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研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

第1回 メンバーが成長実感を抱けない現場の問題はマネジャーにあり!

  • 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

塚松 一也

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 筆者はJMAC入社以来29年間にわたって、R&D(研究・開発)およびE(エンジニアリング)部門の現場でコンサルティング業務に携わり、多くの業界でさまざまなR&Dの現場を見てきた。

 本当に心から尊敬できる経営者・マネジャー、良きリーダーシップを発揮されている方の姿勢や行動を間近に見ることができることはコンサルタントという職業の特権のように思う。ただ、よきマネジメントに触れることができた一方で、現場に活力が感じられない、一人一人が成長している実感が湧かないといった良くないマネジメントも目にしてきた。さらに、その職場を預かっているマネジャーの言動に違和感を覚えることも、たびたびあった。

 コンサルタントの仕事は経営者やマネジャーにアドバイス・提言・進言するものであるため、時には"苦言"を呈することもある。良くも悪くもテンポラリーな存在として、自らの保身を第一に考えることなく、相手のことを思って、時に"耳障りの悪いこと"も言うべき役割、言いやすい立ち位置にいる。

 もちろん、コンサルティングでのアドバイスは、状況や相手の特性などを考慮し、常に個々別々なものだが、その中に普遍性の高いことや共通的なことがかなり多くあるように感じる。このコラムでは、そのように"共通的なこと"について、筆者が思うところを書いていこう。

R&D戦略はプロセスだけでなく、組織能力も考えるべき

 R&Dのマネジメントには、どのようなテーマを行うのかという『技術戦略、開発戦略』、どのようにテーマを推進するのかという『プロセス・研究方法論』、そして実務を行う人・組織の能力や意欲をいかに高めるかという『組織能力』という3つの分野がある。

 1つ目は技術戦略論、2つ目のプロセスは研究の方法論であり、過去から比較的よく議論されている分野で、3つ目の「組織能力」については、最近注目が高まってきている。この組織能力については、一橋大学の楠木建先生の『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)という本の中で、おおよそ次のように説明されている。

 競争相手に対して違いを出すには2つの方法がある。

 1つはSP(Strategic Positioning)。つまり、よい戦略を考えるということ。もう1つはOC(Organizational Capability)。つまり、組織能力が高いということだ。戦略の巧拙は確かに重要だが、実行部隊である現場組織の能力の違いによって、立案した戦略を実行できるか否かも決まり、そもそもどれくらい難しい戦略まで実行できるのか、その幅も違ってくると言える。

 遠藤功さんの『現場論』(東洋経済新報社)の中でも、このOC(組織能力)の重要性が語られている。では、この組織能力を高めるために、R&D現場でどのように考えてマネジメントをするべきなのだろうか。

現場の実態は自分のマネジメントを映し出す鏡である

 あらためて組織のマネジメントについて原点的に考えてみよう。

 R&D部門に限らず、マネジメントを主業務にする組織のマネジャーになるということは、仕事の対象が"人"と"組織"になるということだ。担当者は研究テーマの遂行が仕事だが、マネジャーは仕事の対象は、技術でも商品でも設備でもなく、R&D業務を担う人・組織である。ドラッカーが「マネジメントは人を通じて成果を上げること」と説くように、マネジャーには人・組織についての洞察力や働き掛け力が求められる。

 ところが、R&D部門で長く技術や製品を相手にし、研究者・技術者の道を歩いてきた人の中には、マネジャーに昇進した後も人・組織が仕事の対象だと思っていない人が少なからずいるように見受けられる。「やる気のない奴が多くて困るんだよね」などと、自分の預かっている人・組織の問題を他人事みたいに言う人もいる。「うちの組織はコミュニケーションが悪くてね」と嘆いている人は、どこか心の中では「メンバーに恵まれていないな。こちらから何も言わなくても相談ぐらいしてきてよ」と思っているような気さえする。

 自分を不遇なマネジャーと感じ、貧乏くじを引かされた役回りだと思っている、ある種の被害者意識をもっているマネジャーもいる。そう思いたくなる気持ちも分からないではないが、マネジャーたるもの、人・組織から逃げてはならないと思う。マネジャーは現場の一人一人に働き掛けることができるものだ。しかも、その声掛けはいわゆる"作業指示"ではなく、研究開発の実務、つまり考えたり議論したり実験したりという思考業務について対話・議論をすることだ。

 つまり、マネジャーの現場メンバーとの接し方、議論・対話の内容とその頻度が、今の現場の実態を形成している大きな要因となるのである。「いつも無理な仕事を押し付けられて、できなかったら、叱責される」などと現場が感じているのは、おそらく、そういう接し方をマネジャーがしてきたためであると思う。

 一方、「仕事を通じて自己成長を実感している」と自信を高めている現場は、マネジャーが適切に激励をしてきている。現場の実態はマネジャーの姿勢や行動を映し出す鏡だと思うべきなのだ。

 マネジャーの任を担う人は、まずこのことを強く認識していただきたい。

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