研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
第5回 マネジャーは組織変更の狙いと期待行動を説明しているか?
- 研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜
塚松 一也
組織構造を変えるときこそ、コミュニケーションが重要
今回は、研究開発組織のマネジメントにおける"組織変更"について書いていこう。
組織構造についてよく聞かれる質問の一つに「製品別組織がいいのか、機能別組織がよいのか」がある。さらに言えば(少しディメンジョンが違ってきますが)マトリックス組織、ネットワーク組織、プロジェクト色の強い組織の方がいいのかなど、組織の望ましい構造はなにかというのは、昔から経営者・マネジャーが悩みごとの一つになっている。
組織形態には、それぞれメリット・デメリットがあり、唯一絶対的にこれがいいというものはない。内部・外部の状況を鑑みて、そのとき、その組織に適した構造をとることが経営者や上位マネジャーの仕事である。
時々、組織構造を変えることで、程度の差はあれ、新たに生じるデメリットはあるため、悩ましいところは確かにある。
しかし、組織を変えるとは、デメリットを認識した上で、リスクがあってもメリットをとる意思決定にほかならない。皆さんの組織構造の過去を振り返ってみても、組織は行ったり来たり、振れながら変遷してきているのではないだろうか。それは振り子を振っているというようにも捉えられるし、らせん状に成長を繰り返しているというようにも見える。
結局のところ、組織は揺らぎながら、維持・成長するものなのだ。組織を変える権限のある人は、変えるべきだと直感したら、思い切って舵を切る。ずっと、これまでのままでいいわけではない。まさに、舵切りであり、舵取りなのである。
一方、組織構造の変化の影響をモロに受ける現場の人にも心得ておくべきことがある。「ウチの会社は、しょっちゅう組織が変わって困る。今回も、また数年前の形に戻ることになって、この数年間はなんだった?と思う」というような嘆きを現場で聞くことがある。
確かに、上の人が大した考えもなく、「他にやることがないから、組織でもいじるか」という安直な考えで組織変更をする場合には、そのような文句も妥当性があるだろう。
しかし、文句を言っているだけでは、なかなか建設的な行動にはなりにくい。現場の人間は「組織構造に一点の問題もなく絶対的によいものはない。それぞれメリット・デメリットがある」ということを認識し、組織変更で生じるメリットを最大限に生かし、組織変更で生じるデメリットを何らかの方法でカバーしていこうとする意識を持って仕事をするべきである。
組織で仕事をするというのは、チームワークで成果を出すということだ。フォーメーションの変更に早く順応し、新たなチームワークを発揮することを意識すべきである。その意味で、マネジャーは組織変更にあたり、新しい組織構造に変える狙いや新たな期待行動を丁寧に説明することが大切だ。
新しい組織図を発表するだけで狙いが明確に伝わり、皆の行動がすぐに変わるというのは幻想であり、そんなことはあり得ない。組織構造を変えるときこそ、コミュニケーションのよい機会と認識すべきなのである。
組織構造を変えるときは、併せてその構造的弱点を補う施策を講じるべき
上でも述べたが、組織形態にはそれぞれメリット・デメリットがあり、絶対的にこれがいいというものはない。
メリットは、組織変更をすることで、おのずと享受できるものだ。この"おのずと"というのは、組織構成員の多くが組織変更の狙いや意味合いを理解し、その組織構造で期待される役割を果たすことで、もたらされるということである。
皆が組織変更の意味するところを理解していない場合には、"おのずと享受できる"ことにはならない(組織構成員が組織変更の意味が分からないという状態は、かなりひどいマネジメントであって、それほど多くみられるわけではないため、ここでは論外とする)
組織変更時にマネジメントが意識すべきことは、新たな組織構造に伴い、構造的に発生するデメリットに対して、何らかの補完施策を講じることである。例えば、組織を技術分野別にくくった場合、顧客との距離が遠くなってしまうなどのデメリットが生じることが多い。
そこで、マネジメントがなすべきことは、そのデメリットを小さくする施策(例えば、エンジニアに顧客訪問をすることを促すなど)を講じることである。
組織変更は万能ではなく、組織構造変更の意思決定だけでは、必ずデメリットが悪い形で問題として露呈してしまうことを恐れるのが、ある意味、健全なマネジャーといえる。組織構造を変更したとき、マネジャーは併せてその構造的弱点を補う施策を講じるべきなのである。
コーポレートラボのマネジャーの間違った考え
もう一点、組織構造とマネジャーのなすべきことについて「少し、おかしいな」と思っていることを書く。
例えば、下の図のような組織構造のコーポレートラボがあるとする。
事業部から委託費をもらって研究を行う構造である。このような構図にあるコーポレートラボのマネジャーが「仕事をもらうために御用聞きになってしまう」「事業部から下請け的な仕事を押し付けられる」などと、嘆いていることを耳にすることがあるが、マネジャーという立場でありながら、被害者であるような考え方はおかしい。
マネジャーの仕事は、このような構図にあるときに「事業部が次に欲しくなる技術を考えて、提案しよう! そのためには、われわれラボが、顧客のことをもっとよく見よう! 新たな技術があれば解決できる顧客の悩みを見つけよう!」と、メンバーを鼓舞・指導していくことである。
逆もしかりである。
下の図のような組織構造のコーポレートラボは、事業部からの"ひも付き"の研究費のしばりがなく、コーポレートから交付金的に研究予算がもらえる。このような自由な研究所のマネジャーの中には「研究所は"象牙の塔"。どうしても浮き世離れの研究になる」「研究のための研究、学会発表を目的する研究になりがちだ」などと、緊張感のないことを言っている人がいることがある。
マネジャーという立場でありながら、評論家ような発言はおかしい。マネジャーの仕事は、このようなときに「誰も気付いていないような新たな事業の種となるような研究に取り組んで、いつの日か、新たな事業部を立ち上げよう! われわれは、未来の社会を創造していくんだ!」と、メンバーの使命感を奮い立たせていくことに他ならない。
組織構造から発生しがちな状況に甘んじていては、マネジャーの存在意義がない。陥りがちな問題状況にならないよう、現場に対してメッセージしていく、介入していくことこそが、生身の人間としてのマネジャーの仕事なのである。
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