研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第3回 「現場を忙し過ぎないようにしよう」は正しい?
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
前回は、現場を高負荷状態にしてはいけないという主張をした。もちろん、私自身、コンサルティングの場でもそのような進言をしているが、実際に「現場の業務量を適正に保とう。忙し過ぎないようにしよう」と提案すると、「それでは現場を甘やかすことになるのでは・・・」という反論・懸念に出合うことがある。
今回はこのようなケースについて、誤解のないように少し補足をしたいと思う。もちろん、私の主張の趣旨は、現場を甘やかすために業務量の適正化を図ろうとすることでもなく、過保護にすることでもない。
現場のゆとりを成長につなげる
現場を忙しくし過ぎないようにする目的は、現場の成長を促すためである。
「現場の過剰な仕事量(高負荷)は、QCD面の問題を起こしたり、メンタルヘルス不調のリスクを高めるからよくない」ということだけではなく、「現場が成長・工夫の意欲を失うような"忙し過ぎる"状況は、人・組織の成長につながらない。ひいては組織の長期的な競争力を失うことにつながる"ゆるやかな自滅行為"だから良くない」ということが趣旨である。
精神論ではなく、現実論として、現場の成長を図るためには、時間的にも精神的にも成長のための余裕が必要だ。現業の仕事の品質をつくり込むこと、改善を図ることは、現場の実務担当者しかできない。マネジャーは、現場がその2つの責任を果たせなくなるぐらいまでの過負荷にしてはいけないのである。
それでも「現場にゆとりを持たせると、遊んでしまうのではないか」と心配になる人もいる。そのような不安を抱かせないために、マネジャーは指導者として「時間的ゆとりを、人・組織の成長(業務改善)に使うこと」を啓発すればよい。現場の能力の向上余地、改善余地があることを信じて、その向上を啓発することがマネジャーの仕事に他ならない。
マネジャーは逃げずに対話を
啓発するといっても、実際はどうやってすればよいのか。人を指導・啓発した経験がほとんどない人にとっては、啓発の必要性を理解できたとしても、どうやればいいのか戸惑うかと思う。
しかし、逃げずに啓発することがマネジャーの重要な仕事なのである。趣旨をきちんと語り、対話・議論を重ねる中で、相手にその意義を感じてもらうこと、重要性を悟らせることが、マネジャーの重要な役割であることを自覚すべきだ。
そして、その根底には、相手に対する基本的な信頼感・期待感を抱くことが不可欠である。「話せばきっと分かってもらえる。きっといつの日かこの趣旨は伝わる」と信じて、対話に臨む必要がある。短絡的に「文句言わずにやるんだよ!」というような指示命令だけで人を動かそうとしたのではなんら啓発にはならず、相手も変わらない。「そんなことを言わなくても分かるはずだ」と希望的に思い込んで説明責任を放棄する、あるいは対話・議論を避けるのも良くない。
現場の能力を高めることが最も重要
前回の内容と合わせてまとめよう。現場マネジメントで実践すべきことは、次の3つである。
1つ目は現場を現業で忙殺させないように、仕事の入り口での総量管理を行うことだ。現場の対応能力に見合う仕事量を保ち、「忙しいから品質が確保できない、改善ができない」という状態にしないことである。現場におかしな言い訳の理由をつくってはならない。
2つ目は現場実態を踏まえたQCD管理である。しかし、これはマネジャーが過度に叱咤激励をしなくても、後工程(お客さま含む)がビジネス上のまっとうなプレッシャーをかけてくれるものだ。マネジャーは状況を把握し、タイムリーな意思決定や介入を行う必要がある。
最後に、3つ目は現場の能力を高めることだ。この3つ目がマネジメントでは一番重要な点である。現場の能力を高める責任は現場にあるため、現場の能力が高まるように、現場の知恵を引き出す、困らせる、考えさせることが、マネジメントの重要な役割である。組織が継続的に成果を出していけるよう、中長期的に能力を向上させていく責任が現場にはある。
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