中堅・中小企業の改革物語
化学系メーカーS社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
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廣田 正人
工場全体で品質改革の目指す姿を掲げ、クレームを30%削減させたS社
今回紹介する企業は、品質管理部が旗を振り、工場全体の品質改革プロジェクトを立ち上げて、初年度に早くもクレームを30%削減させたS社の事例である。
S社の工場は化学系の製品を100品種近く生産し、従業員200名規模で操業している。特に、ここ1~2年は海外のライバルメーカーが市場から撤退したこともあり、そのシェアを取り込むことで大きく生産量を伸ばしてきた。その一方、品種の増加と新たに獲得した顧客の品質条件の厳しさから、直近の年度では数百件を超える品質クレームが発生し、さらにその半分以上が再発クレームという状況であった。
このような状況の中、品質管理部はクレーム削減に向け、製造部門、設備部門、技術部門をはじめ工場全体をどのように巻き込んで活動を進めていけばいいのか悩んでいた。
品質改革プロジェクトはこう立ち上がった
まず、品質管理部のメンバーは、顧客を訪問して品質に対する期待や要望を聞いたり、外部の勉強会に出席し、工場の品質改革を実現するためのヒントや手法を勉強した。その中で得た結論は、『工場が一体となった改革を推進し、改革の「目指す姿」を自分たちで作り上げる必要がある』ということであった。今までの品質管理部は、規格の制定や改訂、検査の実施、クレーム対応が主な業務であり、工場一体となった改革の推進などあまり考えてこなかったが、顧客の中には工場が一丸となって品質改革を進めている企業もあり、その成果を見ると、自分たちに足りないものが見えてきた。
そこで、品質管理部のメンバーは工場長に相談し、
・自分たちがより顧客の期待に応えられるような活動を増やしたいこと
・そのために、今まで見据えてこなかった工場の品質改革の「目指す姿」を描きたいこと
・これらは製造部門、設備管理部門にも参加してもらい、工場全体で取り組みたいこと
を説明した。
工場長も、量的な拡大が一段落した現在において、目指す方向は品質改革という認識があり、どうせやるなら徹底してやろう、ということで工場長のもとに品質管理部長がリードをとって工場一体となった「品質改革プロジェクト」が立ち上がった。
3年後の目指す姿を描く
品質改革プロジェクトの最初の活動として、メンバーのベクトル合わせをするため、工場の品質改革の「目指す姿」を描いた。プロジェクトメンバーは合宿を行い、工場の目指す姿を真剣に検討し、本音で話し合った。また、その話し合いの過程で部門間の一体感も生まれた。
合宿でまとめた目指す姿は、「再発防止の一歩先を行くクレーム未然防止型の工場になる。そのために、現場が主役となって全ての工程で品質の作り込みを実現する。クレームは原因が究明され、確実な対策がなされる。未然防止のための品質リスクマネジメントが機能し、品質意識とリスク感知力の高い作業者が働く職場が実現できている」というものだった。
また、この目指す姿を実現するため、初年度から3年間で実施すべき活動のマスタープランを組み上げ、「品質改革は現場が主役」というキーワードのもとに、初年度は以下の3つの活動を進めるという合意形成がなされた。
① 現場は自工程で品質の作り込みを完結し、後工程に不良品を流さない
これを「クオリティゲートを守ろう作戦」と名付けて展開した。
② 再発防止のための原因究明を品質改革プロジェクトが参加し徹底して行う
これを「真の原因を究明しよう活動」として展開した。
③ 品質を維持するために必要とされる設備の洗浄や分解の作業性を改善する
これを「製造・設備部門一体で生産性と品質を改善しようモデル」の構築として展開した。
クオリティゲートを守ろう作戦
品質クレームは、品質不具合製品が工場から流出し、顧客のもとで顕在化したものという理解に立つ必要がある。従って、各工程が「自分の工程で品質の作り込み」を行い、不良品を後工程に流さないことがクレーム撲滅につながるという理解を改めて共有化した。
この「自工程で品質を作り込む」ことを実現するため、プロジェクトが考えたのがクオリティゲート作戦である。クオリティゲートは現場の各工程の出口にある「品質の門」という意味で、「良品」しかこの門を通って後工程に流すことはできないという発想のもとに設置する。例えば、「混練の工程」では仕上がり品の品質状態を「混合物の均一性、異物なし、後工程の処理条件を安定化させる粘度」といったように複数項目を定義した。
今まであまり品質を意識してこなかった「容器の洗浄工程」でも、『もし、洗浄だけを行っている会社があれば、その会社は「最高の洗浄品質」を考えるはずだ。従って、その品質状態を特定しクオリティゲートとして設置しよう』という発想で展開した。
この作戦は工程の出口で検査を強化しようというものではなく、むしろ、検査しなくてもいいように「工程内で品質を作り込む」という発想で進めている。そのため、物理的に本当の門が存在するわけではなく、門に見立てた、仕上がり品の品質状態を記載したボードであったり、吊るしの看板を各工程の出口に設置し、その状態を実現するために「工程内の作業がどうあればいいのか、現在の標準手順で大丈夫なのか、今の設備管理のままでいいのか」といったことを検討し、自工程内の品質不安定部分を払拭することを目的としている。
ゲートの設置は2カ月で完了し、3カ月目からは、自工程で品質を作り込む活動に移行した。その結果、今までの「品質にバラツキがあっても、後工程で加工されるから大丈夫、最終検査でチェックされるから大丈夫」といった意識がなくなり、「自工程で品質を作り込む工場」という目指す姿に近づいた。作戦開始5カ月後には工程不良の発生割合が大きく下がり、品質不良コストの削減にも寄与し始めた。
真の原因を究明しよう活動
品質クレームの再発を防止するためには、「なぜなぜ分析」を行い、要因を掘り下げ、「真の原因をつかむこと」が必要である。品質管理部のメンバーや工場の管理職の誰もが「真の原因をつかむこと」の重要性は認識していたが、本当に真の原因が究明できたかどうか曖昧なまま対策を行ってきたというのが実情であった。
そこで、品質改革プロジェクトでは改めて、この真の原因究明に挑戦した。「なぜなぜ分析の基本」を勉強し直すとともに、今まで管理してきたクレーム率や不良率といった結果の指標だけではなく、原因究明が確実にできているか否かが分かるような活動指標の設定も検討した。
そこで考えたのが「真の原因究明率」という少し変わった指標である。当初、プロジェクト内でも、「そんな指標どうやって定義するの?」といった意見が交わされたが、逆に、その指標をどうやって定義すればいいか分からないということは、「真の原因究明がなされたかどうか分からないまま、なぜなぜ分析をやってきたのでは」ということになるわけである。
指標の定義から議論を重ね、4M(man、machine、material、method)にもれなく目配せをして、そこから「現象が引き起こされるメカニズムを突き詰め、これが犯人だと特定できれば真の原因が究明された」とみなすことでスタートした。
「真の原因究明率」を導入したことで、真の原因とはなにかを単に言葉だけでいうのではなく、再現性をテストしたり、現象発生のメカニズムを究明しようという意識が定着したことが活動の大きな成果となった。
製造・設備部門一体で生産性と品質を改善しようモデル
工場の設備は、それを使用する製造部門側からすると、必ずしも使い勝手のいいものばかりではない。中には洗浄するために分解しなければならず多大な工数がかかったり、切り替えのために特殊な工具を持ち込んで時間をかける必要があったり、品質に影響する重要な部位の交換が容易にできなかったり、などといった問題を抱えていた。
品質改革プロジェクトでもこの問題を取り上げ、設備設計の段階から「洗浄しやすい」「分解しやすい」「交換しやすい」といった現場の作業性・品質安定性に配慮した設備仕様を勘案するというモデル構築を狙った。設備部門も現場の要望を分かってはいるものの、今までは「いきなり全部やるのは無理だし、お金もかかる」という言い分だった。
プロジェクトでは、作業性、品質安定性の面から、優先順位をつけ、「モデル設備改良にトライしよう」という活動を行った。モデル設備は洗浄のために分解が必要な「撹拌機構」を持つ混練槽で実施し、ワンタッチ式の分解しやすい機構の採用に至った。その結果、分解洗浄時間が大幅に短縮され、その時間を工程内の品質点検やクレームの原因究明にあてることで、品質改善の後押し効果も発揮された。
初年度下期に入ると、クレームの削減効果が表れ、最終的には上期対比で品質クレームの30%削減、現場の設備洗浄工数半減(モデル設備)という成果をもたらした。これらの活動で「目指す姿」の実現に向け、大きな自信を得ることができ、2年目以降も「品質改革は現場が主役」という考え方に沿って進める予定である。
※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。
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