 件を突破、6 年間の累計は 9,000 件以上となった。 大幅に増えた背景には、 「今は投稿の質ではなく量を求 めています。投稿数に応じて報奨金の出る “ アルミ賞 ” も 設けました。本人が面白くないと思っても、他の人から見 たら面白いかもしれないし、パズルのように他のピースと 合わせると完成するかもしれない。だから、情報は些細な ものでも断片的なものでも構わないから、とにかくみんな でつぶやきを集めよう、と呼びかけています」という “ 仕 掛け ” もあるようだ。 投稿されたつぶやきは、毎週1回、グループ直轄の技術 開発委員会で審議し、 調査のうえ事業化可能と判断すれば、 チームを編成して実行に移す。 委員会では、社長と役員 10 数人が模造紙にびっしりと 貼られた “ つぶやきの短冊 ” を前に、立ち動きながら侃々 諤々の話し合いをするという。投稿者に 「面白い情報だね」 「このあとどうなったの」と直接メッセージを送ることも 多いという。審議→短期集中調査チームの調査→再審議→ チーム結成と、そのサイクルは実に速い。 「ビジネスに応じたチームをパッとつくり、 スピーディー に進めるのが特徴です。 ここでも横串体制の強みを活かし、 すでにいくつかの新商品やビジネスが生まれています」 と、 新たなテーマ探索手法にも手応えを感じていると語る。
マトリクス組織に必要なのは
情報の共有化による “ 腹落ち ” だ
こうして 16 年の長きにわたって横串という考え方を通
「メンバーの成長」 と 「企業体質の変化」 プロジェクトが人と組織を変えた
現在、2004 年から始めた「テーマ探索」 「事業化実践」 プログラムの卒業生は 350 人となり、32 テーマ・160 人
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が事業化に向け活動している。 山口氏は JMAC について「10 年以上ずっと一緒に歩ん でいただいて、チーム運営でもずいぶんと苦労をおかけし てきました。しかし今は、支援の成果が出て、最初のころ と比べて、たいへん良い方向へ変わってきています」と述 べる。 メンバーの変化については「チームに入って活動するこ とで、自部署だけではなく自社、そしてグループ全体を知 り、一人ひとりが全体を考えるようになりました。また、 開発は初めてだというメンバーも多く、 『ないものをどう やって生み出し、 他社との差別化をどう図るか』といった、 それまでになかった思考回路を持つことができたのも大き いと思いますね。 『どうしたらうまくいくのか』 『グループ 全体だったらどうなのか』を常に考えることで、リーダー シップやマネジメント力が培われ、この活動のもう 1 つ の目的である次世代の経営者候補の育成もできているよう に思います」と評価している。 また、会社の体質も大きく変わってきたと言い、 「開発 だけではなく、通常業務も横の連携をするようになりまし た。商品ごとに『営業利益の管理』を実施するようになっ て、その商品にかかった原価から労働力までをトータルで 考えていこうという、横のグループでの連携が進んでいま す」と語る。
る。 「2020 年の東京オリンピック・パラリンピックで日 本は大きな変化点を迎えます。変化点を世の中の潮流とし て捉え、日軽金グループが何か世の中のお役に立てること を考えていこうと、 3 年前に 『オリンピック活動』 をスター トした今、4 テーマが事業化に向けて活動しています」と 語り、経緯を次のように説明する。 まずグループ全員の 13,000 人からアイデアを募り、集 まった 8,000 件を全国の若手で議論した。そこで残った 8 分野にまたがるアイデアでチームをつくり、次のステッ プに進むプレゼンテーションを経て最終的に残った 4 テー マが今、動いている。 今後の展望について山口氏は「日軽金グループには『お 客様に感動していただきたい』という強い想いがあり、そ れを会社の行動指針にもしています。お客様に感動してい ただき、選んでいただける企業になるためには、それに見 合う価値のものを見つけていかなければなりません。その ためには今の 2 倍はテーマが必要ですから、全員参加が 当たり前であるという形にしていきたいと思っています。 今後はさらに 「創って作って売る」 を加速し、 日軽金グルー プにしかつくれない付加価値を提供し続けていきたいと考 えています」と力強く語る。 「創って作って売る」——日軽金グループが「お客様が 本当にほしいものは何か」を探索・実現し続けてきたこの 活動は今、新たな飛躍のときを迎えようとしている。
お客様に感動を、そして選ばれる企業へ 未来への布石を打ち続ける
そして今、日軽金グループでは、新たな挑戦を始めてい 担 当 コ ンサルタントからの一言
新事業開発には 継続する強い組織 づくりが 欠かせませんね
鬼束 智昭
シニア・コンサルタント
“ 信念 ” を持った継続こそが “ 組織の力 ” となる
私自身の日本軽金属様とのおつき合いは 10 年程になりますが、直接的な事業 成果だけでなく、体質の変化に大きな成果を感じます。技術者の行動や思考が 本質的な意味で顧客志向になってきたり、活動の中で使っていた顧客志向の キーワードが日常業務でいろいろな人から自然に聞こえるようになったりした 工夫を取り入れてきた山口室長はじめ推進室の取組みによるところが大きいと お取引様に対して新しい価値の提案を実現していくことと思います。
ことが大きな変化と感じます。これは毎年の活動に甘んじず、日々さまざまな 感じます。 この体質の変化はこれからも戻ることはなく、 オリンピックに向けて、
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
“ 人 ” が変われば “ 組織 ” が変わる 人材マネジメント改革で組織力強化を目指す
〜コミュニケーションの充実で、モチベーションが上がる! マネジメントが変わる!〜
人事制度のアップデートで “ 今ある課題 ” に向き合い、解決する
飯野海運は 1899 年(明治 32 年)に創業し、 海運事業、 不動産事業を二本柱とする海運会社として 100 年以上の 歴史を持つ。海運事業では資源 ・ エネルギー輸送に特化し、 ケミカルタンカー事業では中東—極東航路でトップクラ スのシェアを誇る。一方、不動産事業では東京都心部に 6 棟のオフィスビルを所有し、飯野ビルディング内にはイイ ノホールを併設、広尾と南青山ではフォトスタジオを運営 している。 「今回の人材マネジメント改革は、 『人事制度の見直し』 をきっかけに始まりました」と話すのは、改革の推進役と して事務局を担った井上智広氏(人事部 人事課/研修課 課長) だ。 「当時の人事制度は 10 年前につくられたもので、 時代に合わなくなっていました。そこで、新しい人事制度 につくり直すことにしたのですが、これを機に人材マネジ メントを強化して組織を活性化し、 『競争力ある筋肉質な 会社』を目指していこうと考えました」と語る。 そして、 制度改定のポイントは 「新しい評価制度」 と 「人 材育成の体系づくり」にあったといい、 「当時、90 年代中 盤から 2000 年代前半まで断続的に定期採用を控えていた 影響が出始め、これから核となる 30 代後半から 40 代前 半の人材が少なくなっていました。それを人的・質的にカ
バーするためには若手登用を含めた人材育成が重要です が、ほとんどの社員の人事評価が B、B +という平均値に 集中していたため、“ 登用すべき社員をきちんと洗い出せ る ” 評価制度をつくるとともに、教育研修制度を整えるこ とが必要でした」と述べる。 その中で、外部の支援を受けようと外資を含めいくつか のコンサルティング会社に相談したが、話した印象と提案 書の内容で JMAC に決めたのだという。井上氏は 「JMAC は国内コンサルティングファームの草分けだけあって、わ れわれのような古くからある日本企業への理解も深く、そ のうえで行う制度設計や運用定着の支援に非常に長けてい ると感じました。また、提案書の分析が非常に的を射てい て、当社の問題点やそれに対する対策がとてもよく練られ ていたところもよかった」と説明する。 こうして 2013 年 7 月、 飯野海運は JMAC をパートナー として人事制度改革をスタートした。
人事制度に “ 理念 ” を込める すべてはここから始まった
プロジェクトをスタートして最初に手掛けたのは、 「人 事制度の改定」と「人材育成の体系づくり」だ。 既存の『人事制度ハンドブック』の内容をすべて見直す ことを目標に置き、検討を重ねていった。井上氏は「この とき重視したのは、制度の基本的な考え方となる “ 理念 ”
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飯野海運株式会社
飯野海運は 2013 年、 「競争力ある筋肉質な会社」 を目指し、 人材マネジメント改革をスタートさせた。キーワードは “ 組織力強化 ”。しかし、 一連の検討の中で浮き彫りになっ
たのは、社内のコミュニケーション不足だった。この解消 策として行われたのが、コミュニケーション強化活動「イ イノパワーアップミーティング(IPM) 」だ。“ お互いに立 でどのように変わっていったのか。その活動の軌跡と今後 の展望をお聞きした。 ち入らない ” クールな関係を築いてきた社員たちが、IPM
人事部 人事課/研修課 課長
井上 智広
Tomohiro Inoue
氏
です。まず、経営層をはじめに管理職・担当者層に至るま で広く社内ヒアリングを行いました。そこから『前向き挑 戦的行動が行われている人材・組織』という “ 目指したい 組織 ” の姿を明らかにしました。さらに目指したい組織実 現のための “ 求める行動規範 ”“ 求める人材マネジメント ” を導き出し、これらに沿う制度を構築していきました。人 材育成の体系づくりの元となる人材像もこの理念から導き 出しました」と説明する。新しい人事制度に込められたこ の理念は、今も一番の礎となっているという。 併せてハンドブックも改訂したが、より人材マネジメン トに重点を置く内容となったことから、名前も『人材マネ ジメントハンドブック』に改称した。 人事制度の改定後は、 「新しい評価制度」の運用開始に 向けての研修がスタート。新しい評価制度では、人材育成 を適切に行うためにメリハリのある評価を目指す一方で、 評価者によって評価にバラツキが出ないよう “ 評価の目線 合わせ ” が必要となる。モデルケースを用いたり、実在者 をモデルに評価を行うリアリティのある実習を繰り返した りして、評価レベルアップを目指している。また、成果評 価の拠り所となる目標設定については、部署単位で上司と 部下が議論をしながら行う場も設けた。 一般職と若手総合職に対しては、求める人材像に基づき 「問題解決スキル研修」や「ビジネススキル研修」を実施 していった。社内研修の場がこれまでほとんどなく、業務 との兼ね合いが難しい面もあるが、参加者には良い刺激と
なっているようだ。
組織力強化の第一歩は 「もっとお互いを知ること」だ
2015 年度には、新評価制度をスタートするとともに、 社内のコミュニケーション強化活動「イイノパワーアップ ミーティング(IPM) 」を企画・実施した。その理由につ いて井上氏は「当社は個人で独立して行う仕事が多く、お 互いにあまり立ち入らないため人間関係が希薄になりがち です。自組織の力を最大限に発揮するには人間関係が良く なければいけませんから、もっとお互いのことを知るため の “ 情報交換の場 ” が必要だと考えました」と説明する。 このとき、人事部は参加部署を公募する一方で、自ら率 先して IPM への取組みを始めた。 井上氏は 「人事部の場合、 8 割が一般職の女性です。IPM を通して “ 全員で同じ方 向に向かっている ” という意識を共有できれば、彼女たち ももっと仕事が楽しくなるし、やりがいも出るのではない かと考え、あえて人事部が主導しました」と説明する。 IPM では、仲間の新たな一面を知り、もう一歩踏み込 んだ関係をつくるために「ワタコン」と「from to」を行 う。 「私、実はこんな人です」という自己紹介(ワタコン) を行い、その後、お互いの「良いところ・今後に期待する ところ」を付せん紙に書いて模造紙に貼っていく(from to) 。模造紙には縦と横に同じ名前を書いたマトリクス表
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をつくり、全員で内容を共有する。 井上氏は「ワタコンでは、長年同じ組織にいるのに初め て聞く話ばかりで、コミュニケーション不足を実感しまし た。人間関係を良くする入口としては、こんなにぴったり な活動はないと思いますね。from to で、普段気づかない ことをお互いに指摘し合えたのも良かった」と振り返る。 ちょうど自身が人事部に着任してきたころに、ワタコン と from to を体験した前田信久氏(人事部 人事課 課長補 佐)は「東京の職場はワンフロアなので、異動前からみん なの顔と名前は知っていて『お互いに改めて話すこともな いよね』という感じだっただけに、新鮮でした」と語る。 人事部における IPM の成果について井上氏は「まず、 私自身の仕事分担に対する姿勢がはっきり変わりました。 お互いのことを知って人事部の仕事を共有することで、非 常に仕事を頼みやすくなり ましたし、一般職のみなさ んには希望を聞いたうえで より高度な仕事を積極的に 任せるようになりました」 とコミュニケーション強化
前田 信久 氏 (人事部 人事課 課長補佐)
ながったと実感を語る。
マネジャー IPM で横展開 悩みを共有できる “ 場 ” をつくる
現在では、職場単位のみならず階層別でも IPM を展開 し、会社全体での取組みを推進している。 まず活動のキーマンとなる課長層から始めたが、井上氏 はその背景を「新しい人事制度では、課長のマネジメント 力がより重視されるようになりました。物理的・精神的な 負担感が増す中で、課長同士が組織を超えて悩みごとを共 有できる場が必要だと考えました」と語る。 IPM は 1 回 10 名程度、 1 泊 2 日の合宿形式で行われた。 飯野海運で最後に宿泊研修が行われたのがいつだったか誰 も思い出せないほど久々の取組みだったが、 「忙しいマネ ジャー層を2日間拘束するには合宿のほうが効率的」と考 え、調整を重ねて実現した。 「IPM では時間をかけてワタコンを行い、そこで打ち 解けてから会社の将来像について全員で語り合いました。 じっくりと本音ベースで前向きなコミュニケーションがで きたと感じています。次は、新たな試みとして部長クラス の IPM 宿泊研修を実施する予定です」 (井上氏)とさらな
が一般職のやりがいや自身 のマネジメントの変化につ
改革で職場の意識はどう変わったのか?
人材マネジメント改革は実際の職場にどのような効果をもたらしたのか。ケミカル船第一部のお二人にお聞きした。 宗村 健弘 氏(ケミカル船第一部 ケミカル・石油製品船課 課長) 人事制度が変わった当初は、 「少人数で家庭的な会社なので、あまり評価に差をつけないほう がいいのではないか」という思いもありました。しかし今では、人事制度改革を実施してよかっ たと感じています。評価者としての意識も高くなりましたし、IPM で普段のコミュニケーショ
ンが活発になったので、フィードバック面談では本人にコメントを伝えやすくなりました。評 価を受ける側も意識を高く持っていますから、それを次のパフォーマンスに生かしてレベルアッ ありますので、今後もさらにその部分を伸ばしていきたいですね。ワタコンは、お互いを理解 プしています。IPM で培ったコミュニケーションの良さが組織活性化につながっている実感が し合う手段としては非常に有効ですから、今後、課に新しい人を迎えたときにはまずワタコン から始めたいと思っています。 酒井 あや子 氏(ケミカル船第一部 ケミカル・石油製品船課)
IPM を始めてからは、他部署の人たちに「課の雰囲気がいいね」とよく言われるようになりました。ワタコンと同時進行
で「今、どのような仕事をしていて、何が大変か」を説明して苦労を分かち合い、仕事内容の共有 もできたので、その後は協力して仕事を進めることが増えました。from to では、普段はなかなか 言えない「良い点、今後期待する点」をお互いに発表するので、褒められたときにはうれしいです し、悩みを抱えていそうな若手社員には「自信を持ってください」と伝えてあげることができたの を持てるようになったり、同僚の新たな魅力を発見することができたりと意義深いものでした。改 革を通して、仕事の質やモチベーションの向上に変化をもたらしたと感じていますので、これから も飯野海運の一員として、積極的に取り組んでいきたいと思います。 もよかったですね。また、各種研修は他部署の人たちと話し合いながら進めるので、多角的な視点
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る展開を目指している。
重要なのは “ 腹落ち ” ルールの前にまず人の心ありき
2013 年 7 月にスタートして以来、人事制度の改定、新 たな評価制度の運用、IPM と順調に進んできたかに見え るが、現場からの抵抗感もないわけではなかった。 井上氏は「制度が変わると、どうしても違和感はあるも のです。しかし、それは何か考えがあるからこそ生じるも のですから、抑え込むのではなく、話し合いなどを通じ て “ 制度への理解 ” を進めていくことが大切です。制度が 変わったことをきっかけに、常に考えてくれる人が 1 人 でも 2 人でも増えてくれることを期待していますし、そ れこそが制度の定着や組織活性化には重要だと考えていま す」と語る。 また、 「制度をつくると微に入り細に入りルールに意識 が行きがちですが、その前に制度の考え方を理解してもら うことが大切なはずです。重要なのは、制度を使う人が本 当に “ 腹落ち ” しているかどうかです」といい、 「さらに 人が変わらなければ組織は変わりません。組織を変えてい くためには、まず “ 人の意識の問題 ” をクリアする必要が あるのです」とも語る。 今、そういった点で一番難しいと感じているのは “ 評価 の目線合わせ ” だといい、 「お互いが自分の基準をすり合 わせていくのは容易ではなく、今もなお課題として残って います。しかし、制度の目的である適正な人材育成のため には重要な部分ですから、これからも繰り返し継続的に 行っていきたいと考えています」と述べる。
想いをひとつにして ともに飯野海運の未来をつくる
今回の人事制度改革では「“ 人間関係の質 ” が最終的 には “ 仕事の質 ” につながる」ということを強く認識し たという井上氏。それは JMAC との関係においても同じ だったと振り返り、 「JMAC のみなさんが非常に明るいの で、人事制度を変えていくというプレッシャーの中でも朗 らかな気持ちで仕事を進めることができたのは大きかった ですね。時には共通の趣味の話をすることもあり、プライ ベートな部分でも良好な関係を築けたことは、プロジェク トを進めるうえでもプラスになっていると思います」と語 る。そして「JMAC には、人事制度の改定から運用 ・ 定着、 研修に至るまで一貫して支援していただいていますが、こ れからも現場目線でのコンサルティングを進めていただき たいですね」と期待を寄せる。 最後に井上氏は「今回の改革は、活性化活動や合宿討議 など、これまでの飯野海運では考えられなかった目新しい ことばかりでした。ただ、今後これは実績として残ります ので、人事制度に対する考え方や、より真剣に取り組んで いかなければならないことが伝わったような気がします。 次は部長の IPM 宿泊研修を行いますが、そのあとは課長 より前の若い層にも広げていきたいと思っています。制度 のためにも共通の想いが必要なので、調整しながら実現し ていきたいですね」と活動への想いと今後の展望を語る。 「筋肉質な会社」を目指すためには、まず「人間の心の 問題」をクリアする――人事制度改革における飯野海運の 信念は今、大きなうねりとなって成果を出し始めている。
につなげる
意識を高め 職場の行動改革
一人ひとりの
担 当 コ ンサルタントからの一言
人材マネジメント改革は多面的に粘り強くじっくりと
人事制度改革は会社が社員に求める姿の実現を促すために行いますが、制度改 革だけで実現するものではありません。現場に対する経営からの行動改革の働 きかけが必須です。飯野海運様はこの取組みをじっくりと時間をかけてでも進 めていくという意思決定をされ、粘り強く改革を進めておられます。本文で触 いた “ 飯野イズム ” を再認識し、飯野らしさの追求の機運も高まりました。今 けでなく実の成果獲得につながるものと期待しています。 れていた部長層による IPM も実施されました。参加者はいつのまにか薄れて 後は IPM を行動改革推進の場としても活用しようとされていて、意識改革だ
チーフ・コンサルタント
伊藤 冬樹
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経営基盤の強化に向けたさまざまな取組みについて、 JMAC が支援した事例を紹介します。
〜経営と現場が一体となって「あるべき姿」の実現に歩み続ける〜
会社の 「背骨」 = TPM を 継続し、次世代につなぐ
売上があっても利益が出ない TPM の導入を決意
東洋理工は工場の生産革新プログラム「TPM(トータ ル・プロダクティブ・メンテナンス) 」を 98 年に導入し、 継続してものづくり現場の改善活動にも力を入れている。 20 年近く途切れることなく TPM 活動を継続しているの は、非常にめずらしい。 「導入を検討していたころ、当社の売上は伸びていても 利益が減っているという状況だったのです。バブルが崩壊 してからなかなかクルマが売れないということもあり、コ ストダウン要請にも応えなければならない。QC 活動を実 施していましたが、目立った成果が出ませんでした」と当 時を語る横山真喜男氏(代表取締役社長)は、 「とにかく 何かほかに手を打たなければまずい」と危機感を抱いてい たときに出会ったのが TPM だった。 当時専務だった横山氏は、TPM という手法があると知 ると、さっそく成果発表会やセミナーなどで実施企業の事 例などを聞きまくり、 「成果がすごい。 これはやるしかない。 なぜみんなやらないのか」と自社に導入すれば期待する成 果を得られると確信したという。また、そのころに本格的 なナイロンめっきのライン装置、 複合成形装置、 電磁波シー ルドライン装置など新しい設備を次々と導入、 「新しい技 術で新しい仕事」をやるようになり生産量も増えていった が、それに伴い「困りごと」も生じてきた。 小西和彦氏(取締役 製造部 部長)によれば「残業も増 えたし、土曜日にも生産しなければならないことがあり、 設備のメンテナンスがほとんどできていなかったのです。 当時は、 めっきラインに故障が多く発生していた」という。 「困りごと」を放置できないという思いは、横山氏と一緒 だった。とくにめっきラインの故障は、めっき液の中の製 品がほとんど「オシャカ」になることもあり、そうしたロ スによる利益損失に日々悩まされていたのである。 「当時応対してくれた TPM コンサルタントの方からは、 『成果は出ますが、それなりにタイヘンですよ』と言われ ましたが、その話を経営会議に伝えて、さぁどうしますか と問いかけたら、 『じゃあ、やろう』ということになった のです(笑) 」 (横山氏)
率先垂範で粘り強く活動 「現場が変わった」を実感
「それなりにタイヘン」を覚悟していたものの、TPM 活 動で「生産性が上がれば残業時間も減る、故障が減ればラ インの稼動時間も増える」 ことは十分予想できた。しかし、 TPM をキックオフして、いざ活動がスタートしても「な かなか先に進まない」ことに苦労したという。 「当初は、TPM は普段とは別の業務として『土曜日にや る』ことで活動がスタートしました。従業員にとっては普 段の業務とは違うわけですから、まず TPM 活動とはどの
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東洋理工株式会社
1964 年(昭和 39 年)に設立した東洋理工(安城市)は、翌年には日本 で初めてプラスチックめっきの加工専門の業務を開始、以来プラスチック 製品の総合メーカーとして金型・成形・加飾(めっき、塗装、蒸着)から 組立までの一貫生産体制を整えてきた。プラスチックめっきのパイオニア を武器にプラスチック製品の可能性を拡大させており、その実力は国内外 に広く知れわたっている。とくにナイロン樹脂のめっき生産量は世界でも トップレベルを誇る企業だ。同社が 20 年近く展開している TPM 活動の 導入の経緯、継続の秘訣、次世代に向けての展望などをお聞きした。 的存在として、自社開発のオンリーワン技術「金属音プラめっき(MLT) 」
横山 真喜男 氏
Makio Yokoyama
代表取締役社長
ようなもので、それでどんな成果が出るのかを、理解して もらわなければなりません。まずは土曜に出てやることの 意義を納得してもらうのに苦労しました」 (小西氏) 同社に限らず、TPM 活動の初期は「活動が思うように 進まない」 「やってもすぐ元に戻ってしまう」と感じるこ とがある。それは当然のことであって、活動のごく初期の 段階ではゴミや汚れの「発生源」の対策はまだ十分ではな いからだ。このときの苦労を小西氏は「とくにめっきの現 場は、掃除をしても翌週には前と同じくらい汚れているの です。また土曜日にやるといっても、通常の生産で出勤す ることもありますから、清掃が十分にできない時期もあり ました。そのときは一番苦労しました」と振り返る。 「もちろん率先垂範ということで、役員と管理職で『モ デル機』を設定して自らが身体を動かして活動の手本を示 しましたし、手当なども社長であろうがアルバイトであろ うが、差をつけないで一律にみんな一緒にして、とにかく 全員で出てくれという思いが伝わるようにしたのです」と 横山氏も活動初期の苦労を語る。 TPM 活動は「後戻り」しないためにも、ある ステップを確実にしてから次のステップに進み、 それにリンクするかたちで設備が変わり(信頼 性の向上) 、人が変わり(スキル・意識の向上) というシナリオで展開していくことが多い。階 段 (ステップ) の踊り場にいると、 どうしても 「な かなか次に進めない」と感じることもあるようだ。
こうした壁を幾度と乗り越えた現場を、横山氏は「2 年 くらいでようやく現場が『変わった』と感じました。何と か活動が定着したなと。ようするに、成果が見え出したと いうことです。トラブル対策が進み設備の停止が減った、 稼動率がアップして残業や休出が減ったなどを実感できる ようになったのです。見えるようになるとヨソのチームが 気になり出して、 良い意味で競争するようになったのです。 成果が見えて活動が活発化し、さらに成果が出るという相 乗効果も生まれました」と評価している。このころにはク レームや納期遅延が大幅に削減し、納入先からも品質や納 期の「改善賞」を授与されるほどになったという。
従業員の意識の変化を捉えて 活動を 「仕事そのもの」に
現在は当初の設備関連のトラブルも激減し、 「今はお客 さまの品質要求が非常に厳しくなっていて、活動の主力も
▲樹脂に金属の質感を持たせるプラスチックめっきを施した製品。四輪自動車 用グリル(写真左)と二輪自動車用エンジンカバー類(写真提供:東洋理工)
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そちらに注いでいます。標準ルールを守ることで、お客さ まへ不良が流出するのを防止するということです」 (小西 氏)と現場ぐるみで品質を重視した活動を展開中だ。こう した「お客さま」を意識した活動ができるのは、不良が出 ないための基準やルールづくり、それを守る人づくりを地 道に継続してきたからこそと言える。 2005 年から活動を支援している JMAC の TPM コンサ ルタント・粟津保は「同社は『改善積上げ型』の活動で逐 次レベルアップしながら『あるべき姿』へ向かっているこ とがわかります。こうした取組みでバブル崩壊後の低迷、 販売量の変動、原材料費やエネルギーコストの増大をみご と克服してきたのです。その活動を一言で言えば、環境変 化に即応できる企業体質の構築ということです」と語る。 長らく PDCA を継続して成果を積み上げて難題を切り 抜けてきたからこそ、 「東洋理工の TPM」として特徴ある 活動が定着していったのだろう。このことを横山氏に問い かけると、 「ところが長くやっているからこそ、活動初期 の“つらさ”を知っている人が徐々に減っていくわけです。 今は 4 割もいないくらいです。逆に言えば、活動に対し て『そこまでやるのか』と感じる人も中には出てくるわけ です」と冷静に従業員の意識の変化も見ているようだ。 実際に同社が 2001 年に TPM 優秀賞を 04 年にその継 続賞を受賞してから、 「その後で少し活動が停滞した時期 がありました。そのころから導入期を知らない人も増えて きましたし、何かしらのかたちで『やり直し』も必要だね という議論も出たし、実際に2S(整理・整頓)などの見 直しで徹底化を図りました」 (小西氏)という。 「確かに仕事への意識の変化を感じます。20 年前とは 違って 『個』 が優先される場面が多くなりました。しかし、 時代や環境がどうであれ『現場の基本』をおろそかにはし たくないという強い思いがあります」と語る横山氏が仕掛 けたのは、ISO を導入してとくに品質において「手段とし ての TPM」の位置づけを明確化したことだ。 ISO・TPM 推進事務局 主査の鈴木順一氏が語る。 「品質方針にはっきりと『TPM 活動を通して継続的改善 を図る』と定め、TPM を進めないと ISO も達成できませ んという枠組みにしています」 現場でのチームの方針は TPM や ISO の指標と直にリ ンクしたものになっているのだ。すでに仕事と切り離され た特別なプロジェクト活動ではなく、仕事そのものという 位置づけになっているという。 「仕事として位置づけた TPM が東洋理工のものづくり の根幹にしているので、最近入社した人は『TPM は当た り前』と捉えている人が多いようです」 (横山氏)
「TPM ラリー」で 経営指標と現場活動をリンク
どうやら同社の活動が長い期間にわたって継続している 秘訣は、 「仕事化」であると言えよう。これは「活動を仕 事として捉える」という単に意識レベルだけのことではな く、 「業績を上げる(目的) 」ことと「TPM(手段) 」が連 動するようにしている点に注目したい。すなわち、 「業績 を上げ続ける=活動を継続する」という仕組みである。威 勢よくスタートした社内活動でも、メンバーの入れ替わり や方針変更などで停滞、中断、そして “ 忘却の彼方へ ” と いう道をたどることも少なくないが、同社にとってそれは もはや杞憂である。 こうした仕組みは実際にどのように運用されているのだ ろうか。横山氏が語る。 「報奨制度も絡めて『TPM ラリー』というものを仕掛 けています。簡単に言うと、毎月定められた項目に対して チェック・点数づけをして結果が良いところには報奨金を 出すというものです。さまざまな項目を設けていますが、 当社では経営計画にリンクする項目も細かくサークル(活 動チーム)に降ろしています。たとえば、A 部門の不良率 の目標はこうで B 部門はこうで、全部門が達成すれば利 益計画も実現できるということを、サークルレベルまで細 かく設定して評価しています」 これらの評価を毎月見ている粟津は「会社業績、職場業 績の指標(KPI:Key Performance Indicator)と活動系 の指標(KAI:Key Action Indicator)がうまく連動し ています。基本的に全社で各部門が協力して会社の業績を 良くするための仕組みになっています」と語る。 「当初は『あれやれ、これやれ』と活動のための指標が
小西 和彦 氏 (取締役 製造部 部長)
鈴木 順一 氏 (ISO・TPM 事務局 主査)
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まだあって、社員たちも本当は何をやればいいのかわから ずに動いていたこともありました。今はまず『利益を出す ために何が必要か』があって、それをラリーの項目に落と し込んでいますし、トップダウンだけでなく、ボトムアッ プによる指標のすり合わせも行っています」 (横山氏) こうした仕掛けを確実に運用していくために、事務局 では「月末には社長と事務局で必ずラリーのポイントを チェックします。その結果を受けて、リーダー会議では一 方的に指摘するだけでなく、“ キャッチボール ” しながら 議論します。同じ指摘を繰り返さないような仕組みです。 もちろんポイントの達成も大事ですが、こうした事務局の バックアップで現場を活性化していくねらいもあります」 (鈴木氏)と経営指標と現場活動が噛み合っているかを常 に確認できる仕組みがあることがわかる。 東洋理工の活動継続の仕組み、そして事務局による運用 がどれほどのものかは、このリーダー会議がのべ 205 回、 JMAC コンサルタントによる「TPM 指導会」が 200 回を 超えるという事実からも推し量れる(2017 年 3 月現在、 両会議とも原則月 1 回開催) 。あらためて横山氏に活動を 振り返ってもらい、継続の秘訣を聞いてみた。 「仕組みや運用があっても、 それを支えているのは “ 人 ” ですから、さまざまな思いがあります。当然、まだ活動が 当たり前になっていない、まだ能動的な動きになっていな い人もいます。経営の方でも『まだまだかな』という意識 があるからこそ、 継続できているとも言えます。 『まだまだ』 の部分については、社内だけでは “ お茶を濁す ” こともあ るので、外部のコンサルタントからの指摘やアドバイスも 必要です。指導会がこれだけ続いているのも、こうした理 由からだと思います」 同社の継続について粟津は「半期ごとに次の半期をどう 担 当 コ ンサルタントからの一言 TPM を導入して約 20 年。会社の背骨として TPM 活動 を定着させながらも、次の「あるべき姿」を追求しつづけ る東洋理工。これからも経営と現場が一体となった TPM 活動が継続していくに違いない。 するか、年ごとに次の年はどうするかとハードルを上げた 提案に対して、経営陣がそのレベルになりたいという強い 意欲があるからです。利益体質を構築しながら確実にス テップアップしていきたいという企業であれば、活動は継 続します」と語る。
次の 「まだまだ」を解決する ために TPM 活動を続ける
おそらく東洋理工がものづくりをしていく以上、同社の TPM 活動は終わらないだろう。 「まだまだ」が解決されて も、 すぐに次のレベルの 「まだまだ」 に挑戦していくからだ。 「品質面でもチャレンジ課題はまだまだあります。めっ きでは職人的なカン・コツ、過去の経験で操作する部分が いまだに多いのです。管理すべき項目をしっかり決めて、 その基準を確実に守ることで品質を確保する必要がありま す。こうしたことを見える化して、チーム力でものづくり ができるようにしたいです」 (小西氏) 「その業務はその人しかできないという状況のままです と、なかなか部署間の異動もしにくいのです。本当はもっ といろいろな経験ができる会社にしていきたいと考えてい ます。当社にとって TPM は 『背骨』 のような存在だと思っ ています。時代の変化に関わらず、会社を支える基盤でも あり、ものづくりの基本の基本なのです。次の時代にもい い姿でバトンタッチしたいですね」 (横山氏)
TPMは
つなげること
マネジメントを
メンテナンスと
TPM 活動を経営指標とリンクさせる
TPM 活動の支援とは、 「経済環境の変化に対応できる企業体質づくり」をお手 伝いすることと考えています。現場で不良が減り、故障やトラブルも減ってい るにも関わらず、会社の収益が向上しないとしたら、活動そのものが不十分な
粟津 保
TPMコンサルタント
のかもしれません。損益管理とリンクした原価管理、すなわち売上高と製造原
価や生産の原単位の見える化ができていないからです。生産原単位と経営指標
をリンクしていないと TPM の効果も見えてきません。東洋理工さんでは、こ れらの見える化の重要性を経営側だけでなく現場レベルでも理解して活動を実 践しています。環境変化に対応し業績を向上させる仕組みが同社の強みです。
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JMAC EYES
最新のコンサルティング技術・事例・実践方法などについて コンサルタント独自の視点で語ります。
明快な「自社らしさ」こそ 事業競争力の源泉
CS・マーケティング/セールス革新センター センター長 シニア・コンサルタント
蛭田 潤 Jyun Hiruta
自社らしい価値を提供する 「らしさ」につながる価値とは何か
企業はお客様に貢献することで支持さ れ事業が成長します。競争環境下で自社 が選ばれるためには、他社にない自社ら しい価値が提供できているかどうかが重 要です。では「自社らしい価値とは?」 と問われて即答できるでしょうか。 JMAC では以下の3つの観点 ※ から、 何を自社の強みとするべきかの検討から 始めることをお勧めしています。 1 つ目の観点は製品・サービスなどプ ロダクトそのものでの価値提供です。こ の価値はプロダクトの特徴・機能・性能 ではなく「お客様にとってのベネフィッ ト」を価値として明確化する必要があり ます。 2 つ目の観点はオペレーショナルエク セレンス実現によるプロセス優位です。 プロダクトに関連するお客様との接点の 各プロセスにおいて、エクセレンスな価 値を提供することによって自社らしさを 発揮するという観点です。
※トレーシーとウィアセーマの主張である3つの価 値基準を活用
3 つ目の観点はカスタマーインティマ シー、すなわち顧客密着です。大口顧客 や意思決定を握る顧客への価値提供によ り囲い込みを図るという観点です。
(3)お客様期待に対する提供価値をデザインする
お客様期待を踏まえ、①提供しないと 不満になる基盤価値、②他社も提供して いるがその水準の高低によって満足にも 当たり前にもなる期待価値、③他社にな い自社らしい価値を具現化した突出価
部門別の改善の積み上げからトータル の提供価値デザインへの転換を図る
提供価値の真の具現化を図るために は、事業プロセストータルでの提供価値 をデザインする考え方が不可欠です。次 のポイントを押さえる必要があります。
(1)お客様プロセスを起点に考える
値——の3つの視点からデザインします。
徹底実践により「らしさ」を お客様に届け切る
デザインされた価値提供は徹底実践 し、お客様に伝え、届けなくては絵に描 いた餅になってしまいます。以下の観点 から実現課題を設定し、解決していくこ とがポイントです。 ①組織デザイン:お客様起点で提供価値 を考えると現状の組織の枠組みでは対応 できないことも発生します。その場合、 現状にとらわれずに組織編成や役割・機 能分担などの再設計をするべきです。 ②業務プロセス:価値実現のために業務 プロセスそのものの改革や阻害要因と います。 ③接点ツール:Web・SNS・紙などの 接点ツールをどのように活用すべきかを 検討します。 ④要員配置・人材能力:プロセス別の提 供価値や必要な業務を踏まえ、要員配置 を見直します。 このように徹底実践のための課題解決 は部分的・漸進的ではなく、全体的・抜 本的に進めることが重要です。また提供 価値をデザインし、実現プロセス全体を マネジメントする経営機能の新設や強化 についても検討する必要があります。 なっているルール・基準などの改革を行
お客様への価値提供なので、自社プロ セスや業務ではなく、あくまでお客様プ ロセスを起点とします。お客様の事業や 業務への理解が浅いとプロセスが描けま せん。
(2)お客様プロセスからお客様期待を洞察する
お客様プロセス別にどのような期待が あるのかを考えます。その際、自社との 接点で見えている範囲以外の部分が多い ことを前提に、B to B であれば背景に ある事業・業務やその課題、B to C で あれば背景にある生活や課題まで見据え て期待を把握する顧客洞察が重要です。
蛭田 潤プロフィル
立教大学経済学部経営学科卒業後、1985 年 JMAC 入社。入社以来の業務改革支援の経験を活かして、CS 向 上・顧客接点改革領域のコンサルティングを担当。主に は営業・コールセンター・アフターサービスなどの顧客 接点業務の CS 向上と効率向上を同時実現する業務改革 や企業文化変革の観点からのコンサルティングを推進。 最近は本稿のような自社らしい価値を実現する事業プロ セスデザインと実現課題解決推進に注力。著書に、 『お 客様に対応する業務の品質管理』 『図解でわかるコールセ ンター/ヘルプデスク』 『図解でわかるベストコールセン ターマネジメント』 (いずれも共著:JMAM 刊)など。
本記事は JMAC のホームページで連載中の「JMAC EYES」の要約版です。完全版は www.jmac.co.jp/jmaceyes で。
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編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
ステーションコンファレンス東京
時 間 定 員
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
2017 年
15:00 〜 18:30 50
11月 6 日月
参加料 対 象
「JMAC トップセミナー」は、 日本を代表する経営トップの方をお招きし、 「経営者と して改革を断行された視点・考え方」 「会社の中核人材 になられていく過程で待ち受ける困難を克服されたご経 験」など、こ本人から直接お話しいただくセミナーです。 企業の経営層および第一線でご活躍されているみなさま へ、 「経営のヒント」 「改革や革新の視点」など、新たな 気づきの契機をご提供することを目的として、2013 年 から定期的に開催しています。
10,800 円(税込み)
名(お申し込み順)
経営層、部門長の方々
アサヒグループホールディングス株式会社
代表取締役会長 兼 CEO
泉谷 直木 氏をお迎えして「アサヒグループのチャレンジ経営」
と題し、ご講演いただきます。
トップセミナーの「キーワード」
革新・成長を続けている他社企業経営トップの方から、ヒントとなる視点や考え方を掴んでください。
□実際にご経験された経営改革を 断行していく苦難や成功体験 □事業革新・価値創造のヒントとなる視点 ■開催要項・スケジュール
15:00 〜 15:10 15:10 〜 15:40
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□トップマネジメントの視点や考え方 □異業種交流の機会
開会挨拶 常務取締役 企画営業本部長 武中 和昭 オープニングセッション 経営戦略センター長 シニア・コンサルタント 竹村 薫
15:50 〜 16:50 16:50 〜 17:20 17:30 〜 18:30
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「アサヒグループのチャレンジ経営」
基調講演
—経営改革 5 つのポイント・人材育成 3 つの発想転換・経営者に必要な 5 つの挑戦—
アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 CEO 泉谷直木氏
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質疑応答・意見交換 コーディネーター 代表取締役社長 鈴木 亨 参加者交流会
お申し込み▶︎
www.jmac.co.jp/seminar/open
本誌は今回で Vol.64。日本では 50 号とか 10 周年などがキリのいい数字だが、個人的には「ロクヨン号」 と呼称して、勝手に「記念号」気分で編集・制作したせいか、とくに愛着のある号になった。字面もいいし、ロ クヨンという響きもステキだ。おそらく、PC 関連製品や通信サービスのスペック表記の2の n 乗値に「キリの 良さ」を感じてしまうのだろう。となると次は 128 のイニチッパ号。10 年以上も先だ……。
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- 「JMAC エグゼクテ ィブクラブ 」 第 2 期終了 、第 3 期へ
2015 年から開催しております「JMAC エグゼクティブクラブ」は、好評のうちに 7 月 15 日 で第 2 期活動を終了しました。 本会は第 1 期に引き続き、公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 理事長(協和発 酵キリン株式会社 元代表取締役社長)松田譲氏<写真右>を座長にお迎えし、16 社のメンバー のみなさまと、 ・ 「素晴らしい現役経営者」の生の体験談を聞く ・経営のリベラルアーツを共有する ・経営者としての資質や人間力を磨いていく ための<ネットワーキングの場>として開催いたしました。
Special Information
第 1 回 (2016 年 10 月 ) ゲスト講演者にソフトバンク株式会社 代表取締役社長 兼 CEO の宮内 謙氏をお迎えして開催しま した。
第2回 (2017 年 1 月:合宿 1 泊 2 日) 1日目はゲスト講演者に株式会社オリエンタルラン ド 代表取締役社長 兼 COO の上西京一郎氏<写真 左>をお迎えしました。 2 日目は、全日本空輸株式会社 成田空港支店 副支店長 兼 ANA 成田エアポートサービス株式会社 VIP サービス部 部長 坂部 千恵子 氏をお迎えしました。
第3回 (2017 年 4 月) ゲスト講演者に株式会社バンダイナムコホール ディングス 代表取締役会長の石川 祝男氏をお 迎えして開催しました。
第4回 (2017 年 7 月:合宿 1 泊 2 日) ゲスト講演者として、伊那食品工業株式会社 取締役会長の塚越 寛 氏<写真左>、代表取締役 副社長 塚越 英弘氏にご講演いただきました。あわせて伊那食品工業様のかんてんぱぱガーデ ン・健康パビリオン (研究棟) ・北丘工場を見学させていただきました。
▶︎▶︎第 3 期 10 月スタート!▶︎▶︎ 2017 年 10 月〜 2018 年 7 月まで、 「第 3 期 JMAC エグゼクティブクラブ」 の活動がスタートします。 詳細は、JMAC エグゼクティブクラブ事務局までお問い合わせください。
Business Insights Vol.64 2017 年 9 月 発行
編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文 ライター:山野邊志保
TEL:0120-058-055 URL:http://www.jmac.co.jp/ FAX:03-5219-8068 Mail:info_ jmac@jmac.co.jp
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