中堅・中小企業の改革物語
食品専門商社D社の物語① ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
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角田 賢司
ある食品専門商社D社の話
D社は食材を海外・国内各地から仕入れ、日本全国の小売店や問屋、また、弁当や惣菜のベンダーに卸している食品専門商社である。D社は「食品専門商社として成長を続ける秘訣は2つある」とコンセプトに掲げている。
その2つとは、
・圧倒的な価格競争力
・豊富な品揃え
である。
日本の食文化は「高級志向」と「低価格志向」に二分化している。そのため、問屋をやるのであれば安価な食材を品揃えし、価格競争力を持つことで「低価格志向」の市場で勝てると社長はにらんだ。D社は価格に徹底的にこだわり、同一規格の食材を他社よりも5〜10%程度安く卸すことを実現した。市場が縮小する中でも、毎年10%のペースで売上高アップを続けている成長企業となった。
しかしながら、あまりに急激に成長した会社は高度化する顧客のニーズに対応しきれていないと感じ始めていた。会社が大きく成長し、取引先が広がり、取り扱う品種や量が増えることで、在庫の管理が難しくなり、欠品や過剰在庫の問題も起こった。
また、企業として守るべき安心・安全な商品を供給するという面においては、クレーム対応・クレーム削減に向けた管理体制が追い付かず、クレームの増加傾向に歯止めがかからなかった。結果として、欠品やクレームのために、お客さまの信頼を失ってしまう事態が起こり始めた。
一般的に企業はQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の3つの競争力をバランスよく実現していかなければならない。このD社においては、コスト面では創業時から圧倒的な競争力を持っていたが、それ故に品質面、納期面については後手に回ってしまい、3つのバランスが崩れていたのである。それに気付いた社長は品質と納期の強化を図るためにプロジェクトを立ち上げた。
それぞれの改革テーマは次の2つである。
納期面:「適正在庫コントロールによる欠品撲滅と適正在庫の同時実現」
品質面:「クレーム対応レベルの向上とクレーム削減」
本コラムでは「納期面」の改革、次回は「品質面」の改革について紹介する。
D社の仕入れの実態
D社で取り扱っている食材は約1000種類あり、約7割を海外からの仕入れに頼っている。海外からの仕入れのため、発注から納入までのLT(リードタイム)が2〜3カ月と長く、1回に発注する量もコンテナの単位にまとめなければいけないという制約がある。これら発注する量の計算とコンテナ単位へのまとめは手計算で行っており、非常に手間がかかる。
また、中国の食品工場から多く仕入れていることもあり、通関の遅れなどで納期遅れもしばしば発生した。もともと、D社の在庫管理の基本ルールとして、全商品一律で月末に平均販売量の1カ月分の安全在庫が残るように発注する、としていた。
しかし、販売量が変動し在庫が少なくなってくると、都度追加発注を行ったり、あるいは在庫が過剰になると発注を止める、コンテナ単位にまとめるために発注量を増やしたり減らしたりするというような調整を担当者ごとに行ってた。その結果、在庫が過剰になることや商品によっては欠品が発生し、また欠品が発生することでお客さまへの対応や仕入先に追加発注などが発生し、業務が混乱している状態だった。
欠品をなくし、在庫を適正にコントロールしていくためには、個々人に依存した発注のやり方を改める必要がある。そこで、「シンプルで適切な発注ルールを作り、それをみんなで守ること」という方針のもと、改革に取り組んだ。
シンプルで適切な発注ルールづくり!
■発注タイミングの変更
D社の発注方法は、上記の通り、発注日は個々人でバラバラ、発注量の決め方も統一されておらず、「不定期不定量」の発注方式になっていた。これを「定期不定量」に改めることを決めた。
まずは不定期だったものを毎月1回の定期とし、発注担当者が発注する日を決め、適切な発注量の決め方を定めた。
■安全在庫の設定
発注量については、全品目一律で1カ月の在庫を保有するような発注方法だったが、D社の商品は、1000種類と多品種であり、その販売量も常に変動する。そのため、1カ月の在庫を持っていても、商品によって欠品になるものもあれば、逆に過剰在庫になるものも出てきてしまう。
そこで、商品ごとに安全在庫量を設定する方法に変えた。例えば、販売量のバラツキの大きい商品の場合、安全在庫を厚めに持っておき、平均よりも多く売れたときに欠品が起こらないように対応する。逆に、毎月ほぼ平均的に販売量が推移をする場合は安全在庫の設定は少なくてよいので安全在庫はぎりぎりまで少なくし、平均的な量の発注で対応するということになる。
このような安全在庫の基本的な考え方に基づき、販売実績から統計的に算出するルールを決めるとともに、商品特性別に安全在庫の欠品許容率の設定を行った。通常、欠品率をゼロにしようとすると安全在庫は極端に多くなり在庫が増えることになるため、在庫削減のために商品別に適正な欠品率を設定することが求められる。
■在庫削減を実現する
まずは欠品を防止することを主眼として定番等、月販量が多い売れ筋品は欠品許容率を低くすることで安全在庫量を増やした。逆に、月販量が少なく代用品を充てて欠品による顧客への影響を最小限にできる商品は、欠品許容率を高くして安全在庫量を減らすことで、全体の在庫量を少なくした。
その方針に従い、在庫管理システムから売上量・仕入量・在庫量のデータを月別・商品別に抽出し、過去の傾向から統計的に商品ごとの発注量を算出できるようにした。
■手計算からシステム化へ
海外仕入品に頼っているD社では、1000種類それぞれの発注量を算出後、仕入先別にコンテナ単位に発注量をまとめる必要があった。コンテナ単位にまとめるために、どの商品をどのくらい増減させるかを自動的に計算して、発注量を決められるようにした。従来はこれらを手計算で行っていたために非常に時間を要していたが、システムで自動的に算出できるように改良し、結果的に発注業務の効率化にもつながった。
上記のルールに基づき、仕入担当者は発注日を確実に守り、計算された発注量にて発注を行った。これまでは不定期の発注であり、仕入先と取り決めた納入LTより短い納期での発注も見られ、仕入先も納期を守ることが難しくなり、結果として欠品につながるケースも目立っていた。
つまり、D社自身が仕入先との約束を守れていないこともあったというわけである。D社自身が納入LTを守った発注を確実にすることで、納期順守率の向上のために仕入先への働き掛けもできるようになった。
このようなシンプルなルールを決め、それを確実に守ることにより、欠品は定番商品ではほぼなくなり、在庫は従来の約30%削減をすることができた。また、業務の混乱も解消し、効率化も実現した。
次回は、 品質(Q)面:「クレーム対応レベルの向上とクレーム削減」について紹介する。
※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。
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