お問い合わせ

中堅・中小企業の改革物語

食品専門商社D社の物語② ~中堅・中小企業の改革物語~

  • 業務改革・システム化
  • 中堅・中小企業の改革物語

角田 賢司

chusyo_7_top.jpg

 前回に引き続き、食品専門商社D社の改革物語を紹介しよう。前回は納期(Delivery)面、品質(Quality)面の課題のうち、納期面での改革について取り上げたが、今回は品質面について見ていこう。

 D社ではクレーム対応・クレーム削減に向けた管理体制が追い付かず、クレームの増加傾向に歯止めがかかっていない状況だった。「クレームを減らす」ためには、食材を製造する工場から出されるクレーム品をなくしていくことが必要だが、D社においては、お客さまへのクレーム対応のまずさにより「二次クレーム」を誘発し、売り上げの低下を招く状況も見られた。従って、D社の売上拡大に貢献していくためには、「クレームを減らす取り組み」だけでなく、「二次クレームを防ぐ(被害の拡大を防ぐ)取り組み」も必要だった。

クレームを減らす取り組み内容

 D社ではさまざまな商品(約1000種)、海外が大半を占める仕入先(約150社)とうまく付き合っていかなければならない。

クレームを減らすためには、

・クレームを発生させない仕入先・工場を選び、入れ替えていくこと(入替)
・今、取引している仕入先の品質管理レベルを向上させること(改善)

の2つのアプローチがある。

 まず、どの仕入先に対してどのようなアプローチで活動をしていくのかを決めることが重要だった。そのためには、クレームの実態を正しく把握することが必要である。D社ではクレームの情報は記録していたものの、情報が層別されておらず、単なる件数の管理しかできていなかった。

 そこで、仕入先別、製造工場別、商品別、発生事象別など、個々のクレーム情報に、適切な層別情報を加えた「クレームデータベース」を作成し、傾向を見えるようにした。これにより、どの仕入先、製造工場に対して、どのようなアプローチをとればよいのかを検討できるようになった。

 1つ目のアプローチである「入替」については、同じ商品群内でクレームの発生傾向が明らかに悪い仕入先を特定し、価格が同レベルの仕入先が見つかった場合に、製造工場の入れ替えを実施した。

 ただし、D社の圧倒的な価格競争力に対応できる仕入先は数多く存在するわけではなかった。そのため、既存の仕入先と継続して付き合っていくこと、つまり、仕入先と一緒に改善を進めていく2つ目のアプローチが活動の大きなウエートを占めた。

 2つ目のアプローチである「改善」についても、クレームデータベースを使い、クレーム発生傾向の極めて高い仕入先をランク付けし、密接なコミュニケーションをとった。そのコミュニケーションとは、「Why?」「What?」「Check!」の3つの要素から構成される。

◆ Why?
 まず、「なぜコミュニケーションが必要なのか」を丁寧に説明することから始めた。D社が直接取引している「仕入先」は商社機能を持つ仕入先が多くを占め、最終製造工場までに複数のステークホルダーが介在している構造だった。従って、単に仕入先に伝達するだけではなく、その製造工場にまでD社の意図を伝え、行動を起こさせることが求められる。

 そこで、クレームという問題の重大さを仕入先の幹部と共有し、クレームを削減していくことが仕入先にとっても必要であることを認識してもらった。幹部の意識を変えることで、仕入先内の活動が変わり、その活動によって最終製造工場の活動を変えることにつながるからである。「クレームの改善をお願いします」という定性的な依頼だけではなく、クレームデータベースを活用した定量的な情報も使いながら、繰り返し伝えた。

◆ What?
 次に、どのような対策を講じれば再発防止になるのか、その具体的対策を仕入先と協議して決めた。まず、食品工場における基本的な品質向上策を、体系的に整理・一覧化したものを仕入先と共有し、仕入先が最終製造工場に対して説明・提示しやすい状況を作った。

 そうすることで、「検査を強化します」「教育を実施します」というような抽象的な対策から、実現可能で5W1Hを明確にした具体的な対策へとレベルアップした。

◆ Check!
 そして最後は、検討・実行した対策によって、クレームの再発がないかを検証し、再発している場合は別の対策を検討した。つまり、クレーム情報をもとに改善サイクルをシンプルに回していく活動である。

 D社においては納入までのL/Tが約2カ月と長い商品が多いため、改善の効果が見えるのも2カ月以上後になり、効果を確認しにくい状況にあったが、クレーム発生の工場/事象をデータベース化しているため、その確認も容易にできるようになった。

 上記のようなコミュニケーションを仕入先と粘り強く行うことで、クレーム数は活動前と比較し35%削減された。特にクレーム発生傾向が高くランク付けされた仕入先においては、クレームに対する姿勢の変化も見られ、45%の削減が達成された。

 こうしたクレームの発生傾向に応じた、仕入先とのコミュニケーションは今でも継続して行われている。

D社のクレーム対応の実態と対策

 クレーム対応には、多くの部門が関わる。D社においては、得意先からのクレームを受け付けて対応する営業部門、営業からの情報をもとに発生要因を調査し報告を準備、また、発生状況によっては回収や出荷止めを判断する品質管理部門、その代用品を手配・準備する購買部門と複数部門が関わって対応することになった。

 D社では、得意先のクレーム内容の正しい把握、迅速な謝罪、発生要因の説明(報告書の提出)の遅れなど、対応が不十分なケースが見られ、二次クレームにつながる案件も見られた。これらの問題の根本的な要因はクレーム対応業務が単なる「報告書の作成、提出業務」になっていたことだった。すなわち、お客さまを意識した「迅速に納得いただける対応」になっていなかったのである。

「クレーム対応におけるお客さまを意識した対応」とは、クレームに対するお客さまの意見を正しく把握した上でアクションを決めること、そして、迅速に対応するための各作業に対する対応期間を守ること、の2点とした。

 これには、「正確性」と「スピード」が重要である。そこで、クレーム発生時のお客さまの要望を傾聴し、お客さまの製造・販売にご迷惑をかけないためのアクション(代用品の準備・手配、速やかな要因調査、調査結果や対策の丁寧な説明、謝罪等)のルールを作成した。

 そのとき、当該クレームにおいては興奮状態にないが、クレームが再発しており、今後、興奮状態が高まる可能性のあるお客さまに対しても、事前に謝罪や状況説明等の対応を行うように決めた。これにより、お客さまのクレームに対する要望については、1件1件、品質管理部門と営業部門で共有され、アンテナが張られる状態になっていった。

 次にクレーム対応の期間を設定した。「クレームを受け付けてから品質管理に伝達するまで」「調査報告書を作成するまで」「報告書を使ってお客さまに説明するまで」といった作業区分ごとに明確にした。

 クレーム発生原因調査と報告書の作成については、自社だけでなく発生元である仕入先の協力も必要になるため、時間短縮の改善も検討した。原因調査と報告書作成を確実かつ迅速に行うために、異物混入、毛髪混入、サイズ/重量バラツキ等の発生事象別に調査項目を明確にして仕入先と共有することで、仕入先の報告書作成レベルのバラツキを抑え、時間短縮もできるようになった。

 上記のような2点のポイントを織り込み、クレームを受け付けてから、確実にお客さまの納得をいただくまでの一連の流れをフロー化し、品質管理部門が司令塔となって実行状況を確認することにした。結果、営業部門/購買部門との連携も活発になった。

 営業との連携について、一例を紹介する。

 クレーム対応フローを動かすツールになるのが、営業が入力する「クレーム受付表」であった。1人が何十社を受け持ち、全国の営業先に出向いている営業でも、効率的かつ対策検討に必要な情報が入力できるように修正した。

 修正後間もない頃は、入力の不備もあったが、不備については品質管理が厳しく是正を促していくことで、正しく入力ができるようになり、品質管理と営業の無駄なやりとりも削減されていった。

 品質管理がどんな些細なことでもお客さまへの対応の遅れにつながる問題が見つかれば注意・是正を促す姿勢が、クレームに対する社内の問題意識を高め、営業の意識を変えることにもつながっていったのである。

 このように新しいクレーム対応フローを構築し、運用を順守することによって、二次クレームの発生もなくなっている。さらには、クレームの対応を通じて、関連部門でのコミュニケーションが増え、都度課題を見つけ解決していく動きが取れるようになるなど、好循環を生み出すことにも成功した。

※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。

コラムトップ