中堅・中小企業の改革物語
製造業C社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
- 中堅・中小企業の改革物語
横川 省三
前回のコラムでは、成功している企業の3つのパタ ーンのうち、③いつも気が利いた商品を提供してくれるについて、小売業の事例を紹介した。
①いつも先進的な商品(製品やサービス)を提供する
②いつも安い商品を素早く大量に提供する
③いつも気が利いた商品を提供してくれる
今回も同じく③のテーマで、製造業についてみていこう。
製造業C社の戦略
C 社は、1970 年に創業して以来、従業員40 名で電動工具を製造販売している。
製品は、工場内などで使用する 移動式のミニクレーンで 、設備の移動や修理・改造時に生産技術部門が使用するものである。 C 社は工場を北関東、営業所を東京・大阪に置き、代理店販売をしていた。
C社はリーマン・ショック前までは、比較的堅調に事業が推移していたが、リーマン・ショックにより、売り上げが半減してしまった 。受注低迷の打開策として社長が考えたのが、顧客ごとの要望を丹念に捉えて「特注品の営業力を強化し、売り上げ・利益を伸ばす」ということだった。
社長は社内にプロジェクトチームを作り、さまざまな戦略実行の案と課題を考えた。社長としては 「顧客である製造企業には、全般的に景気低迷で設備改善を図りながら工場を維持しようという企業が多く、顧客の要望にきっちり応える商品を提供できれば売り上げは、必ず伸びるだろう」と考えていた。その考えに社員も同意した 。
しかし、顧客のさまざまな要求を受け入れることになると、商品スペックが大きく異なるものを多数受注することとなり、それは大変問題だと思われた。特注品は 、その受注・設計・製造プロセスがベテランに依存しており、忙しくなれば、ベテランからの不満が出てくる。また、「特注品の部品や 製造工程は原価がよく分からず、儲かるとは限らない」「特注品の注文が入ると工場や出荷部門が混乱するので、現場が嫌がる」という声もあった。
改革に乗り出したC社社長
そこで、社長は仕事のやり方を分解し「見える化」して、みんなで仕事ができる体制を作るため、仕事のやり方の改革を決断した。
社長が仕事のやり方を分析してみたところ、
・少数の設計者に特注品設計が集中するため、こなしきれない
・顧客からの要求を、営業が正しく捉えておらず、設計者との間の手戻りが多い
・営業は、代理店や価格設定などで相談があっても、なかなか管理者に相談できず間違った判断をしていることが多い
・特に新人営業は、商売上や業務上のルールが分からず、右往左往している
など、多くの問題が浮かび上がってきた。
そこで、仕事の見える化の中に、顧客からの注文をしっかり定義して、設計者とのやりとりをスムーズに行う工夫を組み込んだ。具体的には、クラウドサービス上に営業案件管理システムを構築し、特注品案件を全て登録することにした。その際、特に重視したのは、以下の 3点である。
① 営業は特注品仕様を確実に登録する
案件管理システム上で、特注品仕様は全てアンケートのような質問方式に展開し、 回答を記入することにした。その際、もし顧客に聞けないことや確認できなかったことがあったら、それも回答結果として記述するようにした。その結果、特注品仕様の情報精度が大幅に向上した。また、営業自身は、自分の実力の範囲で回答できるようになり、記入率が急増した。さらに、不明な項目は、ベテランが営業に引き出し方を指導することで、急速に減少したのである。
② 特注品仕様をもとに設計方針を決める
従来は、ベテラン設計者が自分で設計業務を行っていた。しかし、特注品仕様を営業が分かりやすい言葉で確実に把握するようになると、ベテラン設計者は、既存品での対応、流用設計、イージーオーダー、特殊設計、などの設計方針を決め、若手にも設計業務をどんどん任せるようになった。これでベテラン設計者の負荷が減り、 原価見積もりに時間を使えるようになったため、原価設定の精度も向上した。
③ Web上に、報連相の仕組みを作った
案件管理システムでは、営業の各段階で、何を把握し、何を決めるべきかを明確にし、そこでの検討で、営業マンが不安・相談が起きたときに、タイムリーに相談できる仕組みを作った。例えば、新規取引先の取引開設の手続きや、代理店の選択、仕様が明らかにならないときの顧客アプローチなどである。これにより新人営業の育成スピードも上がった。また、このような報連相内容は全て記録されるため、後で記録をもとにマニュアルの改訂も図れるようになった。
上記をポイントにした新しい仕事の仕組みづくりには約半年かかった。しかし、クラウドサービスによるシステム化を行ったため、システム構築は、2カ月程度で済んだ。
C社の改革の成果
C社ではこの案件管理システムの構築により、初期課題が解決された。
・特注品受注プロセスがベテラン依存から脱却できた
・特注品の収益性が明確になり、安心して営業強化できるようになった
・設計担当者の負荷が減って、新人の育成も可能になった
さらには、売り上げが前年比 1. 5倍に伸びて業績は好調 、一方で要員数は1. 2倍程度で済んだ。さらに、若手とベテランのコミュニケーションが活発化し、若手の育成にも効果があった。
C社社長は、リーマン・ショックを機に自社のビジネスを「顧客の要望を聞いて実現する」というスタイルで徹底することとし、そのための仕事のやり方を、案件管理システムという方法で実現したのである。
※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。
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