ビジネスインサイツ65
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経営者の ﹁ 覚悟 ﹂ が改革の要
﹁人と企業風土﹂ を育てる
アサヒ流の改革
JMACトップセミナー ﹁アサヒグループのチャレンジ経営﹂より
アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 CEO
泉谷 直木
積水化成品工業株式会社 スピード開発が決め手 プラスチックス・ ソリューションで無限の可能性を追求する 株式会社新寿堂 「改善活動がわかるリーダー」を育て、 組織改革を加速する 株式会社片浜屋 スーパーの新しい形を探求し、 「食のライフライン」を守り続ける
JMAC EYES Special Information
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毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点について語っていただきます。
JMAC トップセミナー 誌上講演
経営者の 「覚悟」 が改革の要 「人と企業風土 」 を育てるアサヒ流の改革
〜 JMAC トップセミナー「アサヒグループのチャレンジ経営」より〜
アサヒグループホールディングス株式会社
「人と企業風土」を改革し 激動の時代に勝ち残れ
近年、経営環境と経営課題は激変しています。日本の ビール市場は、1994 年のピークを境に数量は毎年 1%程 度下がり続け、昨年までで 25%以上減少しています。今 後も少子高齢化の流れの中で 1%程度の減少が見込まれて おり、ビール事業の経営者としては「いかに生き残ってい くか、勝ち残っていくか」が非常に重要な経営課題となっ ています。 一方、 国内で生き残れたら安泰かと言えばそうではなく、 もはやグローバルに市場を見ていく必要があります。昨 年、世界第 1 位のアンハイザー・ブッシュ・インベイブ 社が世界第 2 位のサブミラー社を買収し、世界売上の約 30%、 利益においてはそれ以上のシェアを占める巨大ビー ル会社が誕生しました。ゆえに、今後は規模の戦いではな く「グローバルの中でどのようなポジションをとるか」が われわれのテーマになってきます。 一般的に経営資源は「人・もの・金・情報・企業風土」 と言われていますが、こうした厳しい時代に勝ち残ってい くために私が最後の最後に一番大事だと思うのは、 「人と 企業風土」です。イノベーションや戦略的経営も必要です が、人があっての話ですし、新しいものに挑戦しようとい
う企業風土でなければ、いくら経営幹部が笛を吹き太鼓を 叩いても現場は動きません。したがって、その「人と企業 風土」に焦点をあてた経営が必要だと考えています。 今日はこの「人と企業風土」をテーマに、われわれが 2000 年前後から進めてきた経営改革のプロセスを、成功 話だけでなく失敗話も含めてお話ししたいと思います。
「発想の転換」がポイン ト 市場のニー ズが商品価値を決める
経営改革でまず第一に必要なのは、基本的な「発想の転 換」 です。 業績が悪くなると経営陣は 「どうやって売るんだ」 と議論しがちですが、 「どうやって買っていただくか」に 頭を切り替えなければなりません。ここで一番いけないの は「俺たちの時代はこうだった」という思い込みです。お 客様のニーズやウォンツはどんどん変化していますから、 常に変化を予測して今起きている事実を確認しておかない と市場ニーズとずれてしまい、買っていただける商品を開 発できるはずがないのです。 今、お客様が求めているのは「精神的な満足」です。物 的品質の「おいしい・安全・安心」だけではなく、 「買い やすい・運びやすい、楽しい・嬉しい」などの満足感も提 案していく必要があります。またコミュニケーションは、
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設立:1949 年(昭和 24 年)9 月 1 日 資本金:182,531 百万円(2016 年 12 月 31 日現在) 従業員数:連結合計 31,245 名( 2017 年 6 月 30 日現在) 事業内容:酒類事業、飲料事業、食品事業、国際事業、 その他事業(機能性食品・飼料)
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「経営者は金ではなく、 いぶし銀であれ」 ——アサヒグループホールディ ングスの泉谷直木氏(代表取締役会長 兼 CEO)の言葉だ。いぶし銀 は常に磨いておかないと光らない、すなわちトップに立つ者こそ常に 「自己研磨」に勤しむべしという経営者・泉谷氏の実践哲学だ。さらに、 経営においてもっとも重要なのは「人と企業風土」であると断言する。 「経営者自身の成長がないと、経営改革は成功しない」との信念のもと 改革を推し進めてきた泉谷氏に、厳しい環境下にあるビール事業の事 例を交えながら、企業価値を高める改革への想いとその軌跡を存分に お話しいただいた。
代表取締役会長 兼 CEO
泉谷 直木 氏
Naoki Izumiya
かつてはマスメディアでの広告宣伝が中心でしたが、今は SNS でお客様とダイレクトにつながり、意見交換するこ とが重視されています。こういった時代には「体験」は必 須で、実際に飲んで期待を超えた満足感があり、それを経 て商品を買っていただく時代になったのです。 また、売上が上がらなくなると、営業部門や生産部門が それぞれに勝手なことを言いがちですが、それでは社内で パワーを結集できません。こういうときこそ、会社全体で 「お客様にとって価値のあるものをつくって販売する」と いう共通の価値観を持っていないと買っていただける商品 は開発できません。新しい価値や品質を持った商品が開発 できれば、営業も自信を持って商品の品質を語ることがで き、 「そこを何とかお願いします」というお願い型営業か ら脱却できます。 ですから、私はリサーチ・開発・マーケティング・ファ イナンス・特許の機能をつなげて一気通貫でやろうと言っ てきました。会社全体で新しいものを創造していく組織風 土の中で商品をつくっていけば、まさに営業と生産と研究 開発部門が一体となって事業が進み、生産性も上がると考 えています。
社内の改革をするためには、まず経営側が意識と行動を 変える必要があります。たとえば、グローバル化したい のなら、 「グローバル意識を持て」と言うだけでなく、そ うした経験ができる場を用意するのです。先ごろの M & A でわが社の外国人比率は半分を超えましたが、こういう 環境の中で「現地の技術部門と技術交流する」 「世界中の 事業会社から幹部候補社員を集めて一緒に研修を行う」と いったことを繰り返し行うことで、結果的にグローバル意 識を持てるようになると考えています。 さらに、 「またか」ではなく「あれっ」と思わせる社内 の仕掛けも必要です。当社の株価は経営努力の甲斐があっ て、この 6 年で 3.5 倍になりました。すると「自分の財 産が増えた」 「企業価値が上がっている」と実感し、仕事 に対する意識も変わります。その中で企業価値を高めるた めの 3 ヵ年計画を打ち出せば、 「なるほど企業価値とはそ ういうことか」と理解してもらえるのです。 また、改革は業績に勢いがあるうちにすることが重要で す。傷が小さなうちに素早く対処すれば、問題は大きくな りません。このとき、 できることからするのではなく、 「簡 単にはできないが重要なこと」や「本質に迫ること」をす べきです。もっとメカニズム的にやるべきなのです。 人事政策では、多様化する市場に対応できる強いチーム をつくることが大切です。そのためには画一的な「金太郎
「経営側」の意識と行動を変える アサヒ流・ ト ッ プ主導の社内改革
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飴集団」ではなく、 「桃太郎軍団」 、つまりキジ(空から全 体を俯瞰できる) 、サル(木の上を俊敏に走ることができ る) 、イヌ(鼻が利く)のように、個々の能力が社長より 優れている人を結集することが重要です。私が役員に求め たのはそこですし、 最後に全体の責任者である桃太郎は 「キ ビ団子」で成果に報いるのです。そうやってみんなでがん ばって成果を上げる組織になるべきだと思っています。 このようにして、われわれは改革を実践してきたわけで すが、必ずしもすべてうまくいったわけではありません。
きな改革をしようとしても受け入れられないからです。 (3)上司への盲従:部下が本当に理解しているのかを見 極める必要があります。放っておくと改革が始まってから 部下が違う方向に向いてしまいます。 (4)成果なきプロセス:会議や打ち合わせが多く、プロ セスばかりを踏んでいて成果が出ないこともあります。目 的と手段を混同しないことです。 (5)プロセスなき成果:逆に何の議論もしないで、ただ 経営理念を唱和すれば成果が出ると思っているようではだ めです。 (6)言葉の独り歩き: 「危機だ」という言葉が社内でよく 聞かれても、これだけで経営陣が「わが社の危機意識は徹 底している」と判断するのは危険です。言葉が社内を独り 歩きしているだけかもしれません。 (7)拙速:経営計画のスケジュールは重要ですが、現場 社員の実態を無視した進行は結局成功を生みません。 (8)現状埋没:改革で現場がなかなか変わらなくても、現 場社員のせいにしてはいけません。上司自身がやり方を変 えて、今までの倍の力を投じるべきです。 (9)美文:改革にはパワーが必要ですが、美文で埋め尽 くされた通達文書にはパワーが感じられません。コミュニ ケーションは膝を詰めて行うのが一番です。 (10)問題のすり替え:物事を考えるときには、必ず自責 で考えなければなりません。他責では自分の問題を見過ご してしまい、改革につながりません。 以上が失敗から得た 10 の教訓です。次に、これから経 営者を目指す方が、どのようにして成長していけばよいの か、私自身の経験を踏まえてお話しします。
改革できない原因はこれだった 「経営改革 10 の落と し穴」
改革を実践する中で、数々の失敗から得た教訓もかなり あります。ポイントをまとめてお話しします。 (1)実行しない:本社からいろいろな計画や指示が出さ れても現場社員の共感が得られなければ、物事は実行され ません。 (2)経営(上司)不信:経営に対する信頼感や期待感を 日常的につくっておくべきです。これを怠っていると、大 講演後の質疑応答・意見交換より
Q: 「桃太郎軍団」の能力ある人材の育成方法は? 泉谷 : 一例として、 「国内武者修行研修」 と 「グローバル ・
チャレンジャーズ ・ プログラム」 があります。前者では、 社員を他社に 1 年間預かってもらい、 「アサヒの常識 は社外では通じない」ということを経験させて、客観 的な目でアサヒを見ることのできる人材を育成してい ます。後者では、買収した海外企業に入社 1 年半後の をつくっています。
社員を 1 年間送り込み、グローバルに戦える海外要員
Q: 「スーパードライ」開発の背景と、トップブランドで あり続ける理由は? 泉谷:発売 2 年前の 1985 年は業界シェアが史上最低
の 9.6%で、企業存続の危機にありました。このとき
日々の自己鍛錬が重要 「常に明るく元気に、 自分にムチ入れろ」
まず、 「当たり前の基準を高く持つ」 ことが大切です。 「今 の能力で仕事をしていればいい」という感覚では、能力も 低位に安定します。当たり前の基準を上げるコツは、 「知 らない」 「わからない」 「できない」の 3 つを言わないこ とです。そうすると、それをなくそうと一生懸命勉強する ようになります。私は知らないことが増えるのが成長だと 思っています。 忙しくて勉強する時間がないという人がいますが、仕事
業界トップをまねするのではなく、新しい土俵をつく るチャレンジをして誕生したのが、スーパードライで す。業界初の味覚調査を 5000 人に行い、 「お客様が 本当においしいと思うもの」を追求して「コクがある のにキレがある辛口がうまい」という極致にたどり着 きました。現在も次のコアユーザーである若者の調査 を続けており、氷点下の「エクストラコールド」を採 用するなどしています。常にお客様に提案すべき価値 は何かを考え、調査し、実践し続けた努力が今のスー パードライの地位につながっていると考えています。
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泉谷 直木
Naoki Izumiya
1972 年 1986 年 2000 年 2010 年 2011 年 2014 年 2016 年
アサヒビール株式会社入社 広報部広報企画課長 執行役員 グループ経営戦略本部長 兼 経営戦略部長 代表取締役社長 アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 COO 代表取締役社長 兼 CEO 代表取締役会長 兼 CEO
とは考えながら、勉強しながらやるものです。考えないで やる仕事は単なる作業です。考えていると学問的なことを 知りたくなるし、よその会社の事例も知りたくなって情報 を探す範囲も広がります。こうして仕事の中で徹底的に学 び、本質を理解していくのです。また、仕事をするとき、 常に第 2 のタイトルを考える癖をつけると、思考範囲が 広がります。たとえば、新聞記事のテーマが健康保険財政 だったら「わが国」は高齢化の問題がある、 「わが社」の 健康支援は、 「私」の日常の運動は……と主語を置き換え て考えてみるのです。 また、 「心技体のバランスを整える」ことも重要です。 若いときには体力勝負で「体・技・心」 、中間層では技術 で勝負して「技・体・心」 、役員クラスになったら心豊か な「心・技・体」と自分でコントロールしなければ成長し ていきません。自分を律するのはなかなか難しいことです が、自分の経営理念やモチベーションを紙に書いて自分の 部屋などに貼り、毎日それを見て繰り返し繰り返しチャレ ンジしていくことが必要です。 経営者になると膨大な量の仕事に優先順位をつけて実行 していくことになります。仕事を定量化して時間計算する ことも必要でしょう。そして状況はどんどん変化しますか ら、大中小 3 つの PDCA の歯車を違う時間軸で速く回し ていくという感覚も必要になります。ここで一番いけない のは、 難しくなればなるほど「ああでもないこうでもない」 と議論ばかりして、打ち手が遅れることです。具体的に取 り組み、成果を出すことが重要です。
また、部下を納得させるのに効果的なのは、指示命令で はなく質問の繰り返しです。なぜを 5 回繰り返せば本心 につながります。私自身も常に自問自答して自分にプレッ シャーをかけています。経営者は、他責ではなく自責で考 える「自立・自律した人間」になり、常に明るく元気に自 分にムチを入れることが大事です。
「絶対に成功させる」 覚悟と信念が自分の立ち位置を決める
そして、 経営者の立場になったときに必要なのは、 「覚悟」 です。社員とその家族の生活を預かる「覚悟」と、そのた めにはより多くのお客様に満足していただけるようなサー ビスを提供していく、絶対に成功させるという「想い」が 自分の立ち位置を決めると考えて、私はやってきました。 さらに、経営者になったら部下を育て、後継者を育てな ければなりません。山本五十六の言葉で「やってみせ言っ て聞かせてさせてみせ褒めてやらねば人は動かじ」という ものがありますが、実は次のような続きがあります。 「話 し合い耳を傾け承認し任せてやらねば人は育たず」 「やっ ている姿を感謝で見守って信頼せねば人は実らず」 。 人が実るように導く、そして生きがいや働きがい、生き 方を含めて満足できる人生を送ることができるようにす る。私はここまでやることがトップである自分の仕事だと 思っています。
本稿は 2017 年 11 月 6 日に開催した JMAC トップセミナーの基調講 演をもとに作成したものです。
講演を聴いて
という言葉は非常に重みがあると思いました。人の育成と企業風土の醸成は経営者に とってもっとも重要な課題であり、経営者の発想転換や意識、行動が大きく影響を与 えるということを改めて認識できました。日々鍛錬を実践していきたいと思います。
JMAC・代表取締役社長
泉
谷会長が実践されてきたことを、自ら語っていただいたので、たいへん説得 力がありました。経営資源の中で一番大事なものは「人と企業風土」である
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〜医・食・住から工業製品まで幅広く プラスチックスで人と社会を支え続ける〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
スピード開発が決め手 プラスチックス・ソリューションで 無限の可能性を追求する
積水化成品工業株式会社
近年、 事業環境変化のスピードは加速し続けている。そのスピー ドに追い付きながら、新しい技術やビジネスを生み出していく 水化成品)は次々と新製品を世の中に投入し、高業績を上げ続 ことは容易ではない。そうした中、積水化成品工業(以下、積 けている。それを支えているのは、2 つの開発推進体制と「お 客様と一緒にビジネスをつくり上げていく」 という開発哲学だっ 代表取締役社長 柏原正人氏の言葉には、技術畑を歩んできた自 ド開発の流儀、グローバル戦略、今後の展望について伺った。 た。 「いいものが売れるのではなく、 売れるものがいいものです」 。 らの経験が刻まれている。今回、 柏原氏に開発への想いやスピー
柏原 正人 氏
代表取締役社長
Masato Kashiwabara
食品トレイから自動車部材まで プラスチックスの可能性を追求する
積水化成品は 1959 年(昭和 34 年)の創業以来、中間 素材メーカーとしてプラスチックスを発泡させる技術で事 業を拡大してきた。現在はその世界トップレベルの発泡技 術を核に、顧客企業の業務改善や社会インフラ整備など、 さまざまなビジネスソリューションに挑戦している。 「積水化成品は生活分野をベースにスタートし、成長し てきました。振り返ると、やはり食に関連する社会インフ ラをずっと支えてきたのではないかと思います」と語るの は代表取締役社長の柏原正人氏だ。積水化成品が国内初の 技術で開発・製造した精肉・鮮魚トレイ用の素材はセルフ
販売普及の一翼を担い、生鮮食品を新鮮・安全に輸送する 鮮度保持容器は食の物流を革新した。こうした発泡プラス チックスの断熱性や軽量性、緩衝性は、建物用断熱材や屋 上緑化工法の資材などにも活かされ、快適な住まいづくり と省エネに貢献している。 生活分野に加え、事業は工業分野へも伸展し、家電・ IT、輸送関連のビジネスでは精密機器や自動車部品の梱包 材はもとより、製品の部材までも開発・提供している。 IT 部材では、 独自技術を駆使して開発した非発泡の「テ クポリマー」がある。液晶画面全体を均一な明るさにする 光拡散機能を持ち、画面を見やすくするキー素材としてテ レビやパソコン、携帯電話などに用途を広げてきた。自動 車部材では、多種多様な発泡プラスチックスが安全性の向
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上や軽量化、燃費向上に貢献している。たとえば、下肢部 衝撃吸収材に採用されている「ピオセラン」は、発泡性・ 剛性に優れたポリスチレンと耐衝撃性に優れたポリオレ フィンの複合発泡体で、衝突時に割れることでエネルギー を横に逃がし、搭乗者を守る。最近では、この「ピオセラ ン」とワイヤーを一体成形する技術で、座席シート部材の 軽量化と組み立て工数の大幅な削減に成功した。 「われわれはこれまで生活分野と工業分野で多くの可能 性を追求し、 形にしてきました。しかし、 当社のプラスチッ クスを発泡させる技術で世の中に貢献できることはまだま だあります。今後は座席シート部材のような他素材との複 合成形品もいろいろな形で展開しながら、多種多様な提案 をしていきたいと考えています」と柏原氏は語る。
ションも必要になってくると語る。 「ウォンツの場合、ど んなものが完成形になるのか最初はまだ見えていません。 われわれがよく知っているのは、 『素材の知識』 『それを発 泡させた機能』 『さまざまな設計を踏まえた可能性』です から、 それをご提案させていただいて、 お客様とディスカッ ションをする中で形が見えてきます」 。ここでは企業秘密 に触れることもあり、 互いの強い信頼関係も必要とされる。 積水化成品のスピード開発は、こうした「ものづくりへの 信念」とこれまで築き上げてきた「顧客との強固な信頼関 係」が礎となっているのだ。
組織の「横断」と「集中」で ソリューションを進化させる
スピード開発で時代の一歩先へ 「お客様と一緒に」つくり上げる
柏原氏は 1983 年の入社以来、技術畑を歩み開発リー ダーとしても活躍してきた。2014 年のトップ就任から 3 年が経つ今、重視しているのは「スピード感」だ。 「事業 環境変化のスピードは年々加速しています。その変化に適 応していくためには、時代のスピードより一歩二歩先に行 くスピード感を持たなければいけない」と語り、そうした 開発をしていくためには「お客様と一緒にビジネスをつく り上げていくことが重要である」と続ける。 「私自身、これまでさまざまなお客様との開発を手掛け てきましたが、 『これは完璧だ』というものを持っていっ ても大概は売れないものです。お客様のニーズやウォンツ を具現化してビジネスをつくり上げていくわけですから、 われわれだけで 100%のものをつくるのはとても難しい。 むしろ、8 割くらいまで詰めてお客様のところに持って 行って『もっとこうしたほうがいい』とアドバイスをいた だきながら一緒につくり上げていくことが重要で、その方 が仕上がりも早いのです。最後の詰めの 2 割に結構時間 がかかりますから、そこをお客様と仕上げていくような形 で進めるのがいいと思いますね。持って行って初めて本来 のご要望が見えてくる可能性もありますから、 『8 割でき たらすぐにお客様のところに行きなさい』と言い続けてい ます」 そして顧客の要望が「こういう機能を持った製品に仕上 げたい」 といったウォンツの場合には、 顧客とのディスカッ
積水化成品では、戦略的なスピード開発をしていくため に 2 つの開発推進体制を敷いている。それが 「CS チーム」 と「事業化推進センター」だ。 「CS チーム」はクロスファンクショナルソリューショ ンチームの略で、組織横断的なチームでソリューション提 案を行う。スピーディーな新市場・新用途開拓、成功事例 の横展開を目的とし、全事業部と全国 9 つの地域代表グ ループ会社が連携してテーマごと、地域ごとにチームを発 足している。 「基本的に、考え方や進め方、扱う商材は同じですから CS チームをたくさんつくり、全国共通のことはみんなで 一緒に、地域特有のことはオリジナリティのある形で行っ ています」 たとえば、新潟や長野の山地で「この農産箱がほしい」 と要望が出れば、同様に涼しい北海道にも適していると考 えて横展開していくのである。 積水化成品のスゴイ技術① 2つの特性をハイブリッド化̶̶ピオセラン
ピオセランは、独自のポリマーハイブリッド技術で耐衝撃 性や耐摩耗性に優れたポリオレフィンの特性を付加させた発 砲樹脂。発砲ポリプロピレンに対して圧縮強度は約 20%向 上したうえに寸法安定性も高く、精密 かつ複雑な設計にも対応できるように なった。 包装材だけでなく、今や乗用車のド アパッド、バンパーの芯、嵩上げ材、 下肢部衝撃吸収材などに使われ、供給 もグローバル規模で展開、さまざまな 用途への応用が期待されている。 写真提供:積水化成品
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開発畑出身の柏原氏は、 自社製品を片手に「プ ラスチックス」の可能 性を楽しそうに語って くださいました。
に採用されたほか、今後は産業用ロボットのアームや自動 車部材などの幅広い分野に展開できそうだ。 「2 つとも世界最大級の展示会に毎年出展しています。 今回はドイツで行われましたが、メンバーの中には展示会 が終わってもそのまま現地に残ってお客様のところをずっ と回っている者もいますね。じっとしていても先に進まな い、走りながら考えるという感じです」 こうして事業化の目途がある程度ついた段階で事業部に 移管し、チームは解散する。柏原氏は「事業がうまくいっ
一方、 「事業化推進センター」は技術部門と営業部門を 1 つに集めたセンターで、開発スピードアップと事業化推 進を強化すべく新設された。 センター内にチームをつくり、 新製品を世の中に投入するためのマーケティングやサンプ ル作成を一貫して行っている。 「当社の新しい素材をお客様に見ていただいて、 『おっ!』 と思われたときにちゃんと話が聞けて、すぐに機動力を発 揮できるチームにしています。事業化するまで動き回れる 専任部隊という位置づけのチームなので『好きなように走 り回っていいから、お客様にしっかり提案してきなさい』 と言っています」 現在運営しているチームでは、 新開発製品の 「エラスティ ル」 と 「ST-LAYER」 の実用化を目指している。 「エラスティ ル」はビーズの軟質系発泡体で、自由な形に成形できるた め、 「体にフィットするプロテクター」や「軽量でクッショ ン性のある車椅子のタイヤ」など、これまでにない用途を 探求している。また、 「ST-LAYER」は発泡体を炭素繊維 強化プラスチックスでカバーリングした複合品で、軽量か つ高強度、ねじれにも強いため、ドローンのボディパーツ 積水化成品のスゴイ技術② 優れた素材特性と発砲技術の融合化̶̶エラスティル
エラスティルは、優れた素材特性と積水化成品が長年培っ てきたビーズ発砲体のノウハウ・技術を融合させて開発した 「熱可塑性エラストマービーズ発泡体」 。ゴムのような弾性、 発砲スチロールの軽さ、ウレタンフォームの柔らかさを兼ね 備えた画期的な製品で、同 社の発砲成形技術により高 品質なものを大量に生産す ることもできる。 こうした特性により、ス ポーツ、各種産業、公共イ ンフラ、 医療、 住宅、 日用品、 寝具など、幅広い分野での 用途に適用できる可能性が 写真提供:積水化成品 ある。
たからこそ解散するので、 解散するのはいいことなのです。 だから、次から次へと新しい事業化推進センターのチーム をつくらないといけない」と素早いチーム結成、事業化、 解散がスピード開発の好循環を促していると語る。
グローバル戦略のカギは 「拠点化」と「マーケティング力」
今後はグルーバルレベルでのソリューションを加速すべ く、 工業分野に注力していきたいという柏原氏はこう語る。 「グローバルに展開するためには、世界共通のビジネス として使える工業分野は不可欠です。国内マーケットは少 子高齢化などの影響で縮小傾向にあり、日本密着型の生活 分野を事業基盤にしているだけでは大きな伸張性は望めま せん。現在の売上構成比は生活分野 6 割、工業分野 4 割 ですが、今後は生活分野を堅調に、工業分野を大きく成長 させて、2018 年度中には五分五分にまで持って行きたい ですね」 また、グローバルな展開をしていくうえで重要なのは、 ①拠点化を進め、現地供給体制を整備すること ②マーケティングで世界のニーズを取り込んでいくこと の 2 点であるという。 「まず、当社が今までお客様と一緒にやってきたことを、 国内のみならずグローバル拠点でもできるようにするこ と、これは大きいですね。たとえば、自動車メーカーが海 外で工場を立ち上げときに、そこでも同じものを提供でき るようにしていくことが非常に重要です」 また、マーケティングについては「たとえばドイツの展 示会だったら欧米の営業スタッフが集まり、来場者と議論 しながらネタを見つけていきます。グローバルで出た要望 に対して素材開発は日本で行い、それをすぐにグローバル へ生産を含めた展開をする。ニーズのあるところで、ニー
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ズにお応えできるような形で製品をご提供させていただい て、 その社会に貢献していくことが大切だと考えています」 現在、積水化成品はグローバル拠点を含めた日本の全自 動車メーカーに部材を供給しているが、今後はさらに世界 中の自動車メーカーへの供給を目指し、製品開発を進めて いく。2016 年には展示会の開催都市ドイツ・デュッセル ドルフ市内に欧州初の開発拠点を開設し、自動車部材に使 われる「ピオセラン」をはじめとする発泡プラスチックス の試作品をタイムリーに提供できる環境を整備した。 今後の見通しについて柏原氏は、 「海外拠点も順調に拡 大していますし、工業分野の新しい商材にもしっかりとつ いていっていると思いますので、早晩、生活分野と工業分 野は五分五分になると思います」と語り、 「そのためにもっ と開発を加速する必要があります」と表情を引き締めた。
クノゲル」の需要が増えている。 「医療向け素材はこれか らの高齢化社会に貢献できると思いますし、美容素材は新 興国の方たちも興味を持っているのでワールドワイドに伸 びていくと思います」と期待を寄せる。 今後の展望について柏原氏は、 「プラスチックスのビジ ネスで地球や環境にどのような貢献ができるのかをしっか りと考えていきたい。日本のみならずグローバルな社会に 貢献し、産業界に貢献し、環境に貢献していくことが重要 です。それを実現する形で成長していきたい」と語る。 そのためには時代に先駆けた技術革新をし続けることが 必須であり、何をどうすべきかについては「その都度みん なで議論しながら、お客様との対話を通じて見つけていく ことが大切である」と語る。 「経営者も社員も、みんなが想いを持って方向性を一致 させて、それぞれの方向に対して自分が果たすべき役割を 意識しながら一緒になってやっていこうというのが、創業 の精神である『全員経営』です。創業から 57 年経った今、 その発想は積水化成品のカルチャーになっています。とき にはぶつかり合ってもいいと思っています。切磋琢磨しな がら、 全員経営でチャレンジしていく。そういう気持ちは、 これからもずっと持ち続けたいですね」 プラスチックス・ソリューションで無限の可能性を追求 し続ける積水化成品グループ。 「全員経営」 のチャレンジで、 これからもプラスチックスの未来を切り拓いていく。
「全員経営」のチャレンジで
プラスチックスの未来を切り拓く
グローバルに工業分野が躍進する中、国内でも生活分野 の新開発製品が好調だ。 「素材のご要望にあわせて改良し てきた結果、 今、 伸びている」と柏原氏が挙げたのは、 「電 子レンジ対応型の素材」だ。これまで発泡が困難とされて きた PET 樹脂を独自技術で発泡したものや、従来のポリ スチレン系樹脂発泡体をさらに進化させたもので、その断 熱性の高さから電子レンジにかけても熱くならない。弁当 や麺類の容器としてシェアを伸ばしている。 また、医療・健康の領域では心電図用電極や電気メス用 対極板、美容パックなどに使われるハイドロゲル素材「テ 担 当 コ ンサルタントからの一言
ヒット商品の開発でジレンマに陥っていませんか。
技術開発に最大限の力を注いでも、ヒット商品に恵まれない、商品にお客さ 水化成品工業様はこうしたジレンマを克服し、新分野でも製品を開発し高業
まが満足していない、というジレンマ(悪循環?)に陥っていませんか。積
シニア・コンサルタント
績を上げ続けています。 その秘訣について開発畑出身の柏原社長は 「顧客ニー ズ・ウォンツの捉え方」 「顧客共通の便益の束ね方」などの事例を交えて語っ てくださいました。また、同社の秘訣を掲載した書籍『儲ける開発』が好評
発売中です。 「ヒット商品は最先端技術から生まれる」 「ヒット商品を生み出
せるのは一握りのスーパーマン」 などは幻想だということがわかるでしょう。
﹁儲ける開発﹂を 5つのステップで 実践する方法を 解説しています ぜひご一読を! 中村 素子
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
「改善活動がわかるリーダー」 を育て、 組織改革を加速する
〜手帳製造の老舗「新寿堂」のものづくりと人づくり〜
「NOLTY 品質」を守りながら 「納期遅延ゼロ」を目指す
新寿堂は 1950 年の創業以来、手帳製造を専門に手掛け てきた。1952 年からはビジネス手帳「NOLTY(能率手 帳) 」を日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)と ともにつくり続け、60 余年を経た 2013 年、さらなる飛 躍を目指し JMAM のグループ会社となった。 「NOLTY 品質」と呼ばれる高品質な手帳づくりは、 脈々 と受け継がれてきた職人技に支えられている。1 つのライ ンですべてが仕上がる製本とは異なり、手帳には 20 以上 の短い工程ごとに人手が必要だ。左右ページの罫線をぴっ たりと合わせ、一点の小さなシミもつけないことが手帳づ くりでは重要であるが、 それは非常に難しいことでもある。 新寿堂は NOLTY や法人手帳を中心に年間約 2000 種類、 800 万冊もの手帳を生産するなかにおいて、それを当た り前のこととして続けてきた。 こうした高品質な手帳をつくり続ける一方で、新寿堂は ある大きな問題を抱えていた。納期遅延により顧客の信頼 を失いかけていたのだ。2013 年のグループ会社化を機に JMAM より代表取締役社長に就任した村上覚氏は、これ を喫緊の経営課題として改革の方針を打ち出した。 「決まっ ている納期にきちんと納品できないから、発注側は安心し て発注できない。納期を守らないことがお客様の信頼を
失った一番の原因ですから、まず『納期遅延ゼロ』を達成 して信頼をもう 1 回取り戻そうよと。 そこから始めました」 こうして 2013 年、 新たな経営体制のもと、 新寿堂の「納 期遅延ゼロ」への挑戦が始まった。
人材育成の 2 本柱で 組織を抜本的に変える
改革をスタートするにあたり村上氏がまず行ったのは、 全従業員との個人面談だ。 「組織を抜本的に変えるために は、まず 1 回ウミを出しきることが重要です。みなさん の “仕事への考え方” や “やりづらいこと” などをいろい ろと聞いていきました」 。その結果、納期遅延の主な原因 は次の 2 つであることがわかった。 ① そもそも納期への問題意識が薄い ② 計画的な生産をマネジメントする体制が不十分である 村上氏とともに JMAM より工場責任者に着任し、個人 面談にも同席した雲野正夫氏(取締役 生産本部 本部長) は「新寿堂は企業向けや代理店経由での受注が多く、毎年 必ず受注がきていたので納期への問題意識が薄かったよう です。また、工場には責任者が 1 人いましたが、あとは 全員フラットな状態でした」と当時の状況を説明する。 「納期遅延ゼロ」を目指すためには、まずは人を育てる ことが必要だと感じた村上氏は、次の 2 つを柱として人 材育成を進めていった。
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株式会社新寿堂
ビジネス手帳「NOLTY(ノルティ) 」のメイン工場である新 寿堂は 2013 年、 「納期遅延ゼロ」への挑戦をスタートした。 た人材育成で、職人気質の従業員たちはどう変わっていった した村上覚氏は、どのようにして彼らに想いを伝えてきたの 動を続けてきた今、新寿堂の人と組織は大きく変わりつつあ る。今回、村上氏にその活動の軌跡と今後の展望を伺った。
「納期に対する意識改革」 「リーダーの育成」の 2 本柱で進め のか。そして、60 年以上続く老舗に他社から新社長に就任 か。 「人は本当に変わるのだろうか」と苦悶しながら地道な活
Satoru Murakami
村上 覚
取締役社長
氏
① 納期に対する意識改革 ② マネジメントできるリーダーの育成 まず、 「①納期に対する意識改革」については、朝礼を 毎週月曜日に行うことを習慣づけ、その中で繰り返し「納 期の大切さ」 を伝えた。 「毎週 1 回の朝礼が教育の場だった」 と語る村上氏は「最初はみんな『何を言っているんだろう な』とぽかんとした感じでしたが、わかりやすい事例を用 いて何度も何度も伝えて、徐々に浸透していったように思 います」と振り返る。当初はスタッフ全員から「機械を止 めて朝礼するなんて」と反発があったが、今ではどんなに 忙しくても全員が機械を止めて参加するようになった。 また、 「②マネジメントできるリーダーの育成」につい ては、各職場にリーダーを置いて朝礼の進行をさせたり、 「今日必ずやること(製品番号とアイテム、数) 」をリスト アップさせるなどして、徐々にリーダーとしての自覚を醸 成していった。
と評価する。 一方で、 「その知識を現実の仕事にどう結びつけるのか が難しい」とも感じており、その打開策として知識を実践 につなげる「P コース」 (現場改善実践研修)を JMAC 支 援のもとスタートした。P コースの “P” は、 “Production” を指し、 「生産現場で行う改善活動のコア人材を育成する」 ことに主眼を置いている。まさに先の「②マネジメントで きるリーダーの育成」を目指す上でも最適な研修だった。 1 年目の去年はどちらかというと受け身だったが、2 年 目の今年は P コースに合わせて生産を少し前倒しにして 臨んだ。 「今年は若手リーダー 3 人が受講しましたが、今 までの学習が実践につながったので、きつかったとは思 いますが楽しそうでしたね。一緒に受講した JMAC と JMAM の新人たちとも活発な議論をしていたので、そう いった面でも大変良い経験ができたのではないでしょう か」 (雲野氏)
「P コース」で実践力を強化! 「改善活動がわかるリーダー」を育てる
さらに、3 年前からは生産現場においての知識を習得す べく、全員必須で「生産マイスター講座」 (JMAM 通信講 座) を受講し始めた。村上氏は 「それまでは “品質”といっ てもみんな理解が違いましたが、 『こういうことを言って いるんだな』 という共通言語ができたのがとてもよかった」
雲野正夫氏(取締役 生産本部 本部長)
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さらに今年は、技能伝承についても P コースの中で取 り組んだ。それまでは繁忙期に手伝いに来る OB に若手を つけて 3 〜 4 か月の OJT を行ってきたが、こうした言葉 や文字にできない部分はなくしていこうと、熟練の職人技 を分析して手順書に落とし込むことにも挑戦した。
題となるが、今回の P コースでリーダーたちが改善活動 を理解したことは、 その大きな一歩となった。村上氏は「P コースを受講して、やっと点と点が線につながりました。 来年もリーダーもしくは次期リーダーでやっていきたいで すね」と期待を込める。 P コースの講師を務めた JMAC の有賀真也(チーフ・ コンサルタント) も 「改善活動は 『測定なくして管理なし』 の言葉が示すとおり、地道な取組みを継続して行うことが とても大事です。P コースにおいても新寿堂のみなさんは この考え方を十分に理解し、それぞれのリーダーシップを 発揮しながら短期間で一定の成果を創出しました。これか らもさらに飛躍が期待できる組織風土が醸成されつつある と感じています」と評価している。
「自信」と「自覚」が原動力 自律的な活動を始めたリーダーたち
P コースを受講したリーダーたちの変化について、村上 氏は「あの後、彼らは大きく変わりました。堂々としてい る。自信がついたのかもしれませんね。今までは『うまく 伝えなくては』 『こういうことを言うとどう思われるかな』 と考えてはっきりものを言えなかったのですが、今は朝礼 などでも堂々と話せるようになりました」と語る。 さらに、事務所内にリーダーたちの席を設けると、交流 を深めながら自律的な活動を始めたという。 「彼らは現場 の人なので今までは席がありませんでしたが、事務所内 に席を設けました。P コース終了後には『データをとりた いのでパソコンを購入してほしい』ということで 1 人に 1 台パソコンを与えたのですが、みんな工場での仕事が終わ ると集まってきて、情報共有しながらいろいろとやってい ますね」 (村上氏) 今後はリーダーの指示を全体に浸透させていくことが課
「人は必ず変わる」 トップの信念が人を育て、組織を変えた
村上氏には、毎週の朝礼のほかにも 5 年間ずっと取り 組み続けてきたことがある。従業員とともに行う工場での 作業だ。主に製品の積み上げなどを行ってきた。雲野氏は 「最初はみんな本当に驚いてしまって、 『今、社長が工場に いるんですが、どうしたらいいですか』と事務所に駆け込 んでくる人が相次ぎました」と振り返る。村上氏は「メー カーは現場が一番だと思っていますし、いろんなことが起 きるのも現場です。そこに入り込まなければ、この会社の ことは何もわからないと考えています」と説明したのち、 こうも述べた。 「5 年前に社長就任の挨拶をしたときの、 彼らの不安そうな目が未だに忘れられない。 『子会社になっ て、新しい社長が来て、私たちはこれからどうなるの?』 と。だから、 『まずは彼らと一体にならなければいけない』 と思ったのです」 こうした取組みを続けた結果、今では従業員の「納期 に対する意識」は大きく変わった。 「 『これ間に合います か』と納期を意識した発言が出るようになり、何か問題が 起きると『私にできることはありますか』と協力を申し出 る人が非常に増えてきました」 (雲野) 。ただ、まだまだ改 善の余地があるとする村上氏は「計画的に仕事を進める PDCA と、基本中の基本である報連相については、いま だに口を酸っぱくして言っています」と述べる。 また、以前は全員フラットだった組織にはリーダーが育 ちはじめ、会社のあるべき姿についても皆で考えるよう
P コースとは?
P コースとは JMAC が提供している実践型研修プロ 善力を早期に育成する」ために、①現場改善に必要な 手法を IE(Industrial Engineering)中心に修得する 善案検討→改善実施」の改善サイクルを実践し修得す 人達との交流を図ること——を目的としている。 グラムの 1 つで、 「現場で自律的に問題解決ができる改
こと、②「現状分析(改善余地把握)→目標設定→改 ること、③グループでの改善活動を通じて、異業種の 自社の生産現場、実際に稼動しているラインを教材 出し、解決を図ることができるのだ。
にして、JMAC のコンサルタントと一緒に問題点を抽
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になった。 「今、20 代から 30 代前半の若いリーダーたち が課長の補佐としてすごく引っ張ってくれています。年 1 回の合宿会議では、みんなでいろいろな問題点やどのよう な会社にしたいかも話し合うようになりました」 (村上氏) 村上氏はこの 5 年間を振り返り、 「人は本当に変わるん だうかと思い悩んだこともありました。しかし、われわれ が諦めてしまったらそこでおしまいです。時間はかかるけ れど諦めず、理解してもらうまで同じことを繰り返し言い 続けてきたという感じです。だからこそ、教育や日頃の関 わりはすごく大事だなと思いますね」と語る。
熟練の技が NOLTY 品質をつくり込む
1949 年の誕生以来、多くのビジネスパースンに愛 ブランドとして生まれ変わった。長年愛されて続けて ユーザーに伝わるからこそ。その NOLTY 品質は新寿 用されてきた「能率手帳」は、2013 年に「NOLTY」 きたのは、徹底した品質へのこだわりがあり、それが 堂の熟練の職人たちに支えられている。印刷から紙の 断裁、折り、丁合、背固め、表紙付けまでのそれぞれ の工程で、熟練のカンと技が NOLTY 品質をつくり込 いため、熟練者が1つひとつ手作業で仕上げている。 んでいく。とくに表紙付け(写真)は機械ではできな
新寿堂ブランドを発信し 夢とキャリアを描ける会社に
今後の経営課題について村上氏は「まず、企業として当 たり前のことをしていきたいですね。売上を上げて経費を 削減し、利益をきちんと出して社員の人たちにもっと還元 したいと思っています。それと同じウエイトで、みなさん が新寿堂で 2 年後 3 年後に自分が目指したい姿、キャリ アを描けるような会社にしたいですね。社員があってこそ のものづくりの会社ですから、人を大事にしたいという想 いがベースにあります」と語る。 また、IT 化とうまく共存していくことも大切であると し、 「本当に人でやらなければいけないところとセンサー やロボットでもできる作業をしっかり見極めて、IT 化で きる部分を担っていた人たちにはもっと別のこと、たとえ ば製本をより深く研究してキャリアアップできるような方 法を考えていきたいですね。 そういった現代の力を借りて、 製本業をレベルアップさせていきたいと考えています」 最後に、新寿堂の未来、そして社員への想いをこう語っ た。 「現在は OEM で手帳をつくっていますが、いずれは 新寿堂のブランドとして日本もしくは世界に手帳を出して いきたいと考えています。そうして外に発信していくこと で、社員もやりがいを感じ、夢を描きやすくなるのかなと 思っています」 「納期遅延ゼロ」を目指して始めた人材育成で、新寿堂 の人と組織は大きく変わりつつある。手帳づくりのプロ フェッショナルたちの新たな挑戦は、 今始まったばかりだ。
第一歩は ﹁言葉の統一﹂
です
組織改革の
担 当 コ ンサルタントからの一言
チーフ・コンサルタント
「実感」は組織改革活動の有益な処方箋
新寿堂さんが取り組まれた「生産マイスター講座」と「P コース」は、同社が 目指す組織像を“ 実感をもって” 確立するために、非常に有効な取組みであっ たと認識しています。今回、新寿堂さんは、座学および実践研修を通じて 言葉の定義・意味づけを社内で統一し、並行して改善活動サイクルを「組織と して」完遂する経験を得ました。これらの取組みを通じ、組織改革を行ううえ で必要なプロセス・ステップを、新寿堂さんのメンバーの方々は実感すること ができたのではと思います。今後のさらなる研鑽を期待しております。
有賀 真也
「QCD(Quality: 品質、Cost:コスト、Delivery:納期 )」をはじめとした各種
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経営基盤の強化に向けたさまざまな取組みについて、 JMAC が支援した事例を紹介します。
~少子高齢化時代の生き残りを賭けた「スーパー片浜屋」の挑戦~
スーパーの新しい形を探求し、 「食のライフライン」を守り続ける
被災した翌日も休まず営業 「食」 と 「心」 を支え続けた日々
もし自分が大規模災害の被災者になったら、まず必要な ものは何か ? その 1 つに、食料品をあげることができる であろう。 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災で、気仙沼市は津波 や建物倒壊など大きな被害を受けた。 その中で、 地元のスー パー片浜屋も店舗が被災したものの、翌日も休まず店頭販 売を続けた。 「あのときに強く実感したのは、食という地 域のライフラインを守ることの大切さでした」 と語るのは、 片浜屋の代表取締役社長である小野寺洋氏だ。 気仙沼は三陸の海に面し、親潮・黒潮が交わる世界有数 の豊かな漁場を有する国内屈指の漁港として栄えてきた。 しかし、その風景は震災で一変した。 小野寺氏はこう語る。 「水産業関連で雇用の 6 割を占め るなど、気仙沼市はまさに水産業の町でした。しかし、震 災で大きなダメージを受け、今もまだ元どおりにはなって いません。7 万 4000 人いた人口も、1 割以上も減って 6 万 6000 人になりました」 。復旧・復興率についても、 「漁 船数こそ震災前の 9 割と比較的戻ってきていますが、港 湾の再築率は 6 年経ってもいまだ 7 割です。水産加工業 の回復率は 3 割で売上げは半減、ワカメ・カキなどの養 殖業も、950 ほどあった経営体は3割以上が廃業し、売 上げにも大きく影響しました」と説明する。 片浜屋における津波被害も甚大で、本社家屋は流失し、 所有する 3 店舗のうち 1 店舗に床上 2 メートルの浸水が あった。幸いにも従業員は全員無事だったが、設備は海水 で全滅し、床には重油混じりの重く、強烈な臭いの泥が堆 積したという。 「従業員が泥まみれになりながら一生懸命片づけてくれ て、 店舗は 2 ヵ月後の 5 月には復旧することができました。 本社家屋も同年 11 月、 内陸に移転 ・ 新築して今に至ります。 ショーケースの取引先やスーパーの業界団体なども、ビジ ネスを超えた強力なバックアップをしてくださり、それに もずいぶん助けられました」 冒頭でも述べたように、こうした中でも従業員は自ら被 災しながらも翌日には営業を再開した。地域の人々は、な じみのあるいつものスーパーで買い物をし、近所の人たち と顔を会わせて会話できたことがどれほど心強かったこと か。食に加え、 心の支えになったという意味でも、 スーパー 片浜屋は地域のライフラインとして大きな役割を担ってき たのである。
「最少人員で業務を回す」仕組みで 慢性的な人手不足を解消する
株式会社片浜屋は、 宮城県気仙沼市で「スーパー片浜屋」 を 3 店舗展開する地元密着型の企業である。創業は 1937 年(昭和 12 年)とその歴史は古く、スーパーマーケット
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株式会社片浜屋
働き手不足が加速している近年、多くの従業員を擁する従来型のビジネス モデルは継続しにくくなっている。宮城県気仙沼市のスーパー片浜屋も、 数年前から採用難と人手不足に悩んでいた。そこで 2016 年、片浜屋は 経済産業省の「小売業生産性向上事業」に応募・参加し、少子高齢化時代
「少ない人員で業務を回せる仕組 の生き残りを賭けた挑戦に踏み出した。 とは何か。地方だけではない、国全体が抱える少子高齢化問題を解決する 災を乗り越えて今回の活動へ取り組んだ想い、今後の展望などを伺った。
みづくり」を目指しながら、その先に見据えていた「小売業の新しい形」 ヒントがここにある。株式会社片浜屋 代表取締役社長 小野寺洋氏に、震 代表取締役社長
小野寺 洋 氏
Hiroshi Onodera
を始めて 50 年、前身の乾物屋の時代から数えると 80 年 もの間、気仙沼で商いを続けてきた。 小野寺氏は震災の 2 ヵ月後、2011 年 5 月に代表取締役 社長に就任したが、そのころから人材不足に悩み続けてき たという。 「今、深刻な人手不足が全国で騒がれています が、この地域は震災の影響もあり、5、6 年前から採用難 や人手不足に苦しんできました。当社で募集しても応募す らない状況で、いつもぎりぎりの人数で業務を回していま す。そうした中では 1 人でも欠けると部門の運営が滞り、 お客様へのサービスレベルも下げざるを得なくなってしま う。今のままではいつか、店舗の運営さえもままならない という危機感がありました」と当時の心境を明かす。 こうした中、 「一刻も早く『少ない人員で業務を回せる 仕組みづくり』を行い、スタッフ一人ひとりの負担を減ら すことが最重要の経営課題である」と考えた小野寺氏は、 この課題を解決すべく、経済産業省の「小売業生産性向上 事業」に応募・参加することを決めた。そして今回、経産 省の委託を受け活動を支援したのが JMAC である。 こうして 2016 年 9 月、片浜屋は JMAC をパートナー として、生産性向上に向けた活動をスタートさした。
り、 商品が消費者の手元に届くまでには、 発注や配送、 バッ クヤード業務、陳列・補充・整備、レジなど、いくつもの 作業が発生する。今回の取組みでは、とくに人材が不足し ている「バックヤード業務」の効率化に向けて課題を明ら かにし、いくつかの具体策をトライアルで進めていった。 支援は JMAC のコンサルタント数名で行ったが、代表 を務めたチーフ・コンサルタントの角田賢司は、当初の様 子をこう振り返る。 「初めて店舗を訪れたときに感じたの は、 『一人ひとりに過剰な負担がかかっている』というこ とです。みなさん、とても前向きに一生懸命働かれている のですが、もはや一人のがんばりだけでは耐えきれないと ころまできていました」 そこで、まず行ったのは現場の作業実態をつかむ「現状 把握」だ。日々現場で起きていることが「どういう理由 で」 「どのくらい」 出ているのかを終日観測する。このとき、 店舗全体の効率化を図るため、バックヤード業務だけでは なく売り場業務の観測も行った。 小野寺氏は、 「一緒に取り組んでいく中で、ものごとの 改善には『現状把握』がいかに大切かを改めて認識した」 と語る。今回は国の補助事業のため、短期間でという厳し い条件下での活動であった。小野寺氏はその点にも触れ、 「短期間ということもあり、JMAC には 8 割超もの時間を 『現状把握』 に割いていただいたのではないでしょうか。 『改 革のプロも、ここまで重視するのか』と驚くと同時に、自 分自身はその大切さを認識してはいたものの、果たしてそ
現状把握こそが課題解決の近道 「なぜそうなるのか」を解明する
スーパーには、青果・精肉・鮮魚・レジなどの部門があ
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こまで重視していただろうか、 と反省もしました」と語る。 また、 「現地調査の回数は必ずしも多くなかったかと思い ます。その中で各スタッフへの聞き取り調査や作業の実測 などを行ったのですが、短い時間の中でも集中的・科学的 に行えば、ここまで正確に実態を把握できるということに も驚きました。スタッフもみな、 『今まで気づかなかった』 『勉強になった』とかなり好意的に受けとめています」と 述べる。 コンサルタントの角田は「われわれは、しっかりと現状 把握したうえで店舗の方とそれを共有し、両者の思いが一 致する方向性を打ち出せてこそ活動の意味があると考えて います。活発なコミュニケーションをとりながら密度の濃 い活動ができたのは、小野寺社長をはじめ、店舗のみなさ まの熱意があったからにほかなりません」と語る。
でさらなる効率化を図り、少ない人員で業務を回す仕組み をつくり上げていくことは容易ではない」と改めて感じた という。 そして、その実現のためには「マンパワーによる作業効 率の改善だけではなく、 ICT (情報通信&コミュニケーショ ン技術)を活用することが重要である」とし、 「自動発注 やセミセルフレジなどのシステムを最大限活用し、効率的 な運用を追求して初めて最少人員で業務を回せる仕組みづ くりができると考えています。当社でもすでに利用してい ますが、まだ活用しきれていません。これからは『ICT を 使ってどこまで効率化できるか』を考えていきたい」と述 べる。 今後はバックヤード業務を集約化して、マンパワーとシ ステムの相乗効果をねらう構想もあるといい、 「将来的に は、店舗ごとに行っている商品製造を 1 ヵ所に集約化し たいと考えています。そうすれば、まとめ生産が可能とな り生産性が向上するほか、ミートスライサーなどの自動 化設備への投資も 1 つ分ですむため、メリットも大きい。 この場合、各店舗への効率的な配送方法についても併せて 考えていく必要がありますが、突き詰めて工夫していけば 必ず結果を出せると考えています」と述べる。 そして、 この活動を通して一番変わったのは、 自身の「覚 悟」の持ち方であったかもしれないとも語る。 「これらを 実現するためには、手間とコストがかかることでしょう。 われわれ中小企業にとっては大掛かりな改善ではあります が、今後を見据えて結果を出していくためには、覚悟を決 めて取り組むべきであると強く感じています」
抜本改革で生き残れ! 必要なのはコスト投入の 「覚悟」
この事業における JMAC の支援は、 2017 年 1 月にいっ たん終了した。約 4 か月という限られた時間の中ではあっ たが、品出しに使うカートの積載量をアップして、バック ヤードと売り場の往復回数を 25%削減するなど、一定の 成果を得ることができた。小野寺氏は、 「JMAC には、さ まざまな面で改善の提案をしていただき、スタッフ 1 人 当たりの作業負担が大きく軽減した」と評価する。 しかし一方で、 「まだまだ少ない人員で業務を回せると ころまではいっていない」と述べる。スーパーマーケット 業界はその長い歴史の中で、科学的手法を用いて常に運営 方法を改善し、作業効率を向上してきた。ゆえに「その中
脱・小売業の常識 「多能化」で従業員に連休を
片浜屋は引き続き、今回の活動の定着と次なる課題への 対応を進めていく方針である。その中で、 「従業員の満足 度向上」にも取り組む姿勢だ。 「われわれの業界では、今 までは繁忙期にあたるゴールデンウィークやお盆、年末年 始は休めない、というのが当たり前でした。しかし、これ からは年に何回かでもいいから、まとめて休みをとらせて あげたい。こうした部分の改善や、従業員の満足度向上へ の取組みも並行して本気で行う必要があると思っていま
スーパー片浜屋(古町店)の従業員のみなさん。震災の被害を乗り 越え、全員一丸となって生産性向上活動に取り組んだ。小野寺社長 とともに、新しい時代のスーパーマーケットづくりに励んでいる。
す」と、これまでの小売業の常識にとらわれず、ワーク・ ライフ・バランスの実現にも注力していく。
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スーパーのような形態では、とくに部門ごとに専任化し ていることが多いが、この点についてコンサルタントの角 田は、 「1 人の従業員が複数部門の仕事をできるようにな れば、他部門が忙しい時間帯にヘルプに入ったり、休みを とった人の代わりができたりするため、連休取得にも一歩 近づくのではないでしょうか」と述べる。 小野寺氏は、 「複数部門の仕事をできる人がいると、だ いぶん違ってくると思います。ぜひそれは取り入れたいで すね。ただ、長く専任で仕事をしてきたベテラン層にとっ てはハードルが高いと思うので、まずは新人の段階からそ ういった形の育成をして、徐々にベテラン層にも広げてい きたいと考えています」と、状況を見極めながら、しかし 積極的に進めていきたいと語る。
では、事態は好転しません。限られたリソースを活用し、 積極的に新しい形を探求していきたい」と述べる。 今後の展望については、 ① 人員不足への早急な対応 ② 従業員の満足度向上 ③ 地域のライフラインとしての役割の強化 という 3 点に重点を置くと語り、 「まず、先ほどからお話 ししているとおり、当社にとっては人員不足への対応が現 在の最重要課題の 1 つですから、引き続き、早期改善に 向けて注力していきたいと考えています。また、 『最少人 員で業務を回せるようになりました』 というだけではなく、 従業員の満足度向上も同時に目指し、働き方改革につなげ ていきたい」と話す。 さらに、 「今、労働集約型の産業は人件費をはじめ、さ まざまなコストが上昇しています。少子高齢化の進行が速 い地方では、商売の環境はますます厳しくなっていくで しょうし、われわれのような中小企業には遅かれ早かれ限 界が訪れると予想しています」と述べたうえで、 「震災の ときにも強く実感しましたが、 『食』という地域のライフ ラインを守るためにも、そういった時代に対応できるわれ われ独自のスーパーマーケットの形を生み出せるよう、危 機感を持って活動を続けていきたいと考えています」と今 後の抱負を語る。 少子高齢化時代に向けた独自戦略を進め、食のライフラ インとしての役割を全うしていきたいと熱く語る小野寺 氏。気仙沼発のこの取組みは、日本の未来予想図を描くう えで、大きなヒントになるに違いない。
「食のライフライン」としての使命 「独自戦略」で時代の要請に応える
片浜屋は平成 29 年度、宮城県名取市に新店舗をオープ ンする予定だ。実に 20 年ぶりの新規出店であり、他の地 域への出店はこれが初めてとなる。オープン前の人材募集 は、既存店舗の募集とともに片浜屋のホームページで積極 的に行われている。各部門の仕事内容と先輩の声を写真入 りで紹介しており、入社後にどのような職場で働くのかが 非常にイメージしやすい。小野寺氏も「一緒に当社の未来 を切り開いていきましょう!」という力強いメッセージを 寄せている。 働き手不足はこれからも課題として残り続けるはずであ るという小野寺氏は、 「 『人が来ない、来ない』と嘆くだけ
実現させてください
社長の想いを
生産性向上で
担 当 コ ンサルタントからの一言
活力ある店舗づく りには生産性向上活動が有効
人の生産性を向上させるには作業を変え、現場を変え、人の意識を変えること が大切だと考えます。現場に浸透しない付け焼刃の改善は成果が出ず、すぐに 元に戻ります。社長の想いである食のライフラインを守り抜き、地方の活力を 生み出すスーパーになるためにも、現場を見て現場の人と討議し、現場の人が 納得する改善を進めてほしいと思います。人口が減少し、環境はますます厳し くなります。店舗が変化しなければ生き残れません。変化を起こすのは働いて 活力ある店舗づくりを続けてほしいと思います。 いる人です。従業員の気持ちを変え、 行動を変え続ける取組みを続けることで、
角田 賢司
チーフ・コンサルタント
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JMAC EYES
最新のコンサルティング技術・事例・実践方法などについて コンサルタント独自の視点で語ります。
イノベーションで成果を出せる技術人材をつくる 「場づくり」と「仕掛け」
R&D 組織革新センター センター長 シニア・コンサルタント
鬼束 智昭 Tomoaki Onizuka
R&D組織に 求められる人材とは
R&D(研究開発)の現場では、現在2 つのことが期待されています。 1つは現事業の競争力強化につながる 技術開発で、もう1つは新たな価値の創 造や新事業の創出につながる技術開発で す。難しいのは後者の新たな価値の創造 や、新事業の創出につながる技術開発で す。実現するには自らターゲットを設定 して、そこでの価値をデザインしなけれ ばなりません。ここで求められるのが、 “イノベーションを起こす人材”です。 JMACとJMA(日本能率協会)が実 施した「技術者育成担当者勉強会」(大 手製造業約20社の技術者育成担当者が 参加)でその要件を整理した結果、以下 の4つのスキル領域があげられました。 ①ヒューマンスキル(コミュニケーショ
③事業化推進スキル(ビジネスモデル構 ドなど) ④マネジメントスキル(経営知識、管理 能力、リーダーシップなど) ①②④はこれまでも言われていました が、従来と異なって強調されていたのが ③の技術イノベーションを事業につなげ る事業化推進スキルです。 R&Dを起点にして新たな価値や新事 業を創出するには、事業化推進スキルを 持った人材が必要なのは言うまでもあり ません。しかし、事業化に長けた人は必 要ですが、技術者にそこまで負わせるこ とが本当に良いのかは疑問です。そちら に注力するばかりに、本来の技術のイノ ベーションが起きなくなっては本末転倒 です。
ると、「①心の持ち方」「②人間性」 「③思考特性」「④行動特性」「⑤知 識・経験・スキル」があげられました。 ①〜④の特性は元来その人が持ってい る資質であり、その特性を磨いたり、発 見したりする“場”や“仕掛け”が大きな役 割を果たします。各社で行われている MOTプログラムのようなものは、そう した“場”や“仕掛け”のひとつと考えられ ます。 一方で、事業化につながる革新的な技 術を生み出す技術者を育成するための “場”や“仕掛け”はどうでしょうか? 革新的な研究開発テーマを設定して成 果を創出していくためには、 ①もともとイノベータとしての特性を 持った技術者にとって、 「やりやすい /やる気になる場」をつくること ②やる気はあるがやり方がわからない/ いい方法が見つからない人に対して、 「鍛える場」をつくること が重要なのです。
築力、オープンイノベーションマイン
イノベーションを起こす人材を どのように育成するか?
それでは、イノベーションを起こせる スキルを持った人材をどう育成していく べきでしょうか? 先の勉強会では、各社で実在する(し た)イノベーションを起こしてきた技術 者の実例をもとにその特性を整理してみ
ン能力、自主性、自律性、ネットワー ク構築力、 環境変化への柔軟性、 グロー バル対応能力など)
②専門スキル(固有技術、専門知識、設 客ニーズの汲み取り力など)
組織が人材を育て 人材が組織を変革する
やりやすい/やる気の出る研究開発の 場づくりや、技術グループやチームで活 発な技術議論が行われる場に変えていく には、研究開発トップや研究開発リー ダーがその重要性を認識し、現場を変革 していくことが重要です。 現場の変革で「成果を生み出す技術人 材」が創出され、その人材が増えてい き、さらにその“場”がより良い場になっ ていく、この循環がうまくできる組織か ら新たな価値や新事業を生み出す技術開 発が行われるのです。
計力、仮説構築力、検証力、市場、顧
鬼束 智昭プロフィル
電気通信大学経営工学科卒業後、1991 年 JMAC 入 社。入社以来一貫して製造業の R&D マネジメント領 域の改革コンサルティングを担当。主には新商品・新 事業立案、研究開発プロセス改革、R&D 組織革新な どにおいて成果創出まで一貫した改革を推進。最近は とくにイノベーションを起こす組織や人材に関する支 援を展開中。 最近の著書に、 『研究開発の Go/Stop 判断』 『ボトムアップ研究 その仕掛けと工夫』 (いずれも共著 : 技術情報協会刊) 。
本記事は JMAC のホームページで連載中の「JMAC EYES」の要約版です。完全版は www.jmac.co.jp/jmaceyes で。
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編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
~経営革新を推進する先人から学ぶ~
「JMAC トップセミナー」は、日本を代表する経営トップの方をお招きし、実際に改革を断行していく苦難や成功 体験をお話しいただく経営トップ向けセミナーです。
3月 6
(火) 2018
15:00 〜 18:30
日 開催
基調講演
代表取締役会長 中本 晃 氏
会 場:ステーションコンファレンス東京 (千代田区丸の内 1‑7‑12 サピアタワー) 定 員:50 名(お申込み順) 対 象:経営トップ層、部門長の方々 参加料:10,800 円(消費税込)※参加者交流費を含む
株式会社 島津製作所
3月 6 日 (火)の 「JMAC トップセミナー」では、株 式会社島津製作所 代表取締役会長 中本 晃 氏をお招き して 「科学技術で社会に貢献する」 (仮題)と題し、ご 講演いただきます。 「経営のヒント」 「改革や革新の視点」など、ご本人か ら直接お聞きできる機会です。ぜひご参加ください。
URL
www.jmac.co.jp/seminar/
お 知 ら せ
JMAC本社オフィスを新JMAビルに移転しました
日本能率協会コンサルティング (JMAC)は、本社オフィスを日本能率協 会ビル (写真)に移転しました。 改装で新しくなった同ビルには、JMA グループ法人が集結し、各法人が 一丸となってお客様にサービスをお届けいたします。 【移転先住所】 〒 105−0011
◀ホ ームペーをスマホ対応にして デザインも刷新しました
東京都港区芝公園 3−1−22 日本能率協会ビル 7F 株式会社日本能率協会コンサルティング 電話:03−4531−4300 (代表) FAX:03−4531−4301
■最寄り駅からのアクセス
東京メトロ日比谷線 神谷町駅 3 番出口徒歩 7 分 都営三田線 御成門駅 A1 出口徒歩 5 分
上のお知らせのとおり、本社オフィスが移転。引っ越しの二、三日前になると社内のあちこちで書類やら備品 やらの「おかたづけ」が始まり、専用エリアに放置された「廃棄」 「不要」の品々を目にすると、いやがおうで も「5S」意識が芽生えてはくるものの、 「迷ったら捨てる」の大原則をまったく実行できずに梱包し、移転先で 荷物を開けてまた迷った自分に「そのうち AI が判断する」と言い聞かせ、すぐさま本誌の制作に没頭……。
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- ページ: 20
- Special Information
JMAC コンサルティ ング総合ガイ ド /企業内研修ガイ ドのご案内
JMAC のコンサルティング・サービス、教育サービスを網羅したガイ ド(下記 4 冊)を無料進呈しております。 ご希望の方は、下記連絡先までにお申し込みください。 □ JMAC コンサルティング総合ガイド(A4 判 85 ページ) □ JMAC 企業内研修ガイド(A4 判 90 ページ) □ JMAC「役員研修」ガイド(A4 判 24 ページ) □ JMAC「新人・若手社員研修」ガイド(A4 判 40 ページ)
日本能率協会コンサルティング 企画営業本部 TEL:03-4531-4317 FAX:03-4531-4318 E-mail:bi_jmac@jmac.co.jp
Business Insights Vol.65 2018 年 1月 発行
編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文 ライター:山野邊 志保
URL:www.jmac.co.jp Mail:info_ jmac@jmac.co.jp
© 2018 JMA Consultants Inc.
〒 105-0011 東京都港区芝公園 3-1-22 日本能率協会ビル7F
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