中堅・中小企業の改革物語
OA機器メーカー販売P社の物語 ~中堅・中小企業の改革物語~
- 業務改革・システム化
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坂田 英之
今回紹介する企業は、従業員100人のOA機器メーカーを販売するP社である。営業所は全国に5カ所あり、10年前にヒット商品に恵まれ業績が良いときもあったが、最近になって売上が半減していた。
同社は販社ということもあり、人員の8割は営業職だった。しかし、元々はメーカーの技術者だったため、まじめに仕事をする気質はあったが、マーケットやユーザーのことをよく知らずに営業活動を行っていた。
お客様の要望を集め、営業スキルをノウハウを共有する
営業活動改革の第一歩として取り組んだことは、お客様の分析である。この企業の営業は、各人自分の判断で訪問する先を決めていた。そこで、まず重要なお客様の要件を見直し、コアユーザーを決めた。
コアユーザーの定義は、OA機器を複数所有し、買い替え頻度の高いユーザーとした。コアユーザーを調べたところ、さまざまな地域に分散して存在するのではなく、ある地域に集中して存在することがわかった。そこで、その地域に集中して訪問活動を展開することにした。
次に取り組んだことは、コアユーザーの買い替えプロセス研究である。実際に営業がお客様にヒアリングを行い、「使用」、「情報収集」、「比較検討」、「意思決定」の買い替えプロセスを調査した。OA機器に対するお客様の期待はなにか、満足度をさらに向上するにはどうすれば良いかを研究した。
最初はなかなかお客様の期待がわからなかった。しかし、ヒアリングを重ねるうちに徐々に期待しているものが見えてきた。たとえば、使用場面においては使い勝手も重要だが、メンテナンスの手間も省きたいというニーズがあることがわかった。
そこで、単に営業が訪問するだけでなく、アウトバウンドコールでお客様にメンテナンスの状況をお聞きし、リプレイスするとどの程度メンテナンスコストが押えられるのか、そのコストシミュレーションも併せて訪問時に提案させるようにした。このように、お客様の買い替えプロセスに応じた営業タスクを決め、一つひとつ実行に移していった。
しかし、これだけでは十分な改革とはいえない。今度は、優秀な営業と成績が振るわない営業に同行し、彼らがどんなことを行っているのかを調べた。優秀な営業ほど事前にお客様ケアをしているため、突発のクレームが少ないなどの点はあったが、一番の違いはお客様に対するニーズの引き出し方だった。
たとえば、優秀な営業は必ず実機の前でお客様の使用方法を確認する。そうすることで、リアルな場面で発生する困りごとを拾っていた。しかし、そうでない営業は、カタログで使用方法を一方的に説明するだけだった。もちろんそれでは、表層的かつ一般的なお客様の感想しか拾うことはできない。
そこで優秀な営業から得られたノウハウをシート化し、そのシートに基づいて、トレーニングを行った。このような改革の取り組みを通じて、半年後には売上をピーク時の3分の2まで回復することに成功した。
3つの着眼点で強化する
業績が悪くなると、やたらに営業の訪問活動量を増やしたり、インセンティブを高くしたり(その分目標も高くなる)と、目先の施策を打つ企業が多くなる。しかし、それでは残念ながらなかなか苦境から脱することは出来ない。なぜなら、市場・顧客の変化に対応できない限り、永続的に売上向上をしていくことは難しいからである。
そこで上記事例にもあったように、営業力を強化していくためには3つの視点が必要になる。
① 営業戦略面での着眼点
営業は往々にして一匹狼になりがちである。放っておけば各自の嗅覚で獲物を捕りに行く。だが、それでは生産性は上がらない。営業を束ねて同じ方向を向かせるためには戦略(=方針)が必要だ。それは、市場・顧客の選択と集中である。 どこの市場・顧客を取りに行くのか(または捨てるのか)が明確になっていない限り、競合には勝っていけない。
② 営業プロセス面での着眼点
営業には必ずプロセスがある。どのプロセスでどのようなタスクを実行すればよいか、自身がわかっていなければ、お客様の満足度を向上させることができない。そのためには、購買プロセスの研究が必要である。 お客様の視点に立って、どのプロセスでどのような期待をもっているのか。その期待が明確になれば、それに応じたアクション(=タスク)を決めればよい。
③ 営業スキル面での着眼点
営業戦略、営業プロセスと営業スキルはセットで考える。いままでと違う市場・お客様、またはあるプロセスを強化しようとすれば、求められるスキルも変わってくる。しかし0からスキルを開発する必要はない。なぜなら、そのスキルは社内の誰かが持っている可能性が高いからである。 そのスキルを可視化(転移可能なものにすること)し、トレーニングを積み重ねることで、営業スキルを習得させることが可能になる。
上記でP社の営業改革事例を紹介した。営業改革の場合、対処療法的にアプローチする企業を散見するが、今回の事例のように一歩引いて、客観的・俯瞰的に問題点を抽出し、それを解決するアプローチこそが、近道になる。
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