中堅・中小企業の改革物語
生産財メーカーF社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
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石山 真実
今回は樹脂関連の生産財メーカーについて紹介する。この企業は売上2倍を5年間で達成することを目標としており、そのために、開発、営業、生産、購買、物流部門が一体となって推進している。
当初、2倍を本気で目指す人はいなかった
売上2倍は、創業50周年を迎えるにあたって大きな飛躍をするための目標で、かつ経営幹部候補を徹底的に鍛えるための目標でもあった。ただ残念ながら、この目標を掲げた当初は、誰もが「お題目」と思い、本気で取り組もうとする人はいなかった。経営企画部門が、何回かの合宿を企画し、その中で売上2倍検討会を開催したが、事業部長クラスでさえ本気で取り組むメンバーは少なく、ただ時間だけが経過した。
そこでトップは、企業内の全機能部門が知恵を出し合い、市場環境、競合状況などを踏まえた施策を連携して推進していくために、従来のマネジメントスタイルを大きく変えることにした。
事業部が定めた4つの方向性
事業部長のリーダーシップ発揮
F社には、6つの事業部がある。売上2倍戦略の検討では、各事業部を束ねる6人の事業部長が推進リーダーとなって、検討を進めた。F社全体として売上2倍を狙うわけだが、この売上目標を経営会議にて各事業部に割り付けし、各事業部長が責任を持つ目標とした。
まず、各事業部が進めたのは売上2倍の方向性検討である。単に2倍と言っても、どちらの方向に進んでいけば2倍になるのか、漠然とアイデア出しをしていっても、当然到達しない。そこで、売上倍増に向けての方向性を4つに分けて考えることにした。
4つの方向性とは、
①既存製品を既存顧客に販売することで拡販を狙う
・既存顧客での断トツシェアナンバーワンのために、競合製品との差別化QCD戦略(クオリティ・コスト・デリバリー)の具体化
②既存製品を新規顧客(新規用途)に販売することで拡販を狙う
・既存顧客のライバルや既存顧客の関係会社などへ入り込むための、製品競争力(QCD)向上と営業戦略の具体化
・既存の製品を、別の用途として他の業種へ販売するための用途開発
③新規製品を既存顧客に販売することで拡販を狙う
・既存顧客の購買品を総棚卸しして、自社で供給可能なアイテム発掘(できれば、モジュール品として供給を検討する)
・顧客の将来戦略を先取りした製品の開発
④新規製品を新規顧客に販売することで拡販を狙う
・③の新製品を②の新規顧客へどう販売するかの営業戦略具体化
・自事業の強み(コア技術)を生かした完全新規事業立ち上げ
である。
事業部長は、開発、営業、生産のメンバーと4つの方向性について議論する中で、4つの方向性ごとに「売上目標」を設定し、戦略ストーリーをメンバーと具体化をした。従来は、開発、営業、生産が一堂に会し具体的な戦略ストーリーを検討していく場は無かったため、事業部長としても大きなチャレンジだった。
事業戦略展開表による戦略の具体化、見える化
ここまで検討してきた売上目標と達成のための戦略ストーリーを、次のステップとしてさらに行動レベルまで具体化していく必要があった。
そこで4つの方向性ごとに、
・方向別目標
・製品群別目標
・顧客別目標
・目標達成のための具体的施策(営業施策、開発施策、生産施策)
を明確にし、事業戦略展開表(事業部の目標をブレークダウンし、4つの方向性ごとに設定した各顧客ごとの攻略作戦を明示した表)を作成した。
この表により戦略ストーリーが具体化し、各担当者の行動レベルに落ちた。また、売上2倍の戦略が見える化し、トップからボトムまで戦略の共有化が飛躍的に進んだ。毎月行われる、経営陣との進捗状況検討会でも、戦略全体を見据えた中で個別議論が進められ、事業部の目標達成のためにトップが行動すべき事まで議論できるようになった。
従来は営業と開発、営業と生産、開発と生産は対立しやすい構造にあったが、今回の展開では共通の敵が競合製品、競合企業となり、全社一体となって勝つための施策を検討することができるようになってきたことも、大きな成果だった。
いつまでに、なにを、どこまで達成するか
次にやるべきことは、この事業戦略展開表を年度の事業戦略展開表にばらすことである。
5年後に2倍の売上げを目標にしているが、そのために来年はどこまで到達する必要があるのかを、検討しておくことが必要となる。そこでF社は、売上2倍の事業戦略展開表の検討を3カ月間でいったん区切り、そこまでに全体の20%程度の施策の具体化を完了させる目標で検討を進めた。
事業部によりばらつきはあったが、おおよそ各事業部とも20%程度の施策は具体化できたため、その施策を中心に来年度の事業戦略展開表を作成した。
また、来年度の事業戦略展開表と併せて、実行計画書と売上実績管理表を作成し、実施状況の管理も確実にできるようにした。
実績管理では以下のポイントを管理した。
①月次の売上目標と売上実績(顧客別の売上、シェア)
②当月までの累計売上目標と売上実績(顧客別の売上、シェア)
③当月以降から年度末までの売上予測(顧客別の売上、シェア)
特に③売上予測は、迅速な挽回策を実行するために重要な管理項目で、「施策の実施状況」「顧客の状況」「競合の状況」を勘案して、毎月、ローリングで予測シミュレーションをしていく。このことにより年度末での目標達成度を早い段階で把握でき、未達成が予測された場合に迅速な対応が可能となった。
夢だった目標が、手が届く目標になった
当初は、2倍など夢のまた夢、といわれていた目標が、3カ月間の営業、開発、生産一体での検討により夢ではなく、手に届く目標へと変わってきた。そして、この売上2倍戦略展開表をベースに、来年度の売上1.2倍目標への戦略ストーリーと事業戦略展開表が明確化された今、担当者クラスから経営幹部まで2倍への手応えを感じている。
経営幹部が実感した本活動での体質変化として、以下のことが挙げられる。
1.事業戦略展開表作成を通して、営業、開発、生産などの部門が事業部として一体となって、競合に勝ち抜く体制を固めることができた。
2.事業戦略展開表により目標と施策が戦略ストーリーに沿って見える化されたため、事業環境変化に追随するための変更箇所が明確で、迅速な対応が可能になった。
3.事業部長が、「営業部長」から「本来の事業部長」に変革してきた。本マネジメントを通して経営感覚が磨かれてきていることをみると、将来の経営幹部としての能力醸成に大いに役だっている。
4.担当者クラスが各施策を実行するにあたり、その必要性を十分認識できるようになったため、自ら積極的に行動するようになった(自律化)。
5.各事業部の戦略ストーリーが見える化されたため、ウイークポイントも明確になり、経営幹部も自らどんな行動をとるべきか考えることができ、担当者クラス、ミドルマネジャークラス、事業部長クラスと一体感を持って事業運営ができるようになってきた。
本活動でF社は、これまで目標管理、方針展開が形式的にしかできていなかった状態から、大きくマネジメントを飛躍させた。まだ始まったばかりの活動だが、あらたな企業への飛躍を目の当たりにするのは、それほど遠い日ではないだろう。
※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。
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