中堅・中小企業の改革物語
製造業E社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
- 中堅・中小企業の改革物語
茂木 龍哉
今回は、ひとづくりに力を入れ、風土改革にも取り組んでいる老舗中小製造業を紹介する。
E社は、今からさかのぼること100年以上前に創業した歴史ある企業である。地元地域の水道事業開始を皮切りに、水道用装置製造を開始し、現在では水道に特化した装置専門メーカーとして、水道事業の普及、維持管理といったわれわれの生活に不可欠なインフラを支えている。
水道事業というインフラを支える製品であるために、一つの製品に対する作り込みや、長期的視点に立った製品の連続性が求められる。しかし、その一方で、事業体、行政ごとの異なる要望に応え、製品開発を進めるフレキシブルな対応も必要なのが特徴である。
原点は「人」、こうして「ものトレ」が始まった
どちらかというと保守的な業界特性や、オーナーの強力なトップダウンのもと、E社には真面目にコツコツ仕事をするという社風が長らく浸透していた。中途入社した現社長は「とにかく、当時の社員は真面目一辺倒。一人一人は優秀で言われたことはきちんとやるが、私語や雑談なども少なく、どこかものを言いにくい雰囲気があり、ストレスがたまったり、仕事が楽しくないのではないかと心配だった」と当時を語る。
また、ものづくりの観点から、とにかく"見て学べ"という職人気質もあったという。そんな状況に対し、「自分の思っていることを率直に言葉に出し、もっと楽しく仕事ができないだろうか」と考え、とにかく、ものが言える職場へ、そして若い人がいきいきと働ける職場へ変えていくことに取り組んだ。
社長から相談を受けてテーマ出しをするディスカッションの中、結局、コストダウンにしても、品質改革にしても、原点は『人』にあるのではないかという話にたどり着いた。そこで、現場力強化を図るために『ものトレ』を行うことになった。「ものづくりリーダー育成トレーニング」、通称「ものトレ」である。
過去の反省を生かし「丁寧・着実」に
「ものトレ」とは、現場第一線監督者の候補生の育成を目的に、現場で発生している実際の問題を取り上げ、講義と10回の実践研修を通じて、実成果と人材育成を同時に行うプログラムである。長年、ものづくり改革活動を行っていたものの、まだ自分たちが自力で問題を解決できるレベルには至っていなかった。
社員からは「これまで、だいたいこんな問題だろうと曖昧な状態で対策を考えていた。そして、すぐ実施したり、成果を出さなければならないと急いでしまって、結果的に自走できるまでには身に付いていない状況だった」といった問題点も挙がっていた。
そこで今回の「ものトレ」ではある工夫を折り込んだ。IE(Industrial Engineering:経営工学)には基本的な手順や進め方があるが、現状分析をきちんとして、何が問題なのかを洗い出すプロセスを一つ一つ丁寧にやっていくことに重点を置いた。とにかく、手取り足取りという「丁寧さ」を大切にした。
そして、時間に余裕を持って宿題を出し、自分たちで考える時間をしっかり設定した。次の研修では本当に理解しているか、理解していないなら、もう1回、同じ内容を繰り返すという方法を取った。
「ものトレ」が生んだ成果と部門連携
実際に本プログラムを受講した社員からは「取り組んだ中で何より感じたのは現状分析の大切さだ。改善計画発表会までの3カ月間で現状分析の手法を教わったが、やはり、そこがしっかりしていないと、いくら改善案を出してもどれくらい成果があったか説明もできない」という感想があった。現状分析では、ロスの構造を定量化することが特徴である。
設備稼働率を例にとって説明すると、
①生産予定がないために稼働していない時間
②生産予定はあるが、材料待ちや設備故障により停止している時間
③設備が稼働しているが、本来、設備が持っている性能通りのスピードで運転できていないことによる増分時間
④不良品を生産している時間
など、ロスが発生する要因ごとに定量化し、改善余地を把握することで、改善の重点対象とアプローチが見えてくる。
問題を正確に捉えることができれば、改善の7~8割は実施できたも同然である。「ものトレ」ではここに重点を置き、改善成果につなげている。
また、この活動で生まれたのが部門を超えた連携である。例えば、データの見方はシステム部門へ、組み立て設備の仕組みは生産技術部門へ、納入品の仕様変更は購買部門へ、という風に、他部門に協力を仰ぎ、複数部門を巻き込んだ活動となった。これまでなんとなく部門間の壁を感じていたが、プロジェクトとして推進することで、とても円滑に進めることができた。
結果的に、この活動で上司や他部門、他部署との連携も図れ、コミュニケーション向上にもつながった。
業界全体を見渡す幅広い視野を養ってもらいたい
社長は「ものトレ」の効果の一つに「プレゼンテーションの質の向上」を挙げた。まず、以前に比べて具体的な数値で改善提案ができるようになった。
併せて、「ものトレ」修了後は自分に自信がついたのだと感じる場面が多くなった。社長自らも社員が成長した点は率直に褒めるように心掛け、本人のやる気もさらに引き出す。さらにそれを繰り返すことで仕事自体が楽しくなり、わくわくするような職場づくりにもつながる。
また、社長は「今後は社内にこもっていないで、どんどん外に出て他社や世の中の状況も勉強してほしいと思っている。そして、水道業界全体を見渡せるような幅広い視野を養ってほしい」と、今後の成長への期待も持っている。
「ものトレ」を通じ、今、E社はものが言える職場、わくわくする会社へと変わりつつある。基本を大切にする「真面目」な姿勢、そこに新たな社風が加わって、未来を担う製品を生み出す素地となるに違いない。われわれの生活インフラを支える企業として、水道事業への貢献に向け、E社の積極果敢なチャレンジが続く。
※本稿はNECサイトに掲載したコラムからの転載です。
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