研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第17回 影響力発揮のベースは、信頼されること
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
イノベーションのドラマの始まりはいつだって「反対・抵抗にあうシーン」
前回、前々回でも書いたが、これから進めようとしているイノベーションが画期的であればあるほど、斬新なアイデアであればあるほど、最初の提案段階では、周りの反応が悪いものである。イノベーションの定義からしてそういうものだ。「従来から認識されている価値軸での改良・改善や性能向上でなく、(それ以前は気付かれていなかった)新しい価値の創造こそが、イノベーション」というようなニュアンスがイノベーションの定義である。
そもそも、多くの人がその価値に気付いていない段階で価値を訴えようとするとことは、周りの人に分かってもらえなくて当然である。逆に、最初から全員賛成という提案は、おそらく、そのアイデアはあまりイノベーティブではないのだろう。
イノベーションを連続ドラマに見立てると、その第1幕は、提案がなかなか分かってもらえない、受け入れてもらえないというシーンである。「うちの会社の上の人たちは、ほんと頭が固いんだから・・・」と嘆こうが、「どうして、こんなことも分からないの?」とわめこうが、古今東西、そういうものである。第2幕以降で少しずつ理解者・協力者が増えていく。そして、最終回にはその新しい価値が社会・顧客に広く受け入れられたという局面に至って完結するという構成である。それはすなわち、イノベーションを担う人は、最初反対された(反対とは言わないまでも、理解されなかった)ことにめげずに、粘り強く前に進めていくというガッツとスキルが必要ということを意味する。
「ガッツとスキル」、その正体を「影響力を発揮すること」と置き換えて話していこう。
「あの人がそう言うなら」
「誰が言っているかではない、何を言っているかが重要だ」といわれることがある。発言者が誰かによる先入観などのバイアスに気を付けろという戒めのメッセージだと思うが、そういわれているということは「何を言っているかよりも、誰が言っているか」を気にしてしまうのが普通だということなのだろう。
多くの場合、まず「誰が言っているか」を気にして、「あの人が言っているなら、きっとそうに違いない」「あの人の提案なら、聞いてみる価値はありそうだ」という判断を直感的にしているはずである。だとすると、イノベーションを推進しようとする人は、仲間を増やすためにまずは話を聞いてもらえないことには始まらない。影響力を発揮するためにも、まずは最低限の「信頼」を得ておかないことにはどうにもならないということである。影響力を発揮するための一つの条件は「信頼されている」ことだが、それ以外にも幾つかの側面である程度の必要条件があるように思う。
まず基本的な信頼を得ておかないことには、提案内容がどんなに素晴らしくても話を聞いてさえもらえない。まずは、基本レベルで人として信頼されていることが、影響力の発揮の前提条件である。加えて、「好意をもたれている」「本業の実力・実績がある」「見識・知見・情報がある」「周りと良好な関係を築いている」といった要素もある(これらについては、次回以降のコラムで触れる)
よく「何をやるにしても、結局、最後は人だ」と言われる。人物が大事という普遍的なメッセージだが、ことイノベーションに限って言えば「結局、最初から人だ」というのが的確だと私は思う。反対・懸念が渦巻く中で、影響力を発揮できる人はどういう人なのか、次回も引き続き、イノベーションの人間的側面について考えてみたい。
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