ビジネスインサイツ62
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時代の変化を捉え︑ 既成概念を突破する
〜マネジメントの原点は﹁次の一手をどう打つか﹂を
株式会社岡村製作所 代表取締役社長
考え続けるところにある〜
中村 雅行
古河電気工業株式会社 メンバーの育成を通じて 設備管理の体制を強化する アステラス製薬株式会社 「経営がわかる技術者」の育成で、 スピーディーな新薬開発を目指す
Special Article
IoT は現場改善に 何をもたらすのか
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毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点についてお話しを伺います。 インタビュアー:JMAC
代表取締役社長 鈴木 亨
〜マネジメントの原点は「次の一手をどう打つか」を考え続けるところにある〜
時代の変化を捉え、 既成概念を突破する
株式会社岡村製作所
自分のやりたいことができる会社 それが岡村製作所だった
鈴木:中村社長は大学の理工学部を卒業後、1973 年に 岡村製作所に入社されましたが、会社を選んだ理由や入社 当時の印象についてお聞かせください。 中村:私は理工学部で経営工学を専攻し、工場運営に関わ る生産計画や運搬工学などを学びました。卒業後はこれか ら伸びる会社、やりたいことができる会社に入りたいと 思っていましたので、この会社は面白そうだと感じた岡村 製作所に「物流の改革をやりたい」との想い から入社し ました。 新入社員のころは毎日物流センターに行って、フォーク リフトでモノを運んだり机を組み立てたりと、自分にでき ることを一生懸命やっていましたね。高度経済成長期で世 の中も会社も活気に溢れていました。創業者の社長は業務 改革が好きで、当時まだ珍しかったオンラインシステムを 1966 年に導入するなど、常に何か新しいことをやってい こうという自由な風土がありました。システムキッチンや 移動間仕切りなど、業界に先駆けて世界からいいものをい ち早く導入し、多角化に向け新規事業にも積極的に取り組 んでいて、それを面白いと感じるような個性的な人が当時
の岡村製作所にはたくさんいましたね。
わずか 27 歳で部長に。経営で 大切なことは、このとき学んだ
鈴木:中村社長は入社 5 年目、27 歳のときに設計施工管 理部長に就任されました。初めて部門を統括することに なって、どのようなことをお感じになり、またそれがその 後のマネジメントに対する考え方にどう影響したのかにつ いてお聞かせください。 中村 : 設計施工管理部では、お客様のところで製品を搬入、 組み立てをする工事の施工・管理をしていました。お客様 のところに部材を持ち込んで製品を組み立てるのですが、 自社工場から部材が入らず、作業が遅れて納期に間に合わ ないということがたびたび起こっていました。そのたびに 私は責任者としてお客様のところへ謝罪に行き、部材の手 配に奔走しました。 このときに学んだのが、 「経営は、少し先を見てプロセ ス全体を考え、 何か手を打っていかないと成長もしないし、 利益も上がらないし、顧客も失う」ということでした。売 上げの予測をして、設備投資により工場の能力をアップさ せない限り、自分がいくらお客様に謝っても解決する話で
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設立:1945 年 10 月 資本金:18,670 百万円(2016 年 3 月 31 日現在) 従業員数:2,927 名(2016 年 3 月 31 日現在) 主な事業内容:スチール家具全般、産業機械その他、商品陳列機 器その他の製造 ・ 販売、 建築業や各種セキュリティ 機器に関わる付帯工事・設計・製造・販売 など
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株式会社岡村製作所は 1945 年(昭和 20 年) 、 「協同の工業・ 岡村製作所」として創業した。オフィス家具・商環境の店舗什 器などの開発 ・ 製造 ・ 販売を一貫して行い、そのシェアは国内トッ プである。 「座り仕事」と「立ち仕事」をひとつの机で可能にす る上下昇降デスク「スイフト」を開発し、話題となったことは記 憶に新しい。2012 年 6 月、社長に就任した中村雅行氏は 27 歳 という若さで部長に抜擢されて以降、既成概念にとらわれない発 想で数々の改革を断行してきた。今回、中村氏に当時の想いや 経営者にとって必要な視点、今後の展望についてお聞きした。
中村 雅行 氏
はなく、せっかくとった注文も全部ダメになってしまう、 と痛感したのです。 この 7 年間の経験は、その後経営企画部長としてシス テム改革を行う際に大いに役立ちました。施工現場には、 川上で起きたミス、たとえば営業の手配、工場の設計、製 品の運搬などのミスがすべて集約されます。川下側から川 上を見てきた経験から、 「全体の仕組みの中で、どこをど う変えれば会社が変わっていくのか」 「ここを成功させる ためには何をやるべきか」といったことがわかるという点 では、現場を知っているか知らないかは大きかったように 思います。 企業はこうやってトライ&エラーを重ねながら仕組みや 理想的なプロセスをつくっていくのだなと実感し、この一 連の経験は今でも社内のシステムや業務のあり方を考える ときに非常に役立っています。 ついてもあわせてお聞かせください。
代表取締役社長
中村:製品開発を担当したときは、製品を開発するという よりは開発の仕方を変えて、新たな市場をつくり出すこと に注力しました。 当社では、イスや机、キャビネットなどの製品ごとに専 門の開発担当者をつけています。今でこそお客様が使う シーンに合わせた製品の提案・提供をビジネスの主軸とし ていますが、当時は担当者ごと個別に開発していたため、 それぞれの製品のデザインや色がバラバラでした。 私が 「お 客様はイスと机を一緒に使うのに、何かおかしくないか? あわせてひとつのものをつくろうよ」と言うと、開発担当 者は「それは難しい」と消極的でした。そこで、 「予算は 私がとってくる。失敗してもいいから、君が企画して、と にかくやってみないか」と言って任せてみました。そうし て開発されたのが、 デザインや色を統一した「F シリーズ」 です。これは、1991 年に岡村製作所初の「総合型オフィ スファニチュア」として発売されました。 そして生産本部長の時代には、利益に直結する生産現場 づくりを目指しました。そのためには、現場にいる一人ひ とりの意識に働きかけることが必要ですから、 「現場の力 を全社の競争力に変える」という標語をつくり、 「現場の みなさんの 1 秒の積み重ねが最終的にその製品の原価低
Masayuki Nakamura
チャレンジの場をつく り任せる 信頼関係で生まれる成果
鈴木:経営企画部でシステム改革を行ったのち、製品開発 担当のオフィス家具部長や生産本部長と、開発や生産の現 場で改革を司るお立場となりました。具体的にはどのよう な改革に取り組まれたのでしょうか。マネジメント方法に
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上下昇降デスク 「Swift (スイフト) 」
姿勢に着目した新しいワークスタイルの提案
え、経営するうえで大切にされていることをお聞かせくだ さい。 中村:社長になる前も、次のポジションを任されるたびに 「自分にできるのか」と自問自答してきましたが、社長に なれと言われたときは一番衝撃的でした。 「わかりました」 とは言いましたが、 「本当に自分に全うできるのだろうか」 と 1 週間悩んだものです。 しかし、 「世の中にはスーパーマンなんか一人もいない のだから、自分のカラーを出すしかない」と思い、割り切 りました。社長になってからは、 「こういうことが起きた、 これはどういう尺度で、どう判断すべきか」と考え続けて いるので、毎日が勉強のようなものです。 経営というのは、会社が今まで積み重ねてきたものを、 うまく効果が出るように業務をつなげたり、仕組みを変え たりすることだと思っています。仕事は、みんながそれぞ れよくしようと思ってやっているわけですから、それらが うまくつながれば成果が出るはずですし、良い方向に行く ようにつなげていくのがマネジメントだと思っています。 そして、社員一人ひとりの意識が変わらなければ会社も 変わっていきませんから、彼らがやりやすくなるように背 中を押してあげることが大切だと思っています。私が部長 のときから「責任は私がとるから、思い切りやれ」と言っ てきたのもこのためです。また、彼らが「こういうことを やってみたい」と言ってきたらよく話を聞いて、それをい いと思ったら同じように背中を押してあげることが大切だ と思っています。
長時間同じ姿勢をとることは身体への負担が大きく、さ まざまな健康リスクが指摘されている。そこでオカムラが 提案するのは、 立ち姿勢を積極的に取り入れる働き方。 立っ たり座ったりを繰り返すことで、健康維持、効率向上など の効果が得られるだけでなく、職場内コミュニケーション の活性化、 「働き方改革」の推進も期待できる。
減に結びつき、会社の競争力が高まる、すなわち利益が増 える」ということを浸透させていきました。 言葉で言うだけではなく、自身も何かすべきだと考えて いた私は、まず当時 2 つあった赤字工場の黒字化に取り 組みました。毎月各工場を回って、課長以上を集めた経営 審議会を行い、現場での改善活動を進めて、数年後にやっ と 2 工場とも黒字にすることができたときは、うれしかっ たですね。 そのうちのひとつの工場では当初、製品 1 台をつくる のに 30 分かかっていました。私が「1 台 10 分以内でつ くれば黒字になるから、それを目指そう」と言うと、みん な最初は半信半疑の様子でしたが、 「精神力だけではでき ないから、設備投資もするし改善活動もやって、とにかく トライしてみよう」と言ってスタートしました。 その後、一人ひとりが工夫を重ねてムダをなくしていっ た結果、今ではそれができるようになりました。5 年かか りましたが、 人の能力は本当にすごいと改めて感じました。 あのとき私は目標を与えただけで、実際にやり遂げてくれ たのは現場の方々です。事業部長や事業所長が信じてつい てきてくれたからこそ実現できたのだと思っています。
変革への挑戦を続け、 新たなステージを目指す
鈴木: 「つなぐ」と「背中を押してあげる」 、とても貴重な お話で、中村社長が今までずっと貫いてこられたポリシー を伺えたような気がします。中村社長は今後、岡村製作所 をどのような会社にしたいとお考えでしょうか。方向性や 目指したい姿などについてお聞かせください。 中村:岡村製作所は 1945 年の創業以来、数々の変革を遂 げてきました。現在は、近未来を洞察して、そのコンセプ トをもとに新製品の開発・提案・販売を行っています。 2015 年 1 月に発売した上下昇降デスク「スイフト」は、
「つなぐ」 「背中を押す」マネジメ ントが会社と人を育てる
鈴木:中村社長は 2012 年に社長に就任されました。入 社以来 40 年間、いろいろな部門や会社の歴史をご覧に なってきた中で、自ら社長になったときのお気持ちや心構
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中村 雅行
1951 年 1973 年 1978 年 1989 年 1994 年 1996 年 2001 年 2007 年 2012 年
Masayuki Nakamura
東京都生まれ 早稲田大学理工学部卒業 岡村製作所入社 設計施工管理部長 オフィス家具部長 経営企画部長 取締役 企画本部長 常務取締役 企画本部長 専務取締役 生産本部長 代表取締役社長 現任
「立ったり座ったりを繰り返すことで、健康状態にも仕事の 集中力にもプラスの効果があらわれる」 という実証データ (岡 村製作所と公益財団法人大原記念労働科学研究所の共同実験 による)をもとに、新しい働き方へのご提案をしたいとの思 いから開発されました。働き方や日常生活が多様化する今、 岡村製作所はこれからも変革への挑戦を続け、常に一歩先を 見据えた製品開発をしていきたいと考えています。 また、社員一人ひとりにとっては、常に新しいことに挑 戦できる会社でありたいと思っています。人間が成長する ためには、人生のある時期に無我夢中で何かを成し遂げよ うと努力し、その苦労する中から何かをつかんでいくこと が必要です。ですから、全社員が情熱を持って打ち込める ものがある、常に新しいことに挑戦できる、そういう会社 でありたいですね。
に変化していることがあります。たとえば、 「5 年前から 今日まで少しずつ変化してきたけれど、5 年前と今とでは こんなに変わってしまった」という場合、 それは何なのか、 それがビジネスや自分の会社、市場の環境などに与える影 響はどのようなものなのかを見極め、何か手を打っていか ないと企業は成長しません。これは非常に重要で、すべて のことにつながります。 もうひとつの「不連続的に進化する」については、よく 走り高跳びにたとえて話すのですが、かつてはベリーロー ルという跳躍法が主流で、記録も少しずつ伸び続けていま した。しかし、背面跳びが登場してからは記録が大幅に塗 り替えられ、走り高跳びは大きく変化しました。このよう に、ずっとベリーロールの延長線上で考えるのではなく、 それまでとはまったく違うことをしてみる、どこかでガラ リと不連続的に変えていくということが大切です。 人も会社も既成概念を突破しない限り、いつまで経って も変わりません。今までにないものをつくり出すために、 何か違うことにチャレンジしてみる、石をポンと投げて波 紋を広げる、そういうことをやり続けるのが経営者です。 同時に、 「チャレンジしてダメなら次を考えよう」という 柔軟性もときには必要です。 新しいことへのチャレンジには、困難がつきものです。 しかし、それをやり遂げたときには、大きな満足感と成果 が残っているはずです。次世代のリーダーには、時代の変 化を捉え、既成概念にとらわれないチャレンジを続けなが ら、思い切った舵取りをしてほしいと思います。
時代の変化を捉えて 不連続的に進化する
鈴木:最後に、中村社長から次世代を担う経営幹部の方々 へのメッセージをお願いします。 中村:会社を経営するうえで大切なのは、 「変化を捉える」 「不連続的に進化する」ことです。 まず、 「変化を捉える」とは、時代の大きな変化を捉え るという意味です。世の中で毎日少しずつ起きている変化 は、はっきりとは見えませんが、ある期間で捉えると急激
プさせていきたいという想いが、 言葉の端々に感じられました。 「責任は私がとるから、 思い切りやれ」という言葉のとおり、常にリーダーシップを持ち、岡村製作所のさま ざまな部門を牽引してきた姿が目に浮かんでくるひと時でした。
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ンタビューを通して中村社長は現場との一体感を重視していると思いまし た。 現場の状況を察知し、 そこで働く方々と一体となって現場をステップアッ
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〜経験ゼロから「頼れるチーム」へと成長した若者たちの挑戦〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
メンバーの育成を通じて 設備管理の体制を強化する
古河電気工業株式会社
1884 年創業の古河電気工業(以下、古河電工)は、電線・非鉄金 属の生産に始まり、今や情報通信、エレクトロニクス、新素材、自 動車部品分野にもビジネスを拡大。優れた開発力によるイノベーショ ンで数々の世界初を実現し、全世界に多種多様な製品群を供給して いる。その供給を支えている設備の安定稼動を維持するには、設備 管理面での人づくり・仕組みづくりが欠かせない。工場での「設備 管理体制の強化」をどう展開してきたのか。人づくりを中心に活動 の軌跡を語ってもらった。
AT・機能樹脂事業部門 AT 製造部 部長
京道 英治 氏
Hideharu Kyodo
三重県亀山市に東京ドーム 10 個分もの広大な敷地を有 する古河電工・三重事業所。1971 年に開設され、現在は 光通信工場、伸銅工場、銅線工場、AT 三重工場、その他 関連会社の工場が稼動している。それらの工場は光ファイ バーケーブル、電線ケーブルの導体となる銅線、自動車の 電装品、半導体用テープなど、数多くの製品群を全世界に 供給しており、 同社の中核工場として位置づけられている。 今回おじゃましたのは、半導体用テープを製造している AT 製造部の AT 三重工場 (AT は Advanced Tape の略) 。 2007 年に稼動を開始した、同事業所内でも新しい工場で ある。同工場で製造している半導体用テープは、パソコン やスマートフォン、デジタル家電などの半導体部品の製造 工程(半導体ウエハ製造時に使われる高機能材料)で使わ
れており、その優れた特性により製造コスト削減、品質向 上に貢献している。
新工場の保全は全員シロウト 「早期戦力化」が急務
AT 三重工場には建設時から「短期間での立上げ」 「環 境変化(需要変動)にも強い体質」という経営課題があげ られており、設備管理の面からは設備の安定化による生産 性向上とコスト削減が必須となったのである。 ところが、 「稼動当初は設備管理人員が確保できず、1 年ほど経ってから設備技術グループが発足し、そこのマネ ジャーとして私が就任しました。 スタッフの 1 名を除いて、
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集まったメンバー全員が保全未経験。本部からの支援を受 けつつも、この布陣ですぐに結果を出さなければならない というプレッシャーの中、何とか踏ん張っていたのです」 (京道氏)という状況が続いていた。しかも保全効果に関 する評価項目が古河電工全社の目標値に達しない数値で推 移していた。 「そのころは会社のお荷物部隊だったかも」といささか 自嘲気味に語る京道氏だが、 「正直言って数値そのものは あまり気にしていませんでした。保全のメンバーは本当に シロウトでしたから、結果などすぐに出るわけがないので す。まずは、テスターやスパナの使い方、故障したときの 動作・行動、安全の基本などを徹底的に叩き込むことにし たのです」という責任者としてのマインドや行動に、メン バーを「精鋭部隊」へと成長させたいという並々ならぬ決 意を伺い知ることができる。 ちょうどそのころ、栃木県にある日光事業所では JMAC の支援による設備管理体制の強化活動を実施しており、本 社からは日光事業所が一段落したら次は三重事業所で、と 「誘い」が来ていた。メンバーが成長する絶好の機会と見 た京道氏が真っ先に手をあげたのは言うまでもない。
断の有効性を語った。 「京道さんもすでに認識していたとおり、設備が新しい 割に故障が多い状態でしたが、保全担当のメンバーも経験 が浅いとのことで 『早期戦力化』 が急務であるとのオーダー がありました。そこで京道さんと相談しながら、テーマを 設定していきました。結果、保全でもっとも大事な仕事そ のものになりました」 (勝浦・村田) こうして活動テーマとして、①保全教育訓練体系の整 備、②予備品管理、③保全情報管理体系の仕組み整備、④ 予防保全基準の整備、⑤故障解析——の5つが設定され、 2010 年 7 月から設備管理体制の強化活動が本格的にス タートした。
コンサルタントって何? から 自分で考えて結果を出すまでに
あるべき姿の実現に向けたテーマが選定されたとはい え、保全経験の浅いメンバーたちの最初の反応は「京道さ んが何か仕掛けている……」と他人事のような雰囲気だっ たという。 「そもそも、コンサルタントって何? という 感じでしたから。当然、何をするのかもわからない。どう やらコンサルタントという先生がいて、ここに来るようだ が、何をしに来るんだろう? と(笑) 」 (京道氏) 実際、 当時を振り返るメンバーは口々に「話を聞いても、 まったく理解できなかった。こちらの話も自分らのレベル では伝えるのは難しかったし、パソコンもうまく使えず、 活動報告など、どうしようもないレベルだった」と語る。 このような状態であっても、勝浦・村田がとくに感心し たのは 「とにかく全員が一生懸命だった」 こと。5 つのテー マに全員で取り組み、ほぼ月に 1 度(勝浦・村田で隔月) の「指導会」で、一人ひとりが各テーマの進捗を報告・発 表することになっていた。そのための準備は成長過程に必 須の「学習」であるとはいえ、経験の浅いメンバーにとっ ては、いくぶん過酷なものだったかもしれない。このよう な中でも、活動が進むにつれてメンバーたちは「何をすれ ばいいのか」という受け身から脱して、 「自分で考えて何 かをしなければ始まらない」ことに気づいていった。 こうしたメンバーの気づきを、勝浦・村田は「前向きに 準備していることがすごく伝わった。1 年ほどで『声の大 きさ』が変わった。自分たちのやっていることに自信がつ いてきた証拠」と評していた。メンバーには十分な装備も
設備管理の現状を把握して あるべき姿の活動テーマを設定
活動支援のため JMAC の TPM コンサルタント ・ 勝浦弘、 村田晃章が京道氏を訪れたのは 2010 年の 5 月。日光事業 所も支援してきた勝浦・村田の両名は、大手企業での保全 の実務、管理経験が豊富で、これまでも数多くの工場で設 備管理のコンサルティングを実施してきたプロ中のプロ。 両名による現場・現物の現状観察、各種帳票類のデータ分 析、関係者へのヒアリングなどの実態調査が行われ、結果 は JMAC 独自の評価指標としてまとめられた。 結果報告を受けた京道氏は、予想はしていたもののあら ためて客観的なデータを見せられると「ショックでした。 どれも厳しい結果で、ここが弱いから強化してください とも言いえないレベル。優先順を JMAC と一緒に考えて、 テーマを設定することにしました」と振り返えりつつ、 「経 営としては中長期の目標があって、工場としても将来像を 踏まえた設備管理のあるべき姿があるわけです。でも実際 の実力はこうで、課題はこうだと、あるべき姿とのギャッ プを知るのは責任者として大事なこと」と専門家による診
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▶▶▶経験ゼロからのスタートでも今や頼れる保全チームに◀◀◀
“ 京道塾 ” で鍛えられたメンバーの方々から活動の感想や今後の抱負などを聞いた。 鈴木 志京 氏(AT 製造部・設備技術課保全班) 学校を出たばかりで何もわからない状態でしたが、 「考 えることで成長する」を実感できたので、これからもどん どん考えて前に進んでいきたいです。今はメンバーの中で いちばん年下ですが、 今後新人が入ったときに頼れる先輩、 指導できる人間になれるようガンバっている最中です。 水野 祐希 氏(同・設備技術課保全班) 活動でとくに印象に残っているのは、結果をまとめるときに、 みんなで何度も話し合ったことです。指導を受けて、トライ & エラーを繰り返してだんだんと良くなっていくのが楽しかった です。今後もメンバー同士のコミュニケーションを密にして活 動を深めていき、自分自身を高めていきます。
坂 洋輔 氏(同・設備技術課保全班) 最初は活動を甘くみていました。 いざ始まるとまったく理解できなく て、すごくつらかったです。理解す るために、自宅でも夜も寝ないで必 死に勉強しました。今では自分が やってきたことは間違っていなかっ たと堂々と言えます。活動で得た知 識を仕事に活かし、一段上に成長で きるよう努力していきます。
水野 智彦 氏 (同 ・ 設備技術課保全班) 保全未経験でこの職場に入ったの で、JMAC の教育がなかったら、こ こまで成長できなかったと思いま す。レベルが低いままだったかもし れません。身につけたことすべてを 完璧にこなせるまでには至っていま せんが、AT 平塚工場の保全マンや 全社の保全マンたちに教えることが できるくらいになりたいですね。
ないままに険しい山に登るような不安があったが、お互い に励ましあって少しずつでも確実に前に進んでいたのだ。 月 1 回のチェックポイント(指導会)まで遭難せずにた どり着けたのは、 「やはり京道さんの役割が大きい。仕事 にはたいへん厳しいが、それと同じく部下のフォローや面 倒見は徹底している」 (勝浦・村田)からだ。 フォローの工夫について京道氏は「実はプロセスよりも 定期的に結果を見てフォローしていました。結果が出てい ないときは、あまり細かく言わないで、ここはこう考えた ら? というやり方ですね。自分も中に入ってしまうと、 口出ししたり、これはこうだと答えを言ったりしてしまい がちなので、あえて距離を置くことにしたのです」とその 秘訣を語る。一見回り道のように思えても、メンバーが自 分で考えて結果を出すこと、それが「早期戦力化」につな がることを京道氏は信じていたし、メンバーもその期待に 十分に応えたのである。
技能レベルには、 「経験」というファクターが大きく影響 するからである。 「しかし経験だけでは一生気がつかない こともある」と語る京道氏がとくに期待したのは「故障解 析」である。 「経験していけば、いずれはわかるときが来 るかもしれませんが、 故障解析をやったかやらないかでは、 全然違うはずです。解析をやることによって、1 年かかる ものが 1 ヵ月でわかるという部分もあるのです」 (京道氏) 故障解析では、故障が発生するメカニズムを原理・原則 から解析することで、真の原因をつかんでいく。それをも とに、故障が発生しない条件を設定すること、それを維持 していくことが求められる。このように「故障から学ぶ」 ことで、経験だけでは習得しにくい解析力・知識力・対応 力が向上していくのである。 「たとえば 1 ヵ月に 1 回の故障の修理が当たり前とイン プットされると、毎月の作業に固定化してしまいます。し かし、故障解析で真因をつきとめ、フィードバックすれば 半年もつこともあるのです。経験だけではなかなか気がつ かないものですが、きちんと故障解析をすれば現状を見直 して、合理的な対策も打てます。そういう意味で早期戦力 化に大きく寄与していると思います」 (京道氏) 故障解析を学習・実践するに当たって、同工場では故障 した現物を「教材」として活用している。保全の使命とし ては「故障させない」ことであるが、故障したらその現物
「故障に学ぶ」を真に実践 自ら教材をつくり知識を共有化
早期戦力化とはいえ、非定常の作業が多く占める保全と いう業務において真に戦力となるレベルに達するには、一 朝一夕ではむずかしいことを京道氏も十分認識していた。
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▲故障した現物を教材化して展示。写真は、ヒーターの断線見本 (左) 、軸受が破損したモーター。もちろん、しっかりと故障解析 もされている
は最高の教材になるのである。 故障解析を支援した勝浦は「なぜ壊れたのかをきちんと 解析して、その結果と現物を自分たちで展示して、共有化 している」としきりに感心、 「故障に学ぶことの意義をしっ かり理解している証拠」と高く評価している。 「もちろん、一発ですぐに正解はなかなかむずかしいで す。よかれと思ってやったことが、うまくいかないこと もあります。しかし、あるべき姿へ向けた PDCA を回す ことはできています。収穫としては、 『本当に正しいのか』 を確認できるようになったことです」 (京道氏)
▲自慢のからくり改善の展示を説明してくれたのは坂 信也 氏 (AT 製造部設備技術課) 。 「自分たちのアイデアを具現化していく楽し さを感じるようになったから、これからも良い改善がどんどん生 まれそう」と終始笑顔だった
造はお客様」ということ。メンバーには「製造の言うこと を聞け・断るな・故障対応や改善の納期を守れ」を徹底さ せた。こうした厳しい指導も、かつて製造課長も兼務して いたからだ。今では「保全がやるなら製造でも一緒に考え よう」という事例がどんどん出るようになった。そしてメ ンバーはその成果を外部の展示会や発表会などで積極的に 発表するようになり、 社内でも一目置かれるようになった。 「われわれの取組みや成果を自工場だけにとどまらず、 他の工場、他の事業所、そして全社へと共有していくこと が今後の課題。設備管理とはリスクをどう評価してアク ションをとるかということ。リスクとの関わりで情報発信 していけば、経営も判断しやすい。これからは働き方改革 も視野に入れて 『One Furukawa』 のキーワードのもとで、 全社的な展開へと発展させていきたい」との想いを語る京 道氏の夢は、 一体感の輪を全社レベルに広げていくことだ。 今後ゆるぎない成長をするであろうメンバーと京道氏の 強い想いは、 「One Furukawa」への大きな波となり、さ らに「一段上」へと成長するに違いない。
不可欠です が︑再発防止には 障を解析すること 原理・原則から故
メンバーを見守る眼差しの先にある 「One Furukawa」への想い
「個人の成長もさることながら、要は保全チームとして どれだけやれるようになったかです。まず事後保全をしっ かりやって、再発防止、そして予防保全へと取り組むこと ができました。さらに 2 年くらい前から製造と協力して 設備改善 (からくり改善など) にも取り組んでいます」 (京 道氏)と、そのねらいは「製造と保全の一体感・信頼関係 の構築」にもある。 そのために京道氏がメンバーに強く訴えていたのは「製 担 当 コ ンサルタントからの一言
設備管理の仕組みづくりは人材育成そのもの
今回の 5 つの活動テーマは設備管理にとって不可欠なものですが、業務経験 がないと理解するのが難しかったかもしれません。しかし、メンバーのみな さんが必死に勉強して「故障から学ぶ」ことで解析力、対応力を飛躍的に伸
ばしたことには敬服します。とくに実際に故障した現物を教材にして共有化 していることは素晴らしい。おそらく 1 年ほどで、5 つのテーマそれぞれが 密接に関係し合っていることに気づいていただいたはずです。京道さんはじ
TPM コンサルタント
村田 晃章
めスタッフの方々のバイタリティと熱意があってこそ、メンバーが積極的に
なり自身を成長させたといえます。 活動そのものが人材育成になった好例です。 TPM コンサルタント
勝浦 弘
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
「経営がわかる技術者」の育成で、 スピーディーな新薬開発を目指す
〜創薬パラダイムシフトをチャンスに変える人材育成術〜
創薬のパラダイムシフト到来 バイオで革新的な新薬開発を目指す
アステラス製薬(以下、アステラス)は、2005 年に山 之内製薬(1923 年創業)と藤沢薬品工業(1894 年創業) の合併により誕生した。 「世界にまだないくすりのために」 ――この言葉を胸に、アステラスは一貫してアンメットメ ディカルニーズ(いまだ治療満足度が低い疾患領域)に対 する新薬開発で世界の人々の健康に貢献することにこだ わってきた。一般用医薬品や後発医薬品は手掛けず、新 薬ビジネスに集中し、医療用医薬品の売上は国内第 2 位、 世界 50 ヵ国以上で自社販売している日本発のグローバル 企業である。 合併後も着実に業績を伸ばしているアステラスだが、 「創 薬トレンドが低分子医薬品主体のマスプロ医薬品からバイ オ医薬品主体の個別化医療向け医薬品に大きくシフトした ことに伴い、アステラスの事業環境も大きく変わった」と 話すのは松田充功氏 (上席執行役員 技術本部長) だ。 「低 分子医薬品は各社の研究開発が進んだ結果、現在は未知の 部分がなくなりつつあります。低分子医薬品では改良を重 ね、グローバル化を進めてビジネスとして成長させてきま したが、さらに革新的な新薬開発を目指すため、バイオ医 薬品など新しいモダリティ(モダリティ:低分子化合物、 天然物、抗体などの基盤技術)へと創薬の方向性を大きく
シフトしました」と話す。バイオ医薬品は、抗がん剤や自 己免疫疾患の治療薬などとして利用され、アンメットメ ディカルニーズに対する新薬開発も期待できるため、世界 的なトレンドとなっている。 アステラスは今、バイオ医薬品をはじめとするニューモ ダリティ領域を軸に、新たなビジネスの確立に向けた挑戦 を続けている。
今だからこそ技術者に必要な 「もうひとつの力」
松田氏が統括する技術本部は、アステラスが高品質な新 製品をスピーディーに開発・販売・供給していくための要 の役割(原薬・製剤の技術開発、治験薬・製品の生産・調 達、製商品の供給管理)を担っているが、創薬の方向性の シフトに伴い、大きな環境変化を迎えた。 2013 年に行われた「研究体制の改革」では、新薬創出 力強化のため、“ 創薬の入口 ”(創薬標的を探し出し、ア プローチする窓口)が多様化された。すると、これまで経 験したことのないニューモダリティが技術本部に次々と舞 い込むようになり、それを新しいビジネスにつなげていく 必要性に迫られた。 そのような環境の中で、松田氏は「新たな戦略企画を進 めようと考えたとき、技術本部にはそれができる人が少な いことに気づいた」という。 「私が若手だったころは、と
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アステラス製薬株式会社
近年、創薬のトレンドは低分子医薬品からバイオ医薬品へと えている。こうした経営環境の中、CMC 部門はグローバルで 大きく移行し、医薬品産業はかつてないパラダイムシフトを迎 の要員や設備投資など、中長期にわたる開発・生産戦略を立 案し実行していく必要がある。アステラス製薬の医薬品の開 発から生産を担う部門である技術本部では、ものづくりと経
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営のエッセンスをあわせ持つ技術経営の感性を持った高度な などを技術本部長、人材開発担当者、受講生にお聞きした。
人財の育成を目的に MOT 実践研修を導入。その意義、効果
上席執行役員 技術本部長
松田 充功
Mitsunori Matsuda
氏
にかく専門家になれ、と言われてきました。それぞれの 専門家が会社に揃っていれば、仕組みにのせて新薬は出 せるという発想だったのでしょう。それが何 10 年も続い た結果、技術本部は専門家集団となりました。よく考えれ ば、専門性ばかりを要求され続けてきているような風土の 中で、戦略企画や経営を考えることができる人が自然に出 てくる訳がありません。これからの技術者には経営の視点 を持ってほしいと感じたことから、MOT(Management of Technology)実践研修の実施を決めました」と話す。 こうしてアステラス技術本部は研修をスタートさせた。
年度には第 3 期がスタートした。 これまでに MOT 実践研修の実施を担ってきた戸田篤志 氏(技術本部 技術企画部 人事統括グループ課長代理)は、 人材開発において大切なのは「視野を広げることのできる 機会をどれだけ提供できるか」 であるという。 そして 「MOT 実践研修の目的は、他の研究所や部門外の人と話すことで 外へと視野を広げることにより、自分や自部署、自社を客 観的に見ることができるようになることです。今、どうい う経営判断をしていくべきなのかを技術を軸足に感じてほ しいと思います」と語る。 松田氏は「ビジネスを成功させるためには、ビジネスと 現場感覚の両方がわかる人が中心になっている会社が望ま しいと考えています。MOT 実践研修では、技術本部の中 でビジネスがわかる人たちを育成し、現場感覚に根差した 経営を担っていけるような人財を輩出したい」と、技術本 部メンバーの活躍に期待を寄せる。
戸田 篤志 氏 (技術本部 技術企画部 人事統括グループ課長 代理)
MOT 実践研修で 技術者に経営の視点を
MOT 実践研修は、技術を核にした事業化実践研修だ。 自らが技術・事業化展開を推進する牽引役(ゼロから立ち 上げる人)になることを目指し、実践テーマ・演習を通じ て技術者でありながらもビジネスの「目利き力」と事業企 画力、プロジェクト実践力をつけ、商品化、事業化の方法 を体得する。 技術本部ではスタッフ部門のみならず研究職、 分析・生産技術職も含め、今よりも高い視野・視座を持っ て業務に取り組み、これからの事業化展開までを見据えら れる人財の候補者 20 名程度を選抜し、 年間通して約 12 日、 合宿研修も交えながら行っている。この取組みは継続的に 行われており、2014 年度には第 2 期が実施され、2016
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マインドセットを外せ 新ビジネスはスピード勝負だ
“ 創薬の入口 ” を多様化してからこれまでの経験則では 対応しきれない状況が発生し、その影響が川下の技術部門 にも出始めた。これについて松田氏は、 「低分子で磨き上 げられた仕組みや成功体験に基づくマインドセットが、新 しい挑戦に対してはブレーキになっている」 と感じている。 新ビジネスの立ち上げにおいては、いかに早く新しいも のをつくるかが勝負だ。そのため、松田氏は技術本部のメ ンバーに「新しいことにチャレンジするためには、まず発 想を変えろ、むしろ何を止めるかを考えろ」という話をよ くするという。 「今の最大限効率化された仕組みの中では 余裕がないため、発想を大きく変えない限りキャパシティ は出てきません。ですから無駄をなくし、外に出せるもの は外部委託して、まずはやることを減らしなさい、と言っ ています」と述べる。 今後について松田氏は「必要だと決めた技術に関しては 組織横断的なタスクフォースチームをつくり、必要性が明 確になれば、新たな技術プラットフォームを構築していき ます。このチームのメンバーに対しては既存の仕組みから くる制約を外してあげて、責任はこちらが負うからリスク を恐れず挑戦しなさい、スピード勝負だ、球を打たなけれ ばホームランも出ない、と積極果敢に挑戦できる場を用意 したいと思っています。また、メンバーをどんどん入れ替 えることにより、 本部全体に波及させていきたい」と語る。
強みは「結合力」 ニューモダリティでチャンスをつかむ
そして今、技術本部には「外部機関で対応できないこと を、技術本部でなんとかしてほしい。早急にやってもらえ なければ、本当に前へ進めない」という差し迫った依頼が 増えてきている。 これについて松田氏は、 「MOT 実践研修を始めたころ はこのウェーブへの認識が薄かったのですが、あのときに 研修を始めてよかったと思っています。研修を受けた人は この変化に気づきやすいと思いますし、先を考えたときに 『もっとフレキシブルにならなければだめだろう』と心の 底から納得しやすいと思います」と述べ、 「定型的に手堅 くやってきた低分子と違い、ニューモダリティには新たな 発想が必要です。未知の技術だからと臆することなく、こ れを大きなチャンスと捉えてどんどん挑戦していってほし いですね」と技術本部メンバーへの期待を語る。 さらに、 「技術本部だからこそできることがある」と松 田氏は続ける。 「技術本部には、 『統合力』という強みがあ ります。安全かつ安定的に供給できる新薬は、膨大な要素 を全部統合してはじめてでき上がります。これは低分子医 薬品、バイオ医薬品ともに本質的には変わりません。技術 本部は全社の中でもとくに、製薬のライフサイクルすべて のフェーズですべての機能と付き合っている部門ですか ら、全体が見えやすく、統合力を発揮しやすい。その強み を活かして、戦略企画や経営への目線を持ち、事業環境変 化にスピーディーに対応できる人財 を多く育成したいと思います」と今 後の展望を語った。
MOT 実践研修で何を得たか?—受講者の声①
「周りを巻き込む力」で組織を牽引する
研修では、自分にスピード感が足りなかったことに気付き、もっと外部環境 を知り、積極的な提案をしていかなくてはいけないと痛感しました。 こうした「危機感」を持つようになってからは、部署の目標や本部直轄のプ ロジェクトの意図を今まで以上に理解できるよ うになりました。また、自部門のあるべき姿を より明確にイメージできるようになりました。 課長から「経営職的な視点を持ってくれている ね」と言っていただけたのも、研修の成果だと 感じています。 今後は、 「周りを巻き込む力」を身につけ、 「こ
種岡 剛太 氏 (ATEC 高萩技術センター 品質管理部商用品担当主任)
チャレンジはきっと 実を結ぶ
技術本部メンバーに寄せる期待に ついて、技術本部 技術企画部 人事統 括グループ課長の小林幹央氏は「ア ステラスが今後も事業を継続し、患 者さんに貢献していくためには技術 の視点を持つ人も経営にいないとい けないはずです。コーポレートで人 材開発できればいいのですが、専門
のようにやっていくべきだ」と一歩先の提案を し、それをメンバーに浸透できるようになりた いと思っています。
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分野に特化している現状では難しさ もあり、各専門部でその一翼を担う 必要があると考えています。みなさ んには技術本部の一員としてのプラ イドをしっかりと持っていただきた い」と語る。 戸田氏は「外を知ることはとても 大切だと考えます。この先何が起こ るかわからないビジネス環境におい て、外で起きていることを感じ取る 感性を持っている人こそが、何かの ビジネスチャンスや組織変革をする ときのきっかけになれるのではない かと思っています。技術本部のみな さんには、そういった感性を持って いただけるようなプログラムを提供していきたいと思いま す」と話す。 最後に松田氏はこう語った。 「みなさんには『何のため にこの会社にいて、何のために仕事をしているのか』を、 もう一度自分自身にしっかりと問い直してほしい。上司か ら言われた作業を単にこなすだけで、本当に患者さんに価 値を提供できるでしょうか。バリューチェーンと呼ばれる ように、個々の役割がきちんとつながって初めて価値が生 まれます。最終目的が何かを経営的な視点で一人ひとりが 常に考えながら行動しなければ、真に強い組織力は生まれ ません。ニューモダリティに対しても、世の中にないもの を、誰でもない自分がつくり上げるんだ、というオーナー シップマインドを持って、果敢にチャレンジしていってほ しいですね」 「世界にまだないくすりのために」――アステラス製薬 は、革新的な新薬開発へのあくなき挑戦を今日も続けてい る。技術経営の感性を持つ技術者たちの新たなチャレンジ は、近い将来、きっと大きな実を結ぶに違いない。
小林 幹央 氏 (技術本部 技術企画部 人事統括グループ課長)
MOT 実践研修で何を得たか?—受講者の声②
明確な「ビジョン」が未来を変える
「私は危機感を持っている。技術本部の未来を 一緒に考えてほしい」という松田本部長の言葉が、 心に “ ガツン ” と響きました。研修では、 「2 つ上 の視座でものを考える」ことを叩き込まれ、今、 それが非常に生きています。常に先を見据えて、 今やることを考えるようになり、 部下から「ビジョ ンを示してくれるので仕事がしやすい」と言って もらえたときに、研修を受けた甲斐があったと感 じました。 今後は、視野をもっと広げて、 「どうしたら本質的に変われるのか」を極める 力を身に付け、自部門や技術本部全体、そしてアステラス全体を変える提案を できるようになりたいと思っています。
上田 さとみ 氏 (技術本部 物性研究所 分析 第4研究室 主管研究員)
考えよう
徹底した議論で 変化と不変を
変化常態!
担 当 コ ンサルタントからの一言
シニア・コンサルタント
優秀な技術者を企業変革のリーダーに変える
医薬品産業は社会面、 技術面ともに大きなパラダイムシフトのまっただ中です。 “ 変革し続けること ” が生き残りのキーワードと言えるでしょう。MOT 実践研 修では通期約 12 日間にわたり、他部署の受講生や普段は話を聞くだけだった 本部長と JMAC コンサルタントとの徹底した議論が行われます。合わせて研 修と研修との間の自主トレで外部や経営へと視野が広がり、“ 変革し続けるこ
佐藤 兼一
と ” の意味の気づきと納得が醸成されていきます。変化常態の環境の中、技術 者が経営視点を持ち、変化を見据え、自らの技術の本質を問い直すとき、企業 の変革をリードできる人材に変わっていくと考えます。
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Special Article ——————————————————————————————————— 特別寄稿
IoT は現場改善に 何をもたらすのか
~有効活用のカギは「人の知恵」~
松本賢治 kenji matsumoto
JMAC IT 経営推進室 室長 シニア・コンサルタント
IoT(Internet of Things)でものづくりは どのように変わっていくのだろうか……。
IoT で何ができるのか
IoT(Internet of Things)が身近になりつつある。も のがインターネットにつながることで、今までできな かったことができるようになる。もちろん、ものが直接 インターネットにつながるわけではない。ものにバー コードなどの識別タグや、状況を感知するセンサー、発 信機などを取り付け、インターネットを通してものに関 する情報が伝わるのである。すなわち、ものの状態を認 識したり、対応すべき動作を遠隔操作したり、必要とな る処理を自動的に行うことができるようになる。 たとえば、 ・屋根に取り付けられた照度センサーを通じて、周辺の 明るさの情報がインターネットにつながり、窓の電動 ブラインドが自動的に動作する ・玄関ドアの開閉動作や現在の状態が、登録された家主 のスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイ スに伝わり、遠隔でドアの開閉確認や施錠が行える ・会社のエントランスや部屋の入り口にあるセンサーが 社員証に入っている発信機からの信号を受信し、出退 勤の管理や各部屋への出入りの記録管理を行う ・会議室に入るとその打合わせで必要な資料が参加者の タブレットや PC で自動的に見ることができる などである。 これらは次世代の快適性や利便性を目指す、スマート ハウスやスマートオフィスと呼ばれる IoT 技術の活用 例である。 また、ものからの情報はインターネットを通じて大量 にデータベースに蓄積され(これがビッグデータと呼ば
れるものである) 、それらを分析することによって、今 まで認識されていなかったことがわかるようになる。
ものづくりで IoT はどう活用されるのか
ものづくりの世界では、IoT はどのように活用されよ うとしているのだろうか。そのねらいを大別すると、① 課題解決、②最適化、③価値創造——の 3 つの領域が 考えられる(図) 。 ①「課題解決」領域 工場の設備や人やワーク(材料・部品・製品)がイン ターネットにつながることで、それぞれがいつの時点で どんな動きをしていたのか、どんな状態だったのかがわ かるようになる。 現場で改善を行う際には、今までは「現状の状態を知 るため」 「ロスを見つけて改善するため」といった目的 を果たすために、必要に応じてデータを収集していた。 ものの状態が情報化される IoT を活用すれば、データ 収集が高速化、広域化、常時化、一元化されることにな る。これにより、いつでもどこでも誰でも必要なデータ を見たり、その分析を行ったりすることができるように なる。 また、過去のデータや類似の設備や作業のデータを大 量に持っているため、現状の状態やその変化を読み取っ たデータと比較分析することで異常発生を検知するなど の予知・予防も可能となる。 現場の問題解決への取組み方が、今までの「何か問題 が発生してからデータの分析を行う」 改善から 「常にデー タが取られていてその変化の兆しを読み取る」改善に変
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わるといっても過言ではない。 ②「最適化」領域 工 場 に あ る す べ て の 設 備 や 作 業 者、 ワーク、図面や品質情報、設備能力、工 程フローなどの基準類、生産計画や調達 計画などの計画類が、すべてデジタル 情報となって一元管理されるようにな る。生産状況だけでなく、設備のトラブ ルや部品の不良、工程の生産進捗の遅れ といった状況を瞬時に把握し、品質・納 期・コストが最適となる修正計画を計算 する。これにより作業者に指示を与えた り、設備には変更した計画をもとに加工 させることで、工場全体の最適化を図れる。 このような最適化を自社の工場だけに留まらず、サプ ライチェーン全体に適用されるのもそう遠くない。これ をドイツ国内の産業界全体で行おうとしているのが「イ ンダストリー 4.0」と呼ばれているものである。 ③「価値創造」領域 販売した製品がインターネットにつながれば、自社の 製品をユーザーがどのように使用しているかを知ること ができる。 これにより、 ・故障対応の迅速化 ・適切な保守サービス提供 ・次回買い替え時の適切なフォローアップ ・次期モデル開発への反映 などが可能になる。 製造業がものをつくるだけの機能だけでなく、自社製 品の提供についてマーケティング機能を強化すること で、顧客サービスをレベルアップすることができる。ビ ジネスモデルが変わり、事業の付加価値を高めることが 可能となる。 コマツが行っている建設機械の情報を遠隔で確認でき る「KOMTRAX」というシステムは、まさにこの考え 方である。機械の位置情報や稼動状況、モニターに表示 される注意警告情報などをインターネットを通してお客 様自身やコマツ販売代理店で確認することで、より良い 製品の使い方を追求できるようになる。 米国の GE(General Electric)社を中心とした企業
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ものづくりで IoT がねらう領域
が連合体となって進めているインダストリアル・イン ターネットと呼ばれる活動では、各社の製品の運転状況 などに関する情報を一元化し、各社がそれを有効活用す ることで、さらなる効率化と価値向上を目指そうとして いる。 このように人やものがインターネットにつながること で、今までにないサービスや新たな事業価値を創出でき るようになる。 IoT 活用による価値創造は、企業の製品やサービスだ けではない。各種公共機関、教育機関、医療機関、交通 機関、行政機関のすべての情報がインターネットにつな がることで、病気治療・健康管理、犯罪防止・事件解決、 不正防止、安全確保といった多彩な領域で管理精度アッ プ、サービスレベルアップが図られ、新たな社会価値の 創造をもたらすのである。
ものづくりの現場で活用される IoT
本稿では生産現場における IoT 活用という観点から、 先の 「課題解決」 領域での具体例を示しながら解説する。 JMAC と、同じ日本能率協会グループのジェー ・ エム ・ エー ・ システム(JMAS)が共同で行った開発・実証実 験の事例である(☞次頁の囲み) 。 設備点検の例は、今現在の業務の効率化や付加価値 アップをねらったものである。一方、フォークリフトの 例は、今まで見えなかった現状の可視化を行い、不可能 だった分析を可能にしたものである。 IoT が果たす基本的な役割は、
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①ものの状態を検知する ②検知した情報を伝達、通知する ③検知した情報と関連する情報を照会する ④検知した情報を蓄積する ⑤蓄積された情報を分析する といったものである。この機能を組み合わせることで、 どのような現場改善を実施できるかが決まる。 たとえば、事例の設備点検は①③、フォークリフトは ①②④⑤を組み合わせた仕組みとなっている。
IoT を真に有効な現場改善ツールにするには
現場改善の基本は「現状の姿を見える化することで、 問題を明確にし、 適切な改善、 対策を行うこと」である。 とくに「現状の姿を見える化」できるかどうかが大きな ポイントとなる。 IoT を活用すれば、 「現状の姿」は、より高速に、よ り広範囲に数値データとして「見える化」できる。状態 が情報化すれば、情報を好きな ように加工することも高速でで きる。大量のデータから多種多 様な情報を自動的につくり出す ことが可能となる。今までのよ うに、人がデータを収集し、目 的に合わせて都度加工して必 要とされる情報を作成するのと は、データ分析の深さ・速さと いう点で圧倒的に勝っている。 反面、自動的に大量のデータ を採ってはいるものの、それが 活用されず、ただデータとして だけ蓄積され続けるという事態 になる可能性も大いにある。機 能的に何でもできるということ は、役に立つということに必ず しもならない。 実際にフォークリフトの分析 を行ったときも、どのフォーク リフトが何時何分何秒にどの ビーコン発信機に反応したかと いうデータを大量に収集するこ とができた。しかし、それだけ では、フォークリフトがいつど こをどう動いたかというフォー クリフトの軌跡を見ることはで きない。ましてや、どこのエリ アでどれくらいの時間で積み下 ろしをしているのかも、はっき りとはわからない。 収集されたデータをどのよう に加工して役立つ情報にするか
【事例 1:設備点検業務の効率化】
ある施設では設備点検に関して、下記 のような課題を抱えていた。 ・点検記録は紙に記入し、事務所に戻っ て点検結果をコンピューター入力 ・月次報告、年度報告は都度、別途フォー マットに入力して作成 ・異常発生時、経験が少ないと適切な対 応ができない ・過去の点検結果を基にした予防予知活 動にはなっていない 新人はその場で必要な点検表をすぐに 出せないことがある このような課題を解決すべく、スマー トデバイス(本実験で使用したデバイス はタブレット)を活用したスマート設備 点検システムを構築した。 点検すべき設備や、その近くにビーコ ンと呼ばれるブルートゥース発信機を置 き、タブレットを持った点検者が設備の 近くに来ると、そこで行うべき点検表が 表示され、点検者は画面指示に従って入 力を行う。 入力されたデータはデータベー スとして蓄積され、さまざまな目的に活 用できる仕組みである(下図) 。 この仕組みによって、 ・重複業務のムダ(点検結果の再入力、 点検結果を使った報告書の作成など) ・管理の手間(膨大な点検結果や報告書 の検索、再分類) ・対応の遅れ(異常発見時の連絡、対応) ・スキルのばらつき(新人の育成、個人 での作業方法・技能差) を低減することができる。 またタブレットの特徴を活かして、 検個所と点検者自身の位置の表示 ・見取り図上にヒヤリハットの気づき登 録や危険個所の警告情報の表示 ・点検時の状態のカメラ撮影や前回画像 との比較 ・点検時の異常対応に必要となるマニュ アルや図面、過去の不具合修理記録の 表示 ・Web カメラを使った本部と点検現場の 通信連絡 などの機能の追加も可能となる。 この仕組みは、 さまざまな現場での「点 検のあるべき姿」の追求に大いに貢献す ると考えている。
・点検個所と点検項目が多岐にわたり、 ・画面の点検場所周りの見取り図上に点
点検内容を 確認・報告
最新の点検 内容を取得 ビーコンで検知した 点検項目を入力
クラウド
点検内容や ビーコン情報の 登録・編集 点検結果の 確認・分析 作業員からの 報告書をチェック
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- Special Article
【事例 2:フォークリフトの稼動分析】
ある工場では工場敷地内の原材料、 ・フォークリフト別の運搬時間比率 資材、製品の運搬にフォークリフトを 使用していた。しかし、 ・フォークリフトの稼動状況がわから ない ・フォークリフトの適正台数を知りた い ・走行経路にムダはないか ・空運搬はどれくらいあるのか、削減 できるのか といった漠然とした課題認識はあった ものの、その実態は把握できていな かった。これらの課題に応えるべく、 定期的に信号を発信するビーコン端末 とスマートデバイス(タブレット)を 組み合わせ、フォークリフトの稼動状 況や動線の実態を捉える仕組みを構築 した。 200m 四方の敷地の中で、屋外の積 下ろし場所、屋内への運込み場所、移 動経路の要所など 50 個所にビーコン を設置し、ビーコンから発せられる信 号をフォークリフトに搭載したスマー トデバイスで常時検知するようにし た。すなわち、 どのフォークリフトが、 いつの時点で、どのビーコンの近くに いたかというデータを入手できるよう にした。加えて積荷の有無を判定する ことで、 積荷運搬と空運搬を識別した。 これにより、 ・フォークリフト別時間帯別の稼動率 ・フォークリフト別の稼動率
▼各フォークリフトの 時間帯別の稼動状況
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の改善、空運搬比率の改善などの着 眼を検討する ・各フォークリフトが実際にどのよう な経路で作業していたかをマップ上 に再現することで、効率的な動きか どうか、どのエリアに作業が集中し ているかなどのレビューをする ・各フォークリフトの総移動距離、積 載移動距離、空運搬移動距離を分析 することで、効率的な経路、分業分 担、保全サイクルの適正化を検討す る
◀フォークリフト別 時間帯別の稼動率
・各フォークリフトの時間帯別稼動状 況 ・フォークリフト別の総移動距離 がわかるようになった(下図) 。 こうした実態を把握することで、以 下のように改善活動の推進を図れるの である。 ・各フォークリフトがどの時間帯に稼 動していたかを可視化することで、 時間帯別の仕事の負荷偏在の改善、 フォークリフト別の仕事の負荷偏在
フォークリフト の分析結果例
▼フォークリフトの 稼動率・運搬時間比率
は、人が考えなければならない。また、 その情報を使ってどのような改善が可 能になるのかも、IoT が自動的に教えて くれるわけでもない。IoT で収集され た大量データの分析や改善への活用方 法に普遍的なやり方があるのではなく、 現場の特性に応じて、まずは人が考え 出さなければならない。 同じように IoT を活用しても、ここ に改善力の差が表れる。なぜなら、人 の知恵が IoT をより有効なものにする からである。
【松本賢治プロフィル】
1983 年 JMAC 入 社。 以 来、 生 産・ 物流、サプライチェーンに関するコン サルティングを中心に活動を行う。30 しており、コンサルティングを行った 会社は自動車、機械、住設、化学、家
年以上にわたり多種多様な業種を経験
電、電気電子、家電、運輸、アパレル、 情報など 200 社を超える。製造業の抱 えるさまざまな課題に対して、経営コ
ンサルタトとして数多くの企業を指導、 各社の課題解決に当たるかたわら、最 近は製造現場における IoT 活用の技術
開発と推進支援を精力的に行っている。
※本稿は日刊工業新聞社刊『工場管理』 (2016 年 7 月号)に寄稿した原稿を、 出版社の許諾を得て JMAC で新たに編集 ・ 構成したものです。
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JMAC EYES
最新のコンサルティング技術・事例・実践方法などについて コンサルタント独自の視点で語ります。
ジェネラルインテリジェンスのある 経営リーダーを育成する
プロダクションデザイン革新センター センター長 シニア・コンサルタント
亀ヶ森 昌之 masayuki kamegamori
スペシャリストをまとめ上げる 全体的な視野が必要
ビジネスプロセスの中で必要とされる 知識や能力は多岐にわたり、それに応じ て企業人は目的に適した専門知識を学ぶ ことが要求されます。 一方で、問題解決には多様なスペシャ リティを駆使しながら立ち向かう必要が あります。そのためには全体的な視野か ら解決のフレームワークやシナリオをつ くり上げる企画力と、実現するまでのマ ネジメントやプロジェクト推進能力が重 要です。 最近の企業では、どちらかといえばス ペシャリティを強調してきた傾向があり ます。低成長経済の流動的な雇用環境で は、企業側も課題に応じて即戦力になる 専門スキル型の人材を望みますし、雇用 される側も何らかの得意分野を身につけ ようとしているようです。 このような環境変化の中で、課題解決 のためのもう片側である「全体感を持っ た経営リーダー」をどのように育成する かは、経営者や人事担当者の新たな課題 になってきました。
ジェネラルインテリジェンス時代の 人材育成へのニーズが高まっている
今求められているのは、自社内の限ら れた知識ではなく、世間一般の多様なイ ンテリジェンスと自社のスペシャリティ を理解したうえで、自らの創造性とパ フォーマンスを発揮して課題解決できる タレント(ジェネラルインテリジェン ス)なのです。全体感(パースペクティ ブ)が要求される高度な業務が増えてい る中、企業のマネジャーにもジェネラル インテリジェンスを持ったタレントが要 求される時代になったといえます。 優秀なタレントを育成する必要性を感 じる場面は、新規事業展開のプロマネを はじめ、 グローバル拠点のマネジメント、 M & A による構造転換の推進など多々 あります。実際にこうした目的での人材 育成の相談を受けることが多くなってい ます。
寄せ集め的なプログラムではなく、広い 知識をつなぎ合わせて問題状況に対して 全体感(パースペクティブ)や位置づけ 感(プレイシング)および脈絡感(コン テクスト)を意識しながら、解決を図る デザインコンセプトを持った内容です。 新しいプログラムでは、参加者に必要 なビジネスインテリジェンスを記憶して もらう「知識コンポーネント」の開発か ら始めてもらいます。知識の全体感や分 類感をつくり上げ、引き出しづくりを行 う段階です。 そのうえで課題テーマの解決について チームによる議論を継続させながら「パ フォーマンスコンポーネント」を開発し ていきます。この段階では知識をつなぎ 合わせ総合化することにより、解決シナ リオを生み出すことを経験します。 並行して、自らの能力をセルフマネジ メントして向上していくための「自己認 識コンポーネント」 を開発していきます。 これはブログなどによる気づきとつぶや きの書込みを中心とした内容で、自分で 自己課題が整理できるようになることを 目指したものです。
能力コンポーネントの開発プロセス が人を成長させる
今私たちが取り組んでいる育成プログ ラムは、マネジメントや問題解決手法の
亀ヶ森 昌之プロフィル
北海道大学工学部卒業後、オフィス機器メーカー に勤務、1990 年 JMAC 入社。メーカーのオペレー ションとマネジメントを幅広く対象とする改革コンサ ルティングを担当。バリューチェーン全体を捉え、総 合的に付加価値と生産性を向上させるアプローチで改 革を推進。並行して管理者層を対象とするマネジメン ト教育に取り組んでおり、自己調整学習を応用した、 速習を特徴とするプログラムにより幹部を養成してい る。2002 年より 5 年間、経営企画室室長として経営 実務に携わる。著書に『新社会人のための経営企画の しごと』 (JMAM 刊)
経験積上げ型から コンポーネント開発型へ
不確実性の高い今の企業環境では、一 定水準の幅広い知識と自らパフォーマン スを発揮できるジェネラルインテリジェ ンスの高いリーダーが必要なのです。そ の育成にはこれまで日本企業で行われた 経験積上げ型(たとえばジョブローテー ション)だけでは不可能です。個人の能 力コンポーネントの開発に意識を向ける 新たな転換期を迎えたといえます。
本記事は JMAC のホームページで連載中の「JMAC EYES」の要約版です。完全版は www.jmac.co.jp/jmaceyes で。
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- nformation
編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
~経営革新を推進する先人から学ぶ~
「JMAC トップセミナー」は、JMAC と経営トップ層をつなぐ本誌にご登場いただいた経営トップの方々を講師に お招きし、実際に改革を断行していく苦難や成功体験をお話いただく経営トップ向けセミナーです。
12 月 6 日 開催
(火) 2016
15:00 〜 18:30
基調講演
代表取締役社長 中村 雅行 氏
会 場:ステーションコンファレンス東京 6F (千代田区丸の内 1‑7‑12 サピアタワー) 定 員:50 名(お申込み順) 対 象:経営トップ層、部門長の方々 参加料:10,800 円(消費税込)※参加者交流費を含む
株式会社 岡村製作所
12 月 6 日 (火)の 「JMAC トッ プセミナー」では、本 誌の TOP MESSAGE にご登場いただいた、株式会社 岡村製作所 代表取締役社長 中村雅行 氏をお迎え し、 「時代の変化を捉え、既成概念を突破する」と題し、 ご講演いただきます。 本誌では紹介しきれなかったお話を、直接お聞きでき るチャンスです。ぜひご参加ください。
URL
http://www.jmac.co.jp/seminar/open
JMAC Europe と R&P 社が日伊間の M&A 支援を共同事業化!
—— イ タリア企業との買収案件に現地情報を活かし手厚く支援 ——
日本能率協会コンサルティング (JMAC)のイタリア現地法人であ る JMAC Europe S.p.A (ミラノ) は、 ヨーロッパにおけるパートナー 企業である R&P Legal (Rossotto & Partners)社と共同で日伊 間の M&A 支援事業を開始しました。 ロフェッショナルを擁するイタリア最大級の弁護士・会計士グループ で、イタリアを中心に欧州企業の M&A 案件の支援実績を多く持っ ています。とくにイタリア企業の情報収集力には定評があります。 今回の共同事業により、両社の特徴を活かした事業展開が期待
ここ数年で日本企業によるイタリア企業の買収は数十件にも及ん クなオーナー中堅企業が多く、日本企業からもグローバル展開のた
でいます。この背景にはイタリア企業には高い技術を持ったユニー めのパートナー探しのニーズが高まっていることがあげられます。今 後も日伊間の M&A は、事業戦略・技術戦略上の大きな選択肢と 考えられます。こうした状況の中、JMAC Erope は 1988 年に設
されます。日本企業ではリサーチが難しい深く価値のある情報提 また、イタリア企業にとって日本企業の M&A ニーズの把握は難し く、さらにビジネス習慣の違いもある中で、現地に根ざした JMAC
供と現地企業オーナーとのスムーズな交渉などが可能になります。
立されて以来、日系企業を始めイタリア企業・欧州企業の経営改革 を支援してきました。一方、1949 年設立の R&P 社は 180 名のプ
M&A のステップと JMAC Europe / R&P 社の役割 ステップ1 ステップ 2 ステップ 3
Europe が日系企業の M&A ニーズに丁寧に対応し、その橋渡しを することでベストパートナーのマッチングを可能にします。
両社が連携・協力し、日伊双方のお客様の要望に最大限応えて いきます (下図) 。 【本件のお問い合わせ先】 日本能率協会コンサルティング カスタマーセンター Tel.03-5219-8055 E-mail:info_jmac@jmac.co.jp JMAC Europe へのお問い合わせは http://www.jmaceurope.com
ステップ 4
ステップ 5
ターゲット 企業の抽出
JMAC / R&P
ターゲット 企業の選定
JMAC
デューデリジェンス 事業計画の策定
JMAC / R&P
買収 契 約の 締結と実行
R&P
M&A 後の 改革支援
JMAC / R&P
ステップ 2 終了時には基本合意書を締結し、ステップ 3 で相手 先企業の分析・評価を進め、ステップ 4 で M&A を実行します
「まだまだ若い」と自分に言い聞かせるのは、すっかり「若さ」から遠ざかりつつある現実へのささやかな抵抗 かもしれないが、急性の腰痛(いわゆるギックリ腰)が襲来する周期が年々短期化し「若いころはこんなことは なかったのに…」と弱音を吐きつつ、 「魔女の一撃」におびえながら過ごすのは確かに若くはない。鍛錬とは無 縁の無精な小生は、トップインタビューの記事にある立ち座り自在の Swift に頼りたいのである。
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- 【JMAC Information 201 6秋・JMAC スペシャルイベント】
人と職場を元気にする 組織風土活性化 (KI) セミナー
本セミナーは、 「人と職場を元気にする」た めの先端理論と先進企業事例に触れ、交流し学 び合うことを目的に開催いたします。職場の変 革を起こし、人と組織を元気にする方法論とド ラマについて、実践者の生の声を聴き、語り合 い、交流いただきたいと思います。
開催日 時 間 会 場
13:00〜18:00
2016年
[月] 11月 7日
TKPガーデンシティ竹橋 10階ホールA (東京都千代田区)
定 員 主な対象
(お申込み順) 80名
参加料
(消費税込み) 8,640円
●人と職場を元気にしたい経営者、 部門長、 管理職の方々●職場活性化推進を担当されている人材開発部門の部門長、 管理 職の方々●設計部門、 開発部門、 研究所の部門長、 管理職、 プロジェクトリーダーの方々
基調講演 「活き活きと働ける職場をつくる取り組みの必要性」 中村 和彦 氏 南山大学 人文学部心理人間学科 教授 人間関係研究センター センター長 人間文化研究科 教育ファシリテーション専攻 事例発表 1 キヤノン株式会社 「人と組織の成長を目指す CKI 活動」 人事本部 ヒューマンリレーションズ推進センター CKI コンサルティング部 部長 小西 大輔 氏 事例発表 2 ヤマハ発動機株式会社 「 『個の力』+『チームの力』 〜笑顔のコミュニケーション〜 (仮) 」 エンジンユニット コンポーネント統括部 ユニット技術部 クランク Gr クランクケース設計係 主査 大塚 敏親 氏 参加者交流にて皆様同士で語り合い中身を深堀します。
Business Insights Vol.62 2016 年 10 月 発行
プログラム プログラム
ダイバーシテ ィ時代の人材マネジメント
開催日 時 間 会 場 定 員
HRM シンポジウム
2016年
13:30〜18:00 (17:00から懇談会)
11 29
月
参加料
[火]中、多様な人材を力に変えるダイバーシティ経営が求め 日 られています。本シンポジウムでは 「ダイバーシティ時代
少子高齢化が進展し、職場に多様な人材が共存する
東京カンファレンスセンター品川 (東京都港区)
(お申込み順) 100名
の人材マネジメント」と題し、今後さらにダイバーシティ が進む中で、どのような人材マネジメントを行っていく べきかをコンサルタントからの発信と参加者とのディス カッションを通じて、そのポイントを模索していきます。 人事部門担当者 (部長、 課長、 係長、 主任) 事業部門の人事 ・ 人材開発担当者
消費税込み 主な対象 5,400円 ( ) 含懇談会参加費
第 1 部:キーノートスピーチ ( ダイバーシティ時代の人材マネジメントに何が求められるかを JMAC コンサルタントが発信します ) 村上 剛(HRM 革新センター長 チーフ・コンサルタント) 第 2 部:テーマ別ディスカッション (4 つのセッションに分け、各テーマにおける方向性を発信し、参加者で意見交換します ) 「女性社員」 ~女性活躍推進を “ 目的 ” から問い直す~ 大久保 秀明 (同センター チー フ・コンサルタント) B セッション: A セッション: 「シニア社員」 ~シニア人材の活躍を促す人材マネジメント~ 伊藤 冬樹 (同センター チー フ・コンサルタント)
「外国人社員・グローバル人材」 ~日本人と外国人の協働を促す人材マネジメント~ 中川 雅之 (同センター テクニカルアドバイザー) C セッション: 「非正規社員」 ~従来型の 「正規・非正規」区分による人事管理の見直し~ 中村 文生 (同センター コンサルタント) D セッション:
いずれも詳細・お申込みは JMAC ホームページから ➡ www.jmac.co.jp/seminar/open/
編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文
TEL:0120-058-055 URL:http://www.jmac.co.jp/ FAX:03-5219-8068 Mail:info_ jmac@jmac.co.jp
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